設計思想が根本から違うイタリア製の激速マシン!
今回紹介するのは水冷2スト180㏄単気筒エンジンを積んだジレラの「ランナーFXR180」だ。
ジレラはイタリアで創業したオートバイメーカー。現在はアプリリアやモトグッチ、べスパなどを擁するピアジオ傘下にあるが、1950年代にはロードレース世界選手権にも出場していた名門ブランドだ。
2ストエンジン搭載のFXRシリーズは、前出のVXRのご先祖様にあたるシリーズで、50㏄、125㏄、そしてフラッグシップたる180㏄があり、そのどれもが1990 年代後半から2000年代にかけて登場。当時の国内スクーターと比較すると、とてもユニークな車体構成だった。「ランナーFXR180」は当時、ジレラ(ピアッジオグループ)の日本における正規輸入代理店(成川商会)を通じて、正規代理店車両として販売されていた。しかし、同時に非常に人気があったため、多くのショップによって並行輸入も盛んに行われてた。2000年頃に国内販売が行われたと記憶している。
まず、ステアリングステムからシート下に至るサブフレームがフットスペースを左右に分断していて、乗車時は足を後ろに振り上げなければならなかったほど高い位置までフレームが来る。ホイールは前後12インチを採用し、ビッグスクータークラスと同等。フロントには倒立風のフォークが奢られていた。
マイナーチェンジ後はリヤホイールが13インチ化し、フロントフォークを正立化。さらにリヤブレーキをドラムからディスク化して走行性能がさらにアップしている。
ちなみに筆者が乗っていたのは前出の前後12インチモデルであった。その乗り味も独特で、サスペンションはバタバタと忙しく動く印象でお世辞にも路面にしっとり追従する感じではなかった。しかしこれが不思議と不安感は少なく、エンジンの重さもそれほど感じない。路面の状況に関わらずアクセルを開けていける、オフ車に似ていたように思う。
シートは日本人にとってはかなりのハイシートで、背の低い人にはきつかった。また、ヘルメットスペースには底に盛り上がりがあって、形状によってはフルフェイスが入らない。国産では定番のフロントポケット収納部分はなく、前方に設けたラジエーターの冷却用アウトレットフラップが付く。
ユーティリティの割り切りが「スポーツスクーター」という意気込みを語っており、女性向けの簡易な乗り物から進化した、利便性をスポイルしない日本車とはその設計思想が根本から違っていたのだった。
ジャジャ馬を乗りこなす楽しみに溢れた乗り味
筆者は2000年代前半に、アドレス110(2スト)からの乗り換えで、通勤車として「ランナーFXR180」を選んだ。いざとなれば高速道路を走ることができる利便性と、ビッグスクーターにはないコンパクトさが魅力だった。
その頃のビッグスクーター界隈はマジェスティが大ブレイクを果たしていて、スポーツ性よりもラグジュアリー&カスタムの素性が求められていた。いっぽうで0-50.29mの加速タイムを競うミニドラッグの「SS1/32mile」全盛期だった当時、ヤマハグランドアクシス100、BWs’100など、ニ種スクチューンの進化に合わせ、コンパクトでハイパワーな「ランナーFXR180」は、ストリートでその界隈の人たちからライバル視されていたようだ。
筆者の乗車当時は、イタリアの社外製パーツメーカー「マロッシ」からプーリーやトルクカムなどのチューニングパーツが多く出ており、社外製チャンバーも流通していたため、本気で動力性能に振ったカスタムも可能だった。ノーマルのままでも100km/hまでの加速ではビッグスクーターは追いつけない動力性能と、機動力の高い車体と相まって、通勤では常に最速。最高出力21psというバケモンみたいなパワーを持つ水冷エンジンは、少し後ろに座れば加速力だけでフロントホイールが簡単に宙に浮くほど強烈。なにか特別なものに乗っている感じが味わえたのだ。
特別感といえば、国産ビッグスクーターと比べ、操縦性に関してはかなり個性的。コーナリング中に「ちょっと回転半径が大きいかな?」と思ってブレーキで減速すると、緩やかにコーナリング半径が小さくなるのではなく、ぴょん、と車体が起きてしまうのだ。何度か反対車線に出そうになってしまったりして、最初は「あぶないバイクだなー」と思った。が、コーナーの曲率と車体の傾き加減、進入時の加速がちょうどマッチすると、レールに乗っているかのようにスーッと曲がってくれることに気が付いた。これを知ってから、何度も奥多摩に行きコーナーに挑戦したのも懐かしい思い出だ。これをスポーツ性というのかは分からないが、とにかく言うことを聞かない跳ね馬をいなして乗りこなすような、独特の面白さがあった。
国産車にない個性が詰まっていたFXRだったが、毎日使うには足周りが固めで足つき性もよくなく、シート下スペースも最低限。さらに補修パーツ供給もあまりよくないなどと、メカに弱い筆者にとっては少々ハードルが高すぎた嫌いがあり、1年ほど乗ったくらいでホンダ・フォーサイト(250㏄)に乗り換えてしまった。しかし、いまだにそのイタリアの跳ね馬フィーリングはカラダに記憶されている、印象に残る名珍車なのである。
SPECIFICATIONS
■エンジン:水冷2スト単気筒(175.8㏄)
■最高出力:21㎰/8000rpm
■車重:116㎏ ■当時価格:3万5000円
※この記事は月刊モトチャンプ2022年10月号を基に加筆修正をしています

