パワフルに、スタイリッシュに、そして先進性を追加して進化したインディアンモーターサイクル「チーフテン・パワープラス」|海外試乗

インディアンモーターサイクルは、「チャレンジャー」や「パースート」といったヘビー級クルーザーモデルに搭載する水冷Vツインエンジンをアップデート。くわえて、その新型エンジンを搭載するモデルファミリー/パワープラス112ファミリーに2つのモデルを追加した。ここではその新型車「チーフテン・パワープラス」の試乗インプレッションを通して、インディアンモーターサイクルのパワープラス112ファミリーの詳細を紹介する

REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO:インディアン・モーターサイクル 
協力:ポラリスジャパン https://www.indianmotorcycle.co.jp 
ウエア協力:クシタニ、アルパインスターズ

排気量を拡大した新エンジン採用

インディアンモーターサイクル(以下インディアンMC)は、自らが開発し、ヘビー級クルーザーモデルである「チャレンジャー」や、プラットフォームを共有する「パースート」に搭載していたパワープラス108エンジンのアップデートを発表。両モデルの2025年型に搭載すると発表した。排気量108キュービックインチ/1768ccの挟角60度V型2気筒水冷OHC4バルブのパワープラス108エンジンは、「チャレンジャー」発表の翌年、2020年からスタートした、大型フロントカウルとサイドケースが付いたヘビー級クルーザーモデルで争われるアメリカのロードレース選手権キング・オブ・ザ・バガーズの最前線で開発され、パフォーマンス向上のあらゆる方程式を試した結果、ボアを2mm拡大するという結論を導き出したという。その結果、排気量を112キュービックインチ/1834ccへと拡大。それにともにペットネームを「パワープラス112」へと変更した。

↑「チーフテン・パワープラス」
↑パワープラス112エンジンを搭載した「チーフテン・パワープラス(右)」と「パースート」

また新型エンジンを搭載したパワープラス112ファミリーに、「チーフテン・パワープラス」と「ロードマスター・パワープラス」を加え、その布陣をさらに強化した。そもそも「チーフテン」と「ロードマスター」は、排気量116キューボックインチ/1890ccの挟角49度V型2気筒空冷OHV3カム2バルブのサンダーストローク116エンジンを、水冷エンジンを搭載するパワープラス・ファミリーとは異なるアルミフレームに搭載。両車はフロントフォークにマウントしたフェアリングを持つことで、OHVというオーセンティックなメカニズムのエンジンと合わせて、クラシカルスタイルを演出するクルーザーモデルとして人気を得ていた。しかし「パワープラス112」エンジンの発表を機に、両車のエンジンとフレームを、「チャレンジャー」と同じパワープラス112ファミリーのプラットフォームに変更したのである。

新型エンジン/パワープラス112搭載ファミリーに新型車を追加

インディアンMCにとって、ヘビー級クルーザー・カテゴリーのモデル再編と強化は必然だ。そこは車両、自社アクセサリー、パフォーマンス系から外装系までの幅広いカテゴリーのサードパーティ・パーツなどが絡み合った巨大な市場があり、ライバルブランドと熾烈なシェア争いを展開しているからだ。そこでインディアンMCは、先進的なテクノロジーを駆使したモデルラインナップの充実を図り、ライバルブランドとの差別化を図ってきた。自社トップカテゴリーのエンジンを進化させパワープラス112としたのも、「チーフテン・パワープラス」と「ロードマスター・パワープラス」をくわえてパワープラス112ファミリーを強化したのも、それが理由だ。

↑パワープラス112ファミリーに加わった「ロードマスター・パワープラス(右)」と「チーフテン・パワープラス」

また2024年にフルモデルチェンジした新型「スカウト」シリーズの存在も、パワープラス112ファミリーの強化を加速させたと考えられる。新たに排気量を1250ccに拡大した挟角60度V型2気筒水冷DOHC4バルブのスピードプラス・エンジンを、新たに開発したスチールパイプとアルミキャスティングパーツをミックスしたハイブリッドフレームに搭載した新型「スカウト」シリーズ。我々からすると1000ccオーバーの車両は大型車という認識だが、アメリカや欧州といったクルーザーの主要市場では、スカウト・シリーズは“ミッドサイズ”クルーザーという位置づけであり、したがって若いライダーやクルーザー初心者など、新規顧客に強くアピールするモデルシリーズだ。そして、そこで育ったライダーのステップアップモデルとして、水冷エンジンやアルミフレームなど、スカウト・シリーズと親和性が高いパワープラス112ファミリーがそのステップアップの受け皿となる。したがってパワープラス112ファミリーのモデル拡充は必須だったというわけだ。

