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トライアンフ・タイガー900GT Pro……1,895,000円
タイガーシリーズとは??
トライアンフの「タイガー」はいわゆるアドベンチャーカテゴリーが本格化する前から、3気筒を積むというトライアン独自の路線のデュアルパーパスブランドとして展開されていた。しかし当初はオフロードはさほど重視されておらず、フロントホイールも17インチとするなど、ドゥカティのムルチストラーダのようなオンロード向けツーリングバイクという性格と言えただろう。
その後、800の登場と共に前輪が大きくなり、19インチに加えよりオフロード色を強めた21インチ仕様も登場。排気量もアップし、現在の900シリーズへと繋がっている。
900も当初はロードモデルと同様の120°クランクによる等間隔爆発エンジンを搭載していてトライアンフ「らしさ」をアピールしていたが、2020年にはアドベンチャーモデルらしい、そしてオフロードでトラクションを得やすいとされる「Tプレーンクランク」を採用。トルク変動のあるキャラクターと独特の吠えるような排気音を得た。
今回のアップデートはエンジンパワーの増大やシートの快適性向上、グリップヒーター&シートヒーターの標準装備とアドベンチャーモデルに求められる確かな進化をしているわけだが、ルックスはシュラウド部のフィンの変更、クチバシ部のわずかな形状変更ぐらいのもので、先代とほとんど区別がつかない。かなり玄人好みのモデルチェンジと言えよう。なおフロント21インチの「ラリープロ」も同時にモデルチェンジしている。
パワーアップしたTプレーンクランク
独特な爆発間隔を持つTプレーンクランク。90°/90°/180°位相でかつ爆発順番は1/3/2だと聞かされても「んん? ……あぁ。ン、そう、か?」と理解するには時間がかかるが、最近では一般的となった270°クランクのパラツインのように、爆発間隔を散らすことによってトラクションを稼ごうという考えは同じだろう。独特のフィーリングは個性的だが、トライアンフのロードモデルに搭載される120°クランクも魅力的なため、好みはわかれるかもしれない。
このエンジンが、今回のモデルチェンジで13馬力もパワーを上乗せし、さらに燃費は9%も伸ばしたというのだから素晴らしい。各種環境規制が厳しい昨今でこれだけの伸びしろがあったとは驚きである。それでいて高回転化して常用域が犠牲になったとか、燃調が薄く感じるといった感覚もなく、ひたすらパワフルで速い。
こちらGTプロの方はフロント19インチでオンロード向けタイヤが標準装備されることもあって、基本的には舗装路走行が前提。108馬力を楽しむにはやはり舗装路が適しているだろう。走り出しはとてもスムーズで2気筒のようなゴツゴツ感はなく、クラッチミートも素直で4気筒的な粘りを見せる。それでいて常にTプレーンクランクの鼓動感があるのが個性的だ。
3気筒は2気筒と4気筒の中間のフィーリング、と当たり前のような書かれ方をされる(してきた)が、このTプレーンクランクはその中でも2気筒寄りかもしれない。そもそもこういったアドベンチャーモデルはスポーツモデルほど高回転域を使わないから、より2気筒的フィーリングの回転域を使うことが多いからかもしれないが、それでもドコドコ、あるいはガオガオとしたような唸る排気音がよく耳に届く。
回転数を増していけば、100馬力を超えるエンジンなのだから当然速い。特に中回転域から高回転域へと繋がっていくところは4気筒のようなパワーバンド待ちもなければツインみたいな回し切ってしまう感覚もなく、とにかくパワーがあふれ出て続けタマラナイ。それでいて、今回の試乗ではストリートを走る距離が長かったのだが、交通量が多い場面でも持て余すような感覚はなかったのが嬉しい。ひたすらに従順で、必要な動力を思いのままに発揮させ易い完成度には舌を巻いた。
意外やコンパクトなサイズ感
頂点アドベンチャーモデルの巨大化が進み「これはちょっとハードルが高いのでは?」と思ってしまうモデルもある一方、タイガー900はいわゆる「ちょうどいいサイズ感」が求められる中間排気量(900を中間と呼んでい良いのかはわからないが)。そんなこともあって、車体サイズも跨り走り出せば見た目ほど大きく感じることはなく、例えば国内のVストローム800などと同じような感覚だ。
サスペンションが良く動くこともあるし、車体の足を降ろすあたりがスリムにできていることもあるだろう。足つきはこういったモデルのなかでは良好といえ、その部分でのハードルは低めだ。ハンドルの位置はスタンディングも考慮されているラリープロとは違い、あくまでロードモデルとしての適性位置にあり極自然なライディングポジションを作り出している。
