
再びノイエ・クラッセ(BMW Vision Neue Klasse)を取り上げる。
2023年9月、BMWが発表した「BMW Vision Neue Klasse」は、これからのBMWがどうなるのかを示す重要なコンセプトカーだった。Neue Klasseとはドイツ語で「新しいクラス」という意味である。
BMWに詳しい人なら、この名前に聞き覚えがあるだろう。Neue Klasseという名称は今回初めて使われたものではない。

1960年代、経営危機から立ち直ろうとしていたBMWが世に送り出した新世代のスポーティセダン。それが初代Neue Klasseだった。
その後、Neue Klasseのメカニズムをベースに、よりコンパクトでスポーティな2ドアモデル「1600-2」が1966年に登場する。これがのちの02シリーズへ発展。そして1975年、その正式な後継として初代BMW 3シリーズ(E21)が登場した。BMW自身も02シリーズを3シリーズの源流として位置づけている。
つまり、
Neue Klasse→02シリーズ→3シリーズ
という系譜なのである。
その「Neue Klasse」という名前を、BMWは約60年の時を経て再び持ち出した。しかも2023年のVision Neue Klasseは、どう見ても次世代のBMW 3シリーズを思わせる4ドアセダンだった。
そして2026年、ついにその量産版と言えるBMW i3が登場した。ここまでは以前、この連載でも紹介した。
ところが話はそれで終わらなかった。
BMWは同じ2026年、エンジンを搭載する新型3シリーズも発表したのである。
しかも、その姿はi3によく似ている。Vision Neue Klasseから生まれた3シリーズは、ひとつではなかったのだ。ちなみに開発コードはi3がNA0、新型3シリーズがG50である。
Vision Neue Klasseはまず「i3」になった

2026年に登場した新しいBMW i3は、かつてカーボン製ボディを持つコンパクトBEVとして販売されたi3とはまったく違う。
Neue Klasseをベースとする完全電動の3シリーズである。BMW自身も「Neue Klasseをベースとする最初の完全電動BMW 3シリーズ」と位置づけている。

2023年のVision Neue Klasseと新型i3を並べてみれば、その関係は明らかだ。
長いホイールベースと短いオーバーハング。後方へ引いたキャビン。大径タイヤを四隅に配置したプロポーション。
フロントでは、BMWの象徴であるキドニーグリルとツインヘッドライトを別々に主張させるのではなく、横方向へ伸びるひとつのグラフィックとしてまとめた。リヤも同様で、左右へ伸びる薄いランプによってワイド感を強調している。
Vision Neue Klasseで描かれた「次のBMW」は、かなり忠実にi3へ受け継がれた。

ところが、もう一台ある。
エンジンを積む3シリーズも「Neue Klasse顔」になった

新型3シリーズにはBEVのi3だけでなく、ICE(内燃エンジン)を搭載するモデルも用意される。318、320、そして直列6気筒エンジンを搭載するM350 xDriveだ。さらにPHEVも追加される予定である。
写真を見てみよう。


正面から見るとi3とICE版3シリーズはよく似ている。BMW自身も、新型3シリーズではキドニーとツインヘッドライトというふたつの伝統的なデザインアイコンを、ひとつの視覚的ユニットとして融合したと説明している。

後ろから見ても同様だ。
Vision Neue Klasseが提示した水平基調の薄いテールランプの考え方は、i3にもICE版3シリーズにも受け継がれている。
もちろん細部は違う。M350 xDriveには4本のエキゾーストがあり、フロントまわりもM Performanceモデルらしくアグレッシブだ。
しかし基本となるデザインランゲージは共通している。
BMWも、BEVとICEの姉妹モデルは駆動方式に由来するディテールを除けば共通したエクステリアデザインを持つ、と説明している。
では、i3とICE版3シリーズは、同じボディにモーターとエンジンを載せ分けたクルマなのだろうか?
違う。
ここからが面白い。
真横から見ると、i3と3シリーズはかなり違う

