F1プロジェクトが生んだアウディ初のスーパーカー

アウディは6月4日(現地)、フランス・ニースで同ブランド初となるスーパーカー、Nuvolari(ヌヴォラーリ)を発表した。発表されたのは量産車に近いプロトタイプである。この新型スーパーカーはシステム最高出力1001psを発生する高性能ハイブリッドパワートレーンを車両ミッドに搭載。0-100km/h加速は2.6秒、0-200km/h加速は6.8秒、最高速度は350km/hを超える。納車は2027年前半から開始される予定で、499台の限定生産だ。

ヌヴォラーリの車名は数々の伝説を残したイタリア生まれのレーシングドライバー、タツィオ・ヌヴォラーリ(Tazio Nuvolari/1892-1953)に由来する。戦前の一時期アウディの前身であるアウトウニオンに所属してグランプリレースに出場し、勇猛果敢かつ献身的な走りでいくつかの勝利をもたらした人物だ。

アウディAGのゲルノート・デルナーCEOは、「根本的な変化を遂げる時代に、私たちは大胆な戦略的決定を下しました」とスピーチする。この先行きが不透明な時代に、よくもまあスーパーカーなど出したものだという、ヌヴォラーリを目にした人の胸の内に沸く疑念に対する回答である。

「アウディ・ヌヴォラーリはピュアなエモーションとパフォーマンスをもたらします。このクルマは、(アウディのブランドスローガンである)『技術による先進』を新しい時代へと導きます」

アウディは2026年シーズンからF1世界選手権に、パワーユニットとシャシーの双方を自社で開発しチーム運営を行なうワークスチームとして参戦している。そのF1プロジェクトがスタートした際、F1の要素を取り入れたスポーツカーが必要だとする声が社内で挙がったのだという。

「F1はアウディにとって非常に刺激的なプロジェクトです。ヌヴォラーリはF1のスピリットのもとで取り組む初めての量産車です。F1とアウディの間でポジティブな交流があり、それがブランドと仕事に取り組むスタンスを一歩一歩向上させています」

チーフクリエイティブオフィサー(CCO)を務めるマッシモ・フラチェッラは、「アウディの新しいデザイン哲学を余すことなく表現した初の市販モデル」と、ヌヴォラーリを評する。「引き締まったサーフェス、精緻なライン、そして力強く一体感のある存在感によって形作られています。すべてのデザインエレメントは明確な目的を持ち、モデル全体のロジックに貢献しています。インテリアはドライビング体験に重点を置き、洗練された空間を作り出しています」

エクステリアはアウディの新しいシグネチャーカラーである「チタニウム」が特徴。F1マシンのアウディR26のベースカラーもチタニウムである。2025年9月にイタリア・ミラノで発表された電動2シータースポーツカーの「コンセプトC」もチタニウムカラーを身にまとっていたが、ヌヴォラーリは実質的にその量産バージョンと理解していいだろう。

1001psを発生するV8ハイブリッドシステム

ヌヴォラーリがふたつのシートの背後に搭載するのは、4.0L V8ツインターボエンジン。最高回転数はなんと10,000rpmに達し、最高出力588kW(800hp)、最大トルク730Nmを発生する。さらに、フロントに2基のアキシャルフラックスモーター(円盤状のステーターとローターが向かい合わせになったパンケーキ型)を搭載。リヤはエンジンとトランスミッションの間に同じモーターを搭載し、クワトロ(四輪駆動)システムを構成。モーターの最高出力は3基とも110kWだ。総容量7.3kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、完全電動運転が可能。外部充電が可能なプラグイン機能を備えている。

ランボルギーニ時代にテメラリオの開発を主導し、2026年3月からアウディAGのCTOを務めるルーヴェン・モールは、「ヌヴォラーリの開発において私たち開発チームは、技術の専門知識、革新的な強み、そして献身的な姿勢を改めて示しました。このことは車両のパフォーマンスやF1にインスパイアされた技術だけでなく、イノベーションを迅速かつ正確に量産車に反映した点に表れています」と語っている。

ヌヴォラーリに投入された革新的な技術はいくつもある。次世代の四輪駆動技術であるquattro predictive ride(クワトロ・プレディクティブライド)がそのひとつ。操舵角、加速度、ヨーレートなどの情報からコーナーでグリップを失う可能性があると予測すると、ブレーキとモータートルクを統合的に制御し、車両姿勢を安定方向に導く。また、アクティブエアロダイナミクス(詳細は後述)がダウンフォースを自動調整する。

この技術で重要な役割を担うのがフロントアクスルに搭載する2基のモーターで、トルクベクタリングにより機敏なコーナリングと安定性を提供。また、濡れた路面や雪道などの滑りやすい状況でも、最大のトラクションとコントロール性を確保する。

