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KTM 1390 SUPER DUKE R EVO……2,699,000円(消費税10%を含む)
究極のVツイン
KTMのDUKEシリーズは今年で30周年となるそうだ。オフロード車をメインで作ってきたKTMがモタードライクで刺激的なオンロードマシンを作るようになって30年。今やMotoGPでも大活躍である。
そんなDUKEシリーズの頂点モデルは2006年にスタートした990cc・Vツインの「SUPER DUKE」だった。DUKEのフラッグシップとして「R」モデルの追加や、同エンジンを使ったツアラーのSMTなども展開しこのブランドを引っ張ってきた。
大きな進化は1301ccの新開発エンジンを投入した2014年。新たに1290 SUPER DUKE Rとなりパワーは一気に180馬力となり、刺激的なキャラクターに磨きをかけた。この時のキャッチフレーズが「THE BEAST」。ハイパワーを軽量な車体と組み合わせ、さらにネイキッドスタイルの乗車姿勢としたことでまさに野獣的な乗り物と言えた。
2020年にはそれまでのトラス状のフレームから、より直線的でシンプルなフレームに代わったと共に、味付けも洗練。高い実力は維持しながらも「BEAST」感は和らぎ日常的にも比較的付き合いやすいテイストとなった。そして今回のフルモデルチェンジ。1350cc/190馬力……スペックだけ見ると怖いぐらいである。
パワーアップと電子制御
エンジンの実質排気量アップは49ccほどなのだが、パワーは10馬力のアップ、可変バルブを採用することでトルクバンドはさらにワイドになり、EURO5に対応しながらも全回転域でパワー&トルクアップを果たしているという。KTMとしてはパワーウェイトレシオ「1」を目指したかったそうで、そのためにはエンジンのパワーアップだけではなく車体もテール周りのスマート化などシェイプアップ。燃料を含まない重量は200kgに抑えており、パワーウェイトレシオは限りなく「1」に近い。
お馴染みのWP製サスペンションも第3世代の電子制御サスへと進化。セミアクティブとすることで状況に合わせたサスセッティングを実現する。またいわゆるホールショットデバイス的にリアの車高を下げる「プロスタート」機能も追加。またエンジンの電子制御もウイリーコントロールを5段階(5角度)で調整できたり、エンジンブレーキの強さを選べたり、タイヤのエアをコントロールできたりと至れり尽くせりすぎて短い試乗時間ではとても把握できなかった。オーナーになれば、パワーモードやアクティブサスといった表面的な電子制御だけでなく、より安全な走りも、そしてより刺激的な走りもサポートしてくれる各電子制御を楽しめることだろう。
これなら乗れそう?
今回の試乗はなんと冷たい雨が降る峠道という、こんなハイスペックなバイクに乗るには厳しいシチュエーション。走り以前に、これだけ美しいバイクをそもそも濡らしたくないという背徳感のようなものもあった。先行して行われた海外試乗会での試乗記などを読み込むと、サーキットでも超高速域まで息切れせずに怒涛のパワーが溢れ出続けるというのに、さて、気持ち的にはミゾレ混じりにすら感じられるほどのこのシチュエーションで楽しめるのだろうか。
ところが、跨ってエンジンをかけた時点で「あれ? 大丈夫かも」という気になってきた。特徴的なフロントマスクや、ボリュームのある外装類から巨大なイメージがあったが、実車はそんなに大きくはなく、しかも跨るとシートも特別高く感じず、スリムで一体感があった。不思議なもので、ポジションに自信が持てると「何だか乗れそうな気がする」という感が大きくなってくるものだ。
加えて、190馬力もあるエンジンだが始動するとどこかまろやかだったのだ。かつてのKTM車は排気音が和太鼓を乱打するような、よく言えばスタッカートの効いた、悪く言えば暴力的な感覚があったりもしたものだが、この1390は390DUKEのような「キョタタタッ」とした軽やかな排気音。ドスが効いていないため、ここでも「あ、大丈夫かも!」とヘンに自信づいてしまった。
1290時代に「THE BEAST」と言われ、まさに野獣的なパフォーマンスに驚かされたが、1390はずいぶんと優しいBEASTになった印象。そういえばリリースにも、そして試乗前のブリーフィングでも「BEAST」という言葉はなかったな、と思い出し、スーパーDUKEはより優しい野獣へと方向転換したのかな、などと考えた。
いざ土砂降りのワインディングへ……
野獣感が薄まったとはいえ、やはりこういったハイパフォーマンスモデルで雨のワインディングはちょっと怖い。しかしサスセッティングもパワーモードもRAINモードにして走り出すと意外や平和な世界だった。大排気量・ビッグボア・高圧縮なツイン、あるいはシングルはどうしてもガツガツした印象や、低回転域ではガコガコしてしまいスムーズさに欠けるといったこともあるのだが、しかし最近のKTMはそれが和らいでいて、さらにこの1390はとても190馬力も秘めているとは思えないほど、冷たい路面でのスムーズな発進を
してくれた。
