技術的に見れば、HEVはBEVより難しい
日本は1990年代からHEV開発が盛んだった。そして真っ先にモノにした。トヨタ「プリウス」に続き、ホンダ「インサイト」が登場し、日産は量産しなかった(当時のカルロス・ゴーンCEOが却下した)が、「ティーノ」に自社開発HEVシステムを搭載し限定生産した。その後、三菱自動車はBEVだけでなくPHEV(プラグインハイブリッド車)を開発し市販した。マツダとスバルはトヨタの技術資産を流用したHEVを発売した。軽ではスズキがマイクロHEV的なエネチャージを全モデルに展開した。
点ではなく面で効果を得る。BEV1台で50kWhの電池を使うよりも50台のHEVで1kWhずつ分けるほうが化石エネルギー消費は減る。1台をCO₂排出ゼロにするより、50台のガソリン車で燃料消費を20%削減すれば、5台でBEV1台分になり、残り45台分は丸儲けだ。燃料消費10%減だとしてもBEV1台に対しHEV50台なら5倍のCO₂削減になる。
これは日本の「省エネ」の考え方であり、広く浅く、世の中や消費者に過度な負担をかけず、少しずつ着実に効果を得る。第1次オイルショック以降、日本はこれを続けてきた。自動車でのHEVという選択は、その延長線上にある。
技術的に見れば、HEVはBEVより難しい。HEVを中心に据えれば、電池搭載量を増やしたものがPHEVであり、PHEVからICE駆動系と発電系を取り除けばBEVになる。トヨタは、その中心になるHEVをまず開発した。
1997年12月に初代プリウスが発売されて以降、欧米OEMも一斉にHEV開発に取り組んだ。しかし、ICE 横置きFF車に搭載できる安価なシステムにまとめる目処が立たず断念した。ICE縦置きFRではGM、ダイムラークライスラー(当時)、BMWの3社がHEV共同開発で合意し商品投入まで漕ぎ着けたが、その「2モード・ハイブリッド」は1世代だけで終わった。
この3社が開発したのはAT(オートマチック・トランスミッション)で使う遊星歯車(プラネタリーギヤ)を3セットと電気モーターをふたつ用い、擬似的に7速のギヤ比を持つ重厚長大HEVだった。ドライバビリティは素晴らしかったが、コストもシステム重量もヘビー級だった。
欧州勢はディーゼル後に再びHEV開発へ
HEVは難しい——筆者が互いに本音で話しができる日欧米そして中国、韓国のエンジニア諸氏はそう言う。「エネルギーを無駄にしないBEVを、お客さんに納得してもらえるドライバビリティと価格に仕上げるのは結構難しいが、HEVはそれ以上に難しい」と言う。
だから欧州勢はそこそこのコストアップで収まる横置きFF用のHEVを諦めクリーンディーゼルへと舵を切り、この分野で大きな功績を残した。米国は日本のサプライヤーからHEVユニットを購入した。欧米勢がHEV開発へと向かったのは、トヨタがTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)に満足して開発の手を緩め、ホンダがHEVシステムの一本化に迷っていた2010年代半ばだった。そのころから再びHEV開発があちこちで始まった。

その多くはP0またはP1と呼ばれる方式だった。【図1】にP0とP1の例を示した(筆者作図)。Pは「Position=位置/配置」の略であり、電気モーターをどこに置いているかを示す。駆動輪からいちばん遠いところに電気モーターがあるケースがP0であり、もっとも近いところがP4である。ただしこの呼称は国際標準ではなく自動車業界内の俗称、慣用分類だから、そこにはP2.5などという呼称も存在するし、企業によってはP5(インホイールモーター)を加えている場合もある。
P0とP1は、いわばICEへの「電気モーター追加」であり、複雑なICEとの協調制御プログラムは不要だ。エンジンルーム内に場所さえ確保できれば既存の車種にあとから追加できる。通常、ここでの電気モーターはBSG=ベルト駆動のスタータージェネレーター(スターターモーターと発電機を兼用するいわゆるオルタネーター)またはISG=組み込み型スタータージェネレーターだ。

