80’Sへの憧れが、CT125ハンターカブを選ばせた

「気分転換にウーバーイーツでもやってみようかな」

今回紹介するCT125ハンターカブ(以下、CT125)は、そんな一言から始まった。

デザイナーとして忙しい日々を送る中田さんは、配達にも使えそうなバイクを探している最中にCT125と出会う。ところが実車を見た瞬間、頭の中で走り出したのは配達用バイクのプランではなかった。

「これ、ダートトラッカーにしたら絶対カッコいいんじゃないか?」

元々ホンダFTR250やハーレーダビッドソンHD883をダートラ仕様にカスタムをして楽しんでいたこともあり、約20年ぶりのバイク復帰は一気に加速。気付けばCT125は“仕事の足”ではなく、“理想のカスタムベース”になっていたのである。

2020年に登場したCT125ハンターカブは、1981年に発売されたCT110から受け継がれる“遊べる実用車”というキャラクターが魅力だ。スーパーカブ譲りの扱いやすさに加え、アップマフラーや大型キャリア、未舗装路にも対応できる足周りを備え、ツーリングからキャンプまで幅広く楽しめるモデルとして人気を集めている。

しかし、中田さんが惹かれたのは積載性や実用性だけではない。ノーマルの車体を眺めながら思い描いたのは、80年代ホンダレーサーの鮮烈な赤。そして土煙を巻き上げながら走るダートトラックレーサーだった。

こうして“ハンターカブをどう便利にするか”ではなく、“ハンターカブをどうカッコよく見せるか”というカスタムがスタートしたのである。

目指したのはオフロード仕様ではなくダートトラッカー

完成した車両を見てまず感じるのは、その独特なシルエットだ。

足周りには前後YSS製サスペンションを採用し、タイヤはシンコー製SR244を前後3.25サイズで装着。SP武川製アルミワイドホイールリムには濃いゴールドアルマイトを施し、80年代ホンダレーサーを思わせる足元を演出している。さらに純正スイングアームをベースに10cm延長加工を実施。アップした車高とファットなタイヤとのバランスを整えながら、独特の伸びやかなスタイルを実現した。

マフラーはタイのMUGELLO製を採用。リヤキャリアも同社製のコンパクトタイプへ変更し、ノーマルの大型キャリアが持つ“積載車”のイメージを払拭している。

実は当初、中田さんもリヤにトップケースを装着したスタイルを考えていたそう。しかし、SNSや海外カスタムを見ているうちに方向性は大きく変化。気付けばキャンプ仕様でもツーリング仕様でもなく、ダートトラッカーだった。

その象徴がリヤ周りである。純正リアフェンダーは大胆に加工され、フレームもカット。さらにヘッドライト周りやフロント周りの構成を見直し、車体全体のボリューム感をそぎ落としたことで、ノーマルとはまったく異なる軽快なシルエットを獲得した。

見た目はワイルドになっているのに、不思議とゴチャついた印象がない。それは“足すカスタム”ではなく、“削るカスタム”を徹底したからこそ生まれた雰囲気なのだ。

80年代ホンダレーサーを思わせる鮮烈なレッドとゴールドホイールが存在感抜群。ハンターカブらしさを残しながらも、どこかダートトラッカーの香りを漂わせる絶妙な仕上がりだ。
余計なものを削ぎ落とした車体構成と伸びやかなフォルムが印象的。派手なカスタム車というより、メーカー純正のコンセプトモデルのような完成度を感じさせる一台だ。
リヤフェンダーやキャリア周りを整理したことで、ノーマルとは別モノの軽快なシルエットを獲得。ロングスイングアームの効果もよく分かる。

純正を切り、削り、作る。理想のバランスを追求した一台

この車両の魅力は、高価なパーツを並べただけのカスタムではないことだ。むしろ本当の見どころは、完成後には目立たなくなる部分に隠されている。

具体的にはハンドル周りの配線を内部へ通す内装化(ワイヤータック)を実施。ライト周りのケーブル類も可能な限り整理し、キーシリンダーは別位置へ移設。トップブリッジも加工して不要なステー類を取り除くことで、驚くほどスッキリしたフロントビューを作り上げている。

グリップヒーターやフォグランプを操作するスイッチボックスはなんと3Dプリンター!による自作品。パワーフィルター用のジョイントも自作し、市販品だけでは実現できない理想のレイアウトを追求した。

エアクリーナーカバーにはK-SPEED製をベースにカット&メッシュ加工を実施。シートはアマゾンで購入した格安品を加工流用し、フォークガードやフロントフェンダーも海外製パーツをベースにアレンジしている。

さらに純正パーツを活かしている点も見逃せない。フォークカバーやエンジンガードを加工して使用するほか、サイドカバーには北米仕様(車名が異なる)TRAIL125のデカールやコーションラベルを採用。ホンダエンブレムにはZ50A用を組み合わせるなど、細部にまでホンダらしさへのこだわりが詰め込まれている。

フレームカットやスイングアーム延長と聞くと、専門ショップが製作したショーバイクを想像するかもしれない。しかし中田さんは、周囲にバイクに詳しい仲間や頼れるショップがいたわけではなかったという。

インターネットで情報を探し、考え、試し、失敗しながら理想のシルエットを追い続けた。その積み重ねが、どこかメーカー純正コンセプトモデルのような完成度につながっている。「もちろん、モトチャンプも読んで勉強しましたよ」と取材班へのフォローも忘れない(笑)。

ウーバーイーツを始めるために買ったはずのCT125。しかし完成した車両を眺める限り、その計画は途中でどこかへ消えてしまったようだ。その代わりに手に入れたのは、80年代ホンダへの憧れとダートトラッカーへの情熱を詰め込んだ世界に一台だけのCT125ハンターカブ改。本人いわく、ウーバーをする時間はカスタムに取られてしまったそうだが、気分転換という意味では間違いなく大成功だったのではないだろうか。

デザイン性と夜間走行を意識してPIAA製LEDフォグランプを追加装備。汎用LEDヘッドライトとの組み合わせで視認性を高めるだけでなく、フロント周りのメカニカルな雰囲気づくりにもひと役買っている。フォークガードは海外製パーツを加工して装着した。
純正メーターはサブフレームへ移設。隣に見える四角いボックスは3Dプリンターで自作したもので、グリップヒーターとフォグランプを操作するスイッチを内蔵する。市販品に頼らない製作スタイルもこの車両の特徴だ。
冬場を見据えてホンダ純正グリップヒーターを装着。スイッチ類の配線はもちろん、ハンドル周りのケーブルも極力見えないよう処理されており、シンプルなコクピットを実現している。
サイドカバーのデカールだけでなく、各種コーションラベルも北米仕様を採用。現地では「TRAIL125」の名で販売されていることから、細部までUS仕様の雰囲気を追求している。
K-SPEED製カバーをベースにメッシュ加工を実施。内部にはパワーフィルターを組み込み、見た目のアクセントと吸気効率向上を両立させた。キーシリンダー移設にも注目だ。
※この記事は月刊モトチャンプ2022年1月号を基に加筆修正を行っています

【モトチャンプ編集部】