「BEAST」らしさが薄まった!?|KTM 1390 SUPER DUKE R EVO試乗記

いつでも刺激的で「READY TO RACE」なモデルをリリースするKTM。その頂点モデルであるスーパーデュークが1290から1390へとモデルチェンジし、最高出力は190馬力に到達。ガソリンを含まない車両重量は200kgであり、パワーウェイトレシオは「1」に近い。その圧倒的動力性能がさらに突き詰められたわけだが、しかし意外や乗り味は「BEAST」を感じさせない優しいものになっていた??


REPORT●ノア セレン
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO……2,699,000円(消費税10%を含む)

2020年のモデルチェンジでシンプルなフレーム形状になったのをそのまま受け継いではいるものの、シートレールやフロントマスクのデザインを変更したことで先代以上に筋肉質でアグレッシブな印象となった1390SUPER DUKE R。シート高は834mmと数値的には低くはないものの、タンクの後方にライダーがハマりこむ感覚が強いためバイクとの一体感が高く、あらゆるシチュエーションで自信を持って扱える。前傾姿勢は程よく、ツーリングからサーキットまで幅広く楽しめるポジションに思える。
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
車体がスリムなおかげで足つきは想像以上に良い。
足を真下に降ろした時にマフラーにふくらはぎが触れないよう、ヒートガードがついているのも優しい。

究極のVツイン

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO

KTMのDUKEシリーズは今年で30周年となるそうだ。オフロード車をメインで作ってきたKTMがモタードライクで刺激的なオンロードマシンを作るようになって30年。今やMotoGPでも大活躍である。
そんなDUKEシリーズの頂点モデルは2006年にスタートした990cc・Vツインの「SUPER DUKE」だった。DUKEのフラッグシップとして「R」モデルの追加や、同エンジンを使ったツアラーのSMTなども展開しこのブランドを引っ張ってきた。
大きな進化は1301ccの新開発エンジンを投入した2014年。新たに1290 SUPER DUKE Rとなりパワーは一気に180馬力となり、刺激的なキャラクターに磨きをかけた。この時のキャッチフレーズが「THE BEAST」。ハイパワーを軽量な車体と組み合わせ、さらにネイキッドスタイルの乗車姿勢としたことでまさに野獣的な乗り物と言えた。
2020年にはそれまでのトラス状のフレームから、より直線的でシンプルなフレームに代わったと共に、味付けも洗練。高い実力は維持しながらも「BEAST」感は和らぎ日常的にも比較的付き合いやすいテイストとなった。そして今回のフルモデルチェンジ。1350cc/190馬力……スペックだけ見ると怖いぐらいである。

パワーアップと電子制御

エンジンの実質排気量アップは49ccほどなのだが、パワーは10馬力のアップ、可変バルブを採用することでトルクバンドはさらにワイドになり、EURO5に対応しながらも全回転域でパワー&トルクアップを果たしているという。KTMとしてはパワーウェイトレシオ「1」を目指したかったそうで、そのためにはエンジンのパワーアップだけではなく車体もテール周りのスマート化などシェイプアップ。燃料を含まない重量は200kgに抑えており、パワーウェイトレシオは限りなく「1」に近い。
お馴染みのWP製サスペンションも第3世代の電子制御サスへと進化。セミアクティブとすることで状況に合わせたサスセッティングを実現する。またいわゆるホールショットデバイス的にリアの車高を下げる「プロスタート」機能も追加。またエンジンの電子制御もウイリーコントロールを5段階(5角度)で調整できたり、エンジンブレーキの強さを選べたり、タイヤのエアをコントロールできたりと至れり尽くせりすぎて短い試乗時間ではとても把握できなかった。オーナーになれば、パワーモードやアクティブサスといった表面的な電子制御だけでなく、より安全な走りも、そしてより刺激的な走りもサポートしてくれる各電子制御を楽しめることだろう。

これなら乗れそう?

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO

今回の試乗はなんと冷たい雨が降る峠道という、こんなハイスペックなバイクに乗るには厳しいシチュエーション。走り以前に、これだけ美しいバイクをそもそも濡らしたくないという背徳感のようなものもあった。先行して行われた海外試乗会での試乗記などを読み込むと、サーキットでも超高速域まで息切れせずに怒涛のパワーが溢れ出続けるというのに、さて、気持ち的にはミゾレ混じりにすら感じられるほどのこのシチュエーションで楽しめるのだろうか。
ところが、跨ってエンジンをかけた時点で「あれ? 大丈夫かも」という気になってきた。特徴的なフロントマスクや、ボリュームのある外装類から巨大なイメージがあったが、実車はそんなに大きくはなく、しかも跨るとシートも特別高く感じず、スリムで一体感があった。不思議なもので、ポジションに自信が持てると「何だか乗れそうな気がする」という感が大きくなってくるものだ。
加えて、190馬力もあるエンジンだが始動するとどこかまろやかだったのだ。かつてのKTM車は排気音が和太鼓を乱打するような、よく言えばスタッカートの効いた、悪く言えば暴力的な感覚があったりもしたものだが、この1390は390DUKEのような「キョタタタッ」とした軽やかな排気音。ドスが効いていないため、ここでも「あ、大丈夫かも!」とヘンに自信づいてしまった。
1290時代に「THE BEAST」と言われ、まさに野獣的なパフォーマンスに驚かされたが、1390はずいぶんと優しいBEASTになった印象。そういえばリリースにも、そして試乗前のブリーフィングでも「BEAST」という言葉はなかったな、と思い出し、スーパーDUKEはより優しい野獣へと方向転換したのかな、などと考えた。