こういったビッグツインが苦手とする3000rpm以下の領域でもとても躾が良く、前述したように排気音も静か。キョタタタっとおとなしく回るエンジンは畏怖させるような要素がなく、構えることなく走り出せた。ハンドリングも同様。スタイリングは面構成が鋭角に接続しているためいかにも尖っていそうだが、走りはむしろ丸く、スイスイと峠道をこなしていくには何も問題はない。RAINモードに助けられ、BEAST感は皆無。国産ネイキッドと変わらない気軽さで走ることができた。もちろん、装着タイヤがスポーツ志向であることもあって冷たい雨では無理は効かないが、ポジションがSSモデルのような前傾ではないことも手伝って、余裕を持ってこなすことができたのだった。
ペースアップとSTREETモード
意外や親しみやすいそのファーストコンタクトに気を良くし、ライディングモードをRAINからSTREETへと変えてみた。というのも、RAINモードはアクセルレスポンスが柔らかくて安心である一方、慣れてくると右手の捻り角度に対して実際のエンジンの反応が間引かれている感に気付いてしまい、もう少し右手と連動したレスポンスの方が良いかな、と思ったのだ。
STREETモードにすると「打てば響く」感が格段に増し、アクセル開閉に対するメリハリが出てきて、RAINモードのままにしておいた足周りとの相性もよかった。アクセルワークだけで車体のピッチングが作り出せて、こんなコンディションでもスポーツを感じながら駆け抜けることができたのだ。
ただ一方で、ちょっと大きめにアクセルを開ければ弾け飛んでいくように加速していくようにもなった。これが意図してできるならば問題ないのだが、思わぬ路面の段差などで意図せずにアクセルがちょっとだけ開いてしまう、といった場面でも敏感に反応し車体がグワッと飛び出そうとするため、やはり視界が悪く路面のデコボコなどを見落としがちな雨天時はRAINとしておいた方が安全だろう。
そしてSTREETモードであの加速なのだから、その上のSPORTモードはいったいどれほどなのだろう、と夢と恐怖を膨らませた。最低でもドライ路面と舗装の良いハイスピードワインディング、願わくはサーキットで試したいモードである。そんな好条件となれば足周りの他のモードも存分に楽しめることだろう。
不完全燃焼感がない
KTMはMotoGPでV4マシンを走らせているのに、公道向けにはいわゆるスーパースポーツ的なモデルを持っていない。しかし今回の試乗で感じたのは、こういった悪条件でも楽しめるハイパフォーマンスというのは、このようなネイキッドスタイルであることが最適解なのだろう、ということだった。セパハンで前傾の強いスーパースポーツだったらこんなに気軽に試乗することもできなかったはずだ。こんなにハイパフォーマンス化こそしているが、ここにDUKEシリーズ30年の歴史を見た気がする。
190馬力のVツインと言えばまさにBEAST。野獣というかバケモノ的な恐ろしさが確かにある。しかしこんな状況でも不完全燃焼感が少なく、そしてもちろんサーキットでも楽しませてくれるはず。加えて今回、タンク容量を増やすなどツーリング向けの進化も果たしている。KTMの、そしてDUKEシリーズの頂点は、あらゆる楽しみ方を考慮した最大公約数なのではないだろうか。
ディテール解説
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO/主要諸元
KTM 1390スーパーデュークRエボ ●エンジン トルク:145Nm トランスミッション:6速 バッテリー容量:11.2Ah 冷却:水/油冷式熱交換器 KW出力:140kW スターター:セルスターター ストローク:71mm ボア:110mm クラッチ:PASC(TM) スリッパークラッチ、油圧操作式 CO2 EMISSIONS:139g/km 圧縮比:13.2 排気量:1350㎤ EMS:Keihin EMS ライドバイワイヤーおよびクルーズコントロール付き、ダブルイグニッション デザイン:2気筒、4ストローク、75°V型 消費燃料:5.9 l/100km 燃料混合生成:Keihin製 EFI、スロットルボディ 60mm 潤滑:3ポンプ式オイル圧送潤滑 ●シャシー 重量(燃料なし):200kg 燃料タンク容量(約):17.5 l ホイールベース:1491mm フロントブレーキディスク径:320mm リアブレーキディスク径:240mm フロントブレーキ:2 x Brembo Stylema Monobloc four piston, radially mounted caliper リアブレーキ:Brembo製2ピストン固定式キャリパー、ブレーキディスク チェーン 525 X-Ring フレームデザイン:クロモリ鋼管製スペースフレーム。パウダーコート塗装 フロントサスペンション:WP APEX-USD Ø 48mm, semi-active(Gen3) 最低地上高:149mm ハンドルバー:アルミニウム、テーパー形状 Ø 28/22mm シート高:834mm サイレンサー:Stainless steel primary and secondary silencer with two catalytic converters キャスター角:65.3 ° リアサブフレームデザイン こCast aluminium / Composite サスペンションストローク(フロント):125mm サスペンションストローク(リア):140mm ホイール:アルミニウム製キャストホイール