↑パワープラス112エンジンを搭載した「チャレンジャー(右)」と「パースート」

さらには「キング・オブ・バガーズ」レースの人気高騰も、無視できない。インディアンMCは、レースは自分たちのDNAの一部だと公言している。したがって、新生インディアンMCの復活とともに開発を進めたフラットトラックレース専用のレーシングマシン/スカウト FTR750で、2017年からアメリカのフラットトラック選手権の最高峰クラスに参戦。2024年まで8年連続でシリーズタイトルを獲得した。しかしレギュレーション変更で、スカウト FTR750は最高峰クラス参戦が不可能になり、インディアンMCは2024年末をもってフラットトラック選手権からの撤退を表明した。そしてエンタテインメントおよびブランド認知度、そしてセールスにおいても強いインパクトを持っている「キング・オブ・バガーズ」にこれまで以上に注力すると語っている。それらを総合すると、プロモーションにおいても、パワープラス112ファミリーの強化および拡充は必須だったのである。

SSとは質が異なる、圧倒的なパワー感

排気量を拡大したパワープラス112エンジンを搭載した「チーフテン・パワープラス」で、米国ラスベガス郊外を走らせるのはじつに痛快だった。自分を含め、多くの日本人ライダーは、ヘビー級クルーザーはゆったりと走るバイク、またはアガリのバイクというイメージを持っている。しかし「チーフテン・パワープラス」を試乗した後に思うのは、ヘビー級クルーザーは若いウチに乗っておけ、または今すぐ乗っておけ、だ。なにせ排気量1834ccの、先進的な技術と哲学で開発されたモダンなVツインエンジンは、車重360kg、ライダーを入れると400kg超えの車体を軽々と加速させ、コーナーの手前ではガシッとブレーキを掛けても車体はいとも容易く減速し、軽い入力でヒラヒラと車体を切り返す。文字にするとその通りであり、それはスーパースポーツやアドベンチャーの反応と同じ文字列になってしまうが、体感はまるで違う。肉感というか質量というか、異次元の大きさの塊がワープするように動くのである。もちろん長距離走行をキメるとライダーが腹をくくれば、低回転/低振動のエンジンと屈強なシャシーが車体とライダーを支え、どこまでも淡々と走ってくれるだろう。彼方の目的地に着いたときの疲労度の軽さは、想像に容易い。そんなバイクを乗るなら、若いにこしたことはない。もちろん、ヘビー級クルーザー未経験のベテランにとっても、目からウロコを落とすというか、凝り固まった己のバイク感を打ち破るには、「チーフテン・パワープラス」は最適だ。

↑「チーフテン・パワープラス」
↑「チーフテン・パワープラス」

6速100kmは2500回転で巡航。オートクルーズ機能を駆使すれば、快適以外の何ものでもないだろう。そしてオートクルーズを解除してアクセルをひねれば、「チーフテン・パワープラス」はワープするように加速する。バランッバランッという60度Vツインのクランクは、4000回転を越えるとビート感が一気に高まり、バッァーンと強烈な加速をする。エンジンの出力特性やトラクションコントロールの加入度が変化するライディングモードを「スタンダード」から、もっとも過激な「スポーツ」に変更すると、アクセル操作に対するエンジンの反応が高まり、トルクも増したエンジンによって、排気音も加速力も増大する。意を決してアクセルを開ければ、バッァーーーンと加速していく。コレを試すためには、路面状況や対向車、併走するジャーナリスト仲間との距離感など、いろいろと条件を揃えなければならないほどだったのだ。

↑「ロードマスター・パワープラス」は、エンジン/フレーム/外装類をチーフテン・パワープラスと共有。くわえて高いスクリーンやフロントカウル周りのディフューザー、ステップ前のロアカウル、パッセンジャーのバックレストを兼ねるトップケースなど豪華な装備が追加される
↑「ロードマスター・パワープラス」の走りのパフォーマンスは、チーフテン・パワープラスと同様。しかし追加装備で車重は40kgほど重くなり、トップケース装着などによって重心バランスが変化し、それがハンドリングにも影響を与えている

しかも「チーフテン・パワープラス」をはじめとする2025年モデルのパワープラス112ファミリーは、リアにボッシュ製ミリ波レーダーを搭載。そこから得たデータを元に後方を走る他車の状況を把握し、ライダーや後続車に各種警報を発信するライダー支援機能を追加した。今回の試乗でもそれらのシステムはアクティベートされていて、走行中にそのインフォメーションがメインディスプレイや両サイドミラー内側のインジケーターライトに表示。それらを通して自らの走行状況を、より詳しく知ることが出来た。

欧州メーカーでは、そういった先進的な技術はライダーからの支持が厚く、価格的なボリュームも高いアドベンチャーモデルに搭載される。それがアメリカンブランドになれば、高いパフォーマンスを持つヘビー級クルーザーに搭載されるというのも、なかなに面白い。ライバルと熾烈なシェア争いを展開するインディアンMCