ハスクバーナのスクランブラーの方、スヴァルトピレン 250。スタイリッシュなだけではない

強烈な個性を打ち出してきたハスクバーナのVitpilen及びSvartpilenシリーズ。ハスクバーナブランドがKTM傘下であることからこれらモデルはDUKEシリーズと基本コンポーネントを共有するわけだが、まさかそうとは思わせないエクステリアによって独自の魅力を放ってきた。新型401シリーズも今注目を集めているが、実は250も大きなチェンジを果たしているためレポートしたい。個性的で素敵なルックスだけではない、独自の走りの魅力も備えていたのだ。

REPORT●ノアセレン
PHOTO●山田俊輔

ハスクバーナ・Svartpilen 250……710,000 円(消費税込み)

ハスクバーナ・Svartpilen 250/
タンク前方に伸びるシュラウド部などボリュームを増したものの、スタイリングイメージは先代から大きく変えることなく一目でハスクバーナだとわかるルックス。車名こそオフロード/スクランブラーテイストのSvartpilenでタイヤもオフロードテイストだが、Vitpilenのようなキャストホイール仕様となっているのが興味深い。ルックス的には先代とあまり変わらない個性がしっかりと残されているが、ライディングポジションは大きく改善され、ハンドル/シート/ステップの関係性は良好。しっかりと車体をホールドできるようになり、街乗りでの快適な走行はもちろんのことスポーティな気持ちで接する時もライダーとバイクのコネクションがより濃密に感じられるようになった。
ハスクバーナ・Svartpilen 250
ハスクバーナ・Svartpilen 250

Vitpilen とSvartpilen

ハスクバーナのこのシリーズは、オンロードテイストのVitpilen(ヴィットピレン)、そしてオフロードというか、スクランブラー風のスポークホイール仕様となっているSvartpilen(スヴァルトピレン)の2機種を展開してきた。とはいえ2台は基本的にあまり違いがなく、ホイールと装着タイヤ、ポジションの小変更といった程度であり、スタイリングで選んでも問題ない兄弟車である。
そんな2台がスタイリングイメージは引き継ぎつつ、ライディングポジションなどは大きく見直し2024モデルとなった。401は引き続きVittpilenとSvartpilenの2台展開で、新型フレームや新型スイングアームを採用するなど力の入ったモデルチェンジ。しかし実は注目はエンジンごと新しくなった250の方なのである。
250の方はネーミングこそSvartpilenなのだが、250にはVitpilenが存在しないことから、オフテイストでアップハンドルのSvartpilenのハズなのにキャストホイール仕様とするなど、SvartpilenとVitpilenの融合のようなスタイリングとなった。この2ブランドの融合は進んでいるようで、現在オンロード向けのVitpilenは401だけというラインナップ。新機種として投入され注目されているSvartpilen801も250同様にキャストホイール仕様でVitpilenコンセプトと融合されているようだ。
なんだか複雑な話になってしまったが、改めて新型の250にフォーカスしていこう。

敢えてSOHCエンジンを採用

KTMの250DUKEと兄弟車となるSvartpilen250は、2024年モデルでもやはり基本構成は250DUKEと共有するため、新型となったフレームやシートレールといったトピックも共通。リアサスを車体右側にオフセットさせることでシート高を下げ、よりユーザーフレンドリーになったというのも共通の魅力だ。
そしてやはり共通ではあるものの、注目したいのはエンジンの変更。かつてはDOHCユニットだったのだが、2024モデルでは690などでも実績のあるSOHCへと変更したのだ。カムは2本あった方がエライ(?)といったような風潮もあるかもしれないが、そこはシングルを知り尽くしたKTM、性能的な部分は犠牲とすることなく、SOHC化により部品点数を減らし軽量化を達成。さらにはエンジンそのもののサイズもコンパクト化できたことで新型フレームを採用でき、これまで以上の理想のハンドリングを追求しているのだ。
先代までの250ユニットは基本的に390(ハスクバーナ的には401)ユニットの縮小版という経緯があったためサイズ感があったわけだが、新型エンジンは125を基本プラットホームに開発したためグッとコンパクトになったのだ。またこの新規エンジンは耐久性やメンテナンスのしやすさも追求し、オイル・オイルフィルター・エアフィルターは初回1000km交換後は10000kmごとの交換サイクルを実現している。

入門機でありながら本格派

250ccの排気量帯であるがゆえ、エントリーモデル的な位置づけや役割も期待されるSvartpilen250だが、だからといって妥協はなく、フロントフォークはφ43mmの倒立ビッグピストンフォークを採用し、スリッパークラッチやデュアルチャンネルABSも装備。
メーターは401のTFTに対してモノクロのLCDとなるものの、それでも5インチのサイズを確保するなど実用性は十分以上だ。またSvartpilen専用に新たにアルミ鍛造のトリプルクランプ(三つ又)を投入し走りを味付けているところなど、エントリーモデルとはいえハスクバーナブランドが大切にする走りの要素はしっかりと追求していると感じられた。

ポジションの適正化による恩恵

SvartpilenにもVitpilenにも共通してきたことだが、先代まではその独自のスタイリングがフォーカスされがちで、実はライディングエルゴノミクスというか、バイクの操りやすさという意味ではちょっと疑問が残る部分がなくはなかった。先代まではシートが高くステップが低く、うまくバイクをホールドしにくいような感が付きまとっていたのだ。
膝の角度が緩すぎるのか、はたまたハンドルとの距離感の問題なのか、もう一つ「バイクを掴む」ことが難しく、ニーグリップをすればいいのか、ヒールグリップでいなすのか……。一体感を得にくい構成は積極的に走らせようと思うとちょっと悩んでしまうような場面もあったのは筆者だけではないと思う。
対して新型だが、シート高が15mm下げられ、スイングアームが伸ばされ、全体的なポジションがいい意味で「普通化」した。シートの位置とハンドルの位置、ステップの位置という3角形が適正な関係性になり、先代までは「むむむ? ハスクバーナらしい独特な感覚!」というのが常にあったのに対し、新型ではその個性(あるいは違和感)が少なくなり誰にでもスッと乗れるようになったと思う。
この変更はそういったポジションだけではなく、車格が大きくなったということも影響しているだろう。エンジンのコンパクト化や軽量化、新規フレームの採用などと聞くと全体的に車格も小さくなったのではないかと想像したが、実は車格自体は20%も大きくなっているそう。なるほど、先代のどこか捉えどころのない感覚はそのコンパクトさによるところもあったのかもしれない。
20%も大きくなったと聞くと250にしては大柄なのかと危惧する人もいるかもしれないが、むしろ適正化した印象の方が強く、またシート高が下げられたことやより操作しやすいライディングポジションになったことから手の内感は高まっているのだった。

元気なエンジンと優しいスポーツ性

さて、試乗は晴天の中の気持ちの良いワインディング。個性的でおしゃれなSvartpilenならストリートシーンにこそマッチしそうではあるが、そのスポーツ性も確認できるシチュエーションで乗ることができた。
新規のSOHCエンジンだが、コレがとてもスムーズで高回転域も良く回る。低回転域でトコトコ走るにも全く苦労はなく、峠道の登りでも気兼ねなくツーリングペースを維持できるのはもちろんだが、パワーバンドに入っていくとハスクバーナ(というかKTM)らしい元気なシングルパワーが弾け、しかもそのパワーバンドがけっこう広く「引っ張り続けて楽しむ!」といった感覚がなかなかにスポーティだ。まだ走行距離が浅いということもあってかレブリミット付近では振動も多めに出たが、これはナラシが進めば解消していくことだろう。パワーバンドを維持して走っているぶんには、Svartpilenのオシャレさはすっかり忘れてしまい、KTMらしいスポーティさを満喫してしまった。
とはいえ、では見た目が違うだけで中身はKTMかといえばそんなことはないのが面白い。ハンドリングがKTMのような切れ味鋭いものではなく、どこか大らかさがあるのがSvartpilenの魅力に感じた。これは装着タイヤの違いによる影響もあるかとは思うが、それよりもハンドルに載っている質量の違いではないかと思う。メーターやヘッドライトが最小限でしかもなるべくハンドルの近くに設置されるKTMに対して、Svartpilenは大きめのメーターが昔ながらのバイクのようにハンドルバーの向こう側に配置されていて、さらにその向こう側に大型のヘッドライトやメーターバイザーも備えるため、ステアリングに載っている質量感がKTMよりかなり大きいと感じる。今回投入された新型トリプルクランプの恩恵もあるかとは思うが、こうった違いがハンドリングに適度なしっとり感を与えてくれているのだろう。公道のワインディングでは「切れ味」とは対極にある、こういった味付けがむしろ安心感を生んでいるのだ。

