“鉄カブエンジン”が持つシンプル構造の強さ 6V時代を経て12Vへ!内部も大きく進化した
スーパーカブのエンジンは、モデル初期のOHVを除くと大きく分けて“鉄カブ”と呼ばれるキャブレター仕様と、後のインジェクション仕様のニ種類に分類できる。なかでも鉄カブ時代のエンジンは、構造がシンプルで壊れにくいことから、“実用エンジンの完成形”とも言える存在だ。
1964年に登場したスーパーカブC65以降、カブはOHV→OHCエンジンへと進化。そこから大きく設計を変えることなく改良を重ねてきた。排気量は50cc・70cc・90ccの3タイプがあり、50ccと70ccはストローク(ピストンの上下運動の長さ)が同じでボア径(シリンダーの内径)が異なり、70ccと90ccは逆にボア径が同じでストローク量が異なる構成となっている。それぞれ互換性はあるので流用は可能だが、排気量の違いによってクランクケースに補強が入るなど、細かい部分が異なっている。
こうした基本設計が共通していることで、カブのエンジンはパーツの互換性が高く、他モデルの部品を流用しやすいのが特徴だ。これは単なる便利さだけでなく、「どこでも直せる」という強みにもつながっている。実際に世界中でカブが使われ続けている理由のひとつが、この整備性の高さだ。
そのOHCエンジンの大きな転換点となったのが1986年の電装系の12V化(それまでは6V)。点火方式もポイント点火(接点で火花を飛ばす方式)からCDI点火(電子制御で安定して点火する方式)へと変更。これにより信頼性は大きく向上した。
12V化に従い、クランクやケース、シリンダーヘッド、ピストンなどの仕様も変更されている。スタッドボルト間は同じなので装着はできるが互換性があるわけではない。組み合わせを間違えるとエンジンを壊す可能性もあるので、パーツを選ぶ際は年式を確認するなどの注意が必要だろう。
さらに2000年以降はブローバイガス(燃焼室から漏れたガス)の処理方法も変更され、環境性能にも対応。ブローバイガスのニップルの向きが変わるなど細かな進化が続いている。
さらに2007年になると、従来のキャブレター仕様からインジェクション化への過渡期に入り、エンジンも大きな転換点を迎える。まず50ccモデルがインジェクション化(FI化)されるのである。クランクケースはキャブ時代と同じ(一部強化されている)だが、燃料供給方式の変更に合わせてシリンダーヘッド周りは大きく見直され流用はできない。以降のインジェクションモデルへとつながる進化のベースがこの時期に作られている。
こうして見ると、鉄カブのエンジンは“古いけど優秀”ではなく、“今でも通用する完成度の高さ”を持ったユニットだった。だからこそ長く乗られ、カスタムベースとしても愛され続けている。流用できるパーツが多いのも特徴だ。
以下、パーツの違いを見ていこう。
【ピストン/カムシャフト】見た目は似ていても別モノ!6Vと12Vで異なる


ピストン径は同じだが、高さが異なっている(写真左が6V・右12V)。12Vエンジンのカムシャフトは、ボールベアリング支持となっている(写真左が12V・右6V)。
【クランクシャフト】6V時代に2タイプ、12V時代に1タイプと大きく3種類!

6V時代の前期、6V時代の後期、12V時代でクランクシャフトの長さや形状が異なり、S、L、Rクランクなどと呼ばれている(左から6V・6V後期・12V)。
【コンロッド】50ccと70ccではどう違う?

50ccと70ccではストローク量が同じなので、コンロッドの長さは同じ。しかし、シャフトの太さや大端部の肉厚が違うなど強度が異なる(左50cc・右70cc)。
【クラッチ】90ccモデルのクラッチは強化タイプ!

