ホンダの屋台骨を支える主力車であるフィットのモデルチェンジは、開発陣にとってもやはり特別な仕事のひとつだろう。i-MMDの小型化や、レーダーを使わずに構築された新方式のホンダセンシングの採用、ボディやサスペンションも、感性に訴える性能を与えるためにホンダ開発陣の持てる総力を結集して作り上げられた。 REPORT●安藤 眞(ANDO Makoto) ※本稿は2020年2月発売の「新型フィットのすべて」に掲載されたものを転載したものです。

数値だけにとらわれず快適空間を構築


これまでのモデルチェンジでは「従来モデルや競合他車より少しでも広く」ということに意識が向きがちだったが、新型は数値偏重から脱却。「ドライバーにとっての心地よい空間とはどういうものか」という視点で開発を行なった。

体格を問わず最適な運転姿勢がとれる

ステアリングの基準位置を14㎜ドライバーに近付け、足首の窮屈感を解消。HV仕様はブレーキペダルの位置も修正されているが、ガソリンエンジン仕様はマスターバックの位置が変わっていないため、修正は見送られた。

メーター輝度をリニアに切り替えどんな状況でも見やすく


新型フィットは全グレードにメーターバイザーのないTFT 液晶メーターを採用。周囲の明るさに関わらず良好な視認性が確保できるよう、バックライトの明るさ制御を2段階から無段階へと変更している。

熱対策も施された充電装置


スマートフォンの充電機には、ワイヤレスチャージャーを新採用。出力は15W(約1.25A)と、USBポート並みを達成している。充電によって生じる発熱対策には、専用の冷却ファンが設定されており、過熱による充電停止を回避。


スマートフォンの充電機には、ワイヤレスチャージャーを新採用。出力は15W(約1.25A)と、USBポート並みを達成している。充電によって生じる発熱対策には、専用の冷却ファンが設定されており、過熱による充電停止を回避。

死角が少ない広い視界が安全運転に貢献


従来型はフロントガラス越しの見開き角が69度と狭く、三角窓との間に太いAピラーがあったが、新型はAピラーを極細化。左右の目の視差で死角ができないようにすることで、実質見開き角90度を実現。歩行者が死角に入る時間も短くなった。


従来型はフロントガラス越しの見開き角が69度と狭く、三角窓との間に太いAピラーがあったが、新型はAピラーを極細化。左右の目の視差で死角ができないようにすることで、実質見開き角90度を実現。歩行者が死角に入る時間も短くなった。

バイザーなしでも反射せず視認性の高いメーター


メーターはバイザーも曲面レンズも廃止したため、外光の反射対策が必要となった。そこでメーターの角度をドライバーの視線に正対しないよう10度上に向け、表面にはアンチリフレクション加工を施した。

あえて表示項目を抑えて直感的にわかりやすく

フル液晶メーターは表示内容の設定自由度が高いため、ややもすると表示要素を詰め込みがちになるが、新型フィットはあえてシンプルな表示にできるモードを設定。表示内容の変更も、ステアリングスイッチで簡単にできる。

従来型の弱点の徹底排除でより上質に


プラットフォームはキャリーオーバーながら、従来型で把握した弱点を徹底的に改良。特に、前後サスペンション支持部と、その間をつなぐサイドシルが強化されており、操縦安定性や乗り心地はフルモデルチェンジに相応しいレベルで改善されている。

新構造で身体をしっかりホールド


新型フィット用に新設計された前席シートは、座面も背もたれもSバネ支持からマット支持へと改良。面で支えるため、ホールドが正確になるだけでなく、ウレタンの耐久性も向上するためソフト化でき、座り心地も向上している。

広い空間と快適な座り心地の後席


後席のシートフレームも改良。シートバック角をセダン並みにして楽な姿勢を取れるようにしたほか、ヒンジの位置を座面の両側に逃がし、座面のパッドを30㎜厚くして座り心地を向上。前席バックをえぐり、レッグスペースも拡大している。

考え抜かれた手の届く範囲の収納


収納関係は「空いているスペースを使う」のではなく「どこに何を置きたいか」へと発想を転換。一例が前席のドリンクホルダーで、視線移動が少なく周囲に障害物のないインパネ両サイドに配置されている。

広く使いやすいラゲッジは継承


後席背もたれを寝かせ、デザインのためバックドアガラスも少し倒したため、数値上のラゲッジ容量は減少したが、絶対値的にはBセグメント最大。間口幅は広げられており、大きな荷物の積み卸しは、むしろ楽になっている。

