「とにかく勝って、新型パジェロ発売に花を持たせたかった」と増岡総監督

総走行距離2145.19km、競技区間921.80km。6日間にわたるアジアクロスカントリーラリーの激闘を戦い抜いた田口選手と保井選手、そして増岡 浩総監督は8月18日夜に日本に帰国後、羽田空港近辺の会場で記者会見を実施した。そこでまず、お祝いの言葉とともに出迎えたのが、五十嵐京矢 代表執行役副社長だ。

三菱は、今秋に待望の新型パジェロの投入を控えている。五十嵐副社長はラリーのスタートに立ち会って増岡総監督を激励した際、「このラリーはどうしても勝って、パジェロの発表・発売に花を持たせるんだ、勢いをつけるんだ」と増岡総監督から熱く言われたことを思い出すと、今でも胸が熱くなると振り返った。
「チーム三菱ラリーアートとしては昨年に続く2連覇となり、(2022年の参戦以来)5戦3勝、勝率6割となりました。そして日本人ペアによる総合優勝は、31回目を数えるアジアクロスカントリーラリーで初の快挙です。2連覇は非常に難しいことですし、他チームの戦闘力も昨年より上がっていましたから、かなり苦労をされたと思います。感謝とともに、心からおめでとうと申し上げます」
今年のアジアクロスカントリーラリーの参戦に際して、「とにかく勝つ」という強い信念を持って臨んだという増岡総監督は、「自分が選手だった時よりも嬉しく、興奮しています」と笑顔を見せた。

「日本人ペアで31回目の大会にして初めての優勝という結果になり、これほど嬉しいことはありません。私たちのチームは、昨年の覇者であるチャヤポン選手・ピーラポン選手と、田口選手・保井選手という2組のチャンピオンを抱える、誇らしい強いチームに仕上がったと思っています」
田口/保井組が駆ったトライトンはT1仕様(改造クロスカントリー車両)。2026年仕様では、前後重量バランスの適正化、サスペンションのファインチューニングによる接地性向上、ならびにエンジンの低中速レスポンス向上が図られた。パワーユニットは市販車ベースの4N16型2.4L直4ターボディーゼルで、最高出力160kW以上、最大トルク500Nm以上を発生。そして6速シーケンシャルトランスミッション+フルタイム4WDというドライブトレーンが組み合わされた。

「クルマについては、今年は大きな冒険はせず、昨年のクルマをさらにアップグレードしました。ほぼ前後50対50の重量配分まで持っていき、重さを中心に集める。それによって悪路での走破性と安定性を高め、ハンドリングも良くなる。エンジンはレスポンスを良くし、耐久性を上げました。どちらかというと手堅い進化で、今年は行けるかなという自信を持って本戦に臨みました」
タイヤ1本分のライン取りの差とサイドブレーキが勝因
ドライバーを務めた田口選手はAPRC(アジアパシフィックラリー選手権)の元王者であり、WRC(世界ラリー選手権)に参戦したこともある。そんな経験豊富な田口選手は、勝因を次のように語った。

「今回はすべてがうまくいったということなんですね。まず、増岡総監督も話されたように、クルマのベース性能が上がりました。サスペンションをチューニングし、我々スピードラリー出身のドライバーがより攻められる、意のままに操れるクルマになった。重量配分もそれに貢献しています。エンジンもピックアップを良くしてもらい、川渡りや低速コーナーでより速く走れるように改良していただきました。そこが一番大きかったのではないかと思います」
ただ、今回の優勝は決して余裕があったわけではないとも田口選手は語る。6日間にわたるラリーにおいて、田口/保井組が首位に立ったのは3日目の終了時点だったが、その際の2番手との差はわずか8秒だった。以降は順調なラリーに見えたが、実際は「決してペースを緩めたわけではなく、保井選手とともに限界ギリギリで走り抜きました」とゴール直後に語っていた。
「優勝して『余裕でしたね』と言われたりもしましたが、2分差(最終的な2位との差は2分25秒)ですから、1回パンクしたら終わり、1回ミスコースをしたら終わり。そういうものすごいプレッシャーの中で最後まで走り切りました。本当にこの優勝を嬉しく思っています。日本からの声援、チームのバックアップに感謝しています」

