目次
ヤマハ RZ350……1981年(昭和56年)2月発売 当時の価格:38万9000円
1980年(昭和55年)8月、水冷2ストローク並列2気筒エンジン搭載の250スポーツ「RZ250」が衝撃的にデビュー。同車は既存の2スト250ccクラスの常識を打ち破ったともいえる、先駆者的なモデル。
前身の2ストマシン「RD250」ではなく、市販レーサー「TZ250」の血統を引き継ぐRZ250は、鋭い加速力、強靭なブレーキ、オンロード車に初採用の高性能モノクロスサスペンションなど、これまでの2ストモデルにない「走る・止まる・曲がる」を高次元なレベルで実現。
水冷2ストローク並列2気筒ピストンリードバルブの247ccエンジンは、走行時の振動を限界まで抑制。やがて訪れるバイクブームで超人気となる水冷2スト250ccクラスの代表車として、2ストミドルスポーツの一時代を確立した。
RZ250発売のわずか半年後となる1981年(昭和56年)2月、RZ350が登場。RZ350はヨーロッパにて、すでに「RD350」の名称で先行リリース。暴力的ともいえる鋭い加速力を発揮したRD350(RZ350)は、欧州で「ポケットロケット」と呼ばれ大ヒットした。
エンジンは水冷2ストローク並列2気筒ピストンリードバルブ。エンジンの基本構造はRZ250と共通だが、ボア経をΦ54mmからΦ64mmに拡大し(ストロークは250と共通の54mm)、排気量を247ccから347ccにスープアップ。最高出力はRZ250の35馬力に対し、RZ350は45馬力までパワーアップ。
ミッションはRZ250と同じ6速で、各ギヤ比も共通。ただし排気量が異なるため、ファイナル(ドライブ&ドリブンスプロケット)はロングに変更。圧縮比は6.2。点火方式はCDI。キャブレターは350ccクラスとしては小径の、VMΦ26(250と同じだが内部パーツは一部変更)が採用されている。
RZ350は外装パーツのカラーデザインを除き、外観・フレーム・足周りはRZ250とほぼ共通。250との明確な違いは、フロントブレーキをダブルディスク化していること(RZ250はシングルディスク式)。
RZ350とRZ250の主な違い
RZ350 | RZ250 | |
排気量 | 347cc | 247cc |
ボア径×ストローク長 | Φ64mm×54mm | Φ54mm×54mm |
最高出力 | 45ps/8500rpm | 35ps/8500rpm |
最大トルク | 3.8kgm/8000rpm | 3.0kgm/8000rpm |
重量 | 143kg | 139kg |
最高速度 | 約187km/h ※ | 約160km/h ※ |
0-400m | 約13.1秒 ※ | 約14.8秒 ※ |
価格(発売当時) | 38万9000円 | 35万4000円 |
国内で発売開始されたRZ250は、生産が追い付かないほどの爆発的な人気を獲得。当時多くのユーザーが、RZ250の納車待ち状態。そんな中、RZ250のデビューから半年後、突如RZ350がリリース(当時は前ふりや噂のない、本当に“突如”の発売だった)。
RZ350は車検あり。RZ250は維持費の安い車検なしとはいえ、車両価格の差はわずか3万5000円。予約していたRZ250をキャンセルし、RZ350を予約し直す人も多数。250を買ったばかりの人が、「もう少し待てばよかった」と落ち込んだり、買ったばかりのRZ250を売却してRZ350を購入するなんて話も珍しくなかった。
RZ250よりも100cc増したRZ350は、低速トルクが大幅に向上
RZ250は低速トルクが細くてピーキーなエンジン特性なため、低回転域を多用する街中走行では半クラッチを多用する必要があった。しかし排気量を100cc(247ccから347cc)アップしたRZ350は、低速トルクが大幅に向上。2000回転程度でクラッチをつないでも、粘り強くついてくるのが特長。
ただしひとたびスロットルを捻れば、タコメーターはあっという間に9500回転のレッドゾーンに突入。しかも250より10馬力パワーアップしているため、ローギアで不用意にスロットルを開けると、簡単にウイリーする荒々しさもあった。
燃費は街乗りで13km/L前後。高回転域を多用してワインディングをガンガン攻めると、リッター数kmの1ケタ台に突入(※注2)。この点は低燃費な4ストローク車にかなわない、2ストローク車ならでは特性だ。
※注2:バイク雑誌「モト・ライダー」による当時のテスト値
“ナナハンキラー”の秘密は優れた「パワーウエイトレシオ」にもあり
RZ250やRZ350は、当時「ビギナーが乗るには危険」と言わしめたほど過激な走りを発揮。事実、発売当時はあまりにも鋭い加速力や高いポテンシャルを扱いきれず、事故を起こす若者が急増。巷からは「こんな危険なモデルを市販してもいいのか?」という厳しい意見も頻繁に聞かれた。
RZ250よりもさらにハイパワーなRZ350だが、乗り手を選ぶ超高性能モデルとして高い人気を獲得。RZ250やRZ350のユーザーによる事故の増加が問題視された頃から、バイク乗りの中では、「ビギナーや運転に自身のないライダーはRZに乗るべきではない」という暗黙のルールが発生。当時は「下手くそは乗らざるべし」、「それでも乗るなら自己責任で」という、今ではちょっと考えられない空気感が蔓延した。
確かにRZ350は乗り手を選ぶ、暴力的ともいえる超過激なマシンだった(0-100m程度の短距離の加速力は現在のリッターバイクに匹敵すると予測)。テクニックがあれば、当時国内の最高峰だったナナハン(750cc)をもブチ抜くポテンシャルを発揮。そのため別名「ナナハンキラー」とも呼ばれた。
