足つき良好だからオフロードも頼もしい! サスペンションストロークを大幅向上の新型KLX230 S|試乗記

KLX230Sは2022年2月に登場。ベースとなったKLX230のローダウンバージョンとして足付き性の良さが追及され、ビギナーや小柄なライダーにもオフロードライディングへ気軽に誘う魅力を披露。今回はその内容が大きく一新された2025年最新モデルに試乗した。

REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●川島秀俊(KAWASHIMA Hidetoshi)/ 山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力⚫️株式会社 カワサキモータースジャパン

カワサキ・KLX230 S…….594,000円(消費税10%含む)

ライムグリーン

カラーバリエーション

バトルグレー

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初(先)代「S」との比較。ホイールトラベルが大きく伸ばされた。

KLXの名を復活させた同230は2019年秋に公表され翌2020年に新発売。カワサキが改めて新規投入し、230ccの空冷エンジンを搭載するデュアルパーパスモデルとして注目を集めたのはまだ記憶に新し。そしてその後のマイナーチェンジモデルとして2022年にリリースされたのがKLX230Sだった。
その「S」についてお復習いしておこう。カラーバリエーションの一新に加え、そのキャラクターは大きく変更されていた。もちろんKLX230の基本コンセプトは踏襲されたが、同Sはライダーの安心感を高めるようシート高を低く設計されたのが主な特徴であった。  
シート高は830mm。ベースのKLX230から大胆に55mmもローダウンされていた。引き換えに本来十分な長さを誇った本格的なホイールトラベルがトレードオフされていたのである。ホイールトラベルを比較すると、初代KLX230は前220/後223mmと言う十分に長いストロークを誇っていたが、同Sは前158/後168mm。これにより全高は1,165~1,110mmへ、ロードクリアランス(最低地上高)も265~210mmへと55mm低くなった。
しかし今回オールニューとして投入された新型は何と前200/後223mmものホイールトラベルと240mmの最低地上高を確保してみせたのだ。シート高は少し(15mm)高くなり845mm に。しかしシートレールのデザインを一新。シートや車体も含めて足付き性をスポイルしない配慮が徹底され、Sの真骨頂だったライダーにとっての安心感と、KLX230本来のオフロード性能の両立が図られたのである。
余談ながら基本モデルのKLX230は、サスペンションの熟成でホイールトラベルは前240/後250mmに進化。一方バリエーション追加で新登場のKLX230シェルパはSをベースに仕上げられた。

今回の新型では、全てが見直されて外装部品からフレームまで一新。またエンジンは細部を除き基本的に踏襲されたものの、吸排気系がリファインされている。
高張力鋼管製の角パイプと丸パイプが組み合わされたセミダブルクレードル式ペリメターフレームは、基本骨格こそ変わりないが細部の熟成に加え、主にサブフレームとスイングアームが設計変更されている。下の参考写真はKLX230のものだが基本的にSと同じで、緑色で示されているところが新しくデザインされた部分だ。
外観は同じように見える角断面形状のリアスイングアームはスチール製からアルミ製に換装。リアアクスルの支持部が変更されチェーン引きの調節方式も異なり、支持剛性やメンテナンス性も一新されていた。
開発リーダー松下充さんのお話によると「フレームの設計変更は、足付き性の改善を目指したもので、シートレールの位置を下げることが第一目的でした。」と言う。実際シートレール先端の取り付け位置(角パイプとの結合部)が三角のエンジンブラケット・プレートの上側位置から下側位置付近へとおおよそ5cmほど低くなっている。
前後体重移動が容易な長いダブルシートも前方部のクッションやサイドカバー部がスリムになり、足付き性の良さに貢献。この改善に伴いシート下部に納まるエアクリーナーボックスやタンクデザインも新設計された。
前方から見てU字状に取り回されるエキゾーストパイプも管長を長く変更。その他200cc差だがタンク容量は7.6Lへ増量された。車両重量はトータルで3kg減の133kgへ軽量化が達成されたのも見逃せない。
搭載エンジンは中低速域でより力強いトルクを発揮するように熟成。吸排気系のリファンと共に燃焼室も手直しされた。吸気ポートの小径化に伴いφ33mmの小径吸気バルブを採用。燃料噴射や点火系を制御するECUの設定も一新されたのである。
その他、シンプルなインパネながら最新鋭の装備を採用。モノクロ液晶ディスプレイはBluetooth接続に対応。専用アプリをインストールしたスマホと連携して着信通知を始め、メンテナンスなど様々な情報管理ができるようになっている。

角と丸のスチールパイプが組み合わされたセミダブルクレードルのペリメターフレームも新デザインを採用。(写真はKLX230)

