空冷エンジン+ツインショック車が主役の土系旧車運動会┃2024年のグリズリーカップ・浅間T.T.に参加したヴィンテージレーサー【2/3】

ヴィンテージオフロードレースと言うと、敷居の高さを感じる人がいるかもしれない。とはいえ、2017年から開催されているグリズリーカップは、旧車マニアやオフロードのエキスパートでなくても楽しめる、気軽でアットホームなイベントなのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●柴田直行(SHIBATA Naoyuki)
取材協力●グリズリーカップ https://grizzlycup.blogspot.com/

主催者に聞く、イベントの概要

当記事の主題は、2024年11月9/10日に群馬県のアサマレースウェイで開催された、グリズリーカップ・第6回浅間T.T.レースに参戦した日本車の紹介なのだが、本題に入る前に主催者の石神伸也さんに聞いた、このイベントの概要を紹介したい。そもそもグリズリーカップと浅間TTは、どういった経緯で始まったのだろうか。

日本GPクラスのスタートシーン。

「直接的なきっかけは、僕が過去にイギリスに滞在してトライアンフでドラッグレースに参戦していた際に、お世話になったベテランライダーがかけてくれた言葉です。帰国前にお礼を述べると、“自分がいい経験をして楽しかったと思うなら、今度は日本で旧車のイベントをやってみろよ”と言われて、その言葉がずっと頭の中に残っていました。それで、2010年に自分で立ち上げたドッグランズスピードショップが数年後には何とか軌道に乗って来たので、2017年からグリズリーカップ、2019年からは浅間T.T.レースを始めたんです」

テキパキとイベントを進行していたスタッフの皆様。中央がドッグランズスピードショップの代表にして、グリズリーカップの発起人である石神伸也さんだ。

実際に自身で旧車のイベントを主催するにあたって、数あるレースカテゴリーの中から、石神さんがオフロードを選択した背景にはどんな理由があったのだろう。

「ドッグランズスピードショップは英車専門店ですが、僕が昔からオフロード全般が大好きなんですよ。だから一番の理由は自分の趣向ですが、ヴィンテージオフロードならではの敷居の低さに惹かれた、という事情もあります。逆に言うなら、旧車レースの世界でもロードやドラッグは、速い人が偉い、お金をかけた人が偉い、という傾向になりがちですが、オフロードなら遅くてもお金をかけなくても、誰もが気軽に楽しめるんです」

ホンダCRシリーズはグリズリーカップの主力機種。CR125Mは5台が参戦。

そういった石神さんの意識が浸透しているのか、浅間T.T.の雰囲気はユルめで、他の旧車イベントと比較すると、若いライダーや初心者が多かったように思う。

「その背景には、浅間T.T.の舞台がアサマレースウェイだから……という事情もあるのかもしれません。このコースはジャンプやウォッシュボードが存在しないので、初心者でも十分に楽しめますし、車体にかかる負担が少ないので、旧車のマイナス要素を感じづらいんです。ただし、エキスパートライダーの中には物足りない印象を抱く人もいるので、2021年からはヴィンテージモトクロスに特化したレースとして、シリーズ戦のX-OVER VMX Championshipを開催しています。もっともこちらの雰囲気も、ユルめと言えばユルめですけどね(笑)」

1979 ホンダCR125R 宮本武義選手

1973年から発売が始まったホンダCR125シリーズは、当初は公道仕様のMT125と基本設計の多くを共有していたものの、モトクロッサーとしての資質を高めるべく、年を経るごとに各部を改良。1979年型の最大の特徴はシリーズ唯一となる23インチの前輪だが(撮影車はタイヤの選択肢を考えて21インチ化)、当時のトレンドとなるアップタイプの排気系やレイダウン仕様のリアショックも、従来型とは異なる要素だった。なおCR125シリーズが、水冷エンジン+リンク式モノショックを装備する新世代への移行を開始したのは1981年から。

友人の北澤祐樹さん(右)と共に、以前からXR50改75やCR80Rなどでグリズリーカップにエントリーしていた宮本武義さん(左)は、今回はCR125Rで初参戦。その感想を聞いてみると、以下の答えが返って来た。

「最近の自分がオフロードで乗っている車両が、ミニモト系だからもしれませんが、エンジンのパワフルさと車体の安定感にはビックリしました。今から半世紀ほど前のバイクが、こんなに良く走るのかと……。もっとも、残念ながら僕の腕がいまひとつなので、現時点では本来の性能は引き出せていないですが、今後は地道に練習を重ねて、いつかは乗りこなせるようになりたいですね」

ワークスレーサーのRCや兄貴分のCR250Rに続く形で、1979年型CR125Rはエンジンをレッドでペイント。吸気はピストンリードバルブ式で、最高出力は26.5ps/10000rpm。

