目次
ハスクバーナ・Svartpilen 250……710,000 円(消費税込み)
Vitpilen とSvartpilen
ハスクバーナのこのシリーズは、オンロードテイストのVitpilen(ヴィットピレン)、そしてオフロードというか、スクランブラー風のスポークホイール仕様となっているSvartpilen(スヴァルトピレン)の2機種を展開してきた。とはいえ2台は基本的にあまり違いがなく、ホイールと装着タイヤ、ポジションの小変更といった程度であり、スタイリングで選んでも問題ない兄弟車である。
そんな2台がスタイリングイメージは引き継ぎつつ、ライディングポジションなどは大きく見直し2024モデルとなった。401は引き続きVittpilenとSvartpilenの2台展開で、新型フレームや新型スイングアームを採用するなど力の入ったモデルチェンジ。しかし実は注目はエンジンごと新しくなった250の方なのである。
250の方はネーミングこそSvartpilenなのだが、250にはVitpilenが存在しないことから、オフテイストでアップハンドルのSvartpilenのハズなのにキャストホイール仕様とするなど、SvartpilenとVitpilenの融合のようなスタイリングとなった。この2ブランドの融合は進んでいるようで、現在オンロード向けのVitpilenは401だけというラインナップ。新機種として投入され注目されているSvartpilen801も250同様にキャストホイール仕様でVitpilenコンセプトと融合されているようだ。
なんだか複雑な話になってしまったが、改めて新型の250にフォーカスしていこう。
敢えてSOHCエンジンを採用
KTMの250DUKEと兄弟車となるSvartpilen250は、2024年モデルでもやはり基本構成は250DUKEと共有するため、新型となったフレームやシートレールといったトピックも共通。リアサスを車体右側にオフセットさせることでシート高を下げ、よりユーザーフレンドリーになったというのも共通の魅力だ。
そしてやはり共通ではあるものの、注目したいのはエンジンの変更。かつてはDOHCユニットだったのだが、2024モデルでは690などでも実績のあるSOHCへと変更したのだ。カムは2本あった方がエライ(?)といったような風潮もあるかもしれないが、そこはシングルを知り尽くしたKTM、性能的な部分は犠牲とすることなく、SOHC化により部品点数を減らし軽量化を達成。さらにはエンジンそのもののサイズもコンパクト化できたことで新型フレームを採用でき、これまで以上の理想のハンドリングを追求しているのだ。
先代までの250ユニットは基本的に390(ハスクバーナ的には401)ユニットの縮小版という経緯があったためサイズ感があったわけだが、新型エンジンは125を基本プラットホームに開発したためグッとコンパクトになったのだ。またこの新規エンジンは耐久性やメンテナンスのしやすさも追求し、オイル・オイルフィルター・エアフィルターは初回1000km交換後は10000kmごとの交換サイクルを実現している。
入門機でありながら本格派
250ccの排気量帯であるがゆえ、エントリーモデル的な位置づけや役割も期待されるSvartpilen250だが、だからといって妥協はなく、フロントフォークはφ43mmの倒立ビッグピストンフォークを採用し、スリッパークラッチやデュアルチャンネルABSも装備。
メーターは401のTFTに対してモノクロのLCDとなるものの、それでも5インチのサイズを確保するなど実用性は十分以上だ。またSvartpilen専用に新たにアルミ鍛造のトリプルクランプ(三つ又)を投入し走りを味付けているところなど、エントリーモデルとはいえハスクバーナブランドが大切にする走りの要素はしっかりと追求していると感じられた。
ポジションの適正化による恩恵
SvartpilenにもVitpilenにも共通してきたことだが、先代まではその独自のスタイリングがフォーカスされがちで、実はライディングエルゴノミクスというか、バイクの操りやすさという意味ではちょっと疑問が残る部分がなくはなかった。先代まではシートが高くステップが低く、うまくバイクをホールドしにくいような感が付きまとっていたのだ。
膝の角度が緩すぎるのか、はたまたハンドルとの距離感の問題なのか、もう一つ「バイクを掴む」ことが難しく、ニーグリップをすればいいのか、ヒールグリップでいなすのか……。一体感を得にくい構成は積極的に走らせようと思うとちょっと悩んでしまうような場面もあったのは筆者だけではないと思う。
対して新型だが、シート高が15mm下げられ、スイングアームが伸ばされ、全体的なポジションがいい意味で「普通化」した。シートの位置とハンドルの位置、ステップの位置という3角形が適正な関係性になり、先代までは「むむむ? ハスクバーナらしい独特な感覚!」というのが常にあったのに対し、新型ではその個性(あるいは違和感)が少なくなり誰にでもスッと乗れるようになったと思う。
この変更はそういったポジションだけではなく、車格が大きくなったということも影響しているだろう。エンジンのコンパクト化や軽量化、新規フレームの採用などと聞くと全体的に車格も小さくなったのではないかと想像したが、実は車格自体は20%も大きくなっているそう。なるほど、先代のどこか捉えどころのない感覚はそのコンパクトさによるところもあったのかもしれない。
20%も大きくなったと聞くと250にしては大柄なのかと危惧する人もいるかもしれないが、むしろ適正化した印象の方が強く、またシート高が下げられたことやより操作しやすいライディングポジションになったことから手の内感は高まっているのだった。