アジアクロスカントリーラリーでは多くのドライバーがパンクに悩まされるのだが、そうしたトラブルと無縁だったのも勝因のひとつだ。ただ、それは偶然の産物ではない。今年、田口選手はマシンがスライドする際に昨年よりもタイヤ1本分、外に出ないように走ったという。そのわずかなライン取りの差が、知らない道を走る際のパンクのリスク低減につながるというのだ。トップドライバーの繊細なドライビングテクニックと冷静な判断力には驚かされる。
田口選手の武器はサイドブレーキだ。アジアクロスカントリーラリーの参戦車両にはサイドブレーキが付いていないものが多いそうだが、スピードラリー出身であり、全日本ダートトライアル選手権を戦う田口選手は昔からサイドブレーキを使うドライビングが当たり前だった。そこでチームにお願いをして、トライトンにもサイドブレーキを付けてもらったという。タイトなコーナーで車両の向きを変えるために使うサイドブレーキは、今後のアジアクロスカントリーラリーでも主流になるかもしれない。
圧倒的なタイ人有利の環境で、日本人コ・ドラが初優勝できた理由
「昨年よりクルマが速くなり、性能が大きく上がりました。ただ、コ・ドライバーとしてはクルマが速くなればナビゲーションの速度もどんどん上げなければならず、落ち着かなくなってくるんです。ギャップで跳ねなくなるのもいいのですが、ラフなところでも速い速度で走れてしまうので、ナビゲーションはむしろ難しくなる。なので今年は本当に大変でした」と語ったのは、日本人のコ・ドライバーとしては初めて頂点に立った保井選手だ。参戦初年度の2023年は苦労の連続だったと振り返る。

「本当にジャングルから出てくることができなくて、今どこを走っているのか、現在地がどこなのかも分からず、どっちに行けばいいのかも分からなかった。ピーラポン選手(チームメイトでタイ人のコ・ドライバー)に聞くと『これは道なりだよ』と言われるのですが、僕らからするとどこが道なりなのか全然分からない。『路面の色を見れば分かるだろう』と言われても、こちらは全部同じ色にしか見えないんです」
アジアクロスカントリーラリーでは、そうした現地の土地勘がある人でないと分からないポイントが随所にある。それこそ、この30年間、日本人のコ・ドライバーが頂点に立てなかった大きな理由にほかならない。

ミスコースを連続して散々な初参戦となった2023年だが、保井選手はただでは転ばなかった。ラリーの数ヶ月後、田口選手とともに再びタイに渡り、チームメイトのチャヤポン選手・ピーラポン選手の協力を得ながら、ロードブック(コマ図)を手に同じ場所を訪れて「なぜミスコースしたのか」を確認したそうだ。その際、ピーラポン選手からトリップメーターを押すタイミングを教わったり、自分たちのGPSが高精度すぎて主催者の計測値とずれていたこともわかったという。そんな地道な努力の結果が、今回のリベンジにつながったというわけである。
「田口選手がラフなセクションやパンクリスクのあるところ、ジャングルなどミスコースしやすいセクションでは抑えて走ってくれて、ハイスピードのところで稼ぐ。そうしたメリハリのある走りをしてくれたことで、コンビネーションがうまく噛み合ったと思います」と振り返る保井選手。3日目でトップに立って以降はプレッシャーに押しつぶされそうだったそうで、「本当に勝ててよかった。今はほっとしています」と安堵の表情を見せた。

来年、チーム三菱ラリーアートは三連覇を目指すこととなる。それに向けた決意を述べた増岡総監督からは、「正式決定ではありません」という前置きとともに、驚きの言葉も飛び出した。
「これは会社に言わなければいけないのですが、僕の腹の中では来年は新型パジェロで、と考えています。新しいクルマを作るのはすごく楽しみですし、ポテンシャルもすごくあると思います。トライトンとは兄弟車のようなものですから、これまで得てきたノウハウをパジェロにも活かして戦闘力の高いクルマにできたら、来年は盛り上がるかなと思います」
正式な参戦発表はこれからだが、もし本当に来年、新型パジェロで田口選手/保井選手がアジアクロスカントリーラリーに挑戦することになったら話題性は抜群。増岡総監督の言葉が実現することを期待したい!

