「4C」が示すアルファロメオの本質
自動車メディアという仕事に携わるようになって10年以上が経過した。その中で、さまざまなブランドの色々な車種に試乗してきたのだが、唯一、“命の危機”または“死と隣合わせ”といったものを感じたクルマがある。それがアルファロメオの「4C」だ。

「4C」は一見するとお洒落で色気のある大人のスポーツカーだ。しかし、実態は異なる。乗り込むと、外観から想像できないほど内装はシンプルだ。パワーステアリングすらなく、シートは薄く、先進安全装備もない。その代わり、フルCFRPモノコックであることも相まって車両重量は1100kgととても軽かった。

エンジンを始動させると、ドライバーの背後にある1.7L直列4気筒ターボ(240PS/35.7kgm)は音・振動・熱という暴力を振るってくる。また、わずかにステアリングを切っただけで瞬時に向きが変わるため、普段走り慣れている街中でさえ、神経を研ぎ澄ませていないといけないほどスリリングだった。
しかし、本当に怖いのは首都高を走っている時だ。コーナーではまるで重力に引き寄せられるようにイン側をビターッとなぞるのだが、あと少しハンドルを切ったり、ほんのちょっとアクセルを踏もうものなら制御できなくなるだろうということをクルマが語りかけてくるような感覚があった。
「33ストラダーレ」フェイスとなったエクステリア

世で評価されている芸術家の作品にそれぞれの作風が感じられるように、お洒落で個性的な内外装だけでなく、ドライバーとクルマの心が通じ合っているような一体感のある走りもアルファロメオの作風だと「4C」から感じ取った。そして今回の主役である「トナーレ」にも確かにアルファロメオの作風が感じられる。

まず、外観ではひと目でアルファロメオと分かるアイコンの盾型グリル(スクデット)は健在だ。しかし、2026年3月に発表された新型では限定モデルの「33Stradale」をモチーフとしたデザインへと変更し、三つ葉を意味するトライローブは水平基調を強め、グリルの脇には4つのスロット(アゾレ)が設けられたことでフロントマスクの表情が刷新された。

空力にも効果的な変更とのことだが、「ステルヴィオ」と比較した際に表情が似ていたことから感じた“弟分”といった印象が払拭されて、「ジュニア」「トナーレ」「ステルヴィオ」それぞれのデザインの違いが際立った点も大きい。

ドライブモードで覚醒するスポーツマインド
試乗会場の近くにあった “箱根ターンパイク”を目指して、「トナーレ」を走らせてまず感じたのはかなりおっとりしていることだ。ボディの大きさを意識させずにステアリングを切った方向に機敏に向きを変える瞬発力こそあるものの、アクセルを踏んでからクルマが加速するまでにわずかなラグがある。メーターに表示されているエンジンとモーターの作動状況を観察してみると、モーターがアシストするまでの時間が長いようだ。

そこで、ALFA DNAドライブモードセレクターを「N」から「D」へと変え、ALFA デュアルステージバルブサスペンションを「スポーツ」へと切り替える。すると、トナーレは覚醒する。さっきまでとは打って変わって、アクセルを踏んだ瞬間からモーターのアシストが入るようになる。

「N」ではスイスイと軽い力で回せたステアリングもグッと手応えが増し、踏ん張りの効いたボディも相まって、イメージしている走行ラインから全く外れずにビシッと駆け抜けていく。クルマからも「その調子、その調子」と語りかけられているような感覚に浸れる。

このモードに限って言えば、トナーレはSUVではなくスポーツカーだ。逆に、都内などの街中を走る分には、まったりと上質感のある走りを楽しめる「N」の方が合っているのかもしれない。
SUV的ユーティリティも必要十分
すっかり走りの話ばかりになってしまったが、トナーレはSUVとしての実力も十分……というかフツーだ。ラゲッジルームの容量に不満はないし、後席乗員の空間にも余裕がある。Apple CarPlayやAndroid Autoに対応したConnectシステムや先進安全装備についても標準装備されている。奇を衒った機能はないが、一般的なSUVに求められるものはしっかりある。
逆に、10年経った今でも思い出せるほど強烈で魔性な魅力を秘めたSUVはトナーレしかない。





