「ノイエクラッセ」はEV専用プラットフォームの名前ではない

BMWはものづくりの常識をひっくり返す、大きなパラダイムシフトを行ない、まったく新しクルマを世に送り出してきている。
「ノイエクラッセ」だ。1960年代に経営危機になったBMWはノイエクラッセを発売することで、爆発的なヒットとなり、経営を立て直すことに成功した歴史がある。いま、自動車は100年に一度の変革期と言われ、各社、次世代にむけてさまざまなトライをしている途中だ。
そうしたなか、BMWも次世代車両を開発し、まったく新しい価値をもったクルマとして伝説の救世主「ノイエクラッセ」を再び唱え、プロダクトアウトが始まったわけだ。つまり、これから出てくるBMWのモデルはノイエクラッセという新しい概念、使命を背負ってデビューしてくることになる。



国内ではその第一弾が新型「iX3」EVだ。ノイエクラッセの正体を解き明かしてみると、3つの要素が見えてくる。まずはデザインだ。象徴的なキドニーグリルは縦長で細身になった。一時巨大な開口部はどこまで大きくなるんだとファンも仰天したが、そのキドニーグリルの容姿を変えることで、生まれ変わったことを伝えている。

インテリアではパノラミックiDriveの世界だ。フロントウインドウ下部にはピラーtoピラーでパノラミックビジョンがあり、3Dヘッドアップディスプレイも装備され、センターモニターも近未来的な平行四辺形の形状になっている。SDA(ソフトウェア定義車)となったことで、モニターは主役に躍り出るわけで、その見せ方に工夫を凝らしている。






そしてドライブトレーンもIVI(In-Vehicle Infotainment:車載インフォテインメント)もすべての電子機器が4つの賢いコンピュータで制御されている。4つのドメイン(領域)にわけ、マルチOSで制御する。ドライブトレイン、IVI、ADAS、そしてボディ系の4系統に分け、ECUを集約している。なかでも走りを担当するドライブトレーン=頭脳は「Heart of Joy」と表現し、第6世代となった電動パワートレーンで駆けぬける歓びを表現する。ちなみにボディ系とはパワーウインドウやドアロック、トランク開閉などのことだ。
「え?意外!」乗って最初に感じたのは、これまでとは違うBMW

こうした新しいコンセプトで誕生したiX3に試乗してみると、その乗り味も大きく変わっていた。ドアを開け、シートに座ったその瞬間、「え?意外!」と。iX3はSAVシリーズではあるが、3シリーズの要素をふんだんに取り入れたモデルであり、セミバケットとは言わないが、サイドのホールド性や座面の前傾角など、スポーティさを感じたものだ。それが一転しての印象を受ける。お尻を包み込むシートが柔らかいのだ。
そして動き出すとステアリングの軽さにも「え?また意外!」と再び。さすがにハンドルはぶっ太いのだが、操舵は軽い。重めのステアフィールの3シリーズとは明らかに違う手応えだ。
そして速度が上がると「おい!乗り心地がいいぞ、優しいぜ」となる。スポーティ系のサスペンションのはずが、しなやかに動いている。どれもこれも、これまでの3シリーズのイメージとは違う。「3シリーズも随分と変わったなぁ」というのがファーストインプレッションだ。F30系3シリーズの328i、そしてF31の320dツーリングと14年間3シリーズを乗り継いだ自分が感じた印象だ。

走ればやっぱりBMW。「Heart of Joy」が作る新しい駆けぬける歓び


だからといって、3シリーズの良さを失ったということではなく、意のままに、ノーズがインを刺すハンドリングは健在だし、アクセルやブレーキ、ロール、旋回Gなど手の内化できる走りは「駆けぬける歓び」が健在であることが伝わってくる。つまり楽しいと感じる感性へのアプローチ方法を、メカニカルな匠の技から、洗練されたデジタル制御へとダイナミック性能の作り方を変えたのだ。
ここで勘違いしてはいけないのは、EVモデルだけがノイエクラッセというわけではない。先ごろ欧州でティザーされた3シリーズはICE系のモデルだが、ノイエクラッセのコンセプトであることは間違いない。詳細は不明だが、デザインやパノラミックiDrive、4つのドメインコントロールで構成され、それぞれが持つケイパビリティのなかで、ノイエクラッセの世界観が表現されていくわけだ。
i3も次期3シリーズも「ノイエクラッセ」。でも骨格は同じではない
ちなみに、欧州では受注がはじまったi3はiX3と同じプラットフォームを使い、ICE系3シリーズのプラットフォームとは異なっている。開発記号でみるとiX3はNA5でi3はNA0、3シリーズはG50でCLARⅡで現行3シリーズの進化型になっている。「じゃぁノイエクラッセとは違うじゃん」という見方もあるが、デザインやパノラミックiDrive、4つのドメイン制御などからの体験価値はICE系にも移植するとしているので、ノイエクラッセなのだ。
現行5シリーズを見ればわかる通り、BMWはEVもICEもひとつの骨格で仕立てる「Power of Choice」の思想を掲げてきた。3シリーズでは物理的な骨格こそ分かれたものの、デジタル体験や走りの質といった「体験価値」をICEにも完全に移植することで、これも広義のノイエクラッセと言えるわけだ。ややこしいが。
またM3に関してはEVとICEが予測され、EVの開発記号はZA0ということまでは掴んでいる。また噂レベルではクワッドモーターという話もあり、新たなドライビングプレジャーを体験するのかもしれない。
デブレツェンとミュンヘン──ふたつの工場から始まる新しいBMW

もうひとつ、意外だったのがiX3とi3は同じプラットフォームを使っていると前述したが、なんと生産工場が異なるのだ。iX3はノイエクラッセのために、新しく建設したハンガリーのデブレツェン工場で、化石燃料を一切使わない未来の象徴なのだが、i3はBMWのマザー工場であるミュンヘン工場で生産されているのだ。

ミュンヘン工場はBMWにとって特別な意味を持つ工場であり、デブレツェン工場が未来の象徴なら、ミュンヘンは聖地と言える工場だ。100年以上の歴史をもち、1960年代のノイエクラッセを生んだ工場でもあるからだ。本来はミュンヘンで完結したかったのだろうが、設備の問題や市街地のど真ん中で、これ以上敷地も拡大できないという立地の問題もある。そのため、ブランドの中核モデルである3シリーズだけはミュンヘン工場での生産にこだわる矜持をみることができるのだ。
このセダンEV「i3」の国内導入はどうやら2027年初頭になりそうだ。ICE系の新型3シリーズの導入タイミングは未定だが、日本上陸は間違いない。心臓部が電気になろうが、ガソリンを燃やしていようが、ノイエクラッセがもたらす新しい体験価値は、どれもクルマ好きの感性を心地よく揺さぶってくれるはずだ。
iX3 50 xDrive M sport
ボディサイズ
全長×全幅×全高:4780mm×1895mm×1635mm ホイールベース:2895mm
車両重量:2330kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット/Rマルチリンク
駆動方式:AWD
駆動モーター フロント:交流誘導モーター
最高出力:123kW(167ps)
最大トルク:255Nm
リヤ:交流同期モーター
最高出力:240kW(326ps)
最大トルク:435Nm
システム最高出力:345kW(469ps)
システム最大トルク:645Nm
トランスミッション:1速AT
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
交流電力量消費率(WLTC):150Wh/km
市街地モード139Wh/km
郊外モード143Wh/km
高速道路モード163WH/km
一充電走行距離(WLTC):835km
車両本体価格:1034万円
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