いまやP0とP1は簡易なハイブリッド・システムとして普及している。燃費改善効果は最大でもせいぜい10%強程度と言われるが、低いコストでHEV化できる。世の中でフルハイブリッド、ストロングハイブリッドと呼ばれる方式はP2以上、【図2】に示したようなものだ。
HEV開発の裏側にESP
ICE横置きFF用のP3フルハイブリッドは、いち早くルノーが開発に着手した。おそらく2010年ごろだと思われる。ルノーはMT(マニュアル・トランスミッション)と電気モーターを組み合わせる方法を選んだ。そのほうが動力伝達効率が高く、欧州のユーザーが慣れているMTの乗り味を損なわずに済むためだ。変速には油圧を使わずMTと同様にギヤの噛み合いを切り替える方式である。
関係者によると「本当の初期には1モーターも考えた」そうだが、最終的にはISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター=スターターモーター兼発電機)を使って回転を同期させ、MTのようなシンクロ機構ではなくドッグクラッチを使い2軸4速のギヤを切り替える方式に落ち着いた。
HEV開発の経験がある日産にも協力を求めた。日産のアライアンスチームがフランスでのルノーHEV開発チームに加わった。当初、ルノーは小出力のISGを使おうとしていたが、回転を同期させるためにはもっと出力の大きなISGを使うべきだと指摘したのは日産側だった。ここまででも構想から5〜6年かかっている。
アイシンもドッグクラッチでギヤを切り替える方式のHEVシステムを開発し供給している。開発チームによると「50rpm程度の回転差がなければドッグクラッチの締結はできない。入力側と出力側の回転数が近すぎると入らない。わずかな回転差が必要」という。ルノーも最初はここで苦労した。しかし、日産チームの助言で駆動用電気モーターの3分の1程度までISGの出力を上げることで問題を解決した。
この背景には、日産が薄型ラミネートパウチ形状の電池セルを独自開発し、製造はNECとの合弁会社であるAESC(オートモーティブエナジーサプライ)で行なっているという事実があった。AESCが立ち上がったときにはリチウムイオン電池のオリジネーターであるソニーからも開発のキーマンが参加するなど、人材も集まっていた。AESCが中国資本になってからもルノーは同社から電池セルを調達している。
ルノーのフルHEVは制御プログラム開発が難産だった。ドッグクラッチの締結がうまく行き「ほぼ締結ミスが起きない」ところまで開発が進んだころ、日産のアライアンスチームがHEV開発から抜けて帰国した。あとは制御プログラムの開発だけだった。しかし、ここが最大の難関だった。

結局ルノーは、欧州の有力ESP(エンジニアリング・サービス・プロバイダー)の手を借りてやっとE-TECHハイブリッドのシステム制御プログラムを完成させた。自前では完結できなかったのである。しかし、4速MTを使うと言う最初の発想そのものは独創的であり、HEVなのにBEVのようにシームレスな車速変化をもたらす。

現在、このE-TECHハイブリッドは、中国の吉利集団とルノーの共同事業であるホース・パワートレインが設計した新しい1.8Lエンジンとの組み合わせで第2世代へと進化した。トルクバンドが広がったことで、従来は「組み合わせとしては存在するが実際には使っていない」というふたつの変速比まで使い、当初想定の4速ギヤ×2モーターによるフルシステムが完成した。ここまで約15年である。
一方、ステランティスはベルギーのパンチ・パワートレインにDHT(デディケーテッド・ハイブリッド・トランスミッション=ハイブリッド化前提の変速機)開発をほぼ委託し、パンチ側が機械設計から制御までをまとめたのが6速DCTベースの「DT2」である。ルノーがP3であるのに対し、ステランティスはP2方式だ。
これはもともとがパンチ側のアイデアであり、2018年に当時のPSAとパンチ・パワートレインは正式に契約を結んだ。量産もパンチとステランティスの合弁会社で始まり、のちにステランティスがパンチ保有株を買い取った。
DT2が完成する前は、PSA(プジョー/シトロエン)がアイシンから1モーターHEVユニットを調達し「DS」ブランドのモデルで使っていた。使い方はトヨタとは異なり、PSAは制御で独自色を出していた。
ちなみにDCTは、ドイツの大手サプライヤーであるシェフラーなどの資金提供によりフィアット中央研究所が開発したもので、最初にVW(フォルクスワーゲン)グループのアウディがDSGの名で市販車に搭載した。一方、パンチ・パワートレインのルーツはベルト式CVTを実用化しオランダのDAFに供給したファンドーナである。DAFが乗用車から撤退して以降は、ボルボ・カーズ、ZFと親グループを替え、2006年に一度独立するが、中国の銀億集団(Yinyi Group)が2016年に株式の100%を取得し傘下に収めた。
DCTを使うHEVシステムをパンチが開発していることは、元日系OEMのベテラン技術者氏から聞いた。その後、発案者はすでにパンチからほかへ転籍したことは欧州の某ESPで聞いた。「発想力が豊かな人は、なかなかひとつの会社にとどまらない」とも聞いた。
パンチDT2の特徴は、48ボルト電源を使うマイルドハイブリッドである点だ。PSAは商用車への搭載も想定していた。48ボルトならメンテナンスの高圧電源の設備と有資格者は不要だ。7速DCTの各ギヤ段は軽荷重と満載時の重量差が大きいLCV(車両重量3.5トン以下の軽量商用車)を想定して決めたという。

