NEDOとラティス・テクノロジー、製造現場向けAR技術の実用化を達成

図1 3DモデルにおけるAR機能の位置付け
NEDOの「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業」(以下、本事業)の一環で、ラティス・テクノロジー社は2020年度から2021年度に「製造工程間でのシームレスな連携を実現する3Dデジタルデータ連携ツール開発」(以下、本テーマ)に取り組んだことを発表した。今回その成果は、XVLファイルから3次元(3D)組み立て図などを作成しWEBブラウザーで閲覧できるようにするツール「XVL Web3D Manager」の拡張現実(AR)オプション「XVL AR」として製品化された。

概要

新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、多くの製造事業者がサプライチェーンの寸断リスクにさらされた。世界各地で地政学的リスクが増長し、サプライチェーンの柔軟・強靭(きょうじん)な組み替えが可能な事業体制の構築が求められている。このためには、その時点で調達可能な部品で生産できる代替製品の迅速な設計・生産や、自社工場で生産継続が難しい場合における他の拠点や協力企業への生産工程の移管・代替生産、代替生産を引き受けた企業における短期間のリードタイムでの生産開始など、各製造工程間(エンジニアリングチェーン)の連携強化と高度化がより重要な課題とされる。

このような背景の下、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は本事業の研究開発項目の一つとして2020年度から「サプライチェーンの迅速かつ柔軟な組換えに資するデジタル技術の開発支援※1」を実施し、この中でラティス・テクノロジー社は2020年度から2021年度に本テーマに取り組んだ。

そして今回、ラティス・テクノロジー社は本テーマの成果を、XVL※2ファイルから3D組み立て図などを作成しWEBブラウザーで閲覧できるようにするツール「XVL Web3D Manager※3」のAR※4オプション「XVL AR」として製品化した。これにより3Dモデルによる情報の流れを実現することで、製造業のDXに貢献する。

なおラティス・テクノロジー社は、10月17日から20日まで幕張メッセで開催される「CEATEC 2023」のNEDOブースで、本成果を「生産技術DXを支援するXVL VR/AR」として出展する。

本テーマの成果

ラティス・テクノロジー社は本テーマで、製造工程間の情報流通を可能な限りデジタル3D情報の流通に置き換えるために以下の4項目の開発を行ない、今般項目(4)について製品化した(図2)。

  • (1)設計と製造のデジタル連携を強化するための3D図面機能(2022年12月製品化)
  • (2)デジタル擦り合わせを実現する「XVL VR※5」技術開発(2022年4月製品化)
  • (3)現場の属人的ノウハウを体系化するための「XVL SDK※6」開発(2022年4月製品化)
  • (4)現場力をデジタルで引き出すための「XVL AR」技術開発(本リリース)
図2 3Dモデルによる設計・製造情報の流れ

開発成果 1)マーカーなどの前処理不要で実物と3Dモデルを位置合わせ

ARを実現するには一般的に実物にマーカーを配置し、それをスマートフォンやタブレットのカメラで読み込み3Dモデルと位置合わせが行われるが、実際の試作や製造の現場ではこのマーカーの配置に手間がかかる。本テーマでは、平面の自動認識技術や作業者の動作追跡機能を開発することで、タブレット端末を実物に向けてかざすだけで位置合わせを行い、そこを基準に部品などの3Dモデルを表示できるようにした。これにより、位置合わせ用のマーカーの配置などの前処理を行うことなく、現実世界の実物と3DモデルのARトラッキングが可能となった(図3)。

図3 3Dモデルとの位置合わせ例

開発成果 2)3Dモデル上の部品の設計・製造情報を表示

3Dモデルと現物の対象部品の品番など関連する設計・製造情報を確認するには、現物と書類などを見比べる必要があるなど、デジタルデータを十分に活用できていなかった。本テーマでは、現物・タブレット・3Dモデルの相対位置を検出する技術や位置合わせを容易に実現するユーザーインターフェースを開発することで、ユーザーが3Dモデル上の部品を指定すると、その部品にひもづくPMI※7などの設計情報や、組み立て時の作業注意事項が実写画像に投影できるようになった(図4)。これにより、紙など他の情報媒体と見比べる必要なく、AR上で作業に必要な設計・製造情報を正確に把握できる。

図4 実写画像上での情報の表示例

ラティス・テクノロジーは2022年8月に、NEDOの「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業※8」に研究開発テーマ「3Dデジタルツイン※9を活用したデジタル擦り合わせと現場力向上による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化」で採択された。現在、今回製品化した「XVL AR」技術をさらに進化すべく、スマートグラスを活用したAR表示の技術開発に取り組んでいる。

注釈

※1 サプライチェーンの迅速かつ柔軟な組換えに資するデジタル技術の開発支援

  • 項目名:Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業/サプライチェーンの迅速かつ柔軟な組換えに資するデジタル技術の開発支援
  • 実施形態:助成事業
  • 実施期間:2020年度~2021年度

※2 XVL :「eXtensible Virtual world description Language」の略で、XML(eXtensible Markup Language)をベースとした超軽量3D表現として、ラティス・テクノロジーが提唱する表現形式。XVLを用いることで、3D CAD(コンピューター支援設計)などで生成されたデータを数百分の1にまで軽量化することができる。また、メモリが少ない環境で巨大な3Dデータを高速表示する技術の実装により、ネットワーク環境での3Dデータ共有に最適な形式。ラティス・テクノロジーの登録商標。

※3 XVL Web3D Manager :製造現場で活用されていたXVLデータから3Dサービスドキュメントや3D組み立て図を生成し、これを関係部署や取引先、顧客やサービスマン・ディーラーがWebブラウザーで閲覧できるようにするための製品。

※4 AR:(Augmented Reality、拡張現実)とは、現実の環境から視覚や聴覚、触覚などの知覚に与えられる情報を、コンピューターによる処理で追加あるいは削減、変化させる技術の総称。

※5 VR:(Virtual Reality、仮想現実)とは、人間の感覚器官に働きかけ、現実ではないが実質的に現実のように感じられる環境を人工的に作り出す技術のこと。

※6 SDK:(Software Development Kit、ソフトウエア開発キット)とは、あるシステムに対応したソフトウエアを開発するために必要なプログラムや文書などをひとまとめにしたパッケージのこと。

※7 PMI: 「Product Manufacturing Information」の略で、製品製造情報のことです。加工情報やマテリアル情報、寸法公差、幾何公差などあらゆる情報を3次元CADモデル上に付与すること。

※8 5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業

  • 事業名:5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発
  • 実施形態:助成事業
  • 実施期間:2021年度~2025年度

※9 3Dデジタルツイン 3D形状と構成情報に製品製造情報などさまざまな製造に関わる情報を統合した3Dモデルのこと。ラティス・テクノロジーの登録商標。

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