Vision Neue Klasse、新型i3、そしてICE版3シリーズ。3台を真横から並べると、違いがよくわかる。
Vision Neue Klasseとi3はかなり近い。一方、ICE版3シリーズは少し違う。スペックを比較してみよう。
BMW i3
全長×全幅×全高:4760mm×1865mm×1480mm
ホイールベース:2897mm
BMW 3シリーズ(ICE)
全長×全幅×全高:4765mm×1850mm×1455mm
ホイールベース:2860mm

全長はほぼ同じである。むしろICE版の方が5mm長い。
ところがホイールベースはi3の方が37mm長い。さらにi3は15mm幅広く、25mm背が高い。
全長からホイールベースを単純に引いてみると、
i3:4760-2897=1863mm
ICE:4765-2860=1905mm
となる。
つまり前後オーバーハングの合計は、ICE版の方が42mm長い。
もちろん、この数字だけで前後それぞれのオーバーハング寸法がわかるわけではない。しかし、ほぼ同じ全長なのにホイールベースが37mm違うという事実は、2台のパッケージが同じではないことを示している。

写真でもICE版は、フロントアクスルからAピラーまでの距離が長く見え、ボンネットの存在感も強い。フロントにエンジンを縦置きするBMW伝統のスポーツセダンらしいプロポーションである。
一方、i3はVision Neue Klasseが提示した長いホイールベースと短いオーバーハングというBEVらしいプロポーションを、より素直に受け継いでいる。
i3はなぜ25mm背が高い?

もうひとつ興味深いのが全高だ。
i3は1480mm。
ICE版3シリーズは1455mm。
BEVであるi3の方が25mm高い。
i3は床下に大容量の高電圧バッテリーを搭載する。i3 50 xDriveの場合、その容量は108.7kWhである。Technical Dataでも高電圧バッテリーの搭載位置は「Underbody」と明記されている。
床下に大きなバッテリーを搭載すれば、室内空間、とりわけ乗員の着座位置やヘッドルームとの両立が必要になる。i3の全高がICE版より25mm高いことには、こうしたBEV特有のパッケージングも影響していると考えられる。
逆にICE版は低くできる。しかしフロントにはエンジンを収めなければならない。同じ3シリーズでも、それぞれに別の制約があるのだ。
Vision Neue Klasseは理想形。i3はそれをBEVとして量産化した回答。そしてICE版3シリーズは、エンジン車としての回答。
そう考えると3台の違いがよくわかる。
中身を見ても、2台は同じではない

違うのはボディ寸法だけではない。
ICE版のBMW 320は、フロントにアルミ/スチール軽量構造のダブルウィッシュボーン、リヤに5リンクサスペンションを採用する。
一方、i3 50 xDriveはフロントがTwo-joint spring strut axle、リヤが5リンクである。
重量も大きく違う。
108.7kWhのバッテリーを搭載するi3 50 xDriveはDINで2205kg。一方、2.0L直列4気筒ガソリン+48Vマイルドハイブリッドの320は1680kg。その差は525kgにもなる。
生産工場まで違う。
i3はミュンヘン工場、ICE版3シリーズはディンゴルフィング工場で生産される。
見た目は兄弟。しかし、中身はかなり違うのである。
ICE版3シリーズは「EV失速で急遽作られた」のか?

ここでひとつ疑問が湧く。
Neue KlasseはもともとBEVのために開発されたものだった。
では、BMWは当初3シリーズをBEV一本にするつもりで、欧州でBEVの普及速度が鈍ったため、あとからICE版3シリーズを追加したのだろうか?
そう考えると話はわかりやすい。しかし、どうやら実際は違う。

BMWは2023年の段階で、Neue Klasseの新しい車両アーキテクチャーをBEV専用として開発していた。Vision Neue Klasseも第6世代BMW eDriveを前提とした完全電動車として発表された。BMWはその際、このコンセプトを単なる一台の予告ではなく、BMWブランドの「次世代の車両」がどうなるかを示すものと説明している。
しかし、それは「BMW 3シリーズをBEVだけにする」という意味ではなかった。

