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トライアンフ・タイガー900ラリープロ……1,975,000円
大排気量車でオフロードを走る
近年は大排気量のアドベンチャーモデルによりオフロード色を意識したモデルが多く投入されているようだ。各社から前後にスポークホイールを備え、かつフロントは21インチとするバリエーションが展開されているだけでなく、オフロード走破性を目的とした電子制御システムも搭載するなど本気度は高い。
こんな大排気量≒大パワー&決して軽くはない車体、のバイクでいったいどんなオフロードを走るのだろうか、などと危惧してしまうが、日本国内では想像しにくい、広大な砂漠や延々と続く山岳路も世界には多いわけで、またこういった大排気量オフロード車でのラリー競技も人気となっているなどの背景もあるだろう。
しかしトライアンフは決して一時期の流行りでこのモデルを展開したのではない。タイガーシリーズは既にツアラーとしての歴史が長いわけだが、2011年に既存のタイガー1050(前後17インチ)に加えて、新たにタイガー800シリーズを展開した時点で、19インチ仕様の他に21インチ仕様の「XC」も併売したのだから、先見の明があったと言えよう。トライアンフは他社に先駆けて、アドベンチャーモデルのバリエーションとしての大排気量オフ車を提案してきたわけだ。
GTモデルと共通の各部進化
ラリーモデルも、進化の内容は基本的にGTモデルと同様だ。独自のTプレーンクランクを持つエンジンのパワーは13馬力も上乗せされ、それでいて同時に燃費も9%向上、ワンタンクでの航続距離を伸ばしている。またシートヒーターやグリップヒーターの標準装備など快適性能の向上もまた共通だ。
またラリーモデルは前後のホイール径やサスペンションストロークが変わっているだけでなく、サスペンションそのものもGTのマルゾッキからショーワに変更され、調整機構も充実。さらにハンドルの位置もスタンディングなどオフロード走行で求められるライディングポジションが採りやすいような構成となっている。
しかし外装関係のアップデートは最小限で、注意深く見ている人でなければその違いは分かりにくいだろう。ただ、アドベンチャーモデルとは本来高い総合性能こそが魅力の核となるはず。いたずらに外装をリフレッシュすることなく、内容をしっかりと向上させることにした判断は素晴らしいと思う。
ハードルとするか魅力とするか
フロント19インチのGTプロは跨ってみるとルックスよりもコンパクトに感じられ、国産の同クラスアドベンチャーモデルと変わらない接しやすさやハードルの低さがあるが、しかしこちらラリープロはフロントが21インチとなっていることや、前後のサスペンションストロークが大きいことによりシート高がかなり高い900mmという設定で、かなり大柄なバイクとなっている。サスペンションは初期沈みが大きく、実際に跨ればシート高の数値よりは足が届くが、身長185cmの筆者でも「これはちょっと高いな」と感じ、特に今回の試乗のようにストリートを中心に走るにはハードルになり得る。
一方で、足つきを最需要項目としないのであれば、とにかく見晴らしが良いのは魅力だ。巨大な乗り物に乗って、四輪車を見下ろしながら走り回るのは気持ちのいい経験ではある。ハンドル幅も広めでスリ抜けはしにくいため、あくまで堂々とストリートを走る感覚は四輪のSUV的とでも言おうか。オフ車をストリートで乗るのは宝の持ち腐れに感じてしまうこともあるかもしれないが、これはこれで楽しい世界観があるのだった。
またもちろん、オフロード路に踏み入れれば本領を発揮する。今回の試乗ではないが、発表時に行われたオフロードでの試乗会ではかなり本格的なオフロード路を走り回ったが、タイヤがオフロード向けのものに換えられていたこともあって、こんな巨体にもかかわらず走り出してすぐにかなり積極的に振り回す楽しさに魅了されていた。
確かにそのサイズ感はかなり大きいし、GTプロの「意外にコンパクト」に対して、こちらラリープロは「意外に大きい」と逆の印象となった。ただそのサイズ感に慣れれば、それはハードルではなく魅力となるだろう。
個性的なTプレーンはオフロードでこそ活きる??
