ローダウン仕様にありがちなマイナス要素が見当たらない、カワサキKLX230シェルパ 1000kmガチ試乗【2/3】

注釈ナシのKLX230をベースにして、車高とシート高を低くしたモデル。KLX250Sとシェルパは、そういう紹介をされることが多いモデルだ。もっともシェルパをじっくり乗り込んだ筆者は、ローダウン仕様に特有のマイナス要素をまったく感じなかった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキ KLX230シェルパ……638,000円

シートレールは刷新しているものの、ペリメタータイプのセミダブルクレードルフレームは先代KLX230の構成を踏襲。アースカラーを意識したシェルパの車体色は、ミディアムスモーキーグリーン、ホワイティッシュベージュ、ミディアムクラウディグレーの3種。

グローバルモデルならではの性能

トータルの走行距離はあまり伸びなかったものの、今回の試乗期間中の僕は、①撮影を兼ねたツーリング、②セロー250を愛用する友人Eを誘って林道メインのツーリング、③舗装路オンリーのソロツーリングに出かけ、①②は早朝出発&日没後帰宅だった。そして3度のロングランを通してしみじみ実感したのは、日本市場向けとして安易に車高/シート高を下げなかったからこそ……と言いたくなる、抜群の快適性と運動性だった。

と言うのも、既存の軽二輪のトレールバイクは、足つき性を意識した前下がりのシート座面に居心地の悪さを感じたり(第1回目で紹介したかつての人気車、ホンダSL230やヤマハ・セローにも言える話である)、ストロークを短縮した前後サスペンションに違和感を覚えたりすることが少なくなかったのだ(僕は体験していないものの、2022~2023年型KLX230Sはそういう雰囲気だった模様)。ところがKLX230シェルパは、乗車姿勢や車体の挙動に気になる点が見当たらないから、スポーツライディングと長距離走行が存分に楽しめる。

シートと前後サスペンションに感心

具体的な話をするなら、まずライポジ関連パーツの要となるシートは、実は先代KLX230も座面がフラットで、僕の印象は決して悪くなかったものの、シェルパのシートは左右幅がわずかに広がっているようで(念のために記しておくと、トレールバイクのシートは幅が狭いのが定番)、ロングランでも尻が痛くなりづらい。もちろんその感触は、シート単体で語れるものではなく、絶妙な位置に備わるステップやハンドルも含めての話だが、既存のトレールバイクではツーリング中の定番作業だった、尻の痛みを緩和するための舗装路でのスタンディングは、このバイクではほとんど必要ないのである。

そして車体の挙動に関して、僕が感心したのは前後サスペンションの動き。オフロード系のバイクで足の長さが異なる2種の仕様が存在する場合、短いモデルは乗り心地やピッチングという面で不満を感じることが珍しくないのに、注釈ナシのKLX230を基準にすると、前後ホイールトラベルを240/250mm→200/223mmに短縮しているにも関わらず、シェルパの足の動きはナチュラルにしてスムーズで、ローダウン仕様にありがちなマイナス要素はまったく見当たらなかったのだ。

と言っても注釈ナシのKLX230を体験したら、さらに好感触が得られる可能性はあるだろう。でもこのシリーズは、最初にメインの足長仕様を完成させ、次に足が短いモデルを作るという順序ではなく、KLX230/S/シェルパを(もしかしたらSMも)同時進行で開発したんじゃないか……と、今現在の僕は感じている。

予想以上に広かったエンジンの守備範囲

車体の話が長くなったけれど、今回の試乗ではパワーユニットにも大いに感心。同時期に開発された同系エンジン搭載車のW230/メグロS1が、低回転の味わいを重視した特性を構築しているためか、KLX230シリーズは高回転指向と言われているようで、確かにシェルパに乗った僕は、中回転域からの伸びがW230/メグロS1よりシャープで力強いことを認識したのだが……。

