海外試乗記|アメリカン・クルーザーでスポーツする!? それを可能にするのが新型「スカウト」シリーズの新エンジンと新フレームだ

インディアン・モーターサイクルは、ミッドウェイトクルーザーシリーズ「Scout(スカウト)」をフルモデルチェン。シリーズにラインナップする予定の5モデルを発表した。ここでは、最上級モデルである「101Scout」を中心に、その進化の詳細を報告する。

REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO:インディアン・モーターサイクル
衣装協力:クシタニ、アルパインスターズ

すべてが新しくなったインディアン・モーターサイクルの新型「スカウト」シリーズ

まさにビッグチェンジである。インディアン・モーターサイクル(以下インディアンMC)の歴史の中で重要な役割を担ってきた「スカウト」シリーズは、過去に同モデルが築き上げてきた役割を受け継ぎながら、エンジンも、フレームも、足回りも、車体を構成するほとんどのコンポーネンツを一新した。

とくに「101(ワンオーワン)スカウト」は、新しくなったエンジンやフレームのポテンシャルを最大限に引き出し、ロードスポーツモデル並のパフォーマンスを持った前後サスペンションを装着し、アメリカン・クルーザーでスポーツするという、いまアメリカで人気のスタイルを表現したモデルである。日本におけるアメリカン・クルーザーの世界は、スポーツライディングとは対局のイメージにあるが、「101スカウト」はそのイメージを覆す強いインパクトを持っている。それを実現するために、世界中のジャーナリストを集めて行われた国際試乗会の舞台は、アメリカ・サンフランシスコ郊外にあるワインディングロード。つづら折りの峠道から、緩やかな曲率の高速コーナーまでじつに多彩で、1000ccを超えるアメリカン・クルーザー・モデルの試乗には不向きと思われるようなコースが設定されていた。しかし「101スカウト」をはじめとする全5モデルを使った試乗では、そのコースをスーパースポーツ並のスピードで参加者を引っ張り、その高い速度域でエンジン、フレーム、サスペンションがどのようにワークするかを体験させるものだった。そして試乗の中で、アメリカン・クルーザー・モデル特有の低いバンク角や長いホイールベースの車体をワインディングでいかに速く走らせるか、ライダーは走り方を変えながらさまざまなトライをし、それに応える新型スカウトのポテンシャルを感じさせるものであり、実際にそれを感じることができた。アメリカン・クルーザーでスポーツするって、こんなに楽しいのか。そんな発見に満ちた試乗会だったのである。

アメリカンVツインのイメージを覆すPowerPlusエンジン

「101スカウト」は、PowerPlus(パワープラス)と名付けられた新型エンジンを搭載している。旧モデルからボアを拡大して排気量を1133ccから1250ccへと拡大。外観はもちろん、大径バルブを採用したシリンダーヘッド周りやクラッチ周りなど構成パーツの8割を一新し、最高出力は17%、最大トルクは14%向上させ、そこに至る中間回転域でも出力/トルクともに全域で10%以上も向上している。PowerPlusエンジンは、新型スカウト全モデルに搭載されているが、「101スカウト」にはECUのセッティング変更で105馬力から111馬力にパワーアップ。最大トルクは108Nmから109Nmへとわずかな変化だが、スーパーフラットなトルク特性を持つ、スタンダードのPowerPlusエンジンに比べ、低中回転域でのトルクは平均して10%程度分厚くなっている。

数字上の変化はわずかだが、それ以上の効果を体感することができる。クラッチをつないだ瞬間からエンジンの爆発力を強く感じることができるし、車体を前に推し進めるチカラも俄然強い。アクセル操作に対する車体の反応がより明確になり、それにより約240kgという車体をワインディングで軽々と切り返すための強い武器となる。

その力強さに対して、エンジンはじつにスムーズだ。V型2気筒4バルブ水冷DOHCのエンジンの鼓動感は感じるものの振動が少なく、回転上昇も速い。とくに4000回転のパンチ力は強烈で、高回転域を使ってアメリカン・クルーザーを走らせるのはライダーを爽快な気分にさせる。

あえてスチール製とした新型フレーム

そのエンジンのポテンシャルを最大限に引き出しているのが、新しくなったフレームだ。その新型フレームはスチール鋼管を使った、エンジン上部を通る2本のメインチューブと、サイドパネルとスイングアームピボット周りを構成するアルミ製ミッドフレーム、そしてリアフェンダー内に隠されたアルミ製サブフレームを組み合わせたハイブリッド。ステアリングヘッドから緩やかなS字を描きながら小型化したラジエターを抱えて下に伸びるダウンチューブは、1920年に登場した初代スカウトが採用していたフレームデザインが踏襲されている。旧モデルが、フルアルミフレームを採用していたことを考えると大きな変化である。

このアルミ→スチールパイプというフレーム素材の変更は、剛性バランスの再構築のほか、より加工がしやすいスチール製にフレーム素材を変更することで、カスタムという機能拡張が、アメリカン・クルーザー・モデルの販売促進にとって重要な要素(実際に大がかりなフレーム加工をする/しないは別として、その可能性を大きく含んでいること。その可能性を持つことによって醸造されるオーラのようなもの)となっているからだという。