元気なエンジンと優しいスポーツ性
さて、試乗は晴天の中の気持ちの良いワインディング。個性的でおしゃれなSvartpilenならストリートシーンにこそマッチしそうではあるが、そのスポーツ性も確認できるシチュエーションで乗ることができた。
新規のSOHCエンジンだが、コレがとてもスムーズで高回転域も良く回る。低回転域でトコトコ走るにも全く苦労はなく、峠道の登りでも気兼ねなくツーリングペースを維持できるのはもちろんだが、パワーバンドに入っていくとハスクバーナ(というかKTM)らしい元気なシングルパワーが弾け、しかもそのパワーバンドがけっこう広く「引っ張り続けて楽しむ!」といった感覚がなかなかにスポーティだ。まだ走行距離が浅いということもあってかレブリミット付近では振動も多めに出たが、これはナラシが進めば解消していくことだろう。パワーバンドを維持して走っているぶんには、Svartpilenのオシャレさはすっかり忘れてしまい、KTMらしいスポーティさを満喫してしまった。
とはいえ、では見た目が違うだけで中身はKTMかといえばそんなことはないのが面白い。ハンドリングがKTMのような切れ味鋭いものではなく、どこか大らかさがあるのがSvartpilenの魅力に感じた。これは装着タイヤの違いによる影響もあるかとは思うが、それよりもハンドルに載っている質量の違いではないかと思う。メーターやヘッドライトが最小限でしかもなるべくハンドルの近くに設置されるKTMに対して、Svartpilenは大きめのメーターが昔ながらのバイクのようにハンドルバーの向こう側に配置されていて、さらにその向こう側に大型のヘッドライトやメーターバイザーも備えるため、ステアリングに載っている質量感がKTMよりかなり大きいと感じる。今回投入された新型トリプルクランプの恩恵もあるかとは思うが、こうった違いがハンドリングに適度なしっとり感を与えてくれているのだろう。公道のワインディングでは「切れ味」とは対極にある、こういった味付けがむしろ安心感を生んでいるのだ。
一味違ったバイクを求めるライダーへ
ハスクバーナとKTM、日本でもそれらの存在感にはかなりの違いがあり、兄弟車種だと一目ではわからないモデルも多い。それゆえの住み分けもできているようで、ヨーロッパでもハスクバーナブランドを選ぶライダーとKTMブランドを選ぶライダーでは層が違うらしい。
KTMはそのイメージ通り、レーシングスーツを着込んでワインディングやサーキットに繰り出す人が多いのに対して、ハスクバーナはレザージャケットにジェットヘルメットでしっかりとオシャレして、ストリートを中心に楽しむ人が多いという。さらには日々の通勤などにハスクバーナブランドを選ぶ人も少なくなく、より都会的な空気感に溶け込むブランドとして認識されているそうだ。
ということは、ハスクバーナ試乗用にクラシックスタイルのレザージャケットとやはりクラシカルスタイルのジェットヘルメットを準備したというのは、ハスクバーナのコンセプトにピッタリだったということで嬉しい。
性能的な部分ではKTMイズムもあり妥協はなく、しかし普段はそんなことはおくびにも出さずカジュアルにストリートを駆ける。それでいてその気になればしっかりとスポーツもできるだけでなく、切れ味鋭すぎないハンドリングなどハスクバーナらしいエッセンンスもちゃんとある。しかも今回のモデルチェンジでシート高が下がりライディングポジションもより付き合いやすいものになったのだから、ますますこのブランドは魅力を高めていると言えるだろう。
オシャレにバイクに乗りたいし「一味違う」感覚も楽しみたい、それでいてスポーツを前面に押し出すことなく、街に溶け込みたいという人にピッタリなSvartpilen250。新型になりますます付き合いやすくなったと感じた。
足つき性チェック(ライダー身長185cm)
ディテール解説
ハスクバーナ・Svartpilen 250/主要諸元
●エンジン トランスミッション:6速 冷却:水冷 KW出力:23 kW スターター:セルスターター ストローク:61.2 mm ボア:72 mm クラッチ:PASC™ アンチホッピングクラッチ、機械操作式 CO2 EMISSIONS63.5 g/km 圧縮比:12.4 排気量:249.1㎤ EMS:Bosch製 EMS ライドバイワイヤー デザイン:単気筒、4ストロークエンジン 消費燃料:2.7 l/100 km 潤滑:2ポンプ式オイル圧送潤滑 ●シャシー 重量 (燃料なし):154 kg 燃料タンク容量 (約):13.0 l ホイールベース:1368 mm ABS:Bosch 9.3 MP (with cornering ABS and SUPERMOTO ABS) フロントブレーキディスク径:320 mm リアブレーキディスク径:240 mm フロントブレーキ:ByBre, opposed four-piston caliper, brake disc チェーン:520 X-Ring フレームデザイン:スチール製トレリスフレーム。パウダーコート塗装 フロントサスペンション:WP APEX 43 最低地上高:180 mm ハンドルバー:スチール製、テーパー形状 Ø 26/22 mm リアサスペンション:WP APEX - Monoshock シート高:820 mm サイレンサー:ステンレススチール製サイレンサー。規制適合触媒コンバーター内蔵。 キャスター角:66 ° リアサブフレームデザイン:スチール製トレリスフレーム。パウダーコート塗装 サスペンションストローク (フロント):150 mm サスペンションストローク (リア):150 mm ホイールスポークホイール(アルミニウム製リム)