スーパースポーツのような見た目のホンダCBR400R、走った感想は優秀なスポーツツアラー。|試乗記

クロスオーバーモデルの400X、ネイキッドのCB400Fらとプラットフォームを共有する形で、2013年に登場したCBR400R。最新の2024年モデルはスタイリングを一新するとともに、トラクションコントロールや5インチフルカラーTFTメーターを採用するなど、装備を充実させてきた。あくまでもマイナーチェンジの域を出ないが、そのパフォーマンスをあらためて確認するべく、下道をメインとするロングツーリングに連れ出した。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・CBR400R……86万3500円

CBR400Rのフレームは、メインパイプにφ35mm鋼管を使用したダイヤモンドタイプだ。
車体色は写真のグランプリレッドのほかにマットバリスティックブラックメタリックを用意。

ギヤチェンジをサボっても加速する、粘り強い水冷パラツイン

現在はクロスオーバーモデルのNX400、そして海外向けのCBR500RやNX500らとプラットフォームを共有するCBR400R。2016年、2019年、そして今回の2024年モデルと、外装を一新するたびにフロントフェイスがアグレッシブになり、ついにはミドルカウルのダクト内にウイングレットが装備された。なお、車両価格は前年比で2万2000円しかアップしていないが、近年の400ccクラスは激戦区であることはご存じのとおり。ハーレーダビッドソンのX350(69万9800円~)をはじめ、トライアンフのスピード400(69万9000円)やスクランブラー400X(78万9000円)などと比べると、CBR400Rは国産ながら外車よりも高価なモデルとなっているのだ。

まずはエンジンから。399cc水冷並列2気筒エンジンは、180度位相クランクやカップルバランサー、ローラーロッカーアームなどを採用。最高出力は2013年登場の初代から46psを維持している。セルボタンを押してエンジンを始動すると、ドゥルルルルッという低いサウンドがサイレンサーから聞こえてくる。400ccという力強さを感じさせつつもどこか牧歌的で、このスポーティなスタイリングとのミスマッチに最初は驚くかもしれない。

操作力の軽いクラッチレバーを握り、ローにシフトしてスタートする。低音を響かせるエンジンは2,000rpm付近からでも粘り強く、スロットルを開けた分だけ素直に加速する。そのままワイドオープンすると、7,000rpm付近でわずかにパワーの盛り上がりを感じるが、基本的にはレッドゾーンの始まる10,000rpmまで出力特性としては直線的だ。

スロットルレスポンスが鋭いわけでも、また吹け上がりが官能的なわけでもなく、正直なところ面白味は希薄だ。おそらく、この攻撃的なスタイリングに惚れてCBR400Rを買った人の中には、ガッカリする人がいても不思議ではない。ところが、高速道路を乗り継ぎ、下道で渋滞路にハマり、やっとどり着いたワインディングロードで、思いっきり楽しんでいる自分に気付いたのだ。そう、このエンジン特性はライダーを急かさないので心身ともに疲労感が少なく、また低回転域が粘り強いので、ギヤチェンジを少々サボっても走れてしまうというイージーさがあるのだ。

そんなふうにエンジンに対する好感度が上がっていくと、微振動の少なさやシフトフィールのスムーズさにも気付き、ますます印象がアップ。そう、10年以上もの長きにわたって熟成を重ねたパワーユニットは伊達ではなく、距離を延ばすほどにその良さを実感できるのだ。

峠道での走りはあくまでもスポーツライク、だがそれでいい

先にCBR400Rの車両価格が高いことに触れたが、その理由についてはまたがった瞬間に判明する。前後サスの動きが明らかにスムーズなのだ。小~中排気量クラスは、主にサスペンションがコストダウンの対象になることが多く、シールがきつすぎるのか乗車1Gで車体があまり沈まなかったり、峠道でペースを上げるとダンピング不足を感じるモデルが珍しくない。ショックユニットは高価なので、これらをアフターパーツで改善するにはかなりの出費となるはず。そう考えると、CBR400Rの価格設定は納得の範疇だろう。

作動性の良い前後サス、そしてしなやかなスチールフレームが相まって、街中や高速道路での乗り心地は優秀だ。特にリヤはプロリンクサスが利いているようで、細かなギャップの吸収性が良い。ハンドリングは極めてニュートラルであり、ハンドルの押し引きやステップへの荷重で軽くきっかけを与えれば、素直に狙ったラインをトレースできる。このクセのないハンドリングは、試乗車に装着されていたミシュラン・ロード6の特性によるところも大きいように思う。スーパースポーツのように旋回力が高いわけではないが、スポーティな世界を垣間見せてくれる。この「スポーツライク」な世界観こそ、CBR400Rの人気を支えている要因だろう。

ワインディングロードでペースを上げると、フレームのしなりは大きくなるものの、前後サスやタイヤを含むシャシー全体のバランスが良いため、破綻を来すことはない。また、試乗日は終始ドライ路面だったので、2024年モデルで新設されたトラコンが介入することもなかった。ABSについては、レバーやペダルへのキックバックが少なく、介入してもライダーを慌てさせないのがいい。

さて、今回のマイナーチェンジにおける目玉は、5インチフルカラー液晶メーターと4ウェイセレクトスイッチの新採用だ。メーター表示に関してはややサッパリとした印象を受けるものの、情報をライダーに正しく伝えるという点においては優秀であり、スイッチについても操作はすぐに慣れるはず。そして、スマホと連携するホンダロードシンクについては、特に高速道路を長時間移動するときには便利であり、多くのライダーに歓迎されるだろう。

昨今、ツーリングと言えばアドベンチャーやクロスオーバーモデルがもてはやされているが、とはいえスーパースポーツのようなスタイリングが好きという人も多いはず。CBR400Rはそんなライダーの希望を叶えてくれ、さらにデイリーユースにも対応できるという稀有な存在だ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

セパレートハンドルだがグリップ位置は高めであり、前傾姿勢はご覧の通り深くはない。全体的にコンパクトで、なおかつカウリングによる防風効果も良好だ。
シート高は785mm。フレームは500と供用ながらライダーのまたがる部分はスリムに作られており、ご覧の通り足着き性は優秀だ。

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