1984年に登場! 当時15万9000円の高級スポーツスクーター
今でこそ1980年代の原付スクーターは“昭和レトロ”として見直されているが、当時はまさにスクーターブームの真っただ中。ホンダ、ヤマハ、スズキ各社から次々と新型が登場し、ピーク時には1メーカーで50ccスクーターを10車種もラインナップしていたことがあるほど。数カ月おきに新モデルが現れ、名車も迷車も次々誕生していた時代だ。
そんな1984年にスズキが発売したのがシュート。スズキ公式では「グレード感と高い性能を備えたスポーツスクーター」と紹介されており、49ccの空冷2スト単気筒エンジンは最高出力6ps/6500rpmを発揮。キックダウン機構付きVベルト無段変速を採用し、急加速や上り坂でも力強い走りを狙ったモデルだった。
そして大きなトピックが足周り。フロントにはスクーター初となる油圧式ディスクブレーキとテレスコピックフォークを採用していた。車両重量は乾燥57kg、フロントフェンダーは独立しておりタイヤは前後3.00-10と、当時としては極太! 最新メカニズムと装備を盛り込み車両価格は15万9000円。同時期のスズキ・蘭が8万9000円だったことを考えると、かなり高級なスポーツスクーターだったことが分かる。

直線を多用したシャープなデザインに、前後10インチの白ホイール。大きめのボディと合わせ、当時の“高級スポーツスクーター”らしい存在感がある。

大型の角型ヘッドライト上にはスモークのミニバイザーを装備。ハンドル周りまでしっかりカウルで覆ったスタイルも、80年代スポーツスクーターらしい。

シュート最大の注目装備がフロントの油圧式ディスクブレーキ。スクーターとして初採用された装備で、冷却用?のスリットが入ったテレスコピックフォークも組み合わされる。
部品がない! だから探す、直す、自分で作る
オーナーのイシイさんがシュートを手に入れたのは約2年前。筋金入りのスズキマニアが長年探していた……というわけではなく、知り合いからたまたま譲り受けたのが始まりだった。ところが実際に維持しようとすると、古いマイナー車ならではの壁が立ちはだかる。補修パーツがほとんど手に入らないのだ。
そこでネットオークションを日々チェックしながら、使えそうなパーツを少しずつ確保。状態が良くなかった外装は再塗装し、入手できなかったサイドカウルの「SHOOT」デカールはカッティングシートで自作した。ぱっと見はノーマル然としているけれど、このきれいな姿を維持する裏側には、そんな地道な努力と時間が詰まっている。
古いバイクというと、完全オリジナルへ戻して大切に保管する楽しみ方もある。でもイシイさんのシュートは、直して、維持して、そして乗る。もともと新型が次々と登場した時代の50ccスクーターだけに、40年以上経った現在まで実動状態で残り、しかも日常の足として使われていること自体が希である。

サイドカウルの「SHOOT」ロゴは、純正デカールが手に入らなかったためカッティングシートで自作。外装も再塗装して、この状態まで復活させた。

マフラーはノーマル。貼られているISHIIステッカーはオーナーの名字にちなんだもの(笑)。ちなみに当時のスポーツショップISHIIはヤマハ系チューナーとして知られ、現在のOXレーシングにつながる。

60km/hスケールのスピードメーターに燃料計、左右ウインカーやオイル警告灯などを横一列に配置。角形基調のメーターパネルも80年代感たっぷりだ。
整備はちょっと大変。それでも普段の足としてガンガン乗る!
シュートは前方吸気・後方排気のレイアウトを採用しているため、エアクリーナー交換やキャブレター調整をするにはカウルを外す必要がある。さらにフロントディスクブレーキのマスターシリンダーもアッパーカウル内に収められていて、ブレーキフルードの量を確認するだけでもカウルを外さなければならないという。今の感覚で見ると、なかなか大胆な設計だ。
シートを開けても現在のスクーターのような大きな収納スペースはなく、中には燃料タンクやオイルタンク、バッテリーがぎっしり。荷物を入れるスペースはフロントカウル内のポケットが中心となる。このあたりも、現代のスクーターと見比べると時代の違いだろう。
それでもイシイさんは、シュートを飾って眺めるだけにはしていない。整備の手間も、パーツ探しの苦労も含めて付き合いながら、普段の足として乗っているという。古いスクーターを良い状態を保ちながら日常で使い続ける。40年前のシュートが今も道路を走っている姿は、そこだけ昭和の風が吹いているのかもしれない。

シート下に大容量ラゲッジはなし。燃料タンクやオイルタンク、バッテリーなどが収まる、80年代スクーターらしいレイアウトだ。

収納スペースはフロントカウル内の鍵付きポケットを装備。いま見ると小さく感じるが、当時はこうした収納が標準装備されること自体もすごいことだった。

角形テールランプや大きなウインカー、サイドのダクトなど、後ろ姿まで直線基調。40年以上前の車体とは思えないほど外装の状態も良好だ。
このシュートを捕獲したイベントはこちら!


今回のシュートを撮影したのは、2026年7月19日に森の駅箱根十国峠で開催された「十国峠原付祭十周年」。今年で10周年を迎えた「十国峠原付ミーティング」には、関東・中部を中心に全国から100台を超える原付カスタムマシンが集合した。もともとはスーパーカブオンリーのイベントとしてスタートし、現在ではさまざまな原付カスタムが集まる定期開催イベントへとグレードアップしている。気になる方は「十国峠原付ミーティング」で検索してみてほしい。
今回紹介したシュートも、そんな濃い参加車の中からモトチャンプが気になった1台。ちなみにイシイさん、じつは同時期のスズキ・カーナまで所有している。しかも、こちらもかなり珍しい仕様。シュートと並んだ2台の写真を見るだけでもニヤニヤしてしまうが、そのカーナについては次の記事でじっくり紹介しよう。

シュートの隣に並ぶのは、イシイさんが所有するもう1台の80年代スズキスクーター、カーナ。こちらもただのカーナではない。その正体は次回じっくり紹介します。
【モトチャンプ編集部】