今回「101スカウト」を含む全5モデルをワインディングで走らせたが、前後ホイールサイズや装備品が違っても、どのモデルも共通してフレームの剛性バランスが良く、ワンインディングや高速道路での安定感も高かった。また「101スカウト」は倒立タイプのフロントフォークに、より減衰圧特性に優れたリアショックユニットなどサスペンションのポテンシャルを大幅に高め、それによってワインディングを走る速度域を高めても、そのサスペンションが十分に威力を発揮できるほど、フレームとのバランスがしっかりと造り込まれていた。また「101スカウト」には、フロントにブレンボ製4ポットキャリパーをダブルでセットして制動力を大幅に高めているが、そのパフォーマンスを十分に発揮することができた。これも、サスペンションとフレームの剛性バランスがしっかりと整えられている証拠だ。

新型「スカウト」シリーズは、個性豊かな5モデルをラインナップ

新型スカウト・シリーズは、前後16インチホイールを採用する3モデル/ローダウンしたサスペンションを採用し1930年代に流行したスポーツスタイルをベースにした「スカウト・ボバー」、ディープフェンダーを採用しクラシカルでエレガントなスタイルを採用した「スカウト・クラシック」、1940年代のツーリングスタイルを再現した「スーパー・スカウト」と、フロント19インチ/リア16インチホイールを採用する2モデル/最新のトレンドであるクラブスタイルを構築した「スポーツ・スカウト」、そして「101スカウト」の、合計5モデルで構成されている。

現在、この新型「スカウト」シリーズの日本導入時期や価格は未定だ。しかし本国アメリカではすでに価格が発表されている(101スカウトの車両価格は1万6999ドルだ)。単純なドル円換算で日本での販売価格が決定されるわけではないが、おおよその目安にはなるだろう。各モデルの販売時期や価格は大いに気になるが、それよりも「101スカウト」をはじめとする各モデルで、日本の街やワインディングでどのような走行体験が得られるか、いまから楽しみである。

ライディングポジション&足つき性(170cm/65kg)

シート高は645mm。足つきは、両足がベッタリ付いて、さらに膝に余裕があるほど。ノーマルは、足を前に投げ出すようなフォワードコントロールを採用している。オプションで用意されるミッドコントロールならペダルが近くなり、さらに車体をコントロールしやすくなるだろう

ディテール解説

エンジンは俠角60度の排気量1250cc水冷4ストロークV型2気筒4バルブDOHC。旧モデルからボアを広げて排気量を拡大している。レイン/スタンダード/スポーツの3つのライディングモードを採用。101スカウトのみECUのセッティング変更で111馬力を発揮する
クウォーターフェアリングと呼ばれる、ハンドルマウントのカウルを装着。長距離走行およびに高速走行時に高い防風性を発揮するとともに、スポーティなスタイリングを造る重要なアイテムとなる
「101」のロゴが入るサイトパネルは、ミッドフレームと呼ばれる、スイングアームピボットを兼ねたフレーム。アルミキャスティングで、そのフィニッシュもカラーリングも美しい
フェンダーの内側にアルミ製サブフレームを採用することで、タンデムにも対応する高い強度を持ちながら、フェンダー外側にフレームが見えないすっきりとしたリア周りのデザインを実現した
フロントにはインナーチューブ径43mmフルアジャスタブルタイプの倒立フォークをセット。切削加工が施された19インチフロントホイールに、ラジアルマウントタイプのブレンボ製4ポットキャリパーと320mm径ブレーキディスクをダブルでセットする
リアサスペンションもフルアジャスタブルのピギーバックショックユニットを装着。ストローク量は76mmだが、その乗り心地もスポーツライディング時のパフォーマンスも、他モデルよりも優れている
直径101mmのタッチスクリーン式カラーディスプレイを採用。表示画面は2種類から選択可能で、ライディングモードなど各種セッティングも、グローブをしたまま画面をタッチして行うことができる
6インチライザーを標準装備。トップブリッジから伸びるハンドルライザーによって、ハンドルを高い位置にセットするトレンドのライディングスタイル。ダイレクト感もあり、操作性は良い

「101スカウト」主要諸元

■ホイールベース 1,562mm■シート高 654mm■車両重量 240kg■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ挟角60土V型2気筒セミドライサンプ■総排気量 1,250㏄■ボア×ストローク 104.0×73.6mm■圧縮比 12.5:1■最高出力 82kW(111hp)/7,250rpm■最大トルク 109Nm/6,300rpm■燃料供給方式 FI■燃料タンク容量 13L■レイク角 29度■トレール 123mm■フレーム スチールチューブフレーム■サスペンション(前・後)インナーチューブ径43mmセミカートリッジ式倒立タイプ/伸側圧側減衰力およびイニシャル調整/150mmトラベル・ピギーバックタイプショックユニット×2/伸側圧側減衰力およびイニシャル調整&76mmトラベル■変速機形式 6速リターン■ブレーキ形式(前・後)320mmダブルディスク×ブレンボ製ラジアルマウント4ピストンキャリパー・298mmシングルディスク×ワンピストンキャリパー■タイヤ メッツラー製Cruistec ■タイヤサイズ(前・後)130/60B-19 61H・150/80-16 77H■価格 未定

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著者プロフィール

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河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…