McLaren Artura

圧倒的にカジュアルになった

東京のマクラーレン麻布を出発する2台。
東京のマクラーレン麻布を出発する2台。

東京から自走で九州を目指す──、8月下旬から9月にかけてマクラーレンが主催したグランドツーリングイベントで、私は第1レグを受け持った。東京のマクラーレン麻布を出発し、金沢で1泊。翌日、大阪・御堂筋のマクラーレン大阪でゴールという総走行距離約700kmあまりの区間だ。

スーパースポーツカーで長距離を走るのは嫌いではない。圧倒的なパフォーマンスと引き換えに、硬めの乗り心地や刺激的な排気音、低いノーズで気を使う取り回しなどに不便はあるが、非日常がむしろスーパースポーツの魅力である。そんな取り扱い注意物件による移動は、かつては小さくない覚悟を求められたが、現代におけるそれは圧倒的にカジュアルだ。

特に今回乗ったプラグインハイブリッド(PHEV)スーパースポーツカー「マクラーレン アルトゥーラ」の良好な燃費性能がもたらす航続距離や、ACCなどの運転支援システム、そして市街地における静粛性が、そういったストレスから解放してくれる。

ACCとEVモードで渋滞も怖くない

マクラーレン アルトゥーラ・スパイダー
マクラーレン アルトゥーラ・スパイダー

レグ1で用意されたのはクーペとスパイダーというボディ違いの2台のアルトゥーラだった。白いスパイダーはすでに約3000kmを走り込んだ個体で、一方のクーペはまだ1300kmとほぼ新車だった。ともによく整備されておりトラブルとは無縁であったが、今回好印象だったのは初日に乗ったスパイダーの方だった。各部がほどよく馴染み、乗り心地もインテリアの細部も安定した状態だった。スタート地点となるマクラーレン麻布のスタッフの手厚い見送りで走り出したツアー初日は、あいにくのゲリラ豪雨に何度か遭遇したものの、天候が回復した区間は11秒で作動完了するルーフを素早く開けて、夏の終わりを感じながらドライブできた。

高速道路の移動が快適なのはACCを備えているためだ。渋滞が怖くない。翌日乗ったクーペにはなぜか装備されていなかったのでACCのありがたみを痛感した。秀逸なスポーツシートは長時間座っていても疲労が少ない。スーパースポーツカーだからといって、ドライバーに我慢を強いないのが今どきだ。とはいえ荷室容量は決して多くない。フロントのトランクは撮影機材とカメラマンと私の2人分の手荷物でいっぱいなので、着替えなどの荷物は伴走したミニバンに積んでもらっている。

中部縦貫道の平湯料金所にて。
中部縦貫道の平湯料金所にて。

この5〜6年で一気に定着したと感じるPHEVスーパースポーツカーは、今や電動化スポーツカーの最適解であるとさえ思う。3.0リッターV6ツインターボにモーターを組み合わせるアルトゥーラの場合、パワートレインのモードで「エレクトリック」を選べばエンジンを始動させずに走行できる。EV走行可能距離は25kmと表示されている。無論それをフルに使い切るような渋滞を味わいたくはないが。ともあれ渋滞中はモーター駆動に切り替えて粛々と車列に並ぶ。単に電気駆動という点だけでなく、エンジンが生じるトルク変動を程よく減じてくれるのも大きな美点だ。

EVモードを選ぶとアクセルを踏み込んでもエンジンが始動せず徹頭徹尾モーターで駆動する。EVモードの最高速は130km/hなので基本的に本邦においては高速道路もすべてカバーするが、急な上り坂ではトルク不足で失速してしまうため、渋滞が解消したら素早くモードを切り替えた。

軽量で頑強なカーボンモノコック

夕暮れの白川郷にて。
夕暮れの白川郷にて。

中央自動車道で松本まで行き、そこから安曇を抜け、白川郷に寄り道して、本日の投宿地である金沢の宿を目指す。マクラーレンによる電動化の趣旨は、実のところ燃費の向上であるはずはなく、スポーツカーの魂とも言える高出力エンジンをアシストすることだ。今回も700PSという破壊的なシステム最高出力を美しい変速マナーで御する優れたパワートレインにうっとりしつつワインディングを駆け、無事に初日の目的地に到着できた。

初日の投宿地である金沢の金澤湯涌温泉 百楽荘に到着。
初日の投宿地である金沢の金澤湯涌温泉 百楽荘に到着。

道中期待していた松本から西のワインディング区間は交通量が多く、性能を発揮する場面は、金沢で通過を余儀なくされた狭く曲がりくねったラリーコースのような区間のみだった。しかしステアリングとシートから最高のスポーツカーの素養が明確に伝わってくる。日没近くの山間の薄暗いワインディングコースは、まさにアルトゥーラのタフネスを体験するのに最高のステージで、軽量で頑強なカーボンモノコックがもたらす剛性と、行く先を不安なく照らす高性能なヘッドライトは、高性能パワートレインと並んで昼夜問わず運転を楽しむためのスポーツカーの要件だと感じさせた。

