Mercedes-AMG E 53 HYBRID 4MATIC+ Edition Night Carbon
V8なきEクラスの頂点

長らく「メルセデス・ベンツ Eクラス」のAMG最強グレードとして君臨してきた「E63」だが、現行の6代目214型ではその象徴でもあったV8エンジンとともにラインナップから姿を消した。代わって現行Eクラスのトップグレードに据えられたのが“53”の名を冠するプラグインハイブリッドモデル「メルセデスAMG E 53 ハイブリッド 4マティック+」である。
搭載されるのは最高出力449PS、最大トルク560Nmを発揮する、名作の誉れ高いM256M型3.0リッター直6ターボ。AMGスピードシフトTCT 9Gトランスミッション(9速AT)に内蔵されるモーター(163PS、480Nm)がこれを強力にアシストし、システム最高出力585PS、同最大トルクは750Nmを誇る。なおレーススタートモード時には612PSに達する。
今回試乗したのは、特別仕様車「メルセデスAMG E 53 ハイブリッド 4マティック+ エディションナイトカーボン」のセダンだ。全国限定150台(セダン100台、ワゴン50台)の希少モデルである。
最強グレードに相応しいアグレッシブさ

特別仕様ということで外観と内装などの装備が充実している。エクステリアは「AMGナイトパッケージ」および「AMGナイトパッケージⅡ」によって、ブラックとダーククロームで仕上げられる。グリルやエンブレム、トリム、テールパイプに至るまでダークトーンで統一され、Eクラスの最強グレードに相応しいアグレッシブさを主張している。
足元には21インチAMG鍛造ホイールを装着(20インチが標準)。ボディカラーに応じてブラックまたはシルバーとなる。さらに左右4本出しのテールパイプをブラックに変更し、カーボンファイバー製リヤスポイラーリップ(セダンのみ)を備える点も、このモデルの特別性を醸している。
インテリアはブラックナッパレザーとカーボン素材を基調とし、AMGらしい緊張感を演出。さらにカーボンファイバーセンタートリムやパフォーマンスステアリング、通常は同時装着できない「デジタルインテリアパッケージ」が特別に組み合わされる点が、この限定車の大きなトピックだ。今やメルセデス的コクピットの象徴とも言えるMBUXスーパースクリーンも当然装備し、14.4インチのセンターディスプレイと12.3インチの助手席ディスプレイを1枚のガラスパネルで覆うことで、先進的なデジタル空間を構築している。
巨大な鉄ハンマーで

PHEVなので走り出しは完全なEVモードだ。コンフォートモードではエンジンは始動せず、静寂のままに滑り出すように発進する。28.6kWhという巨大な電力量を持つリチウムイオンバッテリーを搭載しており、なんならEVモードで101kmも走行可能だ。ハイブリッドシステムは63 Eパフォーマンス系が採用するリヤアクスルにモーターを配置するP3ハイブリッドではなく、トランスミッションにモーターを内蔵するいわゆるP2ハイブリッドであり、むしろ電動化がより進んだ印象だ。
ステアリングのダイヤルを回してスポーツモードに切り替えると早々に直6ターボが目覚めるが、それでもキャビン内に届くサウンドは遠く控えめだ。しかし、サウンドに対するその実力は圧倒的である。加速は圧倒的だが一方でスムーズでもある。多段化された9速ATということもあって変速は瞬時でシームレスそのもの。9GトロニックをベースとしたAMGスピードシフトトランスミッションだが、湿式多板クラッチを用いるMCTではなく、トルクコンバーターをスターティングデバイスとするTCTは快適そのもの。ともかく軽くアクセルペダルに足を乗せるだけで交通の流れを支配できる余裕がある。
その速さの質は従来のAMGとは異なるようにも感じる。V8モデルのような爆発的な感情の高まりではなく、圧倒的なトルクで押し切る“質量的な速さ”だ。0-100km/h加速3.8秒(レーススタートモード時)は、車重2.4tを考えれば驚異的である。静寂の中に巨大な鉄ハンマーで押し潰すような圧倒的力感がある。
ECOアシストの妙

ステアリングはロックトゥロック2回転未満のクイックな設定で、操舵感は従来の63 Eパフォーマンス系を彷彿させるダイレクト感を持つ。足まわりもAMGらしく引き締められ、路面状況を正確に伝えてくる。今回の試乗は市街地のみだったため、その実力を発揮する場面には出くわさなかったが、AMGドライバーズパッケージや電子制御LSD、AMGダイナミックエンジンマウントなども標準装備されるので、その秘めた実力は推して知るべしだろう。
細かいことだが、今回の市街地試乗でもっとも感動したのは「ECOアシスト」だ。これはプラグインハイブリッド車に備わる機能だが、前走車をカメラとレーダーで認識して車間距離に応じて回生ブレーキを自動的に制御してくれるので、ワンペダル感覚での走行が可能だった。車速コントロールのシビアさを軽減し、疲労度が違う。先読みの能力が低下する側面は否めないが。
電動化による新しいAMG像

E63の消滅はひとつの時代の終わりではある。しかし、このE53は単なる代替ではない。電動化を前提とした新しいAMG像を提示するモデルである。日常域では“ほぼ”電気自動車として使える点も、このモデルの重要な側面だ。走り出しの静寂はむしろ、その裏に潜む圧倒的なパフォーマンスを予感させる。E53は、V8の咆哮に代わる新しい“速さの表現”を提示する1台である。
PHOTO/市健治(Kenji ICHI)
SPECIFICATIONS
メルセデスAMG E 53 ハイブリッド 4マティック+ エディションナイトカーボン(PHEV)
ボディサイズ:全長4970 全幅1900 全高1475mm
ホイールベース:2960mm
車両重量:2430kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2996cc
エンジン最高出力:449PS(330kW)/5800〜6100rpm
エンジン最大トルク:560Nm/2200〜5000rpm
モーター最高出力:120kW(23PS)/2400〜6800rpm
モーター最大トルク:480Nm/0〜2400rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/35R21 後295/30R21
車両本体価格:2075万円

