愛嬌のある顔つきは600ムルティプラ譲り。“口ひげ”やリヤのリブで往年のモチーフを再解釈
フィアットはパリモーターショーで、コンセプトカー「ムルティプリーナ」を展示した。同じブースで主役を務めたのは、1台で3通りの役割をこなす「マルチプレイ」。クルマ1台をさまざまな用途に対応させるマルチプレイに対し、ムルティプリーナは超小型のボディでどれだけの空間と使い勝手を確保できるかに焦点を当てている。
ムルティプリーナが初めて披露されたのは、フィアットが6月にローマで開いたマイクロモビリティのイベント。2人乗りの電動クアドリシクル「トポリーノ」、三輪の商用車「トリス」とともに、同ブランドの小型モビリティを構成する1台として紹介された。
フィアットはムルティプリーナを、トポリーノと一般的な乗用車をつなぐ存在と説明する。パワートレインはBEVで、車両区分は欧州のL7(ヘビー・クアドリシクル)。最高出力15kW以下などの条件で定められた区分で、最高速度45km/hのトポリーノより一段上のカテゴリーにあたる。クアドリシクルならではのシンプルさとコンパクトさを保ちながら、トポリーノより広い空間と多用途性を備えるというわけだ。想定する用途は通勤や子どもの送り迎え、買い物といった日常の短距離移動。フィアットはこうしたクルマを「マルチパーパス・クアドリシクル」と呼んでいる。

ムルティプリーナの手本となったのは、1956年に登場したフィアット600ムルティプラ。全長約3.5mのボディに6人が乗れるパッケージングで知られる、フィアットの歴史のなかでも独創的な1台だ。ただし、目指したのは過去のモデルの再現ではない。限られた寸法のなかで空間と使い勝手を最大限に引き出すという、オリジナルの考え方を現代に持ち込むことが狙いだという。
ボディサイズは全長3040mm、全幅1400mm、全高1530mm。600ムルティプラよりさらに短い全長に、4人分の席を収めている。
デザインでも600ムルティプラとのつながりは明らかだ。前方に大きく出たウインドスクリーン、上下で塗り分けたツートーンのボディ、フロントの“口ひげ”、リヤのエアベントを思わせる処理がそれで、いずれも現代のフィアットらしい手法で再解釈されている。
フロントまわりは、ルーフから続くアイボリーのパネルがノーズの上部を覆い、その下にヘッドランプを配置。アイボリーのパネルには水平のスリットが刻まれている。FIATエンブレムの両脇に細いラインを伸ばしたモチーフが“口ひげ”にあたり、バンパーにはMULTIPLINAのロゴと縦長の凹みを備える。ノーズはごく短く、ウインドスクリーンの下端は前輪の真上あたりまで前に出ている。

サイドビューでは、ボディの四隅に置いたタイヤと黒いフェンダーアーチが、小さなボディに安定感のある構えを与えている。サイドウインドウはアイボリーの細い枠で縁取られ、リヤクオーターのウインドウ下にはMULTIPLINAの文字を添えた。
丸型のドアミラーや、ボディ同色のディスクに白いリングを組み合わせたホイールは、いかにも1950〜60年代の小型車を思わせるディテールだ。ドアハンドルの脇にあしらわれたドット絵風のオレンジのバッジも目を惹く。

リヤまわりでは、テールゲートのFIATエンブレムの左右に水平のリブを重ね、リヤエンジン車だった600ムルティプラのルーバーを思わせる表情をつくった。テールランプは縦長のカプセル形で、赤いリング状の発光部を横棒が貫くグラフィックが特徴だ。

少ない材料と資源で必要なものを。シンプルさを軸にした小さな電動車
ムルティプリーナの根底にあるのは、本当に必要なものを、より少ないもので実現するという考え方だ。小さな寸法と軽い車重、効率の良い空間設計によって、材料や資源への負担を減らしながら日常の使い勝手を確保する。電動化はその一部にすぎず、シンプルさと資源効率を軸にした持続可能なモビリティを探ることがムルティプリーナの役割だという。移動をよりシンプルで身近なものにするという考え方は、フィアットがかねてから掲げてきたものでもある。



