ビモータ「KB998リミニ」/試乗:ケニー佐川

半世紀を超えて受け継がれる”車体屋”の哲学

「ビモータ」と聞いて、その名をすぐ思い浮かべられるライダーは決して多くないかもしれない。しかし、スーパーバイクの歴史を語るうえで欠かせないブランドであることは間違いない。1973年、イタリア・リミニで誕生したビモータは、自らエンジンを作らないという極めてユニークなメーカーだった。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという日本メーカーはもちろん、ドゥカティやBMWなど世界中の名機を心臓部に選び、自ら設計したフ
レームへ搭載する。目指したのは、メーカー量産車を超える理想のハンドリングだった。
ブランド名は創業者ビアンキ、モリ、タンブリーニの頭文字に由来する。なかでもマッシモ・タンブリーニは後にドゥカティ916を生み出し、現代スーパーバイクのデザインと運動性能を決定づけた天才である。
もっとも、その歴史は決して順風満帆ではなかった。幾度も経営危機に陥り、ブランド消滅すら危ぶまれた。そして2019年、転機が訪れる。カワサキとの資本提携である。カワサキは資本だけでなく、世界最高峰のレーシングテクノロジーまで惜しみなく提供した。そしてビモータは、自らが最も得意とする「車体づくり」に全力を注ぐ。その最初の本格的な結晶こそが、世界限定500台のKB998リミニだ。KはKawasaki、BはBimota。そして「リミニ」は創業の地。そのネーミングからも、このモデルがブランド復活を賭けた特別な存
在であることが伝わってくる。

ビモータ・KB998リミニ
ビモータ・KB998リミニ

世界王者のエンジンをビモータ流に料理

心臓部はスーパーバイク世界選手権で7度のタイトルを獲得した「ZX-10RR」譲りの998cc水冷DOHC直列4気筒だ。ライディングモードやトラクションコントロール、コーナリングABS、ウイリーコントロール、クイックシフターなど電子制御も万全だ。
しかし、このマシンの本質はエンジンではない。真価はビモータがゼロから設計したシャーシにある。アルミ削り出しプレートとクロモリ鋼トレリスを組み合わせた独創的なハイブリッド構造の「可変剛性フレーム」は、高剛性と適度なしなりを両立。旋回中でもライダーが安心して荷重を掛け続けられる特性を狙っている。さらに速度や走行状態に応じてフロントに生えた翼が角度を変える「可変ウイングレット」を世界で初めて採用。派手な
装備に見えるが、その目的は自然なフロント接地感を生み出すことにある。専用アルミスイングアーム、前後SHOWA製フルアジャスタブルサスペンション、ブレンボ製ハイエンドブレーキ、そして外装はすべてドライカーボン製。溶接ビードや削り出しパーツの美しさを眺めていると、「工業製品」というより「工芸品」という言葉がしっくりくる。

ビモータ・KB998リミニ

走り出した瞬間から分かる”別格の空気”

ビモータ・KB998リミニ/試乗:ケニー佐川

試乗の舞台は袖ケ浦フォレストレースウェイ。何度も走り込んできたコースだが、ピットロードを出た瞬間、「これは普通のスーパースポーツではない」と直感した。
ポジシションはかなりレーシー。それなのに窮屈さはなく、自然と上体が前へ入り、ハンドルへ適度に荷重が乗る。タンク形状も絶妙で、ニーグリップした瞬間から車体と身体が一つになる。ウォームアップを終え、メインストレートでスロットルを全開に。7000rpmから猛烈な加速が始まり、10000rpmを超えた瞬間に景色そのものが変わる。吸排気音が重なり合い、レーサーそのものの咆哮がヘルメットの中へ飛び込んでくる。クイックシフ
ターの失速感もなく次の加速へ。体感的には200psという数字以上の迫力だ。
だが、本当に驚かされたのは、その圧倒的なパワーを受け止める車体の完成度だ。高速コーナーへ進入すると、倒し込みは軽快でありながら決して軽薄ではない。狙ったラインへ寸分違わず吸い込まれるような正確さがあり、フロントタイヤの接地感や残されたグリップが驚くほど鮮明に伝わってくる。走行中にウイングレットの作動を見ている余裕はないが、その働きによって自然なフロント荷重が生まれ、まるでフロントタイヤと指先が直結
しているような安心感がある。
旋回中にアクセルを開けても姿勢変化は穏やかで、リアタイヤはしっかりと路面を捉えたまま出口へ向かって矢のように加速する。電子制御が優秀だから安心というより、シャシーバランスそのものの完成度が高く、ライダーに余計な修正を強いないのである。攻めれば攻めるほど安心感が増し、さらに深く踏み込める。このあたりはいかにもビモータらしい味付けだ。

乗り手次第でさらに奥深い性能を引き出せる

ビモータ・KB998リミニ/試乗:ケニー佐川

高価な限定車にありがちな気難しさはなく、マシンのほうから「もっと攻めてみろ」と誘ってくる懐の深さがある。フルバンクのまま縁石をかすめ、全開加速から鋭いブレーキング、そして次のコーナーへ。その一連の流れがあまりにも自然なので、つい右手が大きく動いてしまう。周回を重ねるにつれ、700万円近いマシンを操っていることをつい忘れてしまいがち。抗しがたい危険な誘惑だ。
もちろん性能だけならZX-10RRも世界最高峰だ。しかしKB998リミニは、その圧倒的な性能をビモータならではの感性で再構築した一台である。速さだけでなく、曲がる楽しさ、操る歓び、所有する満足感まで高い次元で融合している。
一方で、強烈なエンジンと鋭いハンドリングは決して誰にでも優しいわけではない。特にタイトコーナーではライダーの技量がそのまま表れ、乗り手次第でさらに奥深い性能を引き出せる。そこにハンドメイド・ビルダーとしてのビモータらしさを感じた。
ビモータ復活の狼煙として、この一台ほどふさわしいモデルはない。カワサキが磨き上げた世界王者のパワーユニットと、ビモータが半世紀にわたり培ってきた車体づくりの哲学。その幸福な融合は、サーキットでこそ真価を発揮する。ヘルメットを脱いだあとも、高回転域で吠え続ける直4サウンドと、寸分の狂いなくコーナーを切り取っていく“冴えた”感覚が身体に刻み付けられていた。これこそがKB998リミニ最大の魅力であり、所有したラ
イダーだけに許される特別な体験なのである。

ビモータ・KB998リミニ

ウェッジシェイプ型のボディラインやアップタイプの右1本出しマフラーなど、見た目は比較的オーソドックス。注目すべきは単にカワサキ製エンジンを搭載したことではなく、ビモータ独自のシャーシ設計によってZX-10RRのポテンシャルをさらに引き出している点にある。

ビモータ・KB998リミニ

オリジナルのフルカーボン外装の中に収まるエンジンは、ZX-10RR譲りの水冷4スト並列4気筒 DOHC 4バルブ998ccから最高出力200psを発揮。スペックも同等である。サスペンションもSHOWA製で10RR同様のユニットを使用しつつ、専用セッティングが施されている。

足つき性

ビモータ・KB998リミニ/ケニー佐川

ライポジは非常にスリムでコンパクト。スーパースポーツとしては前傾も極端にきつくなく、ハンドルも近め。バンク角を稼ぐためステップ位置は高めだ。シート高は830mmと標準的で、座面もフラットで絞られているため足着きも良好だ。ライダー身長179cm。体重73kg。

ビモータ・KB998リミニ/ケニー佐川

ディテール解説

フロントカウルは風洞実験とWSBKでの実戦データから導き出された空力デザイン。大型ラムエアダクトと可変ウイングレットが特徴的だ。外装にはMotoGPマシンと同じオートクレーブ製法によるドライカーボンを採用する。

