連載

21世紀の電池攻防戦

自動車部品世界3位に浮上したCATL

米・オートモーティブニュースがまとめた世界の主要自動車部品メーカー(サプライヤー)によるOEM(自動車メーカー)向け売上高の2025年ランキングは、1位ボッシュ、2位デンソー、3位CATL(寧徳時代新能源科技)、4位マグナ、5位ZF、6位現代モビス、7位アイシン、8位フォルヴィア、9位米・リア。これは純粋にOEM向けに販売した部品、自動車生産のために出荷した部品の売上高による順位である。

順位企業名自動車関連売上高(10億ユーロ)前年比増減 (%)営業利益      (10億ユーロ)売上高営業利益率(%)
1ロベルト・ボッシュ(Robert Bosch)ドイツ55.8450.10.8931.8
2デンソー日本42.8020.72.8656.7
3寧特時代新能源科技(CATL)中国38.98720.011.02921.1
4現代モビス韓国37.893▲2.32.0825.5
5マグナ・インターナショナルカナダ37.177▲6.11,3423.6
6ZFフリードリヒスハーフェンドイツ35.573▲6.6▲1.003▲2.8
7アイシン日本29.2282.81,4404.9
8フォルヴィア(Forvia)フランス26.154▲3.01.4575.6
9ミシュラン(Michelin)フランス25.992▲4.42.3669.1
10華域汽車系統股份有限公司(HASCO)中国22.6654.51.1625.1
11ヴァレオ(Valeo)フランス20.903▲2.70.9774.7
12ブリヂストン日本20.832▲2.72.11310.1
13カミンズ(Cummins)アメリカ20.600▲10.31.8499.0
14リア(Lear)アメリカ20.583▲4.40.9404.6
15シェフラー(Schaeffler)ドイツ19.6711.00.1160.6
16オモビオ(Aumovio:旧コンチネンタル)ドイツ18.5500.7173.9
17アプティヴ(APTIV:旧デルファイ)アイルランド18.051▲0.91.0483.9
18住友電線日本16.921▲2.61.1076.5
19グッドイヤー(Goodyear)アメリカ15.803▲6.90.9355.9
20テネコ(Tenneco)アメリカ14.124▲8.9非開示非開示
このサプライヤーランキング表は各社の決算資料をもとに筆者・牧野茂雄が作成。なるべく横並び比較できるように一部の数字は補正を行なった。売上高の単位は10億ユーロで換算レートは1ユーロ=169.5円、1ドル=150.0円、1人民元=20.88円。▲はマイナス。

では、各社の自動車関連事業全体での売上高で見るとどうか。ドイツの自動車コンサルティング企業・ベリルズ(Berylls:米国のコンサルティング企業・アリックスパートナーズが2024年に買収)がまとめた、主要サプライヤーの自動車分野全売上データで見てもトップ3は変わらない。OEM向けだけではなくアフターマーケット向け製品や補修部品、設備市場向けなどもすべて含めた金額だが、CATLは確固たる地位の3位である。

注目はCATLの利益率だ。同社の決算資料ではOEM向け出荷の電池セル/パックだけを取り出した項目がないため定置用ESS(エナジー・ストレージ・システム)や民生用電池、回収資源、再生材料なども含めたすべての分野からの利益になるが、営業利益率は21.1%という驚異的な数字だ。

ただし、この利益率を額面通りに受け止めるのは危険だ。中国の大手企業は北京の中央政府だけでなく地方の省政府からもいろいろな形で補助金が支給される。政府系の低利融資や水道光熱費の割引、輸出奨励金などもある。果たしてこの利益率に補助金はどれくらい貢献しているのか。

ドイツのキール研究所が2024年4月に公表した報告では、中国企業が受け取る政府からの支援金額はOECD(経済協力開発機構)加盟国に本拠を置く企業の3〜4倍、税控除や税還付金なども含めた広い意味での補助金では9倍だった。また、2026年6月にOECDが公表した補助金調査結果では、中国はOECD加盟国平均の3〜8倍だった。

これが何を意味するかと言えば、中国政府は中国資本企業(国営でも民営でも)がシェアを獲得するための資金援助を行ない、競争力アップに関与しているということだ。見方を変えれば、中国政府は「中国」という巨大な多角経営企業を運営していることになる。そのCEO(最高経営責任者)は習近平国家主席である。

CATLは深圳と香港の両証券取引所に上場しており、企業としてはまともな決算公告を行なっている。しかし、決算資料を読み込むと、政府補助の総額、輸出増値税優遇額、電池材料リサイクルで得られる税還付など、明記されていない項目が多い。