BMWは内燃エンジンを含めた複数の駆動方式を並行して展開する、いわゆる「Technology Openness」の戦略を維持してきた。
現在登場したi3とICE版3シリーズを見ても、その考え方は明確だ。
Neue KlasseのBEVアーキテクチャーを使うi3と、別のパッケージを持つICE版3シリーズを並行して用意しながら、デザインやユーザーインターフェースでは共通のNeue Klasse思想を与えている。したがって、ICE版3シリーズを「BEV販売の減速を受けて急遽追加されたモデル」と見るのは適切ではない。
むしろBMWは、BEV専用のNeue Klasseを開発しながら、ICEも同時に残す道を最初から選んでいた。その戦略が結果として、世界各地域で異なる電動化のスピードにも対応できるものになった、と見るべきだろう。
ステアリングまでVision Neue Klasseから量産化された
ではインテリアはどうだろう。


ここでもVision Neue Klasseとi3の関係は面白い。
BMWが公開したVision Neue Klasseのステアリングホイールのデザインスケッチを見ると、一般的な3本スポークとはまったく違う。

上下が大きく開いたリムの中央を、12時から6時方向へ一本の構造が貫くような、非常に特徴的なデザインである。コンセプトカーだからできるデザインにも見える。ところがi3のインテリアを見ると、これが驚くほど忠実に量産化されている。
もちろんエアバッグやスイッチ類など、量産車として必要な機能は加えられている。それでも基本的な造形はVision Neue Klasseのスケッチと明らかに共通している。

一方、今回写真で比較したM350 xDriveのステアリングは違う。
こちらには、よりオーソドックスなスポーツステアリングが装着されている。
ただし、これは「BEVだからNeue Klasse型、ICEだから従来型」という意味ではない。
BMWは新型3シリーズにもNeue Klasse世代の新しいステアリングホイールを設定し、その一方でMステアリングホイールやBMW Individualステアリングホイールも用意している。今回のM350 xDriveの写真はMステアリングを装着した仕様なのである。
それでもインパネ全体を見れば、Neue Klasseの思想は明確だ。従来のメーターパネルに代わって、フロントウインドウ下端に情報を横長に表示するBMW Panoramic Vision。
ドライバー側へ向けられた大型センターディスプレイ。そして物理スイッチを減らしたシンプルなインストルメントパネル。新型3シリーズでは17.9インチのセンターディスプレイが採用される。
Vision Neue Klasseが予告していたのは、クルマの外形だけではなかった。これからのBMWをどう見せ、どう操作し、どう運転するのか。ユーザーインターフェースまで含めた「次のBMW」だったのである。
では、Neue Klasseとは結局なんだったのか?
ここで2023年に時計を戻してみよう。
BMWが公開したVision Neue Klasseの初期デザインスケッチを見る。

低いノーズ、長いホイールベース、短いオーバーハング、大きなホイール、そして後方へ置かれたキャビン。
完成したVision Neue Klasseの基本的なプロポーションは、すでにこの一枚の絵の中にある。
だが、BMWがNeue Klasseと呼んでいたものは、この「カタチ」だけではなかった。2023年、BMWがVision Neue Klasseとともに掲げたキーワードは、
「electric、digital、circular」だった。
電動化。デジタル化。そして循環性。
BMWはVision Neue Klasseを「次世代のBMWブランドのクルマがどのようになるのか」を示すものと説明していた。つまりNeue Klasseとは、単に次世代BEVを作るプロジェクトではない。
デザインからパワートレーン、電子アーキテクチャー、ユーザーインターフェース、製造方法に至るまで、次の時代のBMWをどう作るかを再定義する取り組みだったのである。
その意味は、Vision Neue Klasseが発表された2023年よりも、量産車が揃い始めた2026年のいまの方がよくわかる。
ひと言で整理するなら、Neue Klasseの「器」はBEV専用。だがNeue Klasseの「思想」はBEV専用ではない。
ということになる。
Neue Klasseは3シリーズだけでは終わらない