高張力鋼トレリスフレームとCNC削り出しアルミプレートを融合したビモータ独自のハイブリッドシャシー。素材ごとの特性を最適化した構造は、高剛性と適度なしなやかさを両立し、同社ならではの精緻なハンドリングを生み出す。
レーシングマシンそのものの厳(いか)ついスイングアームは、なんとアルミ削り出しの専用設計。ピボットプレートも位置調整可能なレーサー譲りのカセット式を採用する。

フロントにはφ43mmショーワ製BFF倒立フォークを採用し、圧側・伸側減衰力とプリロード調整に対応。ブレンボ製M50モノブロックキャリパーとφ330mmダブルディスクを組み合わせ、WSBK直系の制動性能を実現する。

リアサスペンションはショーワ製BFRC liteユニットをビモータ独自のレイアウトで垂直配置。専用リンクとの組み合わせにより、優れた路面追従性とトラクション性能を確保し、コーナー脱出時の安定感を高めている。
トップブリッジ上にはオーリンズ製電子制御ステアリングダンパーを標準装備。IMUでマシンの走行状態をリアルタイムで計測し、操舵スピードを最適化する。高速コーナーでの安定感はもちろん、タイトコーナーでも自然なフィーリングだった。
電子制御スロットルと連動した双方向対応KQS(カワサキクイックシフター)を標準装備。クラッチ操作なしでシームレスなアップ&ダウンシフトを可能とし、200PSのパワーを余すことなく路面へ伝達する。
シート高は830mm。コンパクトなリアセクションとスリムなシート形状により足着き性にも配慮しながら、スポーツライディング時には前後左右への自由な体重移動を可能としている。シート座面はレーサー並みにソリッドだ。
専用アクラポビッチ製チタンマフラーがレーシーかつ官能的なサウンドを奏でる。タイヤはサーキット性能重視で公道も走れるハイグリップ系の代表格、ピレリ製ディアブロスーパーコルサSPを標準装着。
可変ウイングレットは完全自動制御で、加速中は立て気味にしてダウンフォースを発生。最高速付近では水平にして空気抵抗を減らし、ブレーキングでは最大角度でフロント荷重を高めつつコーナー進入でのスタビリティを向上させる。
TFTフルカラー液晶メーターを採用。KIBS、S-KTRC、KCMF、KEBC、ローンチコントロール、パワーモードなど「ZX-10RR」譲りの多彩な電子制御を統合し、走行シーンに応じた細かなセッティングを可能としている。
虚飾を排したシンプルかつ機能的なコックピット。KB998リミニは単なる高性能スーパースポーツではない。BbKRTワークスチームと共同開発されたホモロゲーションモデルとして、市販車でありながらWSBKマシンそのものの設計思想を色濃く受け継ぐ一台となっている。

主要諸元

ボディサイズ:全長×全幅×全高=2,085×862×1,205mm
ホイールベース:1,455mm
シート高:830mm
車両重量:207kg
エンジン:水冷4ストローク並列4気筒 DOHC4バルブ 998cc
トランスミッション:常時噛合式6速リターン
最高出力:200PS(147.1kW)/13,600rpm
最大トルク:111N・m/11,700rpm
燃料タンク容量:17L
フレーム:高張力鋼トレリス+アルミ削り出しプレート(ハイブリッドフレーム)
サスペンション(トラベル量):
フロント:ショーワ製BFF φ43mm倒立フォーク(130mm)
リア:ショーワ製BFRC liteモノショック(125mm)
ブレーキ:
 フロント=ブレンボ製M50モノブロック対向4ピストン+φ330mmセミフローティングダブ
ルディスク
 リア=ブレンボ製対向2ピストン+φ220mmシングルディスク
タイヤ:
 フロント=120/70ZR17 M/C(58W)
 リア=190/55ZR17 M/C(75W)
燃費:6.8L/100km(WMTCモード相当)
価格:693万円(消費税込み)