ちなみに増値税はEUの付加価値税(VAT)、日本で言えば消費税に相当する。税率は業種ごとに定められており、最終的な負担者は「モノやサービスを買った消費者」である。

CATLの2025年決算では「その他の収益」として106億元が計上されており、これをすべて補助金だと解釈すると税引き前利益の11.8%に相当する。しかし、設備投資補助金は耐用年数全体で年次ごとに利益計上しているため、この106億元の中にどう含まれているのかもわからない。

また、欧州向けに輸出した電池セルの輸出還付率9%は、中国国内で原材料や部品の仕入れで支払った分の増値税を輸出時に免除・控除して還付するものだが、どの勘定で処理したのかがわからない。税金還付の合計は約77億元だ。

こうした中国の特殊事情から推測すると、CATLの営業前利益率は21.1%ではなく、米国会計基準採用企業より3〜4%は少なくなるはずだ。17%台か、それより少ないと考えるのが妥当だろう。

とは言え17%でもスゴい。トヨタの連結決算での営業利益率は7.3%であり全世界の主要OEMの中でもっとも高いが、CATLはその2倍以上だ。米・GMはトヨタに次ぐ6.9%。これは金融事業を含めたEBIT(利払前・税引前利益)でありトヨタともCATLともと横並び比較はできないが、ざっくりの比較ではCATLはGMの2.5倍だ。

販売1台あたり単価がトヨタよりずっと高いメルセデスベンツ・カーズはBEVの売れ行きが悪いことと中国での販売減のため利益率は5.0%に落ち込んだ。VW(フォルクスワーゲン)はわずか1.8%である。

BYDオートは自動車関連事業での売上高が親会社BYDの80.7%に当たるが自動車事業の利益率は開示していない。ただし中国では「最終利益の3分の1は補助金」とも報道された。中国最大の自動車部品メーカーである華域汽車系統股份有限公司(HASCO)は利益率5.1%だが、同社も補助金は受けており、実質の利益率は4%程度と思われる。

売上高の規模で比べると、ボッシュは仏・ルノーと同等、デンソーは中国の吉利汽車集団と同等、CATLはポルシェとほぼ同等だ。しかし、CATLの利益率はダントツに高い。よくここまで成長したと思う。

たとえば韓国のLGエナジーソリューションは、北米生産奨励金など政府補助を除くと利益率は▲1.3%(つまり営業赤字)、パナソニック・エナジーの2026年3月期決算は▲2.7%(同じく)。この両社は車載電池部門を単年度黒字化するのに10年以上かかった。

驚異の高収益を支える中国の補助金と低コスト

CATLの利益率が高い理由は、何と言っても中国国内での原材料費の安さにある。サプライチェーンは中国国内または海外に展開する中国企業でほぼ完結している。だから海外の相場よりはるかに安い。

2025年の車載用NMC(ニッケル/マンガン/コバルト)系LIB(リチウムイオン2次電池)セル平均価格は、パック化した状態で比べると欧州は131ドル/kWhで中国は84ドル。まだ中国でしか製造していないLFP(リン酸鉄)セルは、パック化状態で50ドル/kWhを下回るとも言われる。

欧州での131ドル/kWhは、中国と韓国の電池メーカーからの出荷価格であり、日本の電池メーカーは欧州に工場がなく、欧州資本の電池メーカーはまだ量産実績がない。欧州での原材料調達コスト、人件費、水道光熱費はすべて中国より割高であり、そこに電池セルメーカーの「適正利益」を乗せた値段の平均が131ドル/kWhである。

もうひとつ、CATLの強みは設備稼働率の高さだ。2025年末時点でCATLの電池セル生産能力は年間で公称772ギガWh。これに対し生産量は748ギガWhであり、稼働率97%と極めて高い。この中で製品としてOEM向けに出荷された量は公表されていないが、歩留まり(良品として出荷できる比率)は高いと言われる。

CATLだけではない、中国電池産業の圧倒的な競争力

そして、ここは中国電池産業全体の強みなのだが、出来の悪い電池でもそこそこ売れる。「電池ならなんでもいい」という買い手がいるのだ。容量が設計値より少なくても、充放電寿命が短くても、買い手がいる。いま、中国では競争が厳しくなり、BEV(バッテリー電気自動車)の需要は中国国内でも頭打ちだが、車載向けに電池が売れ残っても定置用などの需要が拡大している。

昨年、中国での電池生産は完全に過剰だった。「在庫が積み上がっている」と言われた。売れなかったのは競争力の低い電池であり、そういう電池メーカーの淘汰は自然に起きる。技術力と営業力のない電池メーカーはCATLのような競争力のある企業に吸収される。政府の補助金で整えた製造設備も無駄にならずに済む。

