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宿を出て東海道へ戻り、海岸づたいに小田原をめざした。朝から風が強く、道路のあちこちに吹き飛ばされた家庭ごみの袋が散らばっている。それだけなら美観を損ねる他に大きな問題はないが、気を抜くと強烈な横風に流されて進路がブレるのがやっかいだ。バーグマン125に限らず、多くのスクーターは一般的なスポーツバイクより横風に弱い。フルカバード・ボディはライダープロテクションにすぐれ、快適に走れる反面、側面投影面積が大きく、風に振られやすい面がある。


赤い電車と箱根登山

箱根湯本をすぎると芦ノ湖へのワインディングが始まる。バーグマン125のエンジンにはさほどトルキーな印象はないが、それはあくまでフィーリングの話。実際には全域でトルクが出ていて、荷物満載でも、箱根の上りくらいなら走りは平地とほぼ変わらない。スロットルグリップをひねった角度のぶんだけ素直にガンガン走り、どんどん上る。


旧東海道、権現坂へ

箱根の峠を上りきり、芦ノ湖を目前にした畑宿入口あたりから、ふと気が向いて脇道にそれてみた。どこにでもありそうな細い山道だが、ちょっと走ると、旧東海道の権現坂が現れた。
権現坂は、芦ノ湖の東に位置する急坂だ。看板には江戸側から芦ノ湖へたどり着く下り坂であることを前提に「小田原から箱根路をのぼる旅人が、いくつかの急所難所をあえいでたどりつき、一息つく」場所だと説明されているが、現在の権現坂は、これとは逆に芦ノ湖からの上り坂として利用されることが多い。タカハシがぶらぶらしている間にも、多くの外国人観光客がぜえぜえあえぎながら坂を上ってきていた。




箱根から三島へ下る

芦ノ湖は箱根の旅のハイライトだ。箱根神社もあれば遊覧船もあれば白鳥ボートもあり、まあまあな数の観光客がたむろしている。とはいえ、神社をみても遊覧船をみても白鳥ボートをみてもタカハシ的にはべつに面白いわけじゃないので、一切合切ブッチして西の三島市へ一気に下ることにした。






晴れてさえいれば、箱根から三島へ向かう国道1号は、季節を問わず素晴らしい絶景ルートだ。強い風にあおられるだけでなく、制限速度を気にも留めずガンガン飛ばしまくる鬼のダウンヒル・ドライバーたちにもあおられながら下界をめざす。ちらちら姿をみせる富士に目をうばわれながら走るうち、少しずつ日が傾きはじめた。
三島バイパスが沼津バイパスに切り替わるあたりで国道1号を離れた。静岡県道380号富士清水線で海沿いに出る。沼津市から田子の浦まで、ゆるやかな弧を描いて続くこの海岸線は千本松原と呼ばれている。約15kmにわたって松並木が続く絶景の地だ。
やがて赤く燃える陽は松の木の隙間からじゅっと音をたてて海に落ち、世の中はたちまち墨色に染まった。ここからは海づたいに西をめざすナイトランだ。




バイパスを降りて静岡市街へ。宿を目前にしてフューエルメーターが最後の1目盛りをさした。その直後、国道沿いの宿に飛び込み、荷をおろすことに。トリップは214.9km、今日はここまでにして寝てしまおう。どうせガス欠だって、そう遠くはないだろう。


