アウディ初のハイブリッドスーパースポーツ

アウディAGで最高経営責任者(CEO)を務めるゲルノート・デルナー(Gernot Döllner)氏にいくつか質問をぶつけてみた。アウディ史上初のスーパーカー、ヌヴォラーリ(Nuvolari)の中で。舞台はサンフランシスコの約200km南に位置するカーメル(Carmel)の自然保護区域に指定された丘陵地帯である。あたりにはランチハウス(牧場風の家)が点在。ときおり、ピックアップトラックやプレミアムランドのSUVとすれ違う。
デルナー氏は2023年9月1日にCEOに就任。1993年にフォルクスワーゲン(VW)でキャリアをスタートさせると、1998年にポルシェの開発拠点に移籍。918スパイダーの開発プロジェクトマネージャーを務めた後パナメーラシリーズの開発統括責任者を務めると、2021年にVWグループ全体の製品・グループ戦略を統括する立場に就いた。


405日という異例のスピードで開発することになったヌヴォラーリの開発において、戦略的な意思決定を行ない、F1プロジェクトとの緊密な連携を指示したのは、アウディ・モータースポーツAGの会長を兼任するデルナーCEOである。
前日に5組のメディアを助手席に乗せたデルナーCEOはヌヴォラーリをゆっくり走らせ始めると、期待にふくらむこちらの気持ちを沈めるようにこう言った。

デルナーCEO:このあたりは人が住んでいるから、ゆっくり運転しなければなりません。彼らはあまりスピードを出してほしくないと思っているから。それに、まわりにたくさん動物(鹿や七面鳥)がいますし。
転がす程度の車速だが、ヌヴォラーリは助手席に身を置く者をも充分に高揚させる。シートの背後で精密に動く4.0L V8ツインターボエンジンが発する機械的なノイズと野太いエキゾースト音が入り混じり、かなりのボリュームで、コンパクトな車内に伝わってくるからだ。「遠慮なく質問してください」とデルナーCEO。
──では最初の質問です。ヌヴォラーリはアウディにとってどのような存在ですか?
デルナーCEO:(ヌヴォラーリは)当社初のハイブリッドスーパースポーツカーです。そしてそれは、多くのことの最初の証明になります。まず、新しいデザイン言語の証明。次に、(アウディのブランドスローガンである)「技術による先進」を取り戻すこと。さらに、(四輪駆動システムの)クワトロによるトルクベクタリングをこのクルマで初めて採用したことです。一番重要なのは、このクルマをもってアウディのリニューアルが始まるということです。

──ヌヴォラーリのエクステリアやインテリアにあなたの考え、アイデアは反映されていますか?
デルナーCEO:デザインはマッシモ・フラスチェッラ(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)と彼のチームが手がけました。ヌヴォラーリは私たちの新しいデザイン言語を反映した最初のクルマで、「ラジカル・ネクスト」と呼んでいます。このクルマの登場により、(その後に登場する)すべてのクルマは影響を受け、よりシンプルなデザインになるでしょう。
──ヌヴォラーリで一番のお気に入りポイントはどこですか?
デルナーCEO:間違いなく外観デザインです。それから、クルマ全体のコンセプト。
──ヌヴォラーリを運転した印象を教えてください。
デルナーCEO:運転しやすいですね。シャシーはしっかりしているが、硬くはない。今はゆっくり運転していますが、高速域ではトルク配分やサスペンションのセットアップにより、あらゆる状況において理想的になります。
──サーキット走行も視野に入れているのですか?
デルナーCEO:もちろん。350km/h出せますよ。
アウディF1と量産車の関係は?

──他のブランドのスーパーカーと比べてどこに違いがあるとお考えですか?
デルナーCEO:いいポイントですね。まず、私たちがこれまで作ってきたクルマのなかで最もパワフルなアウディだということ。性能面では他のスーパーカーと同等レベルです。ただ私が言いたいのは、外観デザイン。そして、熱管理をうまくできたこと。そして空力です。(ボディ表面から)大きなギャップを排除し、モノリシックなボディにしています。リヤスポイラーは固定ではなく、可動します。これはスポーツカーの分野ではとくに目立つでしょう。本当に、普段づかいできるスーパースポーツカーです。
──ヌヴォラーリに続くスポーツカーの展開について教えてください。
デルナーCEO:ヌヴォラーリは私たちが初めて導入するハイブリッド技術搭載のスーパースポーツカーです。来年(2027年)も何かサプライズがあるかもしれません。将来のクルマは新しいデザイン言語に従います。2028年以降、たくさんの量産車が控えています。新しいデザイン言語を携えてステップ・バイ・ステップで進めていきます。
──アウディにとって日本市場はどれくらい重要ですか?
デルナーCEO:とても重要なマーケットで、大きなポテンシャルがあると思っています。私たちは改善の道をたどっていると思っています。日本には素晴らしいクルマ文化があります。多くのアウディのエンスージアストがいることをうれしく思います。ヌヴォラーリから始まる私たちのデザイン言語が市場で高く評価されることを期待しています。


──日本ではヌヴォラーリの潜在的な顧客から多くの注目を集めているとアウディ・ジャパンから聞きました。
デルナーCEO:それはアウディにとっていいニュースですね。本当にいいニュース。知りませんでした。ありがとう。
──アウディは2026年からF1世界選手権に参戦しています。量産車とF1の間にどのような結びつきがありますか?
デルナーCEO:私たちはF1に行く際、自分たちにこう問いかけました。どんなスポーツカーが必要なんだろうと。その質問への回答がヌヴォラーリです。F1はアウディのチーム全員に刺激を与えました。
──アウディにとってF1参戦はどれくらい重要ですか?
デルナーCEO:F1参戦はアウディブランドにとって大きな一歩です。私たちアウディは参戦したすべてのレースシリーズで最終的に勝利を収めてきました。F1プロジェクトがアウディの組織内部にどれほど強い刺激を与えているか。F1は世界最大のモータースポーツプラットフォームです。アウディのブランド認知度を高め、アウディを再び真のグローバルブランドにするのに役立つことでしょう。
──質問はこれで終わりです。しばらく助手席でのドライブを楽しませてください。
デルナーCEO:エレクトリックモードにしました。このモードで150km/hまで出せます。つまり、ほぼ無音で走ることができる。そして、野獣にもなる。


──(最高回転数の)10000rpmは試しましたか?
デルナーCEO:もちろん。パーフェクトでした。
「今は近隣に迷惑を掛けたくないので……」と語ったデルナーCEOだったが、やおらパドルを操作すると1速にシフトダウン。一瞬だけフル加速を披露してくれた。のけぞる筆者。車内を満たす高周波のエンジンサウンド。満面の笑みを浮かべるふたり。
──鳥肌が立ちました。
デルナーCEO:後で試してください。でも、気をつけてくださいね。


終始ご機嫌な様子だったのは、自分がゴーサインを出したアウディ初のスーパーカーを自らの手で操っているからだろうか。新しいデザイン言語も含めて評判は上々で、これから出てくる量産モデルに対しても自信を深めているに違いない。デルナー氏がCEOに就任したから、ヌヴォラーリがこの世に生を受けることになった。感謝しかない。
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