総合的パフォーマンスの高さは絶妙な仕上がり。

試乗車を受けとると、先ずは以前よりもシェイプされたスマートなフォルムが印象的。どちらかと言うと大きなヘッドランプが個性的だった先代モデルと比較すると、全体的なバランスが整えられて精悍な仕上がりが好印象。
先代モデルは、大胆なローダウンの具合がやや不格好にも思えるレベルだったが、新型にその雰囲気は皆無。そのためなのか筆者は一瞬、「S」ではなく間違えて「KLX230」を借り出してしまったと勘違いしてしまったほどだ。
確かに車体は細身になったように見えたが、取り回す感覚はどこか少し大きめ。実際ホイールベースが5mm長く、車(ハンドル)幅は10mmワイド。車高は30mm高い。またハンドルの取り付けをグリップ位置で比較すると先代より13mm高く、前寄りに24mm移動したと言う。シート高も845mmと15mm高くなったが、見た目と感触の第一印象はそれ以上に大柄になったように感じられた。
シートに跨がる時、右足の上げ具合も少し高めにまわすよう意識させられた。ただシートに腰を落とすと筆者の軽体重でもジワッとサスペンションが沈み込み、結果として足付き性は次の写真で示す通り。
参考のため先代モデルのチェック写真も掲載したので見比べて欲しい。片足立ちだと完全に踵までベッタリと地面を捉えていた先代のSよりシートは少し高い。しかし細身になった車体やシートデザインの工夫で足付き性はまずまずのレベル。軽快に扱えることも相まってバイクを支える上で不安感はない。その巧みな作りが印象的であった。

エンジンを始動すると決して煩くない排気音の中にどこか弾けるようなリズムが伝わってきてなかなか元気が良い。バランサーを備えた単気筒エンジンは空吹かしでもスムーズ。スロットルレスポンスは小気味よく俊敏だ。
基本的にパワフルなタイプではないが、実用域で十分に扱いやすい出力特性を発揮しており通常の発進停止や、マディなダート路でスロー発進するような場面、あるいは坂道発進でも柔軟で不足のない粘り強さを発揮。
かつて4メーカーが250ccのデュアルパーパスモデルで凌ぎを削り合っていた時代の様なパンチのある、高回転域まで続く伸びのあるパワフルさこそ望めないが、一般公道を気ままに走るデュアルパーパスとしては十分なパフォーマンスに、むしろ程良さを覚えたのが好印象だった。
ノロノロ渋滞路を含めて市街地を進む時から高速クルージングまで生き生きと走る。追越しやタイトコーナーからの立ち上がりにもへこたれないトルクでレスポンスする扱いやすさがとても心地よいのである。

またサスペンションは伸び側も含めて十分なストロークを活かすフットワークを披露。信号ストップの度にスーッとフロントフォークが沈むノーズダイブを繰り返す様は、いかにも本格的なオフロード系(デュアルパーパス)モデルであることが理解できる。
林道やオフロードコースなど、オーナーのニーズがどこまでヘビーなダート性能を要求しているかによって左右される話だが、先代のSでは、ダートで物足りなさを感じる人も少なくなかったのではと思う。
先代Sは、「いつでも何処へでも気軽に行こうよ」と優しく語り掛けてくれる様な雰囲気で、無条件に“フレンドリー”な点が特筆できる美点だった。一方新型Sのサスペンション性能にエクスキューズはまるで感じられないのである。
もちろんジャンプも含めて、飛んだり跳ねたりモトクロスコースで思い切りハードにスポーツライディングを楽しみたいユーザーならさらに進化したサスを持つKLX230をチョイスすれば良い。
ただ、オンもオフも一般公道を走る限り、ほとんどのニーズを叶えてくれるだけの、不足のないパフォーマンスと快適な乗り心地を気軽に楽しませてくれる新型Sの魅力は侮れない。
例えば凹凸やウネリの大きな林道を行く時、マシンが暴れることを予知して走行速度を少し控えめにするような場面でも、新型ならサスペンションの衝撃吸収力に余裕があり、平然と安心してハイペースを維持できるぐらいの違いがある。
前述の通りハンドルポジションの変更でライダーの前後体重移動も自由度が増して扱いやすい。試乗時は気付かなかったが、ステップ位置は9mm後退しており、スロットルONと共にハンドルを引く(前輪荷重を抜く)動作も軽快に決められる。
ステアリングの操舵は(ド新車のせいか!?)ヘッド部の動きに少し渋さが見られたが、基本的に操縦性は軽快かつ素直に扱えた。
前後ブレーキも特に鋭い効き味ではないが、握力や踏力しだいのレスポンスを発揮する扱いやすさがあり、停止時の操作でABSの介入を任意にカットできる点も親切だ。

旧Sを試乗した時、小柄なライダーにとっての安心感は抜群であり、多くの人をオフロードへ誘う意味でとても大切な要素だと思えた事を試乗記事に綴った。
しかし今回新型Sに乗ると、サスペンション性能が犠牲となった感覚が皆無。その中で程良い足付き性を確保してくれたことがとても魅力的に感じられた。KLXの主力モデルとしてこの“S”が中心的存在に相応しいとさえ思えたのである。

足付き性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

シート高は845mm。このタイプのバイクとしては決して高くない。ご覧の通り両足の踵は浮いてしまうが、車重が軽いことも奏功してバイクを支える上で不安は感じられなかった。ちなみにシート高が880mmのKLX230だと、完全に爪先立ちとなってしまう。

先代モデル足つき性比較、2022年型KLX230S。

こちらは2022年に登場した先代モデルの写真。シート高は830mm、踵の浮きは少なく足つき性が良い。跨った瞬間に親しみやすさを覚える。オフロードを足をつきながら進むようなシーンでも安心感があった。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…