「技術的に我々は負けてない」佐藤会長が語った日本の現在地

第一部に登壇した(左から)日本自動車工業会 総合政策委員長:松山洋司氏、次世代モビリティ委員会 委員長:山本圭司氏(トヨタ)、安全技術・政策委員会 委員長:赤石永一氏(日産)、安全技術・政策委員会副委員長:皿田明弘氏(トヨタ)

今回の会見は二部構成だった。
第一部では、自工会が掲げる「新7つの課題」のうち、「自動運転を前提とした交通システムの確立」について説明が行なわれた。

登壇したのは、自工会総合政策委員長の松山洋司氏、安全技術・政策委員会委員長の赤石永一氏(日産)、次世代モビリティ委員会委員長の山本圭司氏(トヨタ)、安全技術・政策委員会副委員長の皿田明弘氏(トヨタ)だ。

その後の正副会長会見でもにも質問は自動運転に集中した。

なかでも興味深かったのが、「日本の自動運転は海外に比べて周回遅れとも言われる」という質問に対する佐藤会長の回答だった。

「実はこれ、決して遅れているとは思っていないんですね。いろんなお声をいただくのは十分理解しているんですが、技術的に我々は負けてないと思っています。ただ、その技術を社会実装していくというところに対して課題感がある」

つまり、自工会が認識している問題は、単純な「技術力の不足」ではない。持っている技術を、いかに早く実際の社会へ投入するか。その社会実装力こそ、日本の自動運転が抱えている課題だという認識である。

佐藤会長は「手段を目的化しないようにしたい」とも語った。

自動運転レベルの数字を上げることや、ロボタクシーを何台走らせるかだけを目的にするのではなく、最終的にどんな交通社会を作るのか。その目標から逆算して必要な技術を投入していく、という考え方だ。

目標は「事故死ゼロ」と「移動の自由」

第二部に登壇した自工会の正副会長。

では、自工会が目指す社会とは何か。
今回、最上位目標として明確に掲げられたのが、
「事故死ゼロ」そして、「移動の自由」のふたつである。

究極的には交通事故そのものをゼロにすることを目指すが、まず交通事故による死亡者をゼロに近づける。

もうひとつが移動の自由だ。
日本では高齢化が進み、とくに地方では公共交通の縮小も進んでいる。高齢になって運転をやめたら移動できなくなる、あるいはそもそも自分で運転する手段を持たない人が自由に移動できない。自動運転を、その問題を解決するための手段として位置づける。

つまり自工会が描く自動運転は、単に「ドライバーが運転しなくていいクルマ」ではない。安全と移動の自由を両立させるための交通システムそのものなのである。

クルマは競争、社会は協調する

自工会会長の佐藤恒治氏。「我々はやはり手段を目的化しないようにぜひしていきたい。最終的に目指すべき社会がどういう社会なのかということを視野に入れながら、技術の進化をどんどん取り込んでいく」

そのために自工会が今回、明確にしたのが「競争領域」と「協調領域」の切り分けだ。

AIを活用してクルマそのものの自律性能を高める技術は「競争領域」とする。ここはトヨタ、日産、ホンダなど、それぞれのOEMが自らの技術を磨き、競争していく。

一方で、自工会として協調して取り組む領域を三つ設定した。
ひとつ目が「インフラ協調」。
ふたつ目が「社会信頼基盤」。
3つ目が「市場浸透施策」である。

ここが今回の発表の肝だろう。言い換えれば、

「自動運転車をどう作るか」は競争する
しかし、
「その自動運転車が走る社会をどう作るか」は協調する。
という考え方だ。

クルマだけで自動運転を成立させない

最初の協調領域である「インフラ協調」では、道路インフラ、通信ネットワーク、公共情報などをつなぐ「情報管制プラットフォーム」の構築を目指す。

たとえば交差点に設置したカメラやセンサーによって、クルマからは見えない場所にいる歩行者、自転車、二輪車などを検知する。それをクルマ側へ伝えれば、車載センサーだけでは把握できないリスクに対処できる。

工事や渋滞、交通規制などの公共情報も利用できる。レベル4の自動運転では遠隔監視・支援も必要になる。それぞれをバラバラに構築するのではなく、情報を統合する共通基盤を作ろうというわけだ。

これは「高性能な自動運転車を作れば、それだけで問題は解決する」という考え方とは少し違う。

設楽元文副会長(ヤマハ発動機)「技術面のハードルは、二輪の特性上は自立しないから、4輪よりも高いレベルでの自動運転が必要になる」

日本の道路には、クルマだけでなく、歩行者、自転車、二輪車、小型モビリティなどが混在する。狭い道路も多い。

佐藤会長は、日本の交通環境について「他国と比べて特殊性が高い」と説明した。その一方で日本には、信号、高速道路、ITS、ETCなど、クルマと交通インフラを組み合わせながら安全性と利便性を高めてきた歴史がある。

その延長線上に自動運転を置こうという考え方である。

事故が起きた「あと」まで共通の仕組みにする

山口真宏副会長(いすゞ)「自動運転について、商用の場合は人が乗っていないことを目標にしなきゃいけないっていう意味で言うと、L4では商用車がしっかりリードしていかなきゃいけないところもある」