現在ステランティスは、PSAとパンチが合意した製造設備を100%所有し、プジョー/シトロエン、フィアット、オペル/ボグソールなど所属ブランドにDT2を供給している。予定ではPHEVが追加されることになっている。
VW(フォルクスワーゲン)もフルHEV導入に踏み切った。今年秋以降の年内に2027年モデルとして「T-ロック」「ゴルフ」に搭載すると発表されている。具体的なシステム内容は明らかにされていないが、2モーターで多板クラッチを使うらしく、おそらくホンダe:HEVに似たシステムではないかと思われる。
欧州OEMもP2やP3のフルHEV開発は社内だけでは完結できなかった。難しさの原因は、ガソリンという燃料と電気というエネルギーを「混ぜて」使う点にある。ガソリンを空気と混ぜて燃焼させて圧力を発生させ、その圧力をクランク軸の回転に利用する。
フルHEVの場合は、たとえばトヨタTHSがトルクスプリット型と呼ばれるように、ガソリンと空気の化学反応で得た力を走行状態に応じて「機械系の動力伝達経路」と「電気回路」に振り分ける仕組みが必要になる。あらゆる走行状態を予測し、あらかじめこの「振り分け」方法をプログラムしておく開発がP2やP3/P4のHEVでは必須になる。
ホンダe:HEVは、エンジンを発電だけに使うシリーズHEVにエンジンを車輪と「つなぐ/切り離す」クラッチを追加したものだが、この方式だとエンジン設計が難しい。つねに「燃料消費効率の良い回転域」で回すエンジンにしておき、低回転低負荷で車輪と直結した場合にも余分な振動は出さないようにしなければならない。ここはエンジンの基本設計に大きく依存する。
結局、HEVの成否の鍵を握るのは電池
現在、欧州ではHEV専用のDHE(デディケーテッド・ハイブリッド・エンジン)があちこちで開発されている、その主体はESPであり、そこにはディーゼルエンジンも含まれている。ESPが開発しOEMに提案し、採用された場合は部品製造の割り振りをESPとOEMで決める。ESPは製造部門を持っていないためだ。
DHEでも電気モーターを使うから、開発段階では電池スペックを想定する。しかし、欧州には欧州資本の電池セルメーカーがまだほとんど育っていない。期待されたスウェーデンのノースボルトと英国のブリティッシュボルトは破綻し、ノルウェーのフレイルは動力電池から撤退した。欧州OEMは電池供給を中国と韓国の電池メーカーに大きく依存している。ここがネックだ。
日本のOEMが世界に先駆けてHEVを開発したときは、電池セルメーカーが近くにいた。しかし2010年代半ばの欧州には、自動車に使える動力電池セルを量産できる欧州資本の会社がほとんどなかった。結局、HEVの成否の鍵を握るのは、BEV同様に電池という存在だと言えるのではないだろうか。
いま、電池セルでは中国が圧倒的に有利だ。日本の電池セル生産はすでに存在感に乏しい。一方、中国でのHEV開発には、少なからず欧州系の大手サプライヤーとESPが関わっている。完全自前ではない。日本のメディアが大々的に取り上げた中国OEMのPHEV用エンジンの開発を、実は欧州のESPが行なっていたりする。その意味では、まだ日本には多少のアドバンテージがある。
しかし、圧倒的に日本が有利だった過去とは違う。あの時代は、日本の電池セルメーカーが健在だった。
