ビッグスクーターも純正でスマホ&インカム連携の時代です|ホンダ・フォルツァ試乗記

2000年のデビュー以来、現行モデルで第5世代となるホンダ・フォルツァは、今や稀少な250ccフルサイズの軽二輪スクーターだ。2025年モデルはメーターパネルを変更し、トランク内に照明を追加した程度だが、もはやこれ以上の進化はないと思えるほど完成度の高い走りが魅力的だ。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・フォルツァ……78万1000円(2025年1月16日発売)

2018年のフルモデルチェンジで第5世代となり、2021年に新設計のeSP+エンジンを搭載した現行フォルツァ。2023年モデルで平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合し、ヘッドライトやテールランプ、メーターパネルなどの意匠を変更。そして今回紹介するのが最新の2025年モデルだ。車両価格は2023年モデル比で8万9100円、およそ13%アップした。
車体色はパールジュビリーホワイトとパールシャイニングブラックの2種類。どちらもホイールはブロンズカラーを採用する。
国内4メーカーでの競合車はヤマハ・XMAX ABSのみ。価格はフォルツァより6万6000円安い71万5000円だ。スクリーンは電動無段階式のフォルツァに対し、取付ボルト位置変更によるハイ/ロー2段階というのがXMAXのディスアドバンテージだろう。なお、スマホ連携機能のCCU(コミュニケーション・コントロール・ユニット)を搭載しており、ガーミン社製ナビアプリ「Garmin StreetCross」による地図画面表示も可能だ。

250ccスクーターとしての完成度の高い走りに感心

250ccビッグスクーターブームのピークから20年もの時が流れ、今や国内のラインナップにはホンダのフォルツァとヤマハのXMAX、この2機種しかない。現在、軽二輪スクーターの売れ筋と言えばPCX160やADV160だが、250ccフルサイズのニーズも未だ根強いのは確かだ。ちなみにフォルツァは、基本設計を共有する形で125と350を海外で展開しており、特に125はヨーロッパで大人気となっている。

筆者がフォルツァに試乗するのは、エンジンが1軸バランサー採用の「eSP+」になった2021年モデル以来だが、あらためて完成度の高さに感心する。まずは動力性能から。アイドリング時を含め、全域にわたってエンジンの微振動が抑えられているが、電動スクーターのような無味無臭感はなく、内燃機関としての上質なフィーリングが実に心地良い。スロットル開け始めの反応、そして戻した時に発生するエンブレともに過度ではなく、ライダーを決して慌てさせることがない。右手を大きく動かせば発進は力強く、186kgもの車体をいとも簡単に加速させるが、エンジンはあくまで裏方に徹している印象だ。なお、メーター読み100km/hでの回転数はおよそ6,000rpm。今回はテストできなかったが、120km/h巡航も余裕でこなせそうだ。

1軸バランサーやピストンオイルジェットなどを採用した249cc水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ「eSP+」エンジン。オン/オフ可能なHSTC(ホンダ・セレクタブル・トルク・コントロール)を採用する。最高出力はXMAXと同じ23psだ。

ホイール径およびタイヤサイズは奇しくもXMAXと共通で、フロントは120/70-15、リヤは140/70-14を採用する。フロント13インチ/リヤ12インチだった第1世代から知る身としては、この20年あまりでずいぶんと大径化が進んだものだと感慨深い。

ホイールは専用設計で、フロント15インチ、リヤ14インチを採用。標準装着タイヤはIRC・SS-560F/SCT-004、ピレリ・ディアブロスクーターの2種類だ。フロントブレーキはφ256mmディスクとニッシン製ピンスライド片押し式2ピストンキャリパーのセット。フロントフォークはインナーチューブをアンダーブラケットのみで支えるユニットステア式だ。

前後の大径ホイールおよび1,510mmという長いホイールベースもあって、ハンドリングは微速域から安定性が高く、発進時にフラつきにくい。フロントの舵角の付き方は常に穏やかであり、バンク角主体でスムーズに向きを変える。XMAXとの大きな違いはフロントフォークの支持方法で、ヤマハは一般的なモーターサイクルと同様にインナーチューブを上下のブラケットでしっかりと固定。これに対してフォルツァは、スクーターでは主流のユニットステアを採用する。これにより、操縦に対する反応の俊敏さやフロント周りの剛性感はXMAXの方が上だが、フォルツァはそうしたスポーティさよりもコンフォートな乗り心地を優先したような印象で、ここに両モデルのコンセプトの違いが感じられる。

