【ホンダ試乗記】オンロードの楽しさは極めつけ。XL750トランザルプは新しい時代のデュアルパーパスだ

2023年にXL750トランザルプが発売された。オン・オフ両方で高い走行性能を持つ非常に魅力的なバイクである。外装を見てミドルクラスのアドベンチャーバイクだと思っている人も少なくないようだが、XL750トランザルプは本格的なアドベンチャーではない。ホンダとしてはXLシリーズの流れをくんだデュアルパーパスを目指して開発している。具体的にどんな部分が違うのか。そして実際に使ったらどんなマシンなのかを紹介させていただくことしよう。

PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヨーロッパではロングセラー


マシンの紹介をする前にXL750トランザルプがどんなマシンなのかを説明しておこう。ここで忘れてはならないのが旧トランザルプシリーズのオーナーがメチャクチャに多いヨーロッパのライダーたちの話しだ。
トランザルプが最初に登場したのは1980年代。初代のXL600はヨーロッパで高い人気になり、改良された歴代モデルも含めて愛され続けたロングセラーだった(2010年代で一度生産が終了)。その理由は安くてよく走り、どんな用途にでも使えるから。
ヨーロッパのライダーはこういうコスパの良いミドルクラスのバイクが大好きで、ロードスポーツでもこのクラスのバイクが人気なのだが、トランザルプの場合はオフの走破性が高い万能なバイクということで更にお得感が高くなった。そんな旧モデルに乗るファンたちに最新型トランザルプの印象を聞いてみると賛否両論はあったが、総合すると「過去のトランザルプとは違うバイクになった」と考えているようである。

車体が少し大きくなったことや(車体サイズは以前のモデルから少し大きくなっている)、排ガス規制、装備の充実などによって価格が上昇していることなど色々な理由があるようだが、話を聞いていてアドベンチャー感が漂うデザインも関係しているのではないかと思った。旧トランザルプはオンにもオフにもカテゴライズされていないデザインだった。逆に言えばライダーが使い方を自由に決められるような雰囲気を醸し出していたのである。そんな旧モデルに乗るライダーたちからすると、トランザルプは今風のアドベンチャーバイクとなったように見えるのだろう。実際には後述するようにトランザルプのDNAはしっかりと受け継がれているのだが。

ホンダ・XL750トランザルプ……1,265,000円


それじゃあということで新型トランザルプに乗っているオーナーたちに話しを聞いてみると、他メーカー同クラスのバイクからの乗り換えが多い。そういう人たちが乗り換えたキッカケは「もっと快適で楽しく旅ができそうだったから」だと言う。特に期待しているのはオフロードよりもオンロードでの走りだった。


XL750トランザルプはフレームがダイヤモンド。つまりダウンチューブがない。ここが他のビックオフローダーやアドベンチャーモデルとは大きな違い。オフも走れるけれど基本的にはオンロードの走りや快適性が重視されたマシン作りが行われたからである。
それでいてオフロードを楽しむこともできる性能が与えられている。

快活でスポーティなエンジン


「このバイクは面白い」と最初に思ったのは大きくスロットルを開けたときだった。XL750トランザルプには、ホーネット750と同じパラレルツインの754ccエンジンが搭載されている。このエンジンが実にスポーティで気持ちの良い回り方をする。3500rpmくらいからの加速はとても元気。シャープな吹け上がり方は、ツインとは思えないほどである。
208kgの車両重量に91psのエンジンだから加速力もなかなか素晴らしいのだけれど、これがストリートでギリギリ使い切れる範疇にある。
街中では中速域の鋭い領域で機敏に走ることができるし、高速道路の合流などでは高回転での気持ちの良い伸びを楽しむことができる。
ちなみにツインではあるが鼓動感などは特に強く感じない。パワー感を楽しむエンジンである。

ディテール解説


と元気なフィーリングのことばかり書いてしまったが別に急かされるような特性ではない。ゆっくり走っているときは従順で扱いやすくて低回転からスロットルを開けても過敏な反応をしない。走りはじめたときは一瞬低回転でのトルクがないような感じもしてしまったのだが、これはスロットルの味付けによるもので、スロットルを大きく開ければトルクも出て力強く加速していく。当たり前の反応なのだが、このあたりのセッティングが緻密に詰められているから、街中でも疲れが少なくてライダーの思ったとおりに走ってくれる。


ちなみに試乗したマシンにはオプションのシフターも装着されていて、これが低回転から正確に作動して気持ちよくシフトすることができた。高回転が気持ち良いトランザルプのエンジン特性にこのシフターが組み合わされると非常に気持ちよく加速していくことができる。全開加速していくときの気持ちよさが1割増しになる。

ロードスポーツよりも楽しいハンドリング?