ふたつ目の「社会信頼基盤」も興味深い。自動運転車は、型式認証を取得して市場に出せば終わりではない。

実際の交通社会へ投入すれば、事故やインシデントが起こる可能性がある。

その際に何が起きたのかを検証する。被害者への対応を行なう。事故調査を行ない、その結果を安全性の改善へ反映する。そして社会へ説明する。

こうしたサイクルを官民のガバナンスによって継続的に回す仕組みを作るという。

自動運転の社会実装では、「事故が起きたとき誰が責任を負うのか」という議論に目が向きがちだ。今回、自工会が示したのは、それより広い考え方である。

事故やインシデントを社会全体で検証し、そこから学んで、次の安全性向上へつなげる。

自動運転を「完成した製品」として市場に送り出すのではなく、社会実装後も学習し続けるシステムとして扱おうとしている。

自動運転は普及しなければ意味がない

3つ目が「市場浸透施策」だ。ここでは安全性能の高いクルマの共通認定制度、購入支援、税や保険との連動なども検討する。さらにその先には、自分で運転できなくなった人に対するモビリティサービスがある。

安全なクルマで「運転を続けられる」。
社会的な支援によって「安全なクルマへ乗り換えられる」。
そして運転をやめても「移動を続けられる」。

この三段階を切れ目なくつなぐことが、自工会の考える「移動の自由」なのだ。

自動運転を一部の高級車や先進技術のショーケースにとどめず、社会に広く普及させなければ、事故死ゼロにも移動の自由にもつながらない。

そのためには自動車業界だけでは解決できない。

道路、通信、自治体、保険、税制など、所管する官庁も複数にまたがる。そこで自工会は、省庁横断の官民会議の設置を求め、自らもそこに参加して推進していく考えを示した。

日本の武器は「協調」なのか

イヴァン・エスピノーサ副会長(日産)「いろいろな取り組みを協調して行うことができることが日本の強み」と語った。

この考え方について、日産自動車CEOでもあるイヴァン・エスピノーサ副会長は、日本の自動車産業の強みとして「協調」を挙げた。

加盟企業が「事故死ゼロ」と「移動の自由」という共通のビジョンを持ち、インフラ整備、車車間通信、車とインフラの通信などを共同で進められる。それ自体が日本OEMの競争優位になり得る、という考え方だ。

商用車側から山口真宏副会長も、自動運転、とりわけレベル4では商用車が先行する可能性に言及した。

人手不足が深刻になる物流や地域交通では、「人が運転しない」ことの価値が乗用車以上に大きい。

だからこそ、車両技術だけではなく、法整備や社会受容性、インフラを含めて社会実装を急ぐ必要がある。

トヨタと日産とホンダ、本当に一緒にできるのか?

もっとも、ここで疑問が生じる。トヨタ、日産、ホンダでは、自動運転に対する技術的なアプローチも違えば、通信方式やシステムに対する考え方も違う。

「競争領域」と「協調領域」を本当にきれいに分けられるのか。

会見の最後には、まさにこの点を問う質問が出た。

自工会副会長の三部敏宏氏(ホンダ)「まずは日本としてのその考え方をまとめ、それを標準化にも持ち込んで、できればその日本で作ったものを世界の標準にしたい」

これに答えたのが三部敏宏副会長だった。

AIを含め、クルマが自律走行する部分は競争領域。一方、インフラ協調、社会基盤、技術を社会へ浸透させる部分は協調できる領域だと説明した。

もちろん、実際に詳細へ踏み込めば通信に使う周波数ひとつを取っても各社の考え方は違う。それでも三部副会長は、まず日本として考え方をまとめ、それを国際標準化の場へ持ち込む必要があるとの考えを示した。

そして、自動運転について「最終的には社会のインフラのひとつになる」と語った。ここに今回の会見の意味が凝縮されているように思う。

「日本版Waymo」を作るのではない

米国や中国で自動運転車が次々と公道を走り始めているのを見ると、「日本は遅れている」という議論になりやすい。

もちろん、社会実装のスピードは重要だ。自工会自身も、その点に課題があることを認めている。

だから今回、「スピードを上げる」ことを明確に打ち出した。ただし、自工会が描いている日本の自動運転は、必ずしも「日本版Waymo」を一社で作ることではなさそうだ。

クルマそのものの自律性能は各メーカーが競争して高める。

一方で、クルマから見えないものをインフラが見る。クルマと道路、通信、公共情報をつなぐ。事故が起きれば社会全体で検証して改善する。そして安全な自動運転を社会へ広げる。

つまり、競争するクルマと、協調する社会。これが今回、自工会が示した「日本型自動運転」の基本構図と言えそうだ。

日本の自動運転は本当に遅れているのか。その答えが出るのは、各社がどれだけ高度なAIを開発できるかだけではない。今回描いた「協調する社会」を、どれだけ速く現実の道路の上に作れるか。

自工会が「技術では負けていない」と言うのであれば、これから問われるのは、まさにその社会実装力である。

自工会「新7つの課題」の本質とは?佐藤会長が示した“個社競争の限界”と協調領域拡大の危機感 | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

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