形状やディスクの枚数は同じだが、90cc(写真右)のみ、プレートを押し付けるウエイトの数(重さ)が異なっている。排気量アップによるハイパワー化に対応した格好で、流用チューンとしても人気。
【クランクケース】ブローバイニップルの位置に注目

2000年以降モデルのクランクケースは、ケース内のブローバイガスをマニホールド側に戻す設計になったため、ケースから出ているニップルの向きが逆になった。
【インジェクションモデル(110cc)】

じつは細部がスゴい!インジェクションカブの進化ポイントをチェック
2008年にスーパーカブ90が生産終了となり、翌2009年にはスーパーカブ110が登場。これにより原付二種モデルは110ccへと一本化された。ベースとなっているのは、アジア圏で広く使われているWAVE系エンジンで、ボア50.0mm×ストローク55.6mmのロングストロークを採用している。
このエンジンの大きな特徴は、従来のカブらしい“低速トルクの強さ”をそのままに、燃費性能や環境性能をさらに高めている点だ。インジェクション化によって燃料供給が電子制御となり、始動性や安定性も大幅に向上。「誰でも簡単に乗れる」というカブの魅力を、より確実なものにしている。
2009年登場のJA07(型式)/2012年登場のJA10/2017年登場のJA44と、FIエンジンに関しては基本的には同じ構造。しかしながらよーく見ていくと細かい部分が変更されているのが分かる。特にシリンダーヘッドまわりは変更点が多く、ほかにもカムシャフトやバルブスプリングなどが最適化されている。
また、スロットルボディやインジェクターは口径や容量に変更はないものの形状が違うので流用は出来ない。ECU(エンジン制御コンピューター)も含めて、モデルごとに専用設計となっている。エアクリーナーボックスの形状も異なり、吸気効率を細かくチューニングしている点も見逃せない。
さらにJA44では、カムチェーンまわりの強化や冷却性能の向上など、耐久性を意識した改良が施されている。一見すると小さな変化だが、こうした積み重ねが“壊れにくいカブ”を支えているのだ。なお、JA07ではシフトフォークに摩耗しやすい弱点があったが、後のモデルでは改善されている。こうした違いを理解すれば、流用によるアップデートも可能になるのがカブの面白いところだ。
見た目は大きく変わらなくても、中身は確実に進化している。インジェクション世代のカブは、伝統と最新技術がうまく融合した“現代の完成形”と言えるだろう。ちなみに2022年のモデルチェンジでは、エンジンを刷新(型式JA59)。CT125ハンターカブ等と同じ47.0mm×63.1mmボアストロークを持つ、ロングストロークエンジンに。最大トルクが向上している。
【スロットルボディ】形状は異なるが口径は同じ

スロットルボディの口径はすべて同じ。JA44はスロットルワイヤーが2本引きになる。インジェクターのコネクターも変更された(左からJA07/JA10/JA44)。カプラーの形状も異なる。
【ピストン】形状は同じだが表面処理が異なる

ピストンはボア径は同じでスカート部の処理が異なる。JA10にはオイル保持のための深い溝(中央)、JA44はモリブデン系のコーティングが施される(右)。左はJA07。
【シリンダーヘッド】JA44でフィンが大型化して冷却性能が向上

JA44(写真右)はシリンダーヘッドのフィン部分も大きくなっている。シリンダーとセットであればJA10以前にも流用することができる。左はJA10のシリンダーヘッド。
【シリンダー】JA44からカムチェーン周りが大型化

JA44からはカムチェーンのガイドローラーが大型化。これに伴いシリンダーやガスケットも形状変更されている。左はJA10(07も共通)・右はJA44。
【ヘッドカバー】デザインに違いあり!

JA07(左)とJA10(中央)ではデコンプの有無により形状が少し異なる。JA44(右)は形状こそ同じだが、上下にフィンが入るデザインになっている。流用可能だ。
【バルブスプリング】JA07前期のみシングルスプリング


吸排気バルブスプリングは、JA07の前期モデルのみ排気側バルブスプリングが1本だが、モデル途中から2本に変更(右)。JA10/JA44(左)は、吸排気共に同じバルブスプリングを採用している。
【シフトフォーク】JA10から耐摩耗性がさらにアップ

JA07(左)はシフトフォークの爪が摩耗しやすく、ギヤが入りにくい症状が出やすかった。JA10以降では対策されて強化タイプに(右)。同じ症状のあるJA07オーナーは流用で改善されるのだ。
※この記事は月刊モトチャンプ2024年12月号を基に加筆修正を行っています
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