スーパースポーツPHEVの醍醐味

早朝の金沢旧市街・三茶屋街にて。
早朝の金沢旧市街・三茶屋街にて。

だが、撮影を伴う我々の旅における電動化の本領は、市街地での撮影時に遺憾なく発揮された。クーペに乗り換えた2日目早朝6時、古い街並みの残る界隈で撮影中に地域在住と思しき散歩中の高齢女性から「あら、これEVなの?」と声を掛けられた。もしも高出力V6ツインターボエンジンサウンドを轟かせて撮影していたら、眉をひそめられるどころか苦情になったに違いない。まだ静けさの残る街並みにアルトゥーラを停めても、玉虫色の静かなクーペは好意を持って受け止められた。これが電動化の大きな価値だ。

ちなみに見る角度によって色が変わるこの特別色は「アマゾン・カラーストリーム」というMSOビスポークによるもので、意外とリーズナブル(それでも数百万円)だという。マクラーレンの新車を検討中の紳士淑女の読者はディーラーで相談していただきたい。

三方五湖レインボーラインを駆けるアルトゥーラ。
三方五湖レインボーラインを駆けるアルトゥーラ。

2日目のゴールとなる御堂筋のマクラーレン大阪を目指す途中、ちょっと寄り道して福井県の三方五湖レインボーラインでクローズドボディの走りを楽しむ。昨日とは打って変わって見晴らしのいいワインディングで、V6ツインターボ+モーターの性能を存分に引き出す。パワートレイン同様にハンドリングのモードも切り替えられるが、その時々の状況に合わせてクルマのキャラクターを変えられるのが嬉しい。パワートレインもハンドリングも「スポーツ」モードにすることで本来の走りを楽しめた。

バッテリーの電力量を一気に増やしたい場合は、パワートレインを「トラック」モードにするかハイブリッドの充電モードで「MAX」を選択すればみるみるうちに7.4kWhのリチウムイオンバッテリーを満たしてくれる。バッテリーの電力を“どこ”で“どう”使うかはドライバー自身が考える。今回の旅でも、そんな戦略性がドライブの楽しさにつながった。その一連のエネルギーの流れが自然と丁寧な運転につながったことが面白い。

速さだけではない魅力

メタセコイア並木を走る。
メタセコイア並木を走る。

琵琶湖西のメタセコイア並木での撮影を終えると、レグ1のゴールとなるマクラーレン大阪までは120kmほど。無事にこの旅のフィナーレを迎えられた。リレーのバトンを最初の行程で落とすわけにはいかない。なお、今回のツーリングにおける燃費は、一時11km/Lを超える数値を記録する場面もあったが、ワインディング走行や撮影場所を探してうろうろしたこともあって、最終的には約9km/Lに落ち着いた。寄り道をしているうちに結局800km近い距離となったが、初日、休憩がてら1度給油しただけで十分に走り切れた。700PSのスーパースポーツカーで9〜10km/Lという数字を現実的に狙えることに改めて驚いた。

御堂筋のマクラーレン大阪に到着。
御堂筋のマクラーレン大阪に到着。

東京から金沢、そして大阪。都市から都市へ移動するだけなら、高性能なグランドツアラーはいくらでもある。しかしアルトゥーラは、スーパースポーツカーでありながら、目的地へ向かう過程そのものを楽しませる魅力があった。魅力は速さだけではない。その場の空気を壊さず、必要なときには一気に非日常へ連れていってくれる。アルトゥーラは、ハレとケを自然につないでくれるそんな才能に溢れたクルマである。

最後に、本記事の後日譚となるレグ2以降は9月26日発売の『GENROQ』(2026年11月号)に掲載される予定だ。もしもご興味あれば、そちらもぜひご覧いただきたい。

PHOTO/高柳健(Ken TAKAYANAGI)

SPECIFICATIONS

マクラーレン アルトゥーラ

ボディサイズ:全長4539 全幅1913 全高1193mm
ホイールベース:2640mm
乾燥重量:1498kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2993cc
エンジン最高出力:445kW(605PS)
エンジン最大トルク:585Nm
モーター最高出力:70kW(95PS)
モーター最大トルク:225Nm
システム最高出力:515kW(700PS)
システム最大トルク:720Nm
バッテリー容量:7.4kWh
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/35R19 後295/35R20
最高速度:330km/h
0→100km/h加速:3.0秒
車両本体価格:3310万円

マクラーレン オートモーティブがモントレー カー ウィークで発表したコンセプトカー「McLaren McL 6GT」。

マクラーレンが新型スポーツカー「McL 6GT」を発表「マクラーレンF1以来のMTを採用」

マクラーレン オートモーティブは、モントレー カー ウィークで新たなコンセプトカー「McLaren McL 6GT」を発表した。創業者ブルース・マクラーレンが構想しながら実現に至らなかった「M6GT」を現代的に再解釈したモデルで、V8エンジンにマニュアルトランスミッション(MT)を組み合わせて後輪を駆動する。マクラーレンがMTを採用するのは、1992年の「F1」以来。