Rolls-Royce Coachbuilding

馬車架装技術から発展したコーチビルド

ロールス・ロイスの歴史的なビスポークモデル、「40/50HP ファントム I ブロアム ドゥヴィル(1926)」。
自動車の黎明期、完成済みのローリングシャシーに、馬車製造技術から発展したコービルダーが、顧客の希望に合わせたボディを架装した。写真は贅を尽くした内装を持つ、1926年製「40/50HP ファントム I ブロアム ドゥヴィル」。

コーチビルディングは、完成済みシャシーに対して、顧客の要望に応じたボディを製作する技術であり、自動車以前の時代、馬車の時代から存在してきた。自動車の大量生産技術の普及により、一度は衰退したが、現在ではロールス・ロイスにおいて、長年の歴史と独自のビスポーク技術を背景に復活を果たした。

現在、ロールス・ロイスが手がけるコーチビルディングは、ごく限られた顧客が開発チームと密接に協働。唯一無二かつ完全にパーソナルな1台を製作。ボディパネルは熟練の職人によってハンドメイドで造形され、従来の量産車では不可能な素材や技術、設計の自由度が与えられている。全てのコーチビルドプロジェクトは完全なワンオフ車両であり、同じ仕様の車両が二度と製作されることはない。

ロールス・ロイスが創業した当時、自動車メーカーは一般的に「ローリングシャシー(走行可能な車台)」を製造し、それを専門のコーチビルダーへと送り、顧客の要望に応じたボディを架装していた。こうしたコーチビルダーの中には馬車製造から転業した企業もあれば、自動車の登場による新たな機会を捉えた企業もあった。

自動車黎明期の車体は馬車と同様の手法で製作されていたが、自動車の速度が50km/hを超えるようになると、従来の素材や構造では対応しきれないことが明らかになる。こうしてコーチビルディングは、新たな時代に適応する進化を迫られた。

1993年まで作り続けられた「ファントムVI」

ロールス・ロイスの歴史的なビスポークモデル、「ファントム VI リムジン(1972)」。
自動車技術の中心がモノコック構造へと進化すると、徐々にコーチビルディングは主流ではなくなる。しかし、ロールス・ロイスでは1993年まで少量ながらも生産が続けられた。写真はピクニックテーブルを備えた、1972年製「ファントム VI リムジン」。

1920年代に入ると、大量生産メーカーは振動やねじれ剛性といった課題に対応するため、ボディ製造を自社内に取り込むようになる。一方でロールス・ロイスのような高級ブランドは、その後も長らく専門コーチビルダーへの外注を続けた。

1930年代頃までは、木製(主にアッシュ材)のフレームにアルミやスチールパネルを取り付ける伝統的手法が主流。速度向上と素材進化に伴い、金属製フレームへと移行していく。

やがてこの技術は、サブフレームを備えたセミモノコック構造へと置き換えられる。ロールス・ロイスでは1965年の「シルバーシャドウ」登場がその転換点とされるが、これがコーチビルドの終焉とはならなかった。別体シャシーを採用した「ファントムVI」は、子会社「H.J.マリナー・パークワード」によるボディとともに、1993年まで少量ながらも生産が続けられた。

理論上、ロールス・ロイスのコーチビルドは顧客の望むあらゆる形状を実現できるが、実際には一定の制約が存在する。創業者ヘンリー・ロイスは、技術的に正しいと確信した設計原則を厳格に守り、特にラジエーター後方のバルクヘッド寸法を固定することで、「真のロールス・ロイス」としてのプロポーションを維持する。

この思想は現在も、ロールス・ロイスのデザインランゲージのコアとなっている。すべてのロールス・ロイスは、1907年のシルバーゴースト以来、「ボディの高さ:ホイール径=2:1」という比率を継承。さらに「ワフトライン(流れるような動き)」「ウエストライン(存在感)」「シルエット(個性)」という3本のラインによって造形され、パンテオングリルとスピリット・オブ・エクスタシーがその象徴として冠される。

コーチビルドを蘇らせた「スウェプテイル」

ロールス・ロイスの歴史的なビスポークモデル、「スウェイプテイル(2017)」。
2017年に登場した「スウェプテイル」は、広大なパノラミックガラスルーフを備える2シータークーペ。これ以降、多くのコーチビルド/ビスポークモデルが登場することになった。

BMWグループの傘下に入った2003年に以降、ビスポークは顧客への提供価値と、ブランド体験の中核を成してきた。ロールス・ロイス・モーター・カーズは、オーナーの志向や独自のラグジュアリー観を反映した、個人的で深い意味を持つ製品を追求。あらゆる希望を具現化するビスポーク技術により、ハンドメイドで仕立てられた、唯一無二のロールス・ロイスを実現することができるのである。

一部の特別な顧客たちは、この特別な体験をさらに引き上げ、既存モデルの枠を超えた存在を求めた。こうした要望を受け、ロールス・ロイスは100年以上にわたる歴史と、現代のビスポーク技術をベースに、新たなコーチビルディング文化を確立している。

現代コーチビルディングの復興は、2017年の「スウェプテイル」から始まった。顧客の要望に応え、ロールス・ロイスとの協働によってコーチビルディングの芸術を復活させた大胆な2ドアクーペは、シャープに絞り込まれたシルエットとフルレングスガラスルーフを特徴とする。

続いて2021年には「ボートテイル」が登場。顧客の“もてなし”への情熱を体現した、社交性に富むオープントップモデルとして製作された。2023年に発表された「ドロップテイル」は、包み込まれるような室内空間に焦点が当てられ、同時に高度にパーソナライズされたウッドクラフトが奢られている。

現在、グッドウッドの「ホーム・オブ・ロールス・ロイス」では、施設の拡張計画が進行中で、2029年の完成を予定している。ビスポーク/コーチビルド部門のための新たなスペースと最先端設備が導入され、より多く、そしてより複雑で高度なオーダーに対応することが可能となる。

「ロールス・ロイス ファントム アラベスク」のエクステリア。

初のレーザー彫刻ボンネットが美しいロールス・ロイス ファントム・アラベスク登場

ロールス・ロイス・モーター・カーズは、伝統的なアラビア建築の特徴であるマシュラビーヤ格子窓から着想を得たビスポーク仕様「ファントム アラベスク」を公開した。ロールス・ロイス初のレーザー彫刻を施したボンネットは、5年の歳月をかけて完成。ファントム アラベスクは中東のカスタマーへと納車され、コレクションに加えられている。