2013年から、タイガーシリーズはトライアンフが得意とする120°クランクのトリプルから、新たにTプレーンクランクというものを導入した。これは3気筒の爆発を不等間隔とすることでパルス感を得て、3気筒というトライアンフのアイデンティティはそのままにトラクション感の優れたアドベンチャーモデル向けエンジンとした結果だ。
この新型もまたこのTプレーンクランクを継承していて、その独特の排気音や力強いトルク感はとても個性的。公道における実際のトラクション感は120°クランクに対して体感できるレベルで違うかと言えば、特殊なオフロードの場面に持ち込まないとそれがわからないかもしれないが、少なくともイメージとしては爆発一つ一つで路面を蹴飛ばしている感覚は確かに感じられる。GTモデルの方でのTプレーンクランクは個性のアピールとしての存在感に思えるが、ラリーモデルにおいては本当にオフロードでの走行性能に影響もしているのだろう。オフロードを得意とするジャーナリストの間では「やはり違う!」との声も多かった。
それでもラリーを! というアナタに
兄弟車のGTモデルは非常に優秀なバイクだと思う。速くて、快適で、ハードルも高くなく、様々なシチュエーションや様々なライダーに懐深く対応してくれる名車だ。対するこちらラリーモデルは、明確にハードルが上がり、そしてオフロード能力を高めた各種設定は特殊な環境に持ち込まなければ存分に味わう/楽しむことは難しいだろう。
結果、かなりニッチな乗り物だと言える。文頭に戻ってしまうが、国内のツーリング環境においてラリーモデルがGTモデル以上に楽しめる場面はなかなか想像しにくい。しかしだからこそイイ!という見方もあるだろう。GTよりも高いアイポイントで悠々とツーリングするのは気持ちが良いだろうし、もしくは最近はこういったビッグオフローダーでオフを走る走行会なども増えてきた。「いつかは海外ツーリング」という夢も抱かせてくれそう。巨大な大排気量車で土煙を上げながら不整地を疾走するなんて、なかなかで
きない体験であり本当にそういった場面になればGTとは段違いのオフ走破能力が楽しめるはずだ。
マルチに使うならGTの方をお薦めするが、「逆にGTは優等生過ぎる」というアナタには、この「ラリー」を贈りたい。
足つき性
カラーリング以外の部分ではGTモデルと外装類の変更は同様。シュラウド部のリブの入り方や、クチバシ部の凹凸が一部違う程度で、よく見ないとわからないだろう。最大の違いはフロントに21インチホイールを履いたことによる車格の大型化。そのぶん足つきが犠牲になるのは致し方ないが、とはいえサスペンションが良く動くため跨ってしまえば予想よりは足が届くというイメージだ(筆者185cmで若干カカトが浮く程度)。ポジションはハンドルバーが幅広くなりスタンディングがしやすくなって、またステップ位置が若干下げられてはいるものの、今回のようにストリートを走っていても違和感はなかった。
ディテール解説
先代よりも幾分シャープになったクチバシ部のデザイン。フォグランプは標準装備で、点灯するとすぐ手前のあたりが明るくなる。スクリーンは手動で5段階調整可能。
チューブレスのスポークホイールを採用する21インチフロントホイールがラリーの最大の特徴。サスペンションはSHOWA製でストロークは240mmを確保。試乗車はオフロード走行向けにタイヤを交換してあった。
独自のTプレーンクランクを引き継ぐ887ccエンジンは先代から排気量を変えずに13馬力も上乗せし、燃費も9%向上させている。オフロード走行向けの電子制御設定も充実。
その大切なエンジンを保護するべく、エンジン下には非常に堅牢なアンダーガードを標準装備。そのせいかどうかはわからないが、ストリートで走っているとエンジンの熱が足元に当たる感覚もあった。
オフロードとなるとアフリカツインのようにリアに18インチを設定する場合もあるが、タイガーは17インチをチョイスし足つきも確保。スポークホイールだが安心のチューブレスだ。
SHOWA製サスのストロークは230mmを確保してオフロードに対応。電子制御サスのGTに対してこちらは手動で調整可能。クイックシフターも備える。