スタッキング
LIBの製造工程の要。負極/セパレーター/正極を均一に重ねた1組を数セットから数十セット重ねる。ここで微細なゴミなど異物が混入すると発火事故の大きな原因になる。

CATLは中国を代表する電池セルメーカーであり、いまや製造規模は世界最大。製品は優秀だ。CATLのルーツは、2005年にTDK傘下となったATL(Amperex Technology Limited)にある。その技術・生産管理の蓄積も、現在のCATLの品質や性能につながっている。成長著しい有力電池セル製造企業は中国に10社ほどある。CATLだけではない。

そのうちの1社、国軒高科はまだ売上高47億ユーロとCATLの10分の1強だが、VWは同社からLFP系電池を購入する契約を結んだ。昨年の純利益は前年比2倍だった。

中国政府はLFP系LIBの技術拡散を防ぐ措置を、いろいろな方法で進めている。基本は「海外に技術を売ったら、その時点で会社も経営陣も終わり」という恐怖管理である。NMC系に比べて体積・重量当たりの容量が小さいLFP系はデータセンター向けESSなどで注目され、中国メーカーの受注は好調と聞く。LFP独占を中国は狙っている。

これは私見だが、ESSは電池である必要はない。電池は劣化する。効率の良い発電用ディーゼルエンジンに植物由来の燃料を使うほうが、はるかに低コストで、環境負荷は電池の製造・廃棄を考えたらおそらくトントンで、しかも場所を取らず、瞬間大出力の発電も可能だ。日本はこのニーズを狙えるし、もっと売り込むべきだ。

「太陽光など再エネで発電し蓄電池に貯める」ことが環境に優しいと世の中には流布されているが、太陽光発電パネルと蓄電池は中国が圧倒的な世界シェアを押さえている。中国製という地政学リスクを抱えた製品に巨額の支払いを世界がそろって行なうのは、どう考えてもおかしい。

電池だけではない──中国が握る原材料と希土類のサプライチェーン

裏を返せば、これは中国の国家戦略的勝利だ。脱炭素という流れが中国に金を集めている。

たとえばNMC系LIBに使うコバルトは、コンゴ民主共和国産出品が世界需要の約75%をまかなう。しかし、ここで採掘されたコバルト鉱石を精錬するのは中国企業だ。中国は早い時期から精錬という汚れ仕事を請け負ってきた。

グローバリズムという言葉が流行るずっと前、1970年代に中国は、鄧小平が先頭に立ち「中東に石油あり、中国に希土類(レアアース)あり」という掛け声のもと、希土類開発に乗り出した。採掘から精錬、製品への加工の研究を命じた。

一般的に希土類鉱石は複数の希土類を含んでいる。採掘したのちに選別し、不純物を除去し、元素ごとに分離し、出荷しやすいよう固形金属化するという精錬のプロセスを行なう。しかし、当時の中国にはその技術がなかった。技術支援をしたのはおもに日本の企業だった。

1980年代の中国は、まだ精錬技術は低かったが、そこを支援したのは地理的に近い日本だった。自動車、家電、精密機械など日本の工業製品が、高純度で良質な希土類を求めていたからである。そして、日本が必要とする希土類が徐々に増えるなかで中国が持つ豊富な資源の製品化に協力した。

希土類を金属化する精錬過程では、重金属や放射性廃棄物を含むさまざまな有害物質が生まれる。中国にも環境規制は存在したが、それは建前であり2012年に規制強化されるまではほぼ「見て見ぬ振り」が続いた。その代わり、21世紀に入るころには希土類金属化のためのサプライチェーンが中国国内に完成していた。

そこにグローバリズムがやってくる。西側諸国は中国を「世界の工場」として利用し、中国の安価な労働力と資源を買いまくった。そこでもたらされた富が現在の中国を支え、同時に周辺国を威圧する軍備を調達する資金になっている。

20世紀終盤からは、コンピューターのハードディスクから電気モーターまでの製造に不可欠な高性能磁石に添加されるサマリウム、ネオジム、ディスプロシウム、プラセオジム、ニッケル水素電池に必要なランタン、セリウムなどが希土類の主役となり現在に至る。

もうひとつ、希土類に加えて重要鉱物(レアメタル)のサプライチェーンも中国は握っている。鉱石の産地に精錬会社を進出させた。レアメタルの産地がどこかという話ではなく、サプライチェーンの中に中国がどう食い込んでいるか、である。もはや世界中のOEMが、中国なしにはBEVを作れないと言ってもいい。

そして当然、原材料卸価格の価格決定権を握っている。中国企業向けの原材料卸価格は他の国の企業向けより安い。これが中国の競争力である。

前出のコバルトについては、すでに十年以上前から人権保護団体が「コンゴ民主共和国でコバルトを掘っているのは子供であり、児童は強制労働を強いられている」と指摘してきた。