一味違ったバイクを求めるライダーへ

ハスクバーナとKTM、日本でもそれらの存在感にはかなりの違いがあり、兄弟車種だと一目ではわからないモデルも多い。それゆえの住み分けもできているようで、ヨーロッパでもハスクバーナブランドを選ぶライダーとKTMブランドを選ぶライダーでは層が違うらしい。
KTMはそのイメージ通り、レーシングスーツを着込んでワインディングやサーキットに繰り出す人が多いのに対して、ハスクバーナはレザージャケットにジェットヘルメットでしっかりとオシャレして、ストリートを中心に楽しむ人が多いという。さらには日々の通勤などにハスクバーナブランドを選ぶ人も少なくなく、より都会的な空気感に溶け込むブランドとして認識されているそうだ。
ということは、ハスクバーナ試乗用にクラシックスタイルのレザージャケットとやはりクラシカルスタイルのジェットヘルメットを準備したというのは、ハスクバーナのコンセプトにピッタリだったということで嬉しい。
性能的な部分ではKTMイズムもあり妥協はなく、しかし普段はそんなことはおくびにも出さずカジュアルにストリートを駆ける。それでいてその気になればしっかりとスポーツもできるだけでなく、切れ味鋭すぎないハンドリングなどハスクバーナらしいエッセンンスもちゃんとある。しかも今回のモデルチェンジでシート高が下がりライディングポジションもより付き合いやすいものになったのだから、ますますこのブランドは魅力を高めていると言えるだろう。
オシャレにバイクに乗りたいし「一味違う」感覚も楽しみたい、それでいてスポーツを前面に押し出すことなく、街に溶け込みたいという人にピッタリなSvartpilen250。新型になりますます付き合いやすくなったと感じた。

足つき性チェック(ライダー身長185cm)

もともと小柄でスリムなSvartpilenだが、今回はシート高が15mm下げられ820mmに設定された。これにより足つきは大変良好だ。排気系は腹下にチャンバーを持つタイプで、タンデムライダー含めてふくらはぎで触ってしまうなどの心配がなく嬉しい。