1976 ヤマハXT500 米崎吉弘選手

1976年にデビューしたXT500は、ヤマハ初の4ストビッグシングルにして、SRのご先祖様に当たるトレールバイク。ちなみにXT500が登場する直前の4ストビッグルシングルと言えば、BSAのビクター系やドゥカティ450デスモなどが有名だったものの、XT500はそれらとは一線を画する扱いやすさや信頼性を実現し、世界中で絶大な人気を獲得。兄弟車のTT500と共に、レースの世界でも数々の栄冠を獲得することとなった。

XT500で参戦した米崎吉弘さんは(左。右はお手伝いの高森さん)、昭和27年生まれの72歳で、モトクロス歴は50年以上‼ 1980年頃のYZ465やYZ125なども所有しているが、最近はXT500に夢中になっているそうだ。

「この車両は数年前にヤフオクで手に入れたんですが、コンディションが非常に悪く、そのまま走れる状況ではなかったので、結果的にすべてを見直すことになりました。それで、せっかくすべて見直すなら自分好みの仕様を作ろうと考えて、いろいろなところに手を加えていたら、ノーマルの面影はほとんどなくなりました(笑)」

フロントまわりは1981年型YZ250用で、レイダウンして装着されるリアショックはアフターマーケット製。スイングアームはSR用がベースで、マフラーはワンオフ。

1979 スズキRM125 田島直幸選手

1960年代中盤からモトクロス世界選手権に参戦を開始したスズキは、1970年に250ccクラスで初の王座を獲得。その技術を転用したモデルとして、1972/1973年からTM250/125を発売し、それらは1976年型でRM250/125に進化。なおCR125シリーズと同様にRM125シリーズも、1981年型から水冷エンジンとリンク(フルフローター)式モノショックの新世代に移行。

会社の同僚に誘われてグリズリーカップに初参戦した田島直幸さん(左から3番目)の愛車は、1979年型RM125。この車両の前オーナーにしてモトクロスマニアの時沢 泉さん(右から2番目)によると、1979年型の完成度は抜群で、従来型を大幅に上回る性能を実現していると言う。ただし以前のこの車両は、足まわりの動きがいまひとつだったのだが、リアショックをワークスパフォーマンスに変更してからは、本来以上の走りが楽しめるようになったそうだ。以下は田島さんの印象。

スズキ独自のパワーリードバルブを採用した空冷2スト単気筒は、26.5ps/10750rpmを発揮。

「オフロード初心者の僕には、そのあたりのことはさっぱりわかりませんが、初めてのグリズリーカップはムチャクチャ楽しかったです。こういう世界があることを教えてくれた会社の同僚の皆さん、中でも貴重な車両を譲ってくれた時沢さんには、もう感謝しかないですね」

ライバル勢に先駆ける形で、RM125がアルミスイングアームを導入したのは1978年から。なおリアショックのレイダウンも、スズキが先鞭を付けたメカニズムだ。

1974 カワサキKS125 小野口 篤選手

125TRシリーズの発展型として、1974~1975年にカワサキが販売したKS125は、モトクロッサーの125MX(KX125)で培った技術を転用して生まれた保安部品付きのトレールバイク。1976年からは車名がKE125に変更され、1980年代初頭まで販売が続いた。余談だが、ヤマハを除く1970年代中盤頃までの日本製オフロードモデルは、トレールバイク:アップマフラー、モトクロッサー:ダウンマフラー、という構成が定番だった。

KS125オーナーの小野口 篤さんは、ホンダCL450やヤマハDT-1なども所有する大のヴィンテージオフ好き。この車両を入手したのは1年半ほど前で、現時点ではまだキャブレターセッティグが煮詰まっていない模様。

「自宅の近所では問題がなくても、標高が高い浅間では、どうにも高回転域の吹けが悪いんですよ。構造的にキャブレターの脱着は行いやすいですが、この時代のロータリーディスクバルブ吸気はセッティングが難しいようで、本調子を味わうためには時間がかかりそうです」

ロータリーディスクバルブ吸気の空冷単気筒は、13ps/6500rpmを発揮。ちなみに同時代の125MXは22ps/9500rpmだった。

2024年の浅間T.T.を走った日本車

♯946 君島久雄選手+ホンダCR125M
♯533 鈴木 誠選手+ヤマハYD1
♯513 今井篤史選手+ヤマハYZ125/♯525 田母神兵法選手+ヤマハXT250
♯522 若松明広選手+スズキTS400
♯356 小林健司選手+ホンダCS90改105
♯199 中井浩之選手+ホンダCR250R/♯198磯谷智之選手+ホンダXL250S/♯94原口秀斗選手+ヤマハTX650
♯712 坂井俊介選手+ヤマハH3C

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…