いろいろな面で「意外の連続」で、ノルマ1000kmの達成は楽勝‼ スズキ・Vストローム250SX 1000kmガチ試乗1/3

姿形は別物でも、基本的なキャラクターはエンジンとフレームを共有するジクサー250の延長線上だろう。試乗前の筆者はそんな予想を立てていた。ところが、Vストローム250SXの乗り味はスポーティで抑揚に富んでいて、ジクサー250の気配はどこにも見当たらなかったのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキ・Vストローム250SX……569,800円

近年のVストロームシリーズの慣例に従う形で、フロントマスクは1988年型DR-Zに端を発する“クチバシ”デザインを採用。ボディカラーは、黄、黒、橙の3種。

ジクサー250とはまったく異なるキャラクター

日本での発売開始から半年以上が経過したものの、僕がVストローム250SXに試乗するのは今回が初めて。そして車両を引き取る前の僕はこのバイクに対して、足まわりや外装、ライディングポジションなどが変わっても、主要部品となる油冷単気筒エンジンとダイヤモンドタイプのスチールフレームはジクサー250用がベースなのだから(ただし、シートレールやスイングアームは専用設計)、基本的な乗り味はジクサー250の延長線上だろう、と考えていた。でも意外なことにVストローム250SXは、ジクサー250とはまったく異なるキャラクターに変貌を遂げていたのだ。

エンジンの主張と操る手応えに感心

最初に感じた違いは車格。軽くて小さなジクサー250と比較すると、Vストローム250SXは重くて大きい。アドベンチャーツアラーとしての資質を追求した結果として、車重が10kg増えて軸間距離が95mm伸び、シート座面を35mm高く設定し(ジクサー250は154kg・1345mm・800mm、Vストローム250SXは164kg・1440mm・835mm)、フロントタイヤを17→19インチに大径化しているのだから、それはまあ当然なのだが、まさかここまで異なるとは。

続いて述べたい2台の違いは、エンジンフィーリング。過去にジクサー250を試乗した際の僕は、滑らかさと扱いやすさに感心しながらも、抑揚や刺激という面ではいまひとつ……という印象を抱いたのだが、Vストローム250SXからは単気筒ならではの鼓動とパンチが伝わって来る。ここぞという場面でのキック力は十二分だし、低中回転域を使ったまったり巡航でも高回転域を維持したスポーツライディングでも、エンジンの明確な主張を感じるのだ。

油冷単気筒エンジンはジクサー250から転用。最高出力:26ps/9300rpm、最大トルク:2.2kgf・m/7300rpmという数値に変更はない。

これはもう、カムシャフトや燃料噴射マップ、ギア比などが刷新されているに違いない……と思いきや、Vストローム250SXで行われた変更はエアクリーナーのインテークカバーを廃止しただけとのこと。何だか腑に落ちない話だが、もしかするとジクサー250も2023年の仕様変更時に(過去に当企画で取り上げたのは2022年型)、パワーユニット関連で何らかの見直しが行われたのかもしれない。

LEDヘッドライトはネイキッドのジクサー250と共通。既存のVストローム250にはやや劣るものの、ウインドスクリーンはなかなかの防風効果を発揮。

そして3つ目の違いは、峠道でのハンドリングと手応え。ジクサー250はどんな状況でもスイスイ軽やかに曲がってくれて、その事実は裏を返せば、少々味気ないと言えなくもなかった。ところがVストローム250SXは、車格が大きくてスロットルやブレーキ操作による姿勢変化も大きいからだろうか(フロントフォークのストローク量は両車共通の120mmだが、リアのホイールトラベルは、ジクサー250:132mm、Vストローム250SX:143.7mm)、自分の意思で曲げている感や攻めている感が得やすいのだ。

いずれにしても、初体験のVストローム250SXは僕にとって意外の連続で、車格の大きさはさておき、抑揚に富んだエンジンフィーリングと操る手応えが明確なハンドリングには、かなりの好感を抱いた。だからだろうか、車両によっては試乗期間の後半で苦痛を感じる1000kmが、今回は楽勝だったのである。その詳細は第2回目で述べるので、以下の文章では今回の試乗で改めて難しさを実感した、ライダーの目線に関する僕の印象を記してみたい。

ライダーとしての目線の違い

冒頭で述べたように、Vストローム250SXは日本での発売開始からすでに半年以上が経過している。そしてこれまでに同業者から、“オフロードもイケる”、“既存のVストローム250はツアラーで、SXはスポーツバイク”などという話を聞いていた僕は、今回の試乗中にそこはかとない違和感を抱き、自分と他者の目線の違いを認識したのだ。

まずは“オフロードもイケる”の説明をすると、確かに、4輪が通れるダートなら普通に走れるし、車重が194kgでタイヤが前後17インの既存のVストローム250よりは全然イケる。でも前後サスストロークが超豊富でフロントに21インチタイヤを履くセロー250やCRF250Lのように、あるいは、かつてのスズキが販売したDR250Sやジェベル250XCのように、道幅が狭くて見通しが悪くて路面がガタガタの林道を楽しく走れるのかと言うと……、それはやっぱり難しい。つまり、前後サスストロークが超豊富とは言い難く、フロントタイヤが19インチのVストローム250SXの守備範囲は、トレールバイクほど広くはないのである。

続いて“既存のVストローム250はツアラーで、SXはスポーツバイク”という言葉に対する僕の意見を述べると、自宅から目的地までをとにかく快適に移動したいのなら、防風性能が高くて振動が少ない既存のVストローム250のほうが、間違いなく楽だと思う。とはいえ、ツーリングの目的がA点からB点への単純な移動ではなく、A点からB点に至る行程をじっくり楽しみ、途中でダートにも寄り道したいライダーの場合は、Vストローム250SXのほうがツーリングに向いている、と感じるんじゃないだろうか。

あら、何だか同業者に物申す?的な展開になってしまったが、バイクの見方は各人各様なのだから、僕は自分の意見が絶対に正しいとは思っていない。改めて考えると、僕の知人でエンデューロレースに参戦しているエキスパートなライダーは、Vストローム250SXの悪路走破性を必要十分と評価していたし、旅の鉄人として有名な賀曽利隆さんは、既存のVストローム250を近年の相棒にしているのだから。

そんなわけで今現在の僕は、インプレを書く際は自分の目線、趣向や技量を明らかにする必要があるような気がしているのだけれど、現実的な話として、すべての原稿でそれを記すのは不可能だろう。とはいえ、近日中に公開予定の第2回目では、ツーリングの途中で遭遇する峠道でスポーツライディングを楽しむのが大好きで、最近は林道にハマっているものの、技量はそんなにパッとしないライダーの目線で、Vストローム250SXの印象を記す予定だ。

本文では触れていないものの、56万9800円という価格もVストローム250SXの魅力。ちなみに、並列2気筒のVストローム250は64万6800円で、ライバルになりそうな2車、ホンダCRF250ラリーは76万4500円、KTM250アドベンチャーは76万9000円だ。

主要諸元

車名:Vストローム250SX
型式:8BK-EL11L
全長×全幅×全高:2180mm×880mm×1355mm
軸間距離:1440mm
最低地上高:205mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:27°/97mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:249cc
内径×行程:76.0mm×54.9mm
圧縮比:10.7
最高出力:19kW(26PS)/9300rpm
最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/7300rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.687
 3速:1.315
 4速:1.111
 5速:0.954
 6速:0.826
1・2次減速比:3.086・3.07
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:100/90-19
タイヤサイズ後:140/70-1
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:164kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:44.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:34.5km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…