いざ土砂降りのワインディングへ……

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO

野獣感が薄まったとはいえ、やはりこういったハイパフォーマンスモデルで雨のワインディングはちょっと怖い。しかしサスセッティングもパワーモードもRAINモードにして走り出すと意外や平和な世界だった。大排気量・ビッグボア・高圧縮なツイン、あるいはシングルはどうしてもガツガツした印象や、低回転域ではガコガコしてしまいスムーズさに欠けるといったこともあるのだが、しかし最近のKTMはそれが和らいでいて、さらにこの1390はとても190馬力も秘めているとは思えないほど、冷たい路面でのスムーズな発進を
してくれた。
こういったビッグツインが苦手とする3000rpm以下の領域でもとても躾が良く、前述したように排気音も静か。キョタタタっとおとなしく回るエンジンは畏怖させるような要素がなく、構えることなく走り出せた。ハンドリングも同様。スタイリングは面構成が鋭角に接続しているためいかにも尖っていそうだが、走りはむしろ丸く、スイスイと峠道をこなしていくには何も問題はない。RAINモードに助けられ、BEAST感は皆無。国産ネイキッドと変わらない気軽さで走ることができた。もちろん、装着タイヤがスポーツ志向であることもあって冷たい雨では無理は効かないが、ポジションがSSモデルのような前傾ではないことも手伝って、余裕を持ってこなすことができたのだった。

ペースアップとSTREETモード

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO

意外や親しみやすいそのファーストコンタクトに気を良くし、ライディングモードをRAINからSTREETへと変えてみた。というのも、RAINモードはアクセルレスポンスが柔らかくて安心である一方、慣れてくると右手の捻り角度に対して実際のエンジンの反応が間引かれている感に気付いてしまい、もう少し右手と連動したレスポンスの方が良いかな、と思ったのだ。
STREETモードにすると「打てば響く」感が格段に増し、アクセル開閉に対するメリハリが出てきて、RAINモードのままにしておいた足周りとの相性もよかった。アクセルワークだけで車体のピッチングが作り出せて、こんなコンディションでもスポーツを感じながら駆け抜けることができたのだ。
ただ一方で、ちょっと大きめにアクセルを開ければ弾け飛んでいくように加速していくようにもなった。これが意図してできるならば問題ないのだが、思わぬ路面の段差などで意図せずにアクセルがちょっとだけ開いてしまう、といった場面でも敏感に反応し車体がグワッと飛び出そうとするため、やはり視界が悪く路面のデコボコなどを見落としがちな雨天時はRAINとしておいた方が安全だろう。
そしてSTREETモードであの加速なのだから、その上のSPORTモードはいったいどれほどなのだろう、と夢と恐怖を膨らませた。最低でもドライ路面と舗装の良いハイスピードワインディング、願わくはサーキットで試したいモードである。そんな好条件となれば足周りの他のモードも存分に楽しめることだろう。

不完全燃焼感がない

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO
KTM 1390 SUPER DUKE R EVO

KTMはMotoGPでV4マシンを走らせているのに、公道向けにはいわゆるスーパースポーツ的なモデルを持っていない。しかし今回の試乗で感じたのは、こういった悪条件でも楽しめるハイパフォーマンスというのは、このようなネイキッドスタイルであることが最適解なのだろう、ということだった。セパハンで前傾の強いスーパースポーツだったらこんなに気軽に試乗することもできなかったはずだ。こんなにハイパフォーマンス化こそしているが、ここにDUKEシリーズ30年の歴史を見た気がする。
190馬力のVツインと言えばまさにBEAST。野獣というかバケモノ的な恐ろしさが確かにある。しかしこんな状況でも不完全燃焼感が少なく、そしてもちろんサーキットでも楽しませてくれるはず。加えて今回、タンク容量を増やすなどツーリング向けの進化も果たしている。KTMの、そしてDUKEシリーズの頂点は、あらゆる楽しみ方を考慮した最大公約数なのではないだろうか。