二重シールで静粛性とドア閉まり性を向上


外部からの騒音侵入対策には、ドアシールの全周二重化で対応。シール材は低硬度ながらへたりにくい材料を新開発し、断面も改良して反力エネルギーを33%低減。軽量化したドアの閉まり性も改善している。

極細ピラーでも衝突安全は万全


従来型は、前面衝突荷重のロードパス構造としてAピラーを使用していたため幅が太く、右左折時の視界を阻害する要因となっていた。新型はロードパスをA’ピラーに任せ、Aピラーの幅を半分以下の55㎜に縮小。ストレスのない視界を実現している。

高強度素材の採用比率を拡大


高張力鋼板の使用率そのものは従来型とほぼ同じだが、使用グレードは全体に上級へとシフト。特に980MPa級以上のグレードは、従来モデルの2倍弱に相当する約18%に増加している。


高張力鋼板の使用率そのものは従来型とほぼ同じだが、使用グレードは全体に上級へとシフト。特に980MPa級以上のグレードは、従来モデルの2倍弱に相当する約18%に増加している。

空力のトレンドもしっかり採用


気流の流れが乱れがちな前輪側面の整流には、エアカーテンを採用する。フロントバンパーから取り込んだ空気を前輪の側面に導き、負圧を減少させて乱れを抑える技術で、抵抗低減だけでなく操安性の向上にも効果がある技術だ。

新素材の採用で強度アップと軽量化を実現


側面衝突荷重を支持する骨格部材には、高λ型980MPa級ハイテン材を採用。素材鋼板を焼き入れする際に形成されるマルテンサイト組織を、焼き戻しすることで微細化し、強度を維持しながら延性と穴広げ性を高めた。冷間プレスでも深い絞り成型に対応できる。

鏡面サイズは変えずに空力性能を向上


風騒音対策としては、ドアミラーの流線形状を強めて単体Cd値を23%向上すると同時に、Aピラーガーニッシュの断面最適化を実施。渦の発生を抑制すると同時に、フロントコーナーガラスの板厚も約14%高めて遮音性能を向上させている。

数々の対策で極低周波音を排除


こもり音の増幅要因となりやすいバックドアには、最大振幅部にストッパーを追加して振動を抑制。ロック部にバルクヘッドとスティフナーを追加して支持剛性を高め、バックドア本体にはダイナミックダンパーを追加するなど、数多くの対策が施されている。

小型IPU高電圧バッテリーと制御系をまとめたもの)で荷室空間を改善


従来はPCU(モーター駆動用の電圧と電流を制御するパワーコントロールユニット)も内蔵していたIPU(高電圧バッテリーと制御系をまとめたもの)からPCUを分離し、コンパクト化してラゲッジ床面の段付きを改善。

PCUの水冷化で発熱と小型化に対応


モーター駆動の電圧と電流を制御するPCUは、トランスミッションの上に搭載。冷却系を水冷化することで、発熱量の増大とコンパクト化に対応した。12V 系に変換するDCDCコンバーターも、この中に収められている。

大幅に小型化されたシステム


インサイトと同じ1.5ℓエンジンと2モーターのシステムだが、フィットの車格に合わせてコンパクト化を実施。モーター&ジェネレーターの薄型化や、エンジン吸気系のレイアウト見直しで、20%以上の小型化を果たした。


インサイトと同じ1.5ℓエンジンと2モーターのシステムだが、フィットの車格に合わせてコンパクト化を実施。モーター&ジェネレーターの薄型化や、エンジン吸気系のレイアウト見直しで、20%以上の小型化を果たした。


インサイトと同じ1.5ℓエンジンと2モーターのシステムだが、フィットの車格に合わせてコンパクト化を実施。モーター&ジェネレーターの薄型化や、エンジン吸気系のレイアウト見直しで、20%以上の小型化を果たした。

ホンダ独自の2モーター駆動式ハイブリッド


バッテリー走行によるEVモードと、エンジン発電によるHV モード、クラッチ直結によるエンジン駆動モードを適宜使い分けるため、以前はi-MMD(Multi Mode Drive)と称していたが、今回からe:HEVという呼称となった。


バッテリー走行によるEVモードと、エンジン発電によるHV モード、クラッチ直結によるエンジン駆動モードを適宜使い分けるため、以前はi-MMD(Multi Mode Drive)と称していたが、今回からe:HEVという呼称となった。

熱効率の高い1.5ℓHV用エンジン


エンジンは1.5ℓのポート噴射方式で、1バルブ休止式のVTEC機構を備える。吸気弁側には電動式のVVT が採用され、遅閉じアトキンソンサイクルを使用することで、最大熱効率はポート噴射式最高レベルの40.5%を達成する。

