目次
清水港から海岸線へ

よく晴れた。宿を出たら、あっという間に清水港に着いた。クルクル回る港の観覧車がのんきに出迎えてくれる。
陸から遊びにくる人にとって清水港の中心地は、華やかな観覧車や清水マリンパークあたり。だが海で働く人にとって清水港の中心地は、その東に広がる日の出町エリアだ。大型貨物船が着岸し、古い倉庫が建ち並んでいる。


駿河湾沿いに西へまっすぐ続く国道150号は、広大な駿河湾を一望する気分のいいシーサイドルート。いつも決死の覚悟で安全運転に力を尽くしまくって生きているタカハシですら、スロットルにビンビン神経をとがらせておかないと、うっかり速度超過しかねない驚異の快走路だ。




安倍川を渡って丸子宿へ

国道150号で安倍川を渡り、北へ折れた。静岡市西部を突っ切って丸子(まりこ)宿へと進路をとる。そこでフューエルメーターのラスト1目盛りが点滅開始。いよいよガス欠最終警告だ。

岡部バイパスをほんの少し走って宇津ノ谷の峠へ。アイドリングストップからの再始動がちょっと怪しくなってきた気がする。バーグマン125のアイドリングストップには、もともとスロットルを開け始めてから始動するまでに、わずかなタイムラグがある。そのラグに、引っかかるような違和感が加わりはじめた。リアルにガス欠が近いのかもしれないが、子ウサギハートのタカハシがガス欠におびえすぎていたせいかもしれない。




県道208号は旧東海道であり、旧国道1号でもある。宇津ノ谷や岡部あたりのこの道は、人もクルマもまばらで、かつて日本の幹線道路だった頃の華やかな面影はすっかり失われている。だが発展から取り残されたおかげで、往時の宿場の姿が失われずにすんだ。



岡部宿を過ぎると、道は県道381号と名を変えて藤枝市街にさしかかる。そしてエンジンの挙動が本気であやしくなってきた。アイドリングストップで一度エンジンが停まると、スロットルをあけてもなかなか起動しない。じれてガバ開けすると、今度は突然走り出す。そのうちアイドリングストップ自体が働かなくなり、停止中もエンジンが回りっぱなしになった。
バーグマン125のアイドリングストップにはいくつかの作動条件がある。セルスタートしたかどうかや、エンジンの暖機ができているかを自動判断して機能する安全設計だ。ガソリン残量がその条件に含まれているとは書かれていなかったが、なんらかのフェイルセーフが働いたのかもしれない。

1キロのディファレンス

ついにガス欠旅の終わりの時が訪れた。といっても、いきなり停まったわけではない。エンジンが止まり、始動できなくなってからも、しつこくセルを回すとどうにか再起動して数百メートル走り、また停まって、再起動を頑張るとまたスタート……というプロセスを数回繰り返し、最終的にうんともすんともいわなくなったところでガス欠認定となった。

奇しくも前回の東海道ガス欠チャレンジでホンダ クロスカブ110がガス欠停止した地点とは、地図上で約1キロしか離れていなかった。ただ総走行距離は、クロスカブ110は248.1km、バーグマン125は263.2kmと、その差15.1kmにおよぶ。これはAFOタカハシの迷子・寄り道・ムダ走りがもたらした差だ。公道上での燃費テストなんてものは、せいぜいこのくらいの精度しかない。参考にするなとまでは言わないが、賢いライダーなら、AFOな燃費記事なんぞの結果は鵜呑みにせず、メーカー記載の正しいスペックを正しく読むほうがいいだろう。

タンク容量5.5ℓのガソリンをきっちり使い切ったとすれば、バーグマン125の実走燃費は約47.9km/ℓとなる。カタログ記載のWMTCモード燃費56.0km/ℓと比べると、リッターあたり8.1km/ℓのマイナスだが、まあこれくらいが適正・現実的な数字だ。またメーターパネルに表示された燃費は1.9ℓ/100kmだった。換算すると約52.6km/ℓにあたる。小数点第2位以下が略されていて正確とはいえないないものの、こちらも妥当な範囲の数字だ。
駿河路はチョコに暮れて

【ななや web】https://nanaya-matcha.com/
小型バイクでガス欠するまで何百kmも走れなどと、人倫にもとる残忍な業務命令を繰り出して平然たる編集部にも、一抹の人間らしさは残っている。苛烈な『東海道ガス欠チャレンジ』にも、嬉しいご褒美がひとつ用意されているのだ。ガス欠地点でなら、おいしいものを(経費で)食べていいという特別ルールだ。
藤枝市内には老舗のお茶屋として名高い「ななや 藤枝本店」があるが、ここではお茶だけでなく、お茶系スイーツを取り揃えていると聞きつけて、さっそく行ってみることにした。



タカハシが買い求めたのは、ななやのスイーツで一番人気を誇る Premium MATCHA 7。いくらスペシャルなスイーツでも、ふだん百均チョコしか食べてないタカハシの経済力では、おいそれと手の出せない2500円(税込)の高級品だ。でも経費というのは、ようするに他人の金だから、ここはどーんと張り込むことにした。(←最低)
手近な川原に持ち込み、封を切ると、箱の中には色鮮やかなグリーンのチョコがずらりと行儀よく並んでいた。パステル画材のような美しい発色のグラデーションだ。

色の薄いのから濃いほうへと順番に食べ進め、最後にほうじ茶チョコで締める食べ方が推奨されている。色の薄いものは甘味が強く、色が濃くなるに従って苦みが増す。最高濃度のNo.7ともなれば、その味はほぼ「抹茶の棒」レベル。お茶にはうるさいタカハシも、がっつり満足の激ウマ抹茶チョコだった。夏場は溶けそうでちょっと心配だが、それさえ大丈夫なら、ツーリングのみやげ品としても喜ばれるはずだ。
残りのチョコをバッグにしまい、バーグマン125にまたがると、晴天の静岡を発ち、東京への帰途についた。静岡県を脱け出す頃までは、舌にまだふわりと苦みと甘みが残っていた。まもなく春がくるはずだ。