ディテール解説

Svartpilenではあるがホイールはキャスト仕様で、ブレーキはφ320mmのシングルディスク。ラジアルマウントされたByBreキャリパーと併せて制動力は極上だ。タイヤはSvartpilenらしくオフロードテイストのパターンを持つ、インド製のMRF revz-FDというブランド。これが予想を上回るグリップをしてくれてワインディングもしっかりと楽しめた。フォークはφ43mmのビッグピストンタイプだ。
新たにSOHC化されたエンジンは先代のDOHCに比べるとかなりコンパクトに仕上げられ、それにより新型フレームも採用した。先代までは390エンジンをベースにしていたのに対し、新型は125をベースに作られたということもあり、かなり軽量コンパクト化が進められている。最新ユーロ5に対応しつつ、パフォーマンス面での妥協はなく、SOHCでも高回転域まで気持ちよく回っていく。
車体中央から右側へとオフセットされたリアサスの設定はKTMのDUKEと同じ変更だ。オフセットさせることによりシート下スペースの各コンポーネントの配置を見直すことができ、結果としてシートを15mm下げることに成功した。リアサスはWP APEXでプリロード調整機構をもつ。右側にオフセットされたことでプリロード調整も容易になったことだろう。
内部補強を敢えて外側に見せるKTMのスイングアームをこちらでも採用。オフセットされたリアサスの受けを作る都合などで新作となっている。サスストロークは前後とも150mmに設定。
リアタイヤは150幅を確保し、リアディスクはφ240mm。リアブレーキのコントロール性も良好。
ステップの位置はシート/ハンドルと併せて、個性的だった先代に対して適正となった印象。バンク角も十分で、流す走りも積極的な走りも許容するようになった。ステップにはゴムが貼られ振動対策も。なおクイックシフターも装備されるがいくらか過敏なきらいがあり、意図せずシフトペダルに触ってしまうと点火カットが起きて驚くこともあった。ライダーに合わせてペダル位置は適正に調整することが大切に思う。あるいはクイックシフターをオフにしてもシフトチェンジはスムーズなため、(筆者のように)クイックシフターが苦手な人はそうしても良いだろう。
ツルっとしたシートデザインはハスクバーナらしいもので先代とイメージを共有。シート高は下げられたがそれによってハスクバーナらしいデザインが犠牲になっていないのが良い。ホールド性も快適性も良好。そしてタンデムシート後端にあるウイングのようなタンデムグリップはタンデムライダーを後ろに落とさないという意味でも、そして荷物を括り付けるにも重宝するはずだ。シート下は最小限だが、アクセサリー電源や車載工具を備えている。
昔ながらの丸ライトがクラシックさやスタイリッシュさを演出。その丸ライトに融合するように配置されるメーターバイザーもメーター周りを上手にカバーしている。ヘッドライトは401などと共通だが、250はポジションライトリングが省かれている仕様だ。なおこの大型ライトが三つ又より前に飛び出していることでハンドリングに質量感が出て、兄弟車であるKTMとは違ったしっとりしたハンドリングを実現していると感じた。
面発光のテールライトは4輪的でモダン。ストップランプはLEDらしいツブツブ感がある。テールは跳ね上げられたフェンダーにSvartpilenのオフ車テイストが込められている。ウインカーはLED。
ハンドルクランプ上にメーターを配置する車種が増えた昨今、Svartpilenはハンドルの向こうにメーターがあることでハンドル周りに開放感がある。またそのおかげでハンドリングもしっとりしているのではないかというのは先述の通り。ハンドルバーが露出しているおかげでスマホホルダーなどの装着もしやすいだろう。丸ミラーはデザイン的には面白いが、乗っていると妙に大きくて張り出しているような印象だったが、それは好みで換えてもいい部分だ。
左側のスイッチボックスは990DUKEなどとほぼ共通のもの。各スイッチ類へのアクセスは良好だが、しかし250ではそんなに設定する項目もないため、もう少しシンプルでも良かったような気もする。右側はキルとセルのスイッチのみ。もちろんライドバイワイヤーである。
タンクは401と同じ13Lの容量を確保。250シングルの燃費や、トコトコ走っても楽しいSvartpilenの性格を考えると長距離のツーリングシーンも十分楽しめるだろう。左右に張り出したシュラウド部の存在感は大きいが、筆者のように長身でもどこかに膝が当たるといった窮屈さはなかった。タンク上には荷物の積載を考慮したラゲッジラックを標準装備する。
メーター形状は401と同じ5インチのものだが、250ではモノクロ表示。必要十分の情報が見やすく、何も不便はない。左スイッチボックスの各種ボタンでクイックシフターのオン/オフなど直感的に行うことができた。

ハスクバーナ・Svartpilen 250/主要諸元

●エンジン
トランスミッション:6速
冷却:水冷
KW出力:23 kW
スターター:セルスターター
ストローク:61.2 mm
ボア:72 mm
クラッチ:PASC™ アンチホッピングクラッチ、機械操作式
CO2 EMISSIONS63.5 g/km
圧縮比:12.4
排気量:249.1㎤
EMS:Bosch製 EMS ライドバイワイヤー
デザイン:単気筒、4ストロークエンジン
消費燃料:2.7 l/100 km
潤滑:2ポンプ式オイル圧送潤滑

●シャシー
重量 (燃料なし):154 kg
燃料タンク容量 (約):13.0 l
ホイールベース:1368 mm
ABS:Bosch 9.3 MP (with cornering ABS and SUPERMOTO ABS)
フロントブレーキディスク径:320 mm
リアブレーキディスク径:240 mm
フロントブレーキ:ByBre, opposed four-piston caliper, brake disc
チェーン:520 X-Ring
フレームデザイン:スチール製トレリスフレーム。パウダーコート塗装
フロントサスペンション:WP APEX 43
最低地上高:180 mm
ハンドルバー:スチール製、テーパー形状 Ø 26/22 mm
リアサスペンション:WP APEX - Monoshock
シート高:820 mm
サイレンサー:ステンレススチール製サイレンサー。規制適合触媒コンバーター内蔵。
キャスター角:66 °
リアサブフレームデザイン:スチール製トレリスフレーム。パウダーコート塗装
サスペンションストローク (フロント):150 mm
サスペンションストローク (リア):150 mm
ホイールスポークホイール(アルミニウム製リム)


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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…