目次
MVアグスタ・SUPERVELOCE 98…….4,190,000円(税込み)
バリエーション
スーパーベローチェ 800…….3,190,000円(税込み)〜
スーパーベローチェ S…….3,800,000円(税込み)〜
ここに掲載するのはMVアグスタのスーパーヴェローチェ 98。冒頭で記した通り世界市場で300台限定販売される特別仕様車である。
発表時の同社ホームページによれば、80年の歴史を振り返り、同社初のバイクとして1943年に登場した「98」へのオマージュを込めて製造。それは“Rosso Verghera”のカラーリングで表現されているそう。
ちなみに「98」は、上の写真に示す同社初の製品に搭載された空冷2ストローク単気筒エンジンの排気量から由来したネーミングだ。スーパーヴェローチェはネオクラシック・カフェレーサーと謳われるモデルで、バリエーションは上に示した通り、標準モデルの800とカラーリングと装備面で異なる「S」があり、最上級の兄貴分には4気筒エンジンを搭載する「1000 SERIE ORO」もある。
ミドルクラスのSと98には一人乗りに割り切ったレーシングキット装着車“R”の用意もあるそう。今回の98はSをベースに作られた限定モデルというわけなのである。
その前段階の話としてスーパーヴェローチェのベースとなったのはMVアグスタブランドの復活時に998cc 4気筒の「F4」と共に販促面で貢献した「F3」の存在が見逃せない。フルフェアリング装備のミドルサイズ・スーパースポーツで、モト2への参戦を果たした同社のレース活動と共に注目を集めたモデルである。
それに対してどこかクラシカルな雰囲気を醸すスーパーヴェローチェは、フロントスクリーンからフェアリング、アンダーカウルからシートカウルまで外装パーツの多くがオリジナルの専用デザインとなっている。
フレームやエンジンは基本的に共通だが、マフラーも含めてカラーリング処理で差別化されている。さらにSと98はホイールデザインも明確に異なっている。
当初F3のエンジンは、ボア・ストロークが79mm×45.9mmの水冷3気筒675ccだったが、現在はストロークを8.4mm伸ばした54.3mmとし、排気量は798ccになっている。
DOHCヘッドの気筒当たり4バルブはチタン製のバルブを放射状にレイアウト。タペットは高耐久低摩耗と低フリクション性を誇るDLC (ダイヤモンド・ライク・コーティング)処理が施されている。
圧縮比は13.3対1。吸気系にはシックス・インジェクター方式を装備。ミクニ製スロットルボディのボアサイズはφ50mm。もちろんスロットルはライドバイワイヤーで電子制御され、108kW(147ps)/13,000rpmの最高出力と88Nm/10,100rpmの最大トルクを発揮。ドライウエイトで173kgの車体をマキシマムスピード240km/hまで引っ張ると言う。
車体は横面から覗く骨格からもわかる通り、ワイドなスチール鋼管製トレリスフレームとアルミダイキャスト、そこにエンジンをリジッドマウントした組み合わせ。スチール鋼管には結合部分の高強度化に寄与するMAG(Metal Active Gas)溶接方式によって造られる。
その他贅沢な前後サスペンションとブレーキを備え、装着タイヤはピレリ製ディアブロロッソⅣコルサ。総合的なポテンシャルとしてはベースとなった「F3」と同レベルと見て間違いないが、ネオクラシカルなカフェレーサーとして、さらには限定モデルとした「スーパーヴェローチェ 98」は、ユーザーにプレミアムな雰囲気を直感させる価値ある仕上がりを披露しているのである。
若きハートを持つ、元気の良い大人のバイク。
試乗車はいかにもミドルサイズのスーパースポーツ。フルフェアリングを装備しているがサイドに目立つ水平基調のキャラクターラインにより、ロケットカウル装備のカフェレーサーらしい雰囲気を醸し、フロントからテールエンドへと続くフォルムも流麗である。
セパレートハンドルを備え低く身構えるフォルムは、手を添える位置が低い関係で傾向として車体を取り扱う感覚が重く感じられるものだが、ドライウエイトで173kgという軽量故直感として親しみやすい車格感を覚えた。
いかにも剛性の高いワイドなフレームワークや燃料タンク上面の両肩が左右に張り出す造形からはそれなりに立派なボリューム感を放つが、左右両側の手前が巧みに抉られている。ニーグリップがピタリと決まる機能的デザインで、上体を伏せた時もスマートに決まるのである。
