新型マイクラ(マーチ)はBEV

欧州で発表された日産の新型「マイクラ」は、歴代モデルの親しみやすいデザインを受け継ぎながら、パワートレーンをBEV(バッテリーEV)へ刷新した6代目モデルである。

日産 マイクラ

丸形LEDをアクセントにしたフロントマスクは、日本で長年親しまれたマーチを思わせる雰囲気を漂わせており、「このまま日本で新型マーチとして発売されるのではないか」と期待するファンも少なくないだろう。

日産 マイクラ

しかし現時点では、その可能性は決して高いとは言えない。英国向けの右ハンドル仕様が用意されるため技術的なハードルは低く見えるものの、日本市場へ導入するには解決すべき課題がいくつも存在するからである。

まず振り返っておきたいのが、マーチという車名が日本市場で果たしてきた役割だ。

1982年に誕生した初代マーチは、コンパクトなボディと手頃な価格で人気を集め、日本を代表するコンパクトカーへ成長した。しかし2010年に登場した4代目(K13型)ではタイ生産へ移行し、その後は軽自動車市場の拡大やノートシリーズの商品力向上もあって存在感は徐々に薄れていく。そして2022年、ついに国内販売を終了した。

では、欧州で生まれ変わったマイクラが、そのまま日本へ導入される可能性が低い理由とは何か。

最大の壁は価格

最大の壁となるのは価格である。

新型マイクラはルノー「5 E-Tech エレクトリック」と基本骨格を共有し、EV専用の「AmpR Small」プラットフォームを採用する。生産も日本やタイではなく、フランス・ドゥエ工場で行なわれる。

仮に日本へ導入する場合、欧州から完成車を輸入することになるため、輸送コストや為替変動の影響を受ける。さらに、日本仕様として法規対応やコネクテッド機能、国内向け充電規格への対応なども必要となり、販売価格は大きく上昇する可能性が高い。

そうなると、かつてマーチが持っていた「誰でも手が届くコンパクトカー」という価値とは大きくかけ離れてしまう。車名に対するユーザーのイメージと実際の価格帯とのギャップは、販売面でも大きな課題になるだろう。

ふたつ目の壁は、日本市場におけるポジショニングである。

新型マイクラには40kWhと52kWhの2種類のバッテリーが用意され、航続距離は最大408km(WLTP)とされる。全長4m未満のコンパクトなボディながら、日常使いからロングドライブまで対応できる実力を備えたEVだ。

しかし、日本の日産にはすでにサクラ、ノート・ノート オーラ(e-POWER)、アリア、そして新型リーフといった電動車が揃っている。

街乗り需要は軽EVのサクラが担い、コンパクトカー市場ではe-POWERを搭載するノートとオーラが高い支持を集める。さらにEVの中核モデルとしてリーフも控えており、新型マイクラが入り込める余地は決して大きくない。

もちろん、「小さくても航続距離に余裕のあるEV」を求めるユーザーは存在するだろう。しかし、そのためだけに日本専用仕様を開発し、販売・整備体制を構築できるだけの需要が見込めるかといえば、現時点では慎重に見極める必要がある。既存モデルとの競合を考えても、日本導入の優先順位は高くないと考えられる。

3つ目の壁は、日産が進める商品戦略との関係である。

同社は現在、車種ごとの個別開発ではなく、基本構造や主要コンポーネントを共有する開発体制を推進している。日本市場でも2028年度以降を見据えた次世代コンパクトカー群の投入を計画しており、新たな商品展開へ向けた準備が進められている。

こうした状況を踏まえると、欧州仕様のマイクラをそのまま日本へ持ち込むより、日本市場のニーズに合わせた新たなコンパクトカーを投入した方が、商品戦略としては合理的と言える。

つまり、日本で「マーチ」が復活するとしても、それは欧州仕様マイクラの輸入という形ではなく、日本市場を前提に開発された新世代コンパクトとして登場する可能性の方が高いのではないだろうか。

マーチという車名は、日本のコンパクトカー市場を代表する存在だった。それだけに復活を望む声は今も少なくない。

ただし、現時点でその期待を新型マイクラへ重ねるのは少し早計だ。価格や商品構成、そして日産の中長期戦略を総合的に見る限り、欧州仕様がそのまま「新型マーチ」として日本へ導入される可能性は高くない。

本当の意味でマーチが帰ってくるとすれば、それは日本のユーザーが求める価格や使い勝手を備えた、新しい時代のコンパクトカーとして生まれ変わった時なのかもしれない。