これだけ大きく見えるし、900ccと聞くとストリートでは持て余しそうというイメージもあるかもしれないが、しかし今回の試乗で「過ぎる」と感じる場面は本当に一度もなかった。ハンドル幅も適正で無理なく交通を捌いていけるし、ハンドル切れ角も大きく意外やUターンも難しくない。アドベンチャーモデルとしては足つきも良いため低速で走り続けるにもストレスはなかった。日常での使い勝手という意味では国産車同等か、あるいはそれ以上に馴染みやすいと感じる場面すらあったのだった。
ワンタンク400キロの実力
これだけの実力を持ったモデルがモデルチェンジしたのに、目に見える変更が少ないのは若干寂しく感じるファンもいるかとは思う。しかしその多方面にわたる実力アップはむしろスキモノには刺さることだろう。パワーアップはもちろんのこと、燃費アップによるワンタンク航続距離の延長はツーリングライダーにとっては素晴らしいアップデートだし、シートの快適性向上やグリップヒーター/タンデム部含むシートヒーターの標準装備は距離を走る人こそそのありがたみがわかる。タイトルの「コンフォート&パワー」、まさに今回のモデルチェンジはアドベンチャーモデルが採るべき進化の方向に思えた。
ルックスこそあまり変わっていないものの、わかる人にはわかる、走る人こそ嬉しい、そんな進化を遂げたタイガー900。これまではタイガーシリーズ、あるいは海外メーカーと縁がなかったようなライダーにも、自信を持って薦められるパッケージである。
足つき性
スタイリング的には先代から変わった部分は本当に少なく、マニアやオーナーであってもシュラウド部やクチバシ部のわずかな変更は実物を見ないとわからないかもしれない。今回のモデルチェンジはルックスではなく、中身の確かな進化を優先したということだ。こちらは「GTプロ」というフロント19インチのオンロード向けバージョンであり、実車は跨るとかなりコンパクトと言える。3気筒エンジンとはいえ足を降ろす場所は適度にスリムで、足つきは国内のアドベンチャーモデルと変わらない印象だ。なお足を降ろした時にシートのカドが太ももの内側に若干食い込む感じもなくはないが、それは走っている時の快適性を優先したシート形状ゆえだ。
ディテール解説
GTプロのグレードはオンロード向けに前後キャストホイールを採用。洗車がしやすいというのもキャストホイールの利点だ。ホイール径はアドベンチャーモデルで一般的な19インチで、メッツラーのツアランスネクストを標準装備。倒立のフロントフォークはマルゾッキ製としている。オンロード向けとは言えストロークは180mmと余裕を持たせていてあらゆる路面に対応。それでいてストリートにおいても全く不自然さはなかった。
独特のTプレーンクランクを持つエンジンは、3気筒ながらトライアンフのロードモデルの120°クランクとはまるで違う性格を見せ、より2気筒的なフィーリングに近い。今回のモデルチェンジでは13馬力もパワーを上乗せしただけでなく、燃費を9%もアップさせているのが大きなトピック。クラッチのつながり方や電スロの精度など、本当に良くできたパッケージである。
17インチのリア周りもアドベンチャーとしては一般的な設定だが、タイヤの幅を150としているのはタイガーの接しやすさに貢献しているだろう。近年のアドベンチャーでは170幅も増えてきたが、この細身のリアタイヤが軽快な運動性を生んでいるだろうし、さらにはUターンなど小回りもしやすくしていると感じる。なおエアバルブが横向きの設定で空気圧チェックがしやすかったのも嬉しいポイント。
特徴的なサイレンサーからはTプレーンクランクらしい、バラツキのあるエギゾーストノートが発せられる。トライアンフの英語版リリースには「BARK」(吠える)と記されていたが、まさにその通り、元気にアクセルを開けると吠えるかのような排気音だ。ライダーはその音がよく耳に届くが、撮影していたカメラマンによる「けっこう静かですよ。整った良い音です」とのことだから対外的にはうるさくないようで一安心。
純正でキャリアがついているのはアドベンチャーモデルでは珍しくないこと。アクセサリーでボックスなどを装着できる。テールランプが一段下がっているのは荷物を括り付けた際に見えなくならないように、あるいは大きめなボックスをつけた時にも背の高い四輪車から見えるようにという、被視認性を確保するためだろう。好ましい設定に思う。
GTプログレードはリアのマルゾッキサスが電子制御となる。二人乗りや荷物の積載といった使用場面によって、工具なしで手元の操作にて調整可能だ。リアのストローク量は170mmを確保。
ステップにはゴムが貼られて快適性を確保。クイックシフターも標準装備で、低回転域で
もスムーズなシフトが可能だった。ペダルはシフトもブレーキもスチール製。欧州ライダ
ーは長距離や不整地も含めかなりハードに使うことが多いようで、アルミにせずにスチー
ルの設定にしたのは転倒しても折れることなく曲げ戻せるためだろう。高級感や軽さより
も実をとるシブい設定である。
左右のヘッドライトが繋がったようなデザインは先代から引き継ぐ。クチバシ形状は、先代では中央部が凸形状だったのが今回は凹形状に代っているのだが……よく見ないとわからない程度の違いだ。ヘッドライトの明るさはバッチリで、さらに左右に追加されたフォグランプを点灯すると手前の路面がさらに明るく照らされた。