その一方でシェルパのエンジンは、低回転域で十分な粘りと味わいを見せてくれた。クラッチワークに特に気を使わなくても、歩くような速度で走った際にエンジンがストールすることは一度もなかったし、タカタカタカッという小気味いい排気音を聞きながらの巡航はなかなか心地良かった。いずれにしてもOHC2バルブの232cc空冷単気筒が、こんなにも幅広い守備範囲を実現しているのは、僕にとっては嬉しい誤算だったのである。

セローやSL230とは似て非なる資質

今回の試乗期間中に出かけた林道ツーリングには、セロー250を愛用する友人Eが同行。途中で確認として味見させてもらった。

続いては未舗装路の話で、先にお断りしておくと、僕が過去に体験した軽二輪トレールバイクで、林道ツーリングを思いっ切り楽しめた車両のベスト3は、1位:ヤマハ・セロー225、2位:セロー250、3位:ホンダSL230である。我ながら偏ったラインアップだが、オフロードの腕前が万年初級~中級の身としては、絶対的な速さや俊敏なレスポンスや衝撃吸収能力よりも、軽さと小ささ、そしてフレンドリーさが重要なのだ。

そんな僕にとって、KLX230シェルパは理想的な資質を備えていた。何と言ってもセローやSL230的な感覚で、景色を眺めながらのトコトコ走行や、二輪二足でないと通過が難しい過酷な状況が楽しめたのだから。しかもそれでいて、このバイクの車体はセローやSL230よりカッチリした印象で、ギャップを通過した後の余韻の収まりが早いから、ここぞという場面では思い切ってアクセルをワイドオープンしたくなる。言ってみれば、モトクロッサーのKXを思わせる資質も備わっているわけで、僕にとってはその味つけが絶妙だったのである。

ライバル勢の魅力

さて、今回の1000km試乗は大絶賛になってしまったが、それはあくまでも僕の個人的な見解で、現在の市場でライバルになりそうなモデルを考えてみると、すべての面でKLX230シェルパが優れているわけではない。例えば、高速道路での安定性と快適性はスズキVストローム250SXのほうが圧倒的に優位だし、林道やオフロードコースを本気で攻めたいならホンダCRF250L〈S〉が一番だろう。また、いわゆる快走路と呼ばれる峠道での速さは、CRF250Lに軍配が上がる気がする。

とはいえ第1回目の冒頭で述べたように、数年前からオフロード熱が再燃し、ここ最近は定期的に林道ツーリングに出かけている僕が、現時点で最もグッと来ているのはKLX230シェルパなのである。そんなわけで、現在の自分の林道ツーリング用マシン、走行距離が約7万kmでヤレが進んだ1997年型SL230が寿命を迎えたら、KLX230シェルパの購入を検討しようと思う。

抜群の軽快感が満喫できるKLX230シェルパだが、峠道や林道ではフロントの動きがクイックすぎ?と感じることがあった。この問題は、標準で約10mmのフロントフォークの突き出しをゼロにして、キャスター/トレールを安定指向に振れば、ある程度改善できそうだ。なおKLX230Sとシェルパのキャスター/トレールはオンロードバイク的な24度/96mmで、注釈ナシのKLX230は25度/101mm。ちなみに、モトクロッサーのKX250は27度/118mm。

主要諸元 

車名:KLX230シェルパ
型式:8BK-LX232A
全長×全幅×全高:2080mm×920mm×1150mm
軸間距離:1365mm
最低地上高:240mm
シート高:845mm
キャスター/トレール:24.6°/96mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:232cc
内径×行程:67.0mm×66.0mm
圧縮比:9.4
最高出力:13kW(18ps)/8000rpm
最大トルク:19N・m(1.9kgf・m)/6000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.000
 2速:2.066
 3速:1.555
 4速:1.260
 5速:1.040
 6速:0.851
1・2次減速比:2.870・3.214
フレーム形式:セミダブルクレードル(ペリメター)
懸架方式前:テレスコピック正立式φ37mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック(ニューユニトラック)
タイヤサイズ前:2.75-21
タイヤサイズ後:4.10-18
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:134kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:7.6L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:45.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス2-1:34.7km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…