ここでは弟分のRZ250、また当時爆発的な人気を誇ったナナハン「ホンダCB750F」とのパワーウエイトレシオ(※注1)を比較してみよう。
※注1:パワーウエイトレシオとは、1馬力が負担する車重を示す数値。一般的に車両重量÷最高出力で算出。数値が低いほど俊敏でスポーティーといえる。
車種 | 車体重量 | 最高出力 | パワーウエイトレシオ |
ヤマハRZ250 | 139kg | 35馬力 | 3.97kg/馬力 |
ホンダCB750F(1981年式) | 227kg | 70馬力 | 3.24kg/馬力 |
ヤマハRZ350 | 143kg | 45馬力 | 3.17kg/馬力 |
RZ350は当時の人気スポーツナナハン・ホンダCB750Fを上回る、3.17kg/馬力という驚きのパワーウエイトレシオを発揮。
オンロード車初のモノクロスサスペンションを採用
確かに最高速は絶対的パワーを誇る、オーバー200km/hを達成するナナハン群にはかなわない。しかし直線が短く、タイトなコーナーの多いサーキットや峠では、軽量でここ一発の瞬発力とパンチ力があり、バンク角も深く、しかも元来モトクロッサーに採用されていた高性能なモノクロスサスペンション(イニシャル荷重は5段階調整可能)を備えたRZ350に敵はなかった。
RZ350は1983年にビキニカウルを装備したRZ350R、1984年にはフルカウルを装備したRZ350RRに進化したが……国内においてRZ350は2年に一度、高額な費用が発生する車検があったことも影響し、車検のないRZ250ほど国内販売台数は伸びなかった。
また車検がなくて維持費の安いRZ250に、350ccエンジンをスワップ(載せ替え)したり、250ccエンジンをボアアップしてパワーアップするチューニングが定番化。また世の中はバイクブームを迎え、各社の2ストミドルモデルは250ccクラスが人気を獲得。RZシリーズは50cc、125cc、250ccの各クラスが生き残り、350cc版は生産終了となった。
ヤマハ RZ350 主要諸元
型式 | 4UD |
---|---|
全長 (mm) | 2080 |
全幅 (mm) | 740 |
全高 (mm) | 1085 |
ホイールベース (mm) | 1365 |
最低地上高(mm) | 170 |
シート高 (mm) | 785 |
乾燥重量 (kg) | 143 |
車両重量 (kg) | 162 |
最小回転半径(m) | 2.5 |
乗車定員(名) | 2 |
燃料消費率(1)(km/L) | 31.0 |
測定基準(1) | 国交省届出(60km/h走行時) |
原動機型式 | 4U0 |
原動機種類 | 2ストローク |
気筒数 | 2 |
シリンダ配列 | 並列 |
冷却方式 | 水冷 |
排気量 (cc) | 347 |
内径(シリンダーボア)(mm) | 64 |
行程(ピストンストローク)(mm) | 54 |
圧縮比(:1) | 6.2 |
最高出力(PS) | 45 |
最高出力回転数(rpm) | 8500 |
最大トルク(kgf・m) | 3.8 |
最大トルク回転数(rpm) | 8000 |
燃料供給方式 | キャブレター |
燃料供給装置形式 | VM26 |
燃料タンク容量 (L) | 16.5 |
燃料(種類) | レギュラーガソリン |
満タン時航続距離(概算・参考値) | 511.5 |
エンジン始動方式 | キックスターター式 |
点火装置 | C.D.I.式 |
点火プラグ標準搭載・型式 | B8ES |
点火プラグ必要本数・合計 | 2 |
搭載バッテリー・型式 | 12N5.5-3B |
バッテリー容量 | 12V-5.5Ah |
エンジン潤滑方式 | 分離給油(2スト) |
2ストエンジンオイルタンク容量 | 1.60 |
クラッチ形式 | 湿式・多板 |
変速機形式 | 6段リターン式 |
変速機・操作方式 | フットシフト |
1次減速比 | 2.869 |
2次減速比 | 2.437 |
変速比 | 1速 2.571/2速 1.776/3速 1.317/4速 1.082/5速 0.961/6速 0.888 |
動力伝達方式 | チェーン |
スプロケット歯数・前 | 16 |
スプロケット歯数・後 | 39 |
チェーンサイズ | 530 |
標準チェーンリンク数 | 106 |
フレーム型式 | フルダブルクレードル |
キャスター角 | 26°50′ |
トレール量 (mm) | 101 |
ブレーキ形式(前) | 油圧式ダブルディスク |
ブレーキ形式(後) | 機械式リーディングトレーリング |
懸架方式(前) | テレスコピックフォーク |
フロントフォークタイプ | 正立フォーク |
フロントホイールトラベル(mm) | 140 |
懸架方式(後) | スイングアーム式 |
ショックアブソーバ本数(後) | 1 |
リアホイールトラベル(mm) | 110 |
タイヤ(前) | 3.00-18 |
タイヤ(前)構造名 | バイアス |
タイヤ(前)プライレーティング | 4PR |
タイヤ(前)タイプ | チューブレス |
タイヤ(後) | 3.50-18 |
タイヤ(後)構造名 | バイアス |
タイヤ(後)プライレーティング | 4PR |
タイヤ(後)タイプ | チューブレス |
ホイールリム形状(前) | MT |
ホイールリム幅(前) | 1.85 |
ホイールリム形状(後) | MT |
ホイールリム幅(後) | 1.85 |
ヘッドライト定格(Hi) | 60W/55W |