エンジン型式:LEB 排気量(㏄) :1496 種類・気筒数:直列4気筒 弁機構:DOHC16バルブ ボア×ストローク(㎜) :73.0×89.4 最高出力(kW[㎰]/rpm) :72[98]/5600-6400 最大トルク(Nm[㎏m]/rpm) :127[13.0]/4500-5000 使用燃料レギュラー モーター最高出力(kW[㎰]/rpm) :80[109]/3500-8000 モーター最大トルク(Nm[㎏m]/rpm) :253[25.8]/0-3000

アトキンソンと通常サイクルを使い分ける


1.3ℓエンジンはキャリーオーバー。吸気弁側にLo-Hi切り替えVTEC機構を装備し、遅閉じアトキンソンとオットーサイクルを使い分ける。今回はエンジン本体には手は加えられず、触媒の貴金属使用量の削減が行なわれた。

エンジン型式:L13B 排気量(㏄) :1317 種類・気筒数:直列4気筒 弁機構:DOHC16バルブ ボア×ストローク(㎜) :73.0×78.7 最高出力(kW[㎰]/rpm) :72[98]/6000 最大トルク(Nm[㎏m]/rpm) :118[12.0]/5000 使用燃料:レギュラー

ステップダウンシフト制御で気持ち良いCVT


ブレーキ操作をきっかけに、プーリー比をローレシオ側に飛ばし、エンジンブレーキを強める“ブレーキ操作ステップダウンシフト”制御を入れているのは、ヴェゼルやN-WGN同様。降坂時のブレーキ操作が減るのに加え、コーナリング時にもダウンシフトとホールドが行なわれるため、ストレスなくコーナリングできる。

新油圧システムでオイルポンプの負担を軽減


CVT は油圧系を改良。アイドルストップのバックアップ用に付いていた電動オイルポンプを大型化し、金属ベルト保持用の高圧を分担。機械式ポンプは潤滑用の低圧高流量を分担することで、常用域での無駄仕事をなくした。

新制御で気持ち良く加速する


HVのエンジン制御を燃費最優先で行なうと、加速時にエンジン回転数の先走りが生じてリニアなフィーリングを損なう。新型FITは加速時にエンジントルクを活用し、回転数の上昇を抑えたリニアな制御を新開発している。


HVのエンジン制御を燃費最優先で行なうと、加速時にエンジン回転数の先走りが生じてリニアなフィーリングを損なう。新型FITは加速時にエンジントルクを活用し、回転数の上昇を抑えたリニアな制御を新開発している。

制約の中で効率化された吸気経路


コンパクト化されたエンジン吸気系。エアクリーナーケースを通過した後、一度下に降り、ひとまわりしてインテークポートに導入される。エアクリーナーケースの下側には、エレメントに当たる流量を均一化するための導風リブが見える。

HVとガソリン車ともに4WDを設定


4WDはパワートレーンの種類に関わらず、ビスカスカップリング式のものが用意される。他社の電動4WDに対し、バッテリー残量やリヤモーター出力とは無関係に後輪にトルク配分できることをメリットとして謳う。特にHVは、モーターならではの力強い低速トルクを電子制御によって緻密にコントロールし、前輪のスリップ=後輪へのトルク伝達量を最適化。発進時だけでなく、カーブや交差点でも4WDらしいスムーズな加速と安心感の高いハンドル操作が可能になった。

フリクションの徹底排除がポイント


サスペンションの設計課題は、フリクションの徹底的な排除。コイルスプリングの反力線最適化や、揺動/摺動部のブッシュ及びボールジョイントの摩擦を低減し、初動のゴツゴツ感を払拭。乗り心地にも「心地よさ」を与えた。

入力分離型ダンパーマウントで操安と乗り心地を両立


リヤサスペンションのダンパーマウントは、欧州B〜Cセグメントが好んで採用するアルミダイキャスト製となった。ダンパーを支持するウレタンブッシュを大径化し、入力を伝えるプレートも大型化して受圧面積を拡大。ソフトなウレタンを潰さずに使えるようになった。

樹脂製マウントで振動を抑制

ハイブリッド仕様のエンジンマウントは、鋼板の組み合わせから樹脂製の一体成型へと変更。成形性の高さを活かし、サイドマウントの液封量を10%増加させて振動収斂性を高めたほか、大型化したトランスミッションマウントを等価質量で成型している。材質はガラス繊維で強化したポリアミド66(ナイロン)だ。

ブレーキ特性を調整


乗り心地がしなやかになったことから、ブレーキの操作フィールも再チューニング。従来は軽快な操舵応答とバランスさせるため、少ないペダルストロークで制動力が立ち上がる踏力依存型だったが、新型ではコントロール領域の広いストローク依存型へと変更されている。