左がフォルツァ、右がXMAXのフロントフォークだ。インナーチューブの長さが異なることが分かるだろう。

サスペンションの作動性は前後ともスムーズで、クッション性の高いシートと合わせて乗り心地は優秀だ。ブレーキはリヤの制動力が高い上にコントロール性も優秀で、右手はスロットル、左手は減速に集中できるのも快適に感じられる要因だ。なお、電動式可動スクリーンは、速度や風向きによって刻々と変化する快適な高さをスイッチ一つで無段階に調整でき、これがXMAXに対する決定的なアドバンテージの一つになっている。

スイッチ操作で無段階に高さを調整できる電動式可変スクリーンを採用。可動域は180mmで、どの高さに設定しても空気の流れが最適になるように、空力解析を用いて設計されている。

Honda RoadSyncは旧型オーナーが嫉妬するほど便利だ

さて、今回試乗した2025年モデルの目玉は、5.0インチTFTフルカラー液晶メーターの新採用だ。ゴージャスな雰囲気から一転、シンプル・イズ・ベストを地で行くようなメーターパネルになったわけだが、スマホおよびインカムとの接続機能「Honda RoadSync(ホンダ・ロードシンク)」は非常に便利であり、旧型オーナーは悔しがるのではないかとすら感じた。

マイナーチェンジ前は、指針式の速度計と回転計の中央に液晶画面を配置するという豪華なメーターパネルだった。
新型は5.0インチTFTフルカラー液晶メーターを採用だ。ブルートゥース接続されたインカムによる音声操作を実現。

実際に筆者のスマホにHonda RoadSyncアプリをダウンロードし、フォルツァとのブルートゥース接続を実施。ヘルメットに装着しているインカムはあらかじめスマホと連携しているので、これで準備完了だ。試乗中、知り合いから何度かLINEが届いたのだが、それが誰からのメッセージなのかを音声で知らせてくれ、しかも左ハンドルのセレクトスイッチを操作すれば「読み上げ」や「返信」も可能だ。

ナビゲーション機能については、XMAXのような地図画面表示はなく、曲がる方向とそこまでの距離を表示するターン・バイ・ターン方式ではあるが、目的地を音声で入力できるのは便利だと感じた。その他、電話をかけたり、スマホ内のミュージックアプリを操作したりと、さまざまな機能が盛り込まれている。

実際にブルートゥース接続すると、スマホ側の画面はこの状態となる。

こうした機能は、アフターマーケットに数多あるスマートモニターの方がハイスペックではある。だが、筆者もすでに愛車に導入しているが、コックピットにモニターを増設することの煩雑さや視線の移動量、手元で操作できないことに少なからずストレスを感じている。その点、Honda RoadSyncはセレクトスイッチの形状も含めて実に良く考えられており、これを軽二輪スクーターに導入したのは大英断だろう。

シート下のラゲッジボックスには、トランクライトが新設された。今までなかったのかという小さな驚きもあるが、これでXMAXと肩を並べることができた。ただし、車載工具を収めるための奥まったスペースに設置されており、自動的に点灯する機能はなく、しかも光量が非常に少ないので、過度な期待はしない方がいいだろう。

2025年モデルで新設されたトランクライト。メインスイッチを押すか、オフの位置にすると約20秒間点灯。その他、スマートキーのアンサーバックスイッチを押すと約60秒間点灯する。

コンフォートかつコンビニエントなコミューターとして一段と磨きをかけたホンダ・フォルツァ。昨今の値上げトレンドを反映して価格は13%もアップしたが、それでも軽二輪スクーターの完成形の一つといっても過言ではないだろう。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

足を前方にも伸ばせるシットインポジションを採用。シートは座面が広い上にクッション性が高く、長時間乗っていても疲れにくい。
シート高は780mmを公称。身長175cmの筆者でも両かかとが地面からわずかに浮くが、座面が15mm高いXMAXよりは足着き性は良い。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…