ディテール解説

先のモーターサイクルショーでも多くの人が注目していた個性的なフロントマスク。地球外生命体の映画などで見たことがあるような気もするが、小型のLEDライトとDRLの組み合わせでデザインの自由度が上がった証か。明るさが自動調整され、トンネルなどでは自動点灯する。ただ試乗日のような濃霧ではマニュアルでライト点灯したいとも感じた。
第3世代へと進化したWPの電子制御サスを備える。作動はマグネティックバルブにより可変ダンピングが可能で、快適性からサーキット向けの設定まで幅広く調整可能。φ48mmのインナーチューブ径を持ち見るからに剛性が高そうだが、RAINモードとしておけばしなやかなピッチングが感じられ快適に走れた。
エンジン周りのルックスは先代からほとんど変わらないが、その中身は2mmのボアアップで1350ccを獲得。それに合わせてスロットルボディやラジエターも変更。車体全体で言えば先代に対して部品の60%を新作しているというのだから、ルックスは似ていても力の入ったモデルチェンジだということが伺える。
リアサスはやはりWPのAPEX。140mmのストローク量を持ち、他排気量の兄弟車と違ってこちらはリンク式を採用する。
排気系の大部分は腹下に納められているおかげで、サイレンサーは小ぶりな形状だ。排気音はかつての和太鼓を乱打するようなものではなく、390DUKEを思わせるような静かで洗練されたたもの。ステンレス地のフィニッシュもハイクラス。
トップブリッヂ上にカラーメーターが鎮座するコンパクトなコックピット。ハンドル幅や角度も適正だ。タンク容量は1.5L増やされた17.5Lとなり、ツーリングシーンも考慮した。メインキーは電子キーとなっているのも兄弟車との違い。
活発な走りを楽しみやすくする各種電子制御が充実しているだけではなく、クルコンなどツーリング性能も追及しているだけに、スイッチ類は左右ともに多め。見た目は「所狭し」といったイメージだが、それでもウインカーやホーンなど日常的に使うスイッチ類へのアクセスが良かったのは好印象。ただ電子制御充実よりも、この日はグリップヒーターの方が欲しかった……
電子制御スロットルは先代から継承。ブレンボのマスターシリンダーは握り代だけでなくレシオを調整できるつまみもあるあるタイプで、好みや使用状況に合わせてブレーキタッチも変えられる。
雨の中でも、時たま陽が差しても、常に見やすかったメーター。各種モードにはイラストも併記されるため、間違えることも少ないと感じた。電子制御は多彩で、それらをフルに活用するには実際に車両を保有して時間をかけて理解していく必要があるだろう。
幅広で快適なシートを確保し、さらにはタンデムも十分可能なタンデムシートも備えるのはKTMの伝統だろうか。これだけREADY TO RACEなバイクでもタンデム含めた日常での使い勝手をないがしろにしない姿勢が素晴らしい。表皮はスウェード調でとても快適&高級。タンデムシートを外すとタンデムライダー用のベルト(というかワイヤー)が隠されている。
シリーズ唯一の片持ちスイングアームを先代から継承。タイヤはミシュランのパワーGPを純正採用し、サイズは200-55とする。
妙にすっきりしたテール周りだと思ったら、テールランプが省略されウインカーと一体となっていた。

KTM 1390 SUPER DUKE R EVO/主要諸元

KTM 1390スーパーデュークRエボ

●エンジン
トルク:145Nm
トランスミッション:6速
バッテリー容量:11.2Ah
冷却:水/油冷式熱交換器
KW出力:140kW
スターター:セルスターター
ストローク:71mm
ボア:110mm
クラッチ:PASC(TM) スリッパークラッチ、油圧操作式
CO2 EMISSIONS:139g/km
圧縮比:13.2
排気量:1350㎤
EMS:Keihin EMS ライドバイワイヤーおよびクルーズコントロール付き、ダブルイグニッション
デザイン:2気筒、4ストローク、75°V型
消費燃料:5.9 l/100km
燃料混合生成:Keihin製 EFI、スロットルボディ 60mm
潤滑:3ポンプ式オイル圧送潤滑

●シャシー
重量(燃料なし):200kg
燃料タンク容量(約):17.5 l
ホイールベース:1491mm
フロントブレーキディスク径:320mm
リアブレーキディスク径:240mm
フロントブレーキ:2 x Brembo Stylema Monobloc four piston, radially mounted caliper
リアブレーキ:Brembo製2ピストン固定式キャリパー、ブレーキディスク
チェーン 525 X-Ring
フレームデザイン:クロモリ鋼管製スペースフレーム。パウダーコート塗装
フロントサスペンション:WP APEX-USD Ø 48mm, semi-active(Gen3)
最低地上高:149mm
ハンドルバー:アルミニウム、テーパー形状 Ø 28/22mm
シート高:834mm
サイレンサー:Stainless steel primary and secondary silencer with two catalytic converters
キャスター角:65.3 °
リアサブフレームデザイン こCast aluminium / Composite
サスペンションストローク(フロント):125mm
サスペンションストローク(リア):140mm
ホイール:アルミニウム製キャストホイール




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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…