バリアブルレシオで取り回しが楽々


HVモデルの16インチタイヤ装着車には、ステアリングギヤにバリアブル方式を採用。センターのギヤレシオをスローにして直進安定性を高め、大舵角側をクイックにして取り回し性も両立させている。

正確でリニアに反応するステアリング


ステアリングコラムには、衝突時にキャビンに侵入しないよう、コラプシブル機構を付けるのが必須。従来型は回転方向のガタが取り切れない樹脂スプライン方式だったが、新型は金属ボールのカシメ式として、ガタの排除を行なった。

カメラを中心とした新システム


先進運転支援システムの「ホンダセンシング」は、システムを一新。フロントカメラを広角化し、画像認識精度を向上させたソフトを採用することにより、各種支援機能の性能向上を果たした。ソナーセンサーは、近距離の障害物検知に利用する。

割り込みへの対応も強化された全車速対応ACC


フロントカメラの広角化によって、割り込み車両や併走車の認識精度が向上。クルーズコントロールの速度制御が滑らかになった。また、電動パーキングブレーキによって停止保持が可能になったため、停止も含む全車速対応化も果たしている。

衝突軽減ブレーキがより安全に!


衝突軽減ブレーキには、右折車両と対向車に対応する機能も追加された。これもカメラの広角化と認識性能向上によるもの。自車が対向車線にはみ出したり、対向車がはみ出してきた場合にも、非常ブレーキを作動させる。

高い認識精度で安定した車線維持を実現


自動車専用道での使用を想定したレーンキープアシストも制御品質を向上。カメラの広角化によってより奥の曲率が把握できるようになり、制御のオーバーシュートが激減。自然で滑らかなコーナリングが可能になった。

最新のコネクテッドへ進化

コネクテッドシステムは、従来のインターナビ+リンクアップフリーから、ホンダトータルケアプレミアムに進化。従来はインターナビ専用の通信機を利用した地図中心のサービスだったが、新型では専用のテレマティクスユニットを搭載し、クルマ全体に渡るサービスを提供するコネクテッドカーに生まれ変わった。 緊急通報サービスは、エアバッグ展開レベルの事故が起きた場合の自動通報と、緊急通報ボタンを使用した任意通報によって利用できる。緊急サポートセンターがワンストップで通報された情報をもとに、ロードサービスや警察・消防、保険会社、ディーラー、警備会社、家族など、必要なところに漏れなく連絡してくれるのが、ホンダ独自のサービスだ。テレマティクスユニットを搭載しているため従来必要だったスマートフォンとブルートゥースユニットの初期設定も不要となった。 もうひとつ利用可能になったのが、スマホによるクルマの機能のリモート操作。ドアロックを締めずにクルマから離れるとスマホに通知が届き、アプリの操作でドアをロックできる(アンロックも可能)ほか、いつでもどこでもエアコンの乗車前稼働が行なえる。 駐車場所が分からなくなった場合は、アプリの操作で地図情報が表示されるほか、ハザードランプの点滅とアンサーバックブザーの吹鳴でクルマ側から位置を発信する。ホンダ方式の特徴は、テレマティクスユニットとブルートゥースユニットを併用していること。前者はサーバーを経由するため、通信範囲が広い代わりに応答時間が数秒〜数十秒掛かる。一方、後者は通信可能距離が30m程度である代わりに、応答時間は1秒以内。前者のみを使用する他社に差を付けている。 セキュリティの面では、警備会社のALSOKと連携。イモビライザーが作動すると、オーナーのスマホと緊急サポートセンターに連絡が入り、オーナーが要請するとALSOKの警備員が現場に急行。必要に応じて警察などに通報が行なわれる。

モーターファン別冊・ニューモデル速報 ニューモデル速報 Vol.593 新型フィットのすべて 試乗インプレッション「数字よりも大切なこと」 コンパクトカーの新たな評価軸…。 4代目となる新型フィットは、広さや燃費 ど表面の数字にこだわらない。代わりに大 にしたのは、使う人の心地よさ。 ライバル車比較「新たな個性で対峙する」 国産コンパクトカーのライバルであるフィットとヤリス(ヴィッツ)が相次いで新型となって登場。迎え撃つのは売上No.1のノート、走りが自慢のスイフト。個性豊かな新型の登場で、コンパクトカー選びが楽しくなる! 使い勝手徹チェック 「毎日が心地よいクルマ」 人が心地よいと感じるのはごういうものか?新型フィットの使い勝手は追求したテーマを具現化し、優れた視界、リラックスできる室内、心地の良いシート。どれも乗るたびに実感できる。