そして、ここが今回もっとも重要なポイントかもしれない。
Neue Klasseのデザインは3シリーズだけのものではない。
BMWは2025年、2027年までにNeue Klasseの技術とデザインランゲージを採用した新型車・改良モデルを世界で40モデル投入すると明言した。しかも対象は駆動方式やセグメントを問わない。
つまりNeue Klasseは、i3やiX3だけのものではない。ICEも含め、これからのBMW全体へ広がっていく。
すでにその実例が登場している。
2026年に発表された新しい7シリーズだ。

BMWは新型7シリーズを「Neue Klasseの技術を採用する最初のラグジュアリーセダン」と位置づけ、エクステリアについてもNeue Klasseから始まった新しいBMWデザインランゲージをラグジュアリークラス向けに解釈したものだと説明している。
BMW自身、新しいフロントデザインの考え方はブランドの全モデルに共通するアイデンティティになるとしている。
2026年には7シリーズとX5へのNeue Klasse技術の展開も明示されており、BMWは2027年までに40を超える新型/改良モデルへNeue Klasseの技術を導入するとしている。
したがって今後、5シリーズや1シリーズなども、それぞれのモデルサイクルに合わせてNeue Klasse世代のデザインや技術を採り入れていくことになる。ただし、すべてのBMWがVision Neue Klasseと同じ顔になるわけではない。
7シリーズなら7シリーズ。3シリーズなら3シリーズ。SUVならSUV。各モデルのキャラクターに合わせて、Neue Klasseという新しいBMWのデザイン文法を翻訳していくのである。
60年前のNeue Klasseと同じことが、もう一度起きる?

そう考えると、BMWがなぜ「Neue Klasse」という歴史的な名前を復活させたのかも見えてくる。
1960年代の初代Neue Klasseは、一台のクルマで終わらなかった。そこから02シリーズが生まれ、さらに3シリーズへとつながった。初代3シリーズE21は1975年、02シリーズの正式な後継として登場した。Neue Klasseから始まった考え方が、BMWというブランドそのものを形作っていったのである。
そして約60年後。BMWは再びNeue Klasseという名前を使った。
Vision Neue Klasseという一台のコンセプトカーから始まり、まずBEVのi3として量産化された。しかし、そのデザインはICE版3シリーズにも使われた。
インテリアの考え方もICEへ広がった。
さらに7シリーズへも広がり、今後はBMWのモデルラインアップ全体へ展開されていく。BMW自身も「すべての将来のBMWモデルがNeue Klasseのイノベーションと新しいデザインランゲージの恩恵を受ける」と説明している。
これは偶然ではないのだろう。
1960年代のNeue Klasseが、その後のBMWを作ったように、2020年代のNeue Klasseもまた、これからのBMW全体を作ろうとしているのである。
Vision Neue Klasseはi3になった。だが、それだけではなかった

「あのコンセプトカー、どうなった?」という視点から考えると、Vision Neue Klasseはかなり特殊な存在だ。普通なら、コンセプトカー→量産車という一本の線を追えばいい。
Vision Neue Klasseについても、2026年のi3を見れば「これが量産型だ」と言える。
しかし、それだけではなかった。
Vision Neue Klasseが示した新しいBMWの姿は、エンジンを積む3シリーズにも受け継がれた。しかもBMWは、BEVとICEを同じパッケージへ無理に押し込むことをしなかった。
BEVにはBEVのパッケージを与えた。ICEにはエンジン縦置きスポーツセダンとしてのパッケージを与えた。
だから横から見ると、2台のプロポーションは違う。
それでも正面から見れば、同じ時代のBMWであることがわかる。
インテリアに目を移せば、Vision Neue Klasseで提案された新しいコクピット思想がそこにある。
そしてNeue Klasseのデザインと技術は、3シリーズを越えて7シリーズ、X5、さらにこれから登場するBMWへと広がっていく。
Vision Neue Klasseはi3になった。だが、それだけではなかった。
このコンセプトカーが本当に予告していたのは、一台の新型BEVでも、次期3シリーズだけでもない。
Vision Neue Klasseが予告していたのは、「これからのBMW」そのものだったのである。
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