連載

あのコンセプトカー、どうなった?

アウディを変えたTTコンセプト

1990年代以前のアウディは、もちろんWRCでのクワトロの活躍などもあって技術の優秀さには定評があったが、けして派手なブランドではなかった。

1990年代に入って、アウディA8が発売され、アウディ80がA4に、アウディ100がA6にモデル名が変更された。96年にはプレミアムコンパクトとしてA3が登場。アウディはイメージを変革しつつあった。

TTコンセプトのデザインスケッチ

そんななか1995年、フランクフルト・モーターショーで発表されたのが、今回のテーマ、AUDI TT Concept(アウディTTコンセプト)である。丸だけで構成したようなシンプルな造形、アルミ削り出しのようなインテリアで世界中を驚かせた。

The Audi TT Coupé show car, 1995. その登場は衝撃的だった。

当時のアウディのデザインダイレクターは、ペーター・シュライヤー。その指揮下でTTコンセプトのデザインを担当したのは、米国人デザイナーのフリーマン・トーマスである。

1995年12月にアウディはTTコンセプトの量産を決める。量産モデルのアウディTTクーペの生産が始まったのは98年だ。

Concept car of the Audi TT Coupé
初代アウディTTクーペ TTの名前は1907年初回開催の世界でもっとも古いモータースポーツイベントのひとつであり、アウディの前身NSUとDKWが大きな成功を収めた伝説的なモーターサイクルレース、マン島TTレースに由来する。TTとはTourist Trophyの頭文字だ。

コンセプトから重要な要素をほぼそのままで量産モデルをつくりあげる……量産モデルがほぼ決まっていてその逆算としてのコンセプト(つまりティザーとしてのコンセプト)なら驚くことはなにもないが、TTコンセプトの場合はそこには当てはまらない。誰もが、これは量産されないコンセプトだろう、量産になったとしても、驚くようなデザインにはならないだろうと思っていたところ、ほぼそのままでデビューしたので、多くの自動車ファンは驚いたのだ。

上がTTコンセプト、下が初代TT

TTコンセプトのボディサイズは
全長×全幅×全高:約4040mm×約1850mm×約1350mm ホイールベース:約2420mm

初代TTクーペ(1998年)は
全長×全幅×全高:4041mm×1764mm×1346mm ホイールベース:約2422mm

だ。全幅以外はほぼ同じだ。コンセプトの方がフェンダーが張り出し、トレッドが広く見える。また、量産モデルではリヤサイドウインドウが設定されている。

TTコンセプト
量産モデルの初代TT

この当時のVWグループのCセグメントはPQ34というプラットフォームを採用していた。アウディA3、VWゴルフⅣなどと同じプラットフォームを初代TTクーペはつかっていたわけだ。だから、コンセプトを制作する際にも、PQ34ベースという制限はあったはずだ。にもかかわらず、TTコンセプトはVWゴルフ、アウディA3の面影を完全に消していたことに驚かされた。TTコンテプと初代TTが成し遂げたのは、単に新しくかつカッコよかったということだけでなく、量産車の成約を感じさせないデザインを成立させたという革命だったのだ。

TTの革新性はデザインだけではなかった。アウディはレーザー溶接など当時の先進的な生産技術を投入し、コンセプトカーそのままの滑らかな曲面を量産車として成立させたのである。

つまりTTは「美しいデザイン」だっただけではない。そのデザインを実際に工場で作れることを証明したクルマだった。

リヤスポイラーが付いた初代TT

しかしTTは完璧ではなかった。

発売後、高速域での安定性が問題となり、アウディはリヤスポイラーの追加やESPの標準装備など大規模な改修を実施する。

TTは「コンセプトカーをそのまま量産した奇跡」と呼ばれた。しかしその一方で、デザインの理想と量産車としての現実が衝突したクルマでもあった。

Concept car of the Audi TT Coupé
初代アウディTT コンセプトとの変化点は、リヤクオーターウインドウとライト類の処理、サイドビューミラーの位置などだ。

アウディTTはなにを残したのか?

TT以降のアウディは、デザインをブランド価値の中心に据えるようになった。

バウハウスにヒントを得たTTのデザインの本質は「レス・イズ・モア(less is more)」。

TTは2代目(2006-2015年)で少し普通になり、3代目ではかなり普通にカッコいいコンパクトクーペとなった。その理由は、初代は「TTコンセプトのデザインを成立させること」が目的だった。しかし、2代目以降は「TTを正常進化させること」が目的となったから、だろう。空力や衝突安全、居住性、商品性などを織り込みながら成熟させていくとデザインは洗練されていくが、驚きは減じられていく。

初代TTの価値は、後継モデルによって証明された。

2代目も3代目も優れたスポーツクーペだった。しかしモデルチェンジを重ねるほどTTは“普通の良いクルマ”になっていった。逆に言えば、初代TTがいかに異端だったかということでもある。

量産化されたコンセプトカー。それが初代TTの本質だった。

TTは終わったのか?

3代目TT(TT RS)とTTコンセプト。アウディはTTコンセプトからの継続を常に意識してきた。

初代アウディTTは革新的だった。

2代目も成功した。

3代目(2015-2023年)も評価は高かった。でも、2023年に生産が終わり、後継モデルはない。ではTTは消えてしまったのか、といえばそうでもない。アウディの幹部は、2025年に公開されたコンパクトスポーツEVのデザインスタディ「アウディ・コンセプトC」について語るとき

2代目アウディTT

「TTは重要な遺産」「スポーツカーを諦めたわけではない」「アウディはEV時代の新しいアイコンを模索している」といったコメントを残している。

アウディの回答は1001psだった――ブランド初のスーパーカー「ヌヴォラーリ」発表 499台の限定生産 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

F1プロジェクトが生んだアウディ初のスーパーカー アウディは6月4日(現地)、フランス・ニースで同ブランド初となるスーパーカー、Nuvolari(ヌヴォラーリ)を発表した。発表されたのは量産車に近いプロトタイプである。こ […]

https://motor-fan.jp/article/1507646/

TTコンセプトはTTになった。
TTは生産終了した。
だがアウディはいまなお、TTの後継者を探している。

それは単なるスポーツカーではない。ブランドの未来を象徴する、次のアイコンを探しているのである。

Concept car of the Audi TT Coupé

連載 あのコンセプトカー、どうなった?

by MotorFan
カーデザイン 5時間前

なぜ初代アウディTTは特別だったのか? コンセプトカーそのままで量産された伝説のクーペ

by MotorFan
名鑑 2026.06.07

フォード021C(1999年)──四半世紀後にフェラーリ・ルーチェへつながったマーク・ニューソンの実験

by MotorFan
カーデザイン 2026.05.31

「21世紀に間に合う」前のプリウス──1995年プリウス・コンセプト