人権保護団体は、NMC系LIBを使っている欧州OEMに対し「コンゴ産コバルトを購入しているかどうか」を尋ねたが、その一方でEU(欧州連合)は政策としてBEV普及を続けている。NMC系LIBにはコバルトが必須であり、欧州もこれに頼っている。

BEVと電池でつまずいた欧州、中国はさらに原発輸出へ

2024年から25年にかけて、世界中のOEMが決算上でBEV損失を公表した。とくに欧州は、EUが始めた政治主導によるBEV普及への同調を求められ、しかし本来は政治が「自動車」という個人の買い物に関与できるはずがなく、現時点で言えば各OEMはBEV開発投資を回収できるどころか1台売るごとに増える赤字に耐えている。

EUは電池の地元化でも失敗した。予定通りなら欧州資本の巨大電池セルメーカーが3〜4社は誕生しているはずだったが、まだ姿形は見えない。欧州にある車載電池工場は、中国資本か韓国資本か、あるいは両国が何らかの形で絡んだ企業である。

さらに、中国にはまだほかの戦略がある。中国が狙う次の一手は原子力発電設備の輸出だ。脱炭素という視点では原発は正義だ。しかも中国製は安い。現在、新興国向け原発輸出ではロシアが最大勢力だが、中国がここに割って入ろうとしている。中国自身も膨大な石油輸入量を減らすために原発建設を進めており、国内に100基の原発を整備するという。これも国産で賄う。

原発は建設だけでなく営業運転開始までの支援やメンテナンスも含め、長い期間にわたって製造事業者が責任を持つ。海外向けの原発販売にあたっては、中国政府は低利融資や性能保証という形で関与し、輸出企業の後ろ盾になるだろう。そして中国製原発を導入する国は、エネルギー供給で中国に首根っこを捕まれることになる。

LIBセル、太陽光発電パネル、BEV、そして原発。気がつけば中国がここで存在感を発揮している。わずか四半世紀のうちに中国は躍進した。

2040年代、日本に次世代電池で巻き返すチャンスはあるか

Appleの第2世代iPodに使われたソニーフクシマ製のリチウムポリマー電池。安全性のため半固体電解質を使っていた。日本のLIB独占は長くは続かず、韓国そして中国にキャッチアップされた。

では、日本はもう世界市場向けエネルギー製品に関与できないのか?

まだ残された領域はある。21世紀電池戦争もまだ続く。諦めるのは早い。日本がBEVやデータセンター向け電池で狙える可能性があるのは2040年代のデファクトスタンダードだ。日本の大学など研究機関が開発をリードしている次世代電池はいくつかある。その研究を企業と政府が支援し、知財の海外流出を防ぎ、サプライチェーンと大量生産が可能な製造設備を重点的に支援する。これが実現すれば日本は再浮上できる。

電池本体でなくても、原材料や部品、製造に必要な化学製品でもいい。半導体領域では原料ガスであるジクロロシラン、硫化カルボニル、フッ素ガスの3品目は日本が世界シェアの90%以上を握る。70%以上を握る製品は、半導体の回路パターンを焼き付けるフォトレジスト、CMPパッド、HFC系エッチングガスがある。15品目以上で日本は世界シェア50%以上を握っている。

1991年にソニーが実用化したLIBは、まさに21世紀型の電池であり、数年の間はその生産を日本が独占した。しかし、四半世紀を経た現在、中国が圧倒的優位にある。中国は電池を国家戦略に位置付け、日本の弱点を見極め、電池セル企業を育てた。この領域に使った補助金は、ざっと計算しても5兆円になる。物価や人件費の差を考慮すれば、対日本という意味では10兆円以上だ。

人海戦術×996(朝9時から夜9時まで週6日働く)×開発現場社員の使い捨て×重点的資金投入×政府補助金×経営陣の即断即決=中国。この現状はいかんともしがたい。仕切っているのは各企業ではなく中国政府なのだ。

果たして日本の政府と行政に自覚はあるか。政権とは切り離した永続的な産業支援体制を維持できるか。LIBの先、次世代の電池を日本は支配できるだろうか。そして2040年代にはもうひとつ、高速増殖炉の商業運転を握るチャンスがある。ここで存在感を示すことができるだろうか。この行方は注意深く見守りたい。

最後にお礼を。昨年9月に始めた本連載のための取材にご協力いただいた日本、韓国、中国、米国、ドイツ、フランス、スウェーデンの各企業および大学や政府機関の方々、そして貴重な資料と助言をいただいた同業のジャーナリスト諸氏に、深く感謝の意を表したい。(おわり)

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