Tプレーンクランクらしい元気で個性的な排気音を奏でる排気系。乗っている本人には音が良く届くのだが、対外的にはかなり消音されている。リブが立ったデザインがシャープで魅力的。
出荷時には振動防止でゴムが貼ってあるステップはオフロード走行時にはブーツとの喰いつきのために外すことも可能。ペダルは先端が可倒式になりオフロード路に対応。素材はGTがスチールだったのに対して、こちらはアルミだ。
快適性が向上したシートはGTと同様。さらにシートヒーターも標準装備され快適性を向上させている。シート下スペースは限られているが、ETCユニットぐらいは入るだろう。なおシートは20mm下げられる調整機能も持っている。
跨るとGTよりもかなり大きく感じるのだが、実は全幅は935mmと僅か5mm増である。それでもどこか堂々とした感覚があるのがラリープロだ。
左のスイッチボックスには各種モードやクルーズコントロール等の設定のため数々のボタンが並ぶ。ホーンボタンの奥にあるジョイスティックは自由自在にメーター内情報にアクセスできて便利だ。なお様々な情報に入り込み過ぎて迷子になってしまったら、右側にあるホームボタンで最初に戻れるのも安心。これだけ色々あるのにホーンやウインカーという大切なボタンの押しやすさが損なわれていないのは好印象。なおグリップヒーターも純正装備だ。
GTと同様のメーターはテーマが選べて表示内容を好みに合わせて変更可能。大きなカラーディスプレイではあるが、通常はスピードとタコ、モードなど表示は比較的簡素で直感的に見やすい。設定画面を開くとメインの表示は左にズレて、それぞれの項目に進むことができる。
TIGER 900 RALLY PRO/主要諸元
タイプ:水冷並列3気筒DOHC12バルブ 排気量:888cc ボア:78.0mm ストローク:61.9mm 圧縮比:13.0:1 最高出力:108 PS / 106.5 bhp (79.5 kW) @ 9,500rpm 最大トルク:90Nm @ 6,850rpm システム:マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル エグゾーストシステム:ステンレス製3 into 1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレス製サイレンサー 駆動方式:Oリングチェーン クラッチ:湿式多板 トランスミッション:6速 フレーム:チューブラースチールフレーム、サブフレームにボルト付け スイングアーム:両持ち式、鋳造アルミニウム合金 フロントホイール:スポーク、チューブレス、21 x 2.15 in リアホイール:スポーク、チューブレス、 17 x 4.25 in フロントタイヤ:Bridgestone Battlax Adventure 90/90-21 リアタイヤ:Bridgestone Battlax Adventure 150/70-R17 フロントサスペンション:Showa製45mm径倒立フォーク、プリロード&リバウンド&コンプレッション手動調整機能、トラベル量240mm リアサスペンション:Showa製リアサスペンションユニット、プリロード&リバウンド手動調整機能、ホイールトラベル量230mm フロントブレーキ:320mm径ツインフローティングディスク、Brembo製Stylema 4ピストンモノブロックキャリパー。ラジアルフロントマスターシリンダー、マルチモードABS、コーナリングABS リアブレーキ:255mm径シングルディスク。 Brembo製シングルピストンスライディングキャリパー、マルチモードABS、コーナリングABS インストルメントディスプレイとファンクション7インチフルカラーTFTメーターパック、My Triumphコネクティビティシステム ハンドルを含む横幅:935mm 全高(ミラーを含まない):調整式スクリーン 1452 -1502mm シート高:調整式 860 - 880mm ホイールベース:1551mm キャスターアングル:24.4 º トレール:116.8mm 燃料タンク容量:20L 車体重量:228kg サービス間隔:6,000キロ点検/12ヶ月点検