ドライバーはステアリングに設置されたロータリーコントロールを使い、Eハイブリッドモード(EV走行)/バランスモード/ダイナミックモード/ダイナミックプラスモード/トラックモードに切り換えることができる。

車体骨格にはアルミ合金を主体とするASF(アウディ・スペース・フレーム)を採用。アウターパネルは軽量・高強度でF1マシンの主要骨格やエアロパーツにも使われるCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)で構成。「F1での専門知識を生かして開発した」とアウディは説明している。

アクティブエアロと新世代quattroがもたらす走り

空力は「アウディのF1ドライバーから的確なフィードバックを受けて開発」した。アウディ・レボリュートF1チームのドライバー、ガブリエル・ボルトレートは「ヌヴォラーリを(イタリア南部にあるテストコースの)ナルドで走らせ、開発チームとセットアップに取り組んだのは素晴らしい経験だった」と話す。「ターンインで車両の挙動を予測しやすいのがいい。アンダーステアは基本的になく、常にニュートラルで正確なので、自信を持ってコーナーに飛び込んでいける」

アクティブエアロダイナミクスシステムの中心的役割を果たすのは、アダプティブリヤウイングだ。クローズド、ローダウンフォース(LD)、ハイダウンフォース(HD)の3つのポジションがある。クローズドではリヤウイングを格納し、空気抵抗を最小限に抑えて走行。LDとHDでは、それぞれ異なるダウンフォースを発生させる。また、ダイナミック、ダイナミックプラス、トラックの各モードではリヤウイングは完全自動で作動。F1でおなじみのDRS(ドラッグ削減システム)は、ステアリングホイール上のボタン操作により手動で作動させることができる。

エネルギーマネジメントシステムもモータースポーツに着想を得ている。モーターをアシスト側にどう使うか、どう効率的に回生するかは走行状況やグリップレベル、ドライバーの意図に合わせてシステムが自動で判断する。最大0.3Gまでの減速は、モーターの回生のみでカバーする。

ブレーキシステムはブレーキペダルと摩擦ユニットとの機械的な接続を持たないバイ・ワイヤ。回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を自動制御する回生協調ブレーキを適用しており、これもモータースポーツ由来。フロントは対向10ピストンのキャリパーが420×40mmサイズのディスクを挟み、リヤは対向4ピストンに410×32mmサイズのディスクを組み合わせる。ブレーキディスクはF1由来のカーボン材を使用する。

インテリアは運転という行為に徹底的に焦点を当てて設計されている。すべての操作系は必要不可欠な機能に集中し、ドライバーの視界内に配置。デジタルディスプレイと物理的な操作系は一貫したロジックに基づいて設計され、自然な操作性を提供する考え。HMIのカラーアクセントはアウトウニオン・タイプC(1936年)のオマージュであり、スピードが支配していた1930年代を想起させる。

機能的な色使いはインテリア全体で採用されており、フロントセクションはダークな色調として集中力を保てるようデザインされ、リヤセクションは軽やかなトーンとしている。コントローラーや通気口、セントラルディスプレイのフレームは、アルマイト処理されたアルミ製だ。

なぜアウディはBEVではなくPHEVを選んだのか

多くのメーカーが完全電動化にシフトするなかで、アウディはブランド初のスーパーカーを世に送り出すにあたり、ハイブリッドを選択した。その理由をデルナーCEOは次のように説明する。

「アウディは長期的に見て、自動車業界は完全な電気自動車の方向に進むと考えています。しかし今後10年から15年は移行期間で、内燃機関車、ハイブリッド車、BEVが並行して存在すると考えています。私たちの考えでは、レーストラックでの走行に対応できるBEVを提供するには、まだ電動化の技術が充分に進んでいません。現時点ではプラグインハイブリッド車が性能と効率、CO2排出のバランスが取れた最適なシステムであり、妥協点だと考えています」

また、ヌヴォラーリを499台の限定生産にした点については、次のように説明する。

「何台生産するかについては、かなり議論しました。なぜなら、私たちは初めてスーパーカーのセグメントに参入するからです。顧客の手に渡ったクルマの残存価値が重要だと考え、あえて生産台数を少なめに設定することにしました。100台増やすだけでも大きな影響が出る可能性があります。そこで、保守的な判断をしました」

アウディの歴史上、最もパワフルで最速の市販モデルは、スピードが支配した1930年代の空気にインスパイアされてデザインされ、F1に触発された技術がふんだんに盛り込まれている。プレミアムブランドとしての地位を押し上げるのにふさわしいパフォーマンスと魅力を備えたモデルだ。