ダイナミックシールドの進化

「三菱自動車のアイデンティティであるダイナミックシールドは、ボディと融合することで、より立体的かつソリッドな造形へと進化。 特徴的なT字ランプ・シグネチャーは先進性と存在感を象徴する、まさに時代の進歩となる新たなアイコンです」

9月2日のワールドプレミアで、デザイン責任者の吉峰典彦氏はフロントのデザインについてこう説明した。ダイナミックシールドはもうお馴染みだが、それを「ボディと融合」とはどういうこと? T字ランプ・シグネチャーにどんな意味があるの? 疑問に思う方も多いだろう。

まず、ダイナミックシールドについて。

フロント周りのテーマスケッチ(薄茶色の網がけは筆者が追加)。

フロントの造形テーマを描いたスケッチを見ると、グリルらしき部分の両側にフェンダーから回り込んできた面がある(薄茶色の網がけ部分)。ここがまさに「ボディと融合」したダイナミックシールドだ。

そもそもダイナミックシールドは、大開口グリルのパフォーマンス感とフロントコーナー部のプロテクト感を融合するという発想から生まれたデザイン。2015年にフェイスリフトしたアウトランダーで初めて採用された。

パフォーマンス感とプロテクト感を融合するにあたり、デザイナーたちが具体的にイメージしたのがランエボXと歴代パジェロ。パジェロは悪路でヘッドランプを損傷しにくい形状にこだわってきた歴史がある。それが最もわかりやすいのが、ここに例示した4代目パジェロで、オレンジ色に網がけしたエリアでプロテクト感を表現している。
ダイナミックシールドはここから始まった。2015年のアウトランダー。

ランエボXの大開口グリル、歴代パジェロのフロントコーナー形状を参考に、パフォーマンス感とプロテクト感を融合したのが、2015年のアウトランダーで登場したダイナミックシールドだった。

現行ラインナップのダイナミックシールド。プロテクト感を表現する部位が白いラインで強調されている。右から発表順で並んでおり、現行アウトランダー、トライトン、エクスフォース、デスティネーター、新型パジェロ。三菱らしさを印象づける一貫性のあるデザインだ。

新しい「三菱顔」となったダイナミックシールド。新型車が出るたびにそのデザインも進化してきたわけだが、しかしプロテクト感を表現するコーナー部分を加飾で囲むという手法に変わりはなかった。日本には未導入のASEAN向けエクスフォース/デスティネーターでは加飾を極太化。これはこれでシンプルでモダンに見えるが、クルマ全体のデザインから見れば、ダイナミックシールドを構成するために付け加えた要素だ。

プロテクト感を表現すると思われるエリアをオレンジ色で網掛けしてみた。フロントコーナーからフェンダーへ、さらにドアの一部まで面が途切れることなく延びている。もはや加飾もなく、ダイナミックシールドは完全にボディの一部として表現されている。

しかし冒頭のテーマスケッチで見たように、新型パジェロはフェンダーからフロントに回り込む面でプロテクト感を表現する。これがデザイン責任者の吉峰氏が語った「ボディと融合」の意味だ。加飾で囲むことをやめて、全体フォルムの一部に溶け込ませた。

言い換えると、八角形のグリルがあり、その8つの辺に接する面のひとつがプロテクト感を表現するようになった。しかもそれはフロントだけではない。

リヤでもフロントと同様にフェンダーから面が回り込む。
フロントとリヤのテーマスケッチを見比べると、実は前後対称のデザインなのだと気付く。

テーマスケッチでもわかるように、「どんな立体を造るか」という意図はフロントもリヤも同じ。八角形があり、その8辺に向けてボディ面が延びてくる。他にはないユニークなテーマだし、2BOX車のリヤがこんなに立体的な面構成だというのも珍しい。

ただ、実車を見てそこに気付く人は、少ないかもしれないけれど・・。

T字ランプは2017年から

新型パジェロのフロントには、水平線とその両端の垂直線で構成するDRLが備わる。これが吉峰氏がもうひとつ語っていた「T字ランプ・シグネチャー」であり、同じシグネチャーがリヤにも反復されている。

ご存知のように、T字ランプは今に始まったものではない。

2017年東京モーターショーのコンセプトカー、e-EVOLUTION。ヘッドランプは控えめなT字、テールランプは大胆なT字。

最初にT字ランプを採用したのは、2017年ショーカーのe-EVOLUTIONだった。ヘッドランプもテールランプもT字だが、より大胆にT字を描いたテールランプが量産車につながっていくことになる。

2020年のエクリプスクロス。テールランプがT字型に光る。

2020年にビッグマイナーしたエクリプスクロスは、e-EVOLUTIONからT字型テールランプを取り入れた。このときはリヤだけT字だったわけだが、次の段階ではダイナミックシールドが進化。それに伴って前後ともT字のランプ・シグネチャーで揃える時代に突入する。

2023年にデビューした海外専用コンパクトSUVのエクスフォース。
海外向け3列シートSUVのデスティネーターは2025年にインドネシアで発表。

2024〜25年にASEANなど海外市場に相次いで投入されたエクスフォースとデスティネーターは、ダイナミックシールドにT字型DRLを組み合わせた。ヘッドランプは小型化され、エクスフォースではT字の水平部分の直下に、デスティネーターでは垂直部分の内側に配置。ヘッドランプを損傷から守るという歴代パジェロのこだわりを、まったく新しいレイアウトで再現したのだ。

一方でそれらより早く、2023年のモビリティショーでは・・。

2023年のDXコンセプト。

「近未来のデリカD:5?」と話題になったDXコンセプトは、水平線と垂直線をT字に組み合わせたランプ・シグネチャー。今にして思えば、これは新型パジェロの予告だったのだろう。エクスフォース/デスティネーターの実車を見る機会がない日本のユーザーのために、「目慣らし」を提供してくれたと理解したい。

新型パジェロのT字ランプ・シグネチャーは、「シグネチャー」と呼ぶに相応しく特徴的だ。しかも、同じシグネチャーが前後にあるというのは、他社ではなかなか見ないこと。遠目にも目印になるに違いない。

しかしランプ・シグネチャーが目立つがゆえの問題も、ないわけではない。

前述のように、フェンダーから回り込む面でプロテクト感を表現しているわけだが、それが見えにくい。T字のランプ・シグネチャーが上に重なり、プロテクト感のテーマを半ば覆っているからだ。精妙な立体形状にシンプルなグラフィックスを輪郭線付きで重ね描きすれば、どうしたってグラフィックスのほうが見る人の視線を強く惹き付ける。

ランプ・シグネチャーを黄色で網がけしてみた。プロテクト感を表現するオレンジ色の網がけ部分とランプの黄色い網がけが重なっている。

9月2日に新型パジェロと初めて対面して、筆者の脳裏に最初に浮かんだ言葉が「足し算のデザイン」だった。フロントとリヤのデザインは、立体とグラフィックスの足し算。立体の表情を隠し味にしながら、グラフィックスを強烈な目印にした。表現に強弱を付けた巧みな足し算と言えるだろう。

次回の後編ではサイドビューに焦点を当てて、どんな足し算がそこにあるかを解剖してみたい。