前述したようにトランザルプはオンロードでの走りを考えたデュアルパーパスである。こういったモデルの場合、フロントに19インチホイールを採用することが多いのだがトランザルプは21インチ。オフも走ることを考えてのチョイスなのだが、この21インチホイールのおかげでコーナーリングも実に楽しい。

テスターの後藤は大径フロントホイールのバイクが基本的に好きなのだが、トランザルプの場合は21インチホイールの理想的なコーナーリング性能を実現しているように思う。特に前後サスペンションのセッティングが絶妙。オフロードを想定したバイクの場合は、オンロードで激しく走ると姿勢変化が大きすぎて走りにくかったりすることもあるのだけれど、トランザルプは攻め込んでいってもこういったネガを感じない。ハードにブレーキングしたときに若干リアが持ち上がり気味になる程度である。ブレーキをリリースしてバンクさせれば車体が気持ちよくバンクしていくし、バンクしてしまえば大径フロントタイヤの安心感は絶大。路面が多少荒れていても不安感はない。もちろんハンドリングに関してはライダーの好みや乗り方によっても多少評価が変わってくるはずで、ガッツリブレーキをかけたままコーナーに入っていくような乗り方は似合わないし、やっても楽しくない。けれどトランザルプが想定するような色々な道を走るのであれば、このハンドリングがベストなのだと思う。

ちなみに今回オフロードは走っていないが、これだけ乗りやすい車体だったら多少のオフロードはいけそうな気がする。そんな風にライダーに思わせてくれるのもトランザルプの良いところである。

短い試乗では会ったがとても面白いバイクだった。単に乗りやすいとか万能というだけではなく、オンロードを走るのが楽しくなるハンドリングとエンジン特性に夢中で走り回っていた感じだ。
オンロード100%というライダーにも是非一度トランザルプに乗っていただきたいと思う。街中を走ってみただけで、その楽しさがすぐ理解できることだろう。

足つき性&ポジション(伸長178cm 体重78kg)

上体が起きた自然なポジション。オンでもオフでもマシンをコントロールしやすい。
シート高は850mm。車体サイズからイメージするほど足つきは悪くない。
テスターの伸長だと両足がつく。車体もさほど重くないのでビックアドベンチャーのような緊張感はない。
両足をついたときにカカトは微妙に離れている程度。車重は208kgだから仮に傾いても支えるのに苦労するようなことはなかった。

ディテール

フロントタイヤは90/90-21。メッツラーのKAROO STREETはオンロードでも高いグリップ力を発揮しロードノイズも聞こえない。
水冷4ストロークOHC(ユニカム)4バルブ直列2気筒で排気量は754cc。最高出力は91ps/9500rpm。最大トルクは7.6kgm/7250rpm。87.0×63.5mmのショートストローク設定。
シートはスポンジが厚めで乗り心地は良好。長距離の走行も苦にならない。
シート下にはバッテリーとヒューズボックス。書類などを収納できる小さなスペースがある。
フロントブレーキはΦ310mmディスクにピンスライド式2ポット式キャリパーをダブルで装備している。制動力はオンロードのスポーティな走りでも十分。
高回転ではツインらしからぬ快音を奏でるマフラー。
リアタイヤは150/70R18。ゴールドアルマイトされたリムを採用したスポークホイール。
左のスイッチボックスにはホーンとウインカースイッチに加えモード切替。十字型のスイッチではHonda RoadSyncのコントロールを行うことができる。スマートフォンをBluetoothで連携するとナビや音楽アプリなどを調整でき、ヘッドセットを使用すればライダーの音声によるコントロールも可能だ。
右のスイッチボックスに配置されているのはスタートとキルスイッチのみ。
オンロードの操作がしやすいハンドル形状。オートキャンセルウインカーやUSB Type-Cなども装備されている。
防風効果が高いスクリーン。コーナーを攻めるときでも気にならない。
5インチTFTフルカラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイを採用。4パターンの画面表示と2色の背景色を任意で選択することができる。
荷物を搭載しやすいアルミキャリア。テールランプとウインカーはLEDを採用。

主要諸元

通称名:XL750 TRANSALP
車名・型式:ホンダ・8BL-RD16
全長×全幅×全高(mm):2,325×840×1,450
軸距(mm):1,560
最低地上高(mm)★:210
シート高(mm)★:850
車両重量(kg):208
乗車定員(人):2
燃料消費率(※6)(km/L):
国土交通省届出値 定地燃費値(※7)(km/h)…34.5(60)<2名乗車時>
WMTCモード値★…(クラス)(※8)22.8(クラス3-2):<1名乗車時>
最小回転半径(m):2.6
エンジン型式・種類:RD16E・水冷 4ストローク OHC(ユニカム)4バルブ
直列2気筒
総排気量(㎤):754
内径×行程(mm)87.0×63.5
圧縮比★:11.0
最高出力(kW[PS]/rpm):67[91]/9,500
最大トルク (N・m[kgf・m]/rpm):75[7.6]/7,250
燃料供給装置形式:電子式<電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)>
始動方式★:セルフ式
点火装置形式★:フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式★:圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L):16
クラッチ形式★:湿式多板コイルスプリング式
変速機形式:常時噛合式6段リターン
変速比:
 1速3.000
 2速2.187
 3速1.650
 4速1.320
 5速1.096
 6速0.939
減速比(1次★/2次):1.777/2.812
キャスター角(度)★/トレール量(mm)★:27°00´/111
タイヤ:前…90/90-21M/C 54H、後…150/70R18M/C 70H
ブレーキ形式:前…油圧式ダブルディスク、後…油圧式ディスク
懸架方式:
前…テレスコピック式(倒立サス)
後…スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式:ダイヤモンド

■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
■製造事業者/本田技研工業株式会社

※6 燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞など)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
※7 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
※8 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。

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