しかしながら、400万円を超えるスーパーな販売価格を知る身にとって、それは決して親しみやすいものではないのも事実である。
借り物のバイクで何かやらかした時に自分に及ぶリスク(コスト)の大きさを否定することはできず、ついつい扱いが慎重になってしまうのが正直なところ。
例えオーナーになったとしても、そんな心持ちは同様だろうと想像してしまう。ちょっと乗るのを躊躇する様な、気が引けてしまうシーンが頭に浮かぶ。しかしその一方で、だからこそ心底大切に使おうとするプレミアムな価値と魅力、そして大きな満足感が得られるのではないかとも思えるのだ。
シートに跨がると両足の踵は軽く浮く程度。足つき性はごく一般的なレベルだ。右足をステップに乗せる(左足でバイクを支える)と片足は踵までピタリと地面を捉えることができ、しっかりと踏ん張れるので扱いに不安は感じられない。
やや低めながらそれほど遠くない位置にあるセパレートハンドルを握ると上体は前傾となるが、前方視界が下向きになり過ぎる事はない。サーキット走行にも馴染むスポーティなライディングポジションだが、市街地走行も許容できるレベルなのだ。
ギアをローに入れてスタート。ギア比はごく普通(高すぎず低すぎず)な感じで、発進操作はスムーズ。3,000rpm以下では800ccのわりにはトルクが細めに感じられたが3気筒エンジン独特の粘り強さ(柔軟性)が効いて発進停止の多い場面でも比較的扱いやすい。とは言え、クランク回転慣性マスの小さなエンジンは右手のスロットル操作に対して実に俊敏なレスポンスを発揮する。古い表現をすればレーサーレプリカ系モデルのそれであり快活な吹き上がり性能は格別。
アップダウン双方向で使えるクィックシフターと共に瞬時に、かつ思いのままにスピードを制御し、次の急加速に備える時の操作性とレスポンスに優れるリズミカルな小気味よさが気持ちよい。
ショートストローク高圧縮比がもたらす高回転高出力エンジンらしい瞬発力は一級のレベル。スロットルを大きく開けると、レブカウンターはいともたやすく1万回転を超えていく。中でも6,500rpm当たりからの加速力は強烈。さらに衰えを知らぬ勢いでレッドゾーンへ向かう感覚は、思わず「ワォ」!と叫んでしまうほどエキサイティング。0~100km/h加速を3.05秒、同200km/h加速を9秒でこなすと言うポテンシャルも納得である。
ローンチコントロールを使えば、無駄なウィリーやスリップ(後輪の空転)をすることなく、持てるパワーを遺憾なく発揮して効率のよい発進加速を決めることも可能だ。
ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は48km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は、5,000rpm弱だった。
エンジンパワーのモード変更はスポーツ、レース、レイン、カスタムの4種が選べ、トラクションコントロールは8段階の選択が可能となっている。
試乗は短時間だったが、素直に扱える軽快なハンドリングとその走りは若々しい雰囲気が印象的。見た目はどこか落ち着きのある雰囲気やこだわりデザインのスポークホイールなど、大人びた佇まいを感じさせてくれるが、乗り味はけっこうレベルの高いスポーツ性が際立っている。
それは前述のエンジンフィーリングと共に鋭い運動性能を発揮。車線変更やタイトなS字コーナーでの切り返し挙動が軽くスパッと決められる鋭さを伴うからだ。
車体寸法や車体設計の剛性バランスが絶妙。あるいは逆回転クランクにより、車輪の回転慣性がいくらか相殺されることが関係しているのかもしれないが、扱いがクィックで軽快に決められ、サーキットで疾走するのも楽しそう。
前後ブレーキも強力かつ軽いタッチでコントローラブル。俊敏にレスポンスする3気筒エンジンと協調される走りは、ライダーの気持ちを元気良く高揚させるだけの魅力がある。車庫で愛車を磨くひと時、お気に入りのカフェで一服。時に空いた時間帯を選んで慣れたワイディングロードをひとっ走りする。そんな贅沢なバイクライフを楽しむのに相応しい一台だと思えたのが正直な感想である。
足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)
ご覧の通り両足の踵は僅かに浮いているが、車重は軽くバイクを支える上で不安感は少ない。シート高は830mmあるが、足つき性は悪く無いレベルに仕上げられている。ステップ位置は後退しており、足をおろすとステップはふくらはぎの後方にある。