目次
排気量を拡大した新エンジン採用
インディアンモーターサイクル(以下インディアンMC)は、自らが開発し、ヘビー級クルーザーモデルである「チャレンジャー」や、プラットフォームを共有する「パースート」に搭載していたパワープラス108エンジンのアップデートを発表。両モデルの2025年型に搭載すると発表した。排気量108キュービックインチ/1768ccの挟角60度V型2気筒水冷OHC4バルブのパワープラス108エンジンは、「チャレンジャー」発表の翌年、2020年からスタートした、大型フロントカウルとサイドケースが付いたヘビー級クルーザーモデルで争われるアメリカのロードレース選手権キング・オブ・ザ・バガーズの最前線で開発され、パフォーマンス向上のあらゆる方程式を試した結果、ボアを2mm拡大するという結論を導き出したという。その結果、排気量を112キュービックインチ/1834ccへと拡大。それにともにペットネームを「パワープラス112」へと変更した。


また新型エンジンを搭載したパワープラス112ファミリーに、「チーフテン・パワープラス」と「ロードマスター・パワープラス」を加え、その布陣をさらに強化した。そもそも「チーフテン」と「ロードマスター」は、排気量116キューボックインチ/1890ccの挟角49度V型2気筒空冷OHV3カム2バルブのサンダーストローク116エンジンを、水冷エンジンを搭載するパワープラス・ファミリーとは異なるアルミフレームに搭載。両車はフロントフォークにマウントしたフェアリングを持つことで、OHVというオーセンティックなメカニズムのエンジンと合わせて、クラシカルスタイルを演出するクルーザーモデルとして人気を得ていた。しかし「パワープラス112」エンジンの発表を機に、両車のエンジンとフレームを、「チャレンジャー」と同じパワープラス112ファミリーのプラットフォームに変更したのである。
新型エンジン/パワープラス112搭載ファミリーに新型車を追加
インディアンMCにとって、ヘビー級クルーザー・カテゴリーのモデル再編と強化は必然だ。そこは車両、自社アクセサリー、パフォーマンス系から外装系までの幅広いカテゴリーのサードパーティ・パーツなどが絡み合った巨大な市場があり、ライバルブランドと熾烈なシェア争いを展開しているからだ。そこでインディアンMCは、先進的なテクノロジーを駆使したモデルラインナップの充実を図り、ライバルブランドとの差別化を図ってきた。自社トップカテゴリーのエンジンを進化させパワープラス112としたのも、「チーフテン・パワープラス」と「ロードマスター・パワープラス」をくわえてパワープラス112ファミリーを強化したのも、それが理由だ。

また2024年にフルモデルチェンジした新型「スカウト」シリーズの存在も、パワープラス112ファミリーの強化を加速させたと考えられる。新たに排気量を1250ccに拡大した挟角60度V型2気筒水冷DOHC4バルブのスピードプラス・エンジンを、新たに開発したスチールパイプとアルミキャスティングパーツをミックスしたハイブリッドフレームに搭載した新型「スカウト」シリーズ。我々からすると1000ccオーバーの車両は大型車という認識だが、アメリカや欧州といったクルーザーの主要市場では、スカウト・シリーズは“ミッドサイズ”クルーザーという位置づけであり、したがって若いライダーやクルーザー初心者など、新規顧客に強くアピールするモデルシリーズだ。そして、そこで育ったライダーのステップアップモデルとして、水冷エンジンやアルミフレームなど、スカウト・シリーズと親和性が高いパワープラス112ファミリーがそのステップアップの受け皿となる。したがってパワープラス112ファミリーのモデル拡充は必須だったというわけだ。

さらには「キング・オブ・バガーズ」レースの人気高騰も、無視できない。インディアンMCは、レースは自分たちのDNAの一部だと公言している。したがって、新生インディアンMCの復活とともに開発を進めたフラットトラックレース専用のレーシングマシン/スカウト FTR750で、2017年からアメリカのフラットトラック選手権の最高峰クラスに参戦。2024年まで8年連続でシリーズタイトルを獲得した。しかしレギュレーション変更で、スカウト FTR750は最高峰クラス参戦が不可能になり、インディアンMCは2024年末をもってフラットトラック選手権からの撤退を表明した。そしてエンタテインメントおよびブランド認知度、そしてセールスにおいても強いインパクトを持っている「キング・オブ・バガーズ」にこれまで以上に注力すると語っている。それらを総合すると、プロモーションにおいても、パワープラス112ファミリーの強化および拡充は必須だったのである。
SSとは質が異なる、圧倒的なパワー感
排気量を拡大したパワープラス112エンジンを搭載した「チーフテン・パワープラス」で、米国ラスベガス郊外を走らせるのはじつに痛快だった。自分を含め、多くの日本人ライダーは、ヘビー級クルーザーはゆったりと走るバイク、またはアガリのバイクというイメージを持っている。しかし「チーフテン・パワープラス」を試乗した後に思うのは、ヘビー級クルーザーは若いウチに乗っておけ、または今すぐ乗っておけ、だ。なにせ排気量1834ccの、先進的な技術と哲学で開発されたモダンなVツインエンジンは、車重360kg、ライダーを入れると400kg超えの車体を軽々と加速させ、コーナーの手前ではガシッとブレーキを掛けても車体はいとも容易く減速し、軽い入力でヒラヒラと車体を切り返す。文字にするとその通りであり、それはスーパースポーツやアドベンチャーの反応と同じ文字列になってしまうが、体感はまるで違う。肉感というか質量というか、異次元の大きさの塊がワープするように動くのである。もちろん長距離走行をキメるとライダーが腹をくくれば、低回転/低振動のエンジンと屈強なシャシーが車体とライダーを支え、どこまでも淡々と走ってくれるだろう。彼方の目的地に着いたときの疲労度の軽さは、想像に容易い。そんなバイクを乗るなら、若いにこしたことはない。もちろん、ヘビー級クルーザー未経験のベテランにとっても、目からウロコを落とすというか、凝り固まった己のバイク感を打ち破るには、「チーフテン・パワープラス」は最適だ。


6速100kmは2500回転で巡航。オートクルーズ機能を駆使すれば、快適以外の何ものでもないだろう。そしてオートクルーズを解除してアクセルをひねれば、「チーフテン・パワープラス」はワープするように加速する。バランッバランッという60度Vツインのクランクは、4000回転を越えるとビート感が一気に高まり、バッァーンと強烈な加速をする。エンジンの出力特性やトラクションコントロールの加入度が変化するライディングモードを「スタンダード」から、もっとも過激な「スポーツ」に変更すると、アクセル操作に対するエンジンの反応が高まり、トルクも増したエンジンによって、排気音も加速力も増大する。意を決してアクセルを開ければ、バッァーーーンと加速していく。コレを試すためには、路面状況や対向車、併走するジャーナリスト仲間との距離感など、いろいろと条件を揃えなければならないほどだったのだ。


しかも「チーフテン・パワープラス」をはじめとする2025年モデルのパワープラス112ファミリーは、リアにボッシュ製ミリ波レーダーを搭載。そこから得たデータを元に後方を走る他車の状況を把握し、ライダーや後続車に各種警報を発信するライダー支援機能を追加した。今回の試乗でもそれらのシステムはアクティベートされていて、走行中にそのインフォメーションがメインディスプレイや両サイドミラー内側のインジケーターライトに表示。それらを通して自らの走行状況を、より詳しく知ることが出来た。
欧州メーカーでは、そういった先進的な技術はライダーからの支持が厚く、価格的なボリュームも高いアドベンチャーモデルに搭載される。それがアメリカンブランドになれば、高いパフォーマンスを持つヘビー級クルーザーに搭載されるというのも、なかなに面白い。ライバルと熾烈なシェア争いを展開するインディアンMCの、そんな最先端モデルに乗れば、アメリカのバイクシーンの今を感じられるだろう。
ライディングポジション&足つき(170cm/65kg)


ディテール解説








「チーフテン・パワープラス」主要諸元

※【】内はロードマスター・パワープラス
■全長 2,503㎜【2,578㎜】
■ホイールベース 1,668㎜
■最低地上高 137mm
■シート高 678mm【672mm】
■キャスター角 25度
■トレール 150mm
■リーンアングル 31度
■車両重量(燃料非搭載時) 366㎏【407㎏】
■エンジン形式 POWERPLUS 112/俠角60度V型2気筒水冷4ストロークOHC4バルブ
■総排気量 112cubic Inc/1,834㏄
■ボア×ストローク 110.0㎜×96.5㎜
■圧縮比 11.4:1
■最高出力 126hp
■最大トルク 181.4Nm/3,800rpm
■燃料供給方式 クローズドループ燃料噴射/52mm デュアル・ボア
■燃料タンク容量 22.7L
■フレーム アルミキャスティング
■サスペンション(前・後) 43mm倒立タイプ/130mmトラベル・FOX製モノショック(リンク式)/油圧式プリロード調整付&114mmトラベル
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキシステム ABS付コンバインド・ブレーキシステム
■ブレーキ形式(前・後)ブレンボ製ラジアルマウント4ポットキャリパー+320mmデュアルフローティングディスク×ツインピストンキャリパー・270mmシングルフローティングディスク
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