パフォーマンスアップと共に快適性アップも今回の大きなテーマ。それはライダーだけでなくパッセンジャーにおいても同様で、グリップヒーターに加えタンデムシート含めたシートヒーターも標準装備した。さらに車体サイド部に電源アウトレットを設けることで、電熱ウェアなども使えるよう配慮されている。
更なる快適性向上を追求したシートは実際に大変に快適だった。いくらか硬めな印象もあったのだが、着座位置に幅があり、また前方も足つきのために極端に絞っていないおかげで乗車姿勢の自由度も高い。タンデム部はフラットで、タンデムライダーの快適性だけでなく荷物の座りの良さにも貢献。キャリアは大きなグリップが左右に伸び、さらにそのグリップの下には荷掛けフックも備える。なおシート高は20mm下げられる調整機構もあり。
シートを外す際はシートヒーターのケーブルが繋がっているため注意。シート下スペースは少なく、ETCの搭載は車載工具スペースを活用するようだろう。
左側のハンドルスイッチは各種モードやクルコンなど様々な設定をするためにスイッチは多めの印象。右下のジョイスティックにより各種設定はやりやすいが、中心を押すのはちょっと難しい。なお複雑な設定に迷い込んだ場合は右スイッチのホームボタンを押せば最初に戻れるのがありがたい。グリップヒーターは標準装備。
低めであくまでロード向けのポジションであるハンドル。幅も適正で交通量の多い所でも難儀することはなかった。ナックルガードも標準装備なのだが、しっかりとバーエンドまで接続しているタイプのためもしもの転倒時にはレバー類をある程度守ってくれるだろう。なおタンクは20Lを確保していて、今回向上した燃費と共にワンタンク航続距離は400キロ以上を見込める。
表示方法は任意で変更することもできるが、標準はこういったシンプルな設定。速度、ギアポジション、走行モード、燃料計が見やすく配置され、アナログスタイルのタコメーターがそれを囲む。気温や時計も常時表示されるが、点検を促すスパナマークが出ると時計表示を邪魔するのが唯一気になった部分。速やかに点検を受けて下さい、ということだろう。各種設定をする際はメインの表示が左に移動し、右側に現れた各項目を左スイッチボックスのジョイスティックなどで設定できる
リアサスは手元で調整できる電子調整式だが、フロントはマニュアルだ。純正設定のままで不満はなかったが、微調整したい場合は工具不要でカチカチと回すことができる。
トライアンフ・TIGER 900 GT PRO/主要諸元
タイプ:水冷並列3気筒DOHC12バルブ 排気量:888cc ボア:78.0mm ストローク:61.9mm 圧縮比:13.0:1 最高出力:108PS / 106.5bhp (79.5kW) @ 9,500rpm 最大トルク:90Nm @ 6,850rpm システム:マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル エグゾーストシステム:ステンレス製3 into 1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレス製サイレンサー 駆動方式:Oリングチェーン クラッチ:湿式多板 トランスミッション:6速 フレーム:チューブラースチールフレーム、サブフレームにボルト付け スイングアーム:両持ち式、鋳造アルミニウム合金 フロントホイール:キャストアロイ, 19 x 2.5 in リアホイール:キャストアロイ, 17 x 4.25 in フロントタイヤ:Metzeler TouranceTM Next, 100/90-19 リアタイヤ:Metzeler TouranceTM Next, 150/70R17 フロントサスペンション:Marzocchi製45mm径倒立フォーク、リバウンド&コンプレッション手動調整機能、トラベル量180mm リアサスペンション:Marzocchi製リアサスペンションユニット、プリロード&リバウンド電子調整機能、ホイールトラベル量17mm フロントブレーキ:320mm径ツインフローティングディスク、Brembo製Stylema 4ピストンモノブロックキャリパー。ラジアルフロントマスターシリンダー、マルチモードABS、コーナリングABS リアブレーキ:255mm径シングルディスク。 Brembo製シングルピストンスライディングキャリパー、マルチモードABS、コーナリングABS インストルメントディスプレイとファンクション7インチフルカラーTFTメーターパック、My Triumphコネクティビティシステム ハンドルを含む横幅:930 mm 全高(ミラーを含まない):調整式 1410 - 1460mm シート高:調整式 820 - 840mm ホイールベース:1556mm キャスターアングル:24.6 º トレール:102.7mm 燃料タンク容量:20L 車体重量:222kg サービス間隔:6,000キロ点検/12ヶ月点検