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交通事故死者数でバイク乗車中は全体の19%
警察庁が、2024年3月7日に発表した「令和5年における交通事故の発生状況について」という資料によれば、2023年の交通事故による死者数、重傷者数はともに増加。全体の死者数は2678人(前年比+68人、+2.6%)、全体の重傷者数は2万7636人(前年比+1609人、+6.2%)だったという。
なかでも、死者数が増加したのは「二輪車(自動二輪車・原付バイク)乗車中」、「自転車乗用中」、「歩行中」。特に、我々ライダーが気になるのがバイクに乗っている際の交通事故死者数で、2022年の435人から2023年は508人と、73人も増えた(二輪車乗車中の重傷者数も2022年の6398人から2023年は6630人と232人の増加)。
また、同じく警察庁によれば、二輪車乗車中の死者数を事故類型別で見た場合、「車両相互事故」、つまり、バイクとほかの車両との事故が340人と、2022年の277人から大きく増加したそうだ。
さらに、「車両相互事故」の相手当事者では、96.8%が「自動車」。しかも、「右折対直進」の事故が113人と、2022年の82人から増えているほか、約9割となる97人がバイク直進中の右直事故で死亡したという。
これらデータを読み解くと、バイク直進中に右折するクルマとの事故で死亡するライダーが、極めて多いということが分かる。ちなみに、これも警察庁のデータによれば、2022年の二輪乗車中死者数でも、右折対直進がトップ。バイクの右直事故については、昔から注意喚起などがなされているが、そうした傾向は今も変わらないようだ。
原因1:バイクが見えているのにクルマが右折
では、実際に、交差点などで直進中のバイクと、右折しようとするクルマとの事故には、どういったケースや原因が考えられるのだろうか?
まず、右折しようとするクルマのドライバーからは、直進するバイクが見えているのに曲がってしまう場合。これは、多くの場合、4輪車と比べ、バイクの車体が小さいことで起こりやすいといわれている。
右折待ちのドライバーから見てバイクが小さくみえることで、実際の位置より遠くにいるように感じ、「間に合うと思って右折した」ところ、実際はもっと近づいていて衝突してしまうケースだ。
こうしたドライバー側が、バイクとの距離感を「見間違う(錯覚する)」ケースは、特に、原付バイクなどコンパクトな車体のモデルや、オフロード車など細身のモデルで起こりやすいということをよく耳にする。
ちなみに、1998年にバイクのヘッドライトが常時点灯式に義務化された背景にも、こうしたドライバー側の錯覚などによる右直事故が多かったことも要因だ。
また、直進するバイクの速度がかなり高い場合も、こうしたケースは起こりやすいようだ。これも、警察庁が発表したデータによれば、令和5年(2023年)の右折対直進死亡事故では、自動二輪車が直進だった場合の方が、乗用車・貨物車が直進の場合よりも速度が高かい傾向にあったという。
具体的なデータでは、直進車側の危険認知速度の平均(速度帯中間値の平均)を比較した場合、自動二輪車が直進の場合で72.3km/h、乗用車・貨物車が直進の場合では63.4km/hだったという。
ちなみに、危険認知速度とは、交通事故の当事者(クルマのドライバーやバイクのライダーなど)が、相手の車両や人などを認め、危険を認知した時点の走行速度のことだ。具体的には、ブレーキ、ハンドル操作などの事故回避行動をとる直前の速度をいい、運転者が危険を認知せず事故に至った場合は、事故直前の速度を意味する。事故車両のブレーキ痕や損壊の程度、事故当事者の証言などから、事故の直前のスピードを推測して割り出すのだという。
こうしたデータからも分かる通り、スピードを出し過ぎて走行しているバイクは、前述のクルマのドライバーから小さく見えることとの相乗効果もあり、右直事故に遭いやすいといえるだろう。
原因2:バイクが死角などで見えていない場合
一方、右折待ちのクルマから直進するバイクが見えない場合もある。例えば、渋滞している交差点などで、対向車線のクルマも右折しようとしていて、お互いに曲がろうと目で合図するなどで曲がったら、対向車線のクルマの直後に直進するバイクが出てきて衝突するケースだ。
また、対向車線の直進するクルマが、渋滞で前に進めないため、右折したいクルマにパッシングなどで「どうぞ」と合図して譲った場合。「ありがとう」と右折車のドライバーが曲がったところ、対向車の死角から直進バイクが出てくるといったケースもある。
さらに、バイクが、ほかの直進するクルマの左脇をすり抜けして走っているケースでも、右折しようとするドライバーからは見えづらく、右折した瞬間に衝突といった場合もある。
「かもしれない運転」で対策
以上が、バイクの右直事故でよくあるパターンだが、いずれの場合も、対策としては「かもしれない運転」をするしかないだろう。
これは、まず、直進して交差点に差し掛かったときに、右折待ちのクルマがいた場合、「あのクルマは急に曲がってくる可能性がある」といった心構えを持つことだ。
バイクに限らず、運転中に不測の事態(急に右折待ちのクルマが曲がってくるなど)が起きると、運転者は焦ってしまい、適切な回避行動などが取りづらい場合も多い。そのため、まずは、どんなことが起こっても対象できるような心の準備をしておくのだ。
また、同時に、まさかの時には、いつでもブレーキ操作などをできるよう、ブレーキレバーに指をかけるなど、「体の準備」もしておくといい。
さらに、運転中は、どこか一点を集中して見るのではなく、できるだけ前方の広範囲を見て、信号や標識なども見落とさないことが大切だ。これらにより、右折待ちのクルマだけでなく、急に飛び出してくる自転車や歩行者なども早期に発見しやすくなる。
また、渋滞路ですり抜けしたりするのも、あまりおすすめしない。前述の通り、右折車から見えづらくなるし、同じ車線のクルマが急に左折して巻き込み事故にもつながる。とにかく、自分のバイクが、ほかのクルマなどの死角に入っていないかは、常に意識した方がいい。
もちろん、公道で、速度を出しすぎるのも御法度。前述した右直事故の原因になる場合だけでなく、前後左右から車両や自転車、歩行者などがどんな行動にでるのか分からないからだ。常に、適切な速度で走りながら、周囲の状況をよく見て、可能な限り不測の状況に対処できるようにしたい。
ちなみに、1998年4月1日以前に製造されたバイクのようなヘッドライトが常時点灯式でなく、オン/オフスイッチがあるモデルに乗る場合。こうしたバイクの場合も、できれば昼間もヘッドライトを点灯させ、対向車などに自分のバイクの存在をアピールすることが必要だろう。
自分が右折する場合も直進車に注意!
右直事故の対策としては、ほかにも、自分が右折待ちしている場合、直進するクルマにも注意したい。実際に、筆者も、怖い目にあったことがあるからだ。
それは、3車線ある広い幹線道路の交差点にある右折レーンの先頭で停車し、右折待ちをしていたときだ。メインの信号機下にある右折用の矢印式信号機が青になったので、バイクを発進させ交差点に入ろうとしたとき、いきなり対向車線の直進するクルマが交差点へ突っ込んできて、あやうく衝突しそうになったのだ。その時は、当然ながら、直進車の信号は赤。つまり、そのクルマは信号無視をしたのだ。
「まさにギリギリ」。直進車にぶつからないよう急停車し事なきを得たが、もしぶつかっていたらと思うと、今でも手のひらに汗がにじむ。しかも、その直進車は、何事もなかったように、そのまま走り去ってしまったので、今でも思い出すと、よけいに気分が悪くなる。
だが、これも教訓だ。例え、自分が信号機など交通法規を守って走っていたとしても、ルールを無視するドライバーやライダーなどから被害を被る場合だってある。この後から、その交差点だけでなく、ほかの道路でも、信号機が青になったからといって、すぐに発進するのはやめた。青になっても一呼吸ほど待ち、対向車などが来ていないことを十分に確認しながら進んだり、曲がるようにしている。
ともあれ、今度のゴールデンウィークはもちろん、普段のツーリングや通勤・通学、買い物などでバイクに乗る場合は、事故に遭わないための対策を考えながら走ることが大切だ。といっても、なにも常にビクビクしたり、ドキドキしがら走る必要はない。そんな感じでバイクに乗ると、楽しくないし、とっさの対応がしづらくなり逆に危ない。
まわりをよく見ながら、常に平常心を保ち、交差点など要注意ポイントを走るときだけ、できるだけ安全な走りができるように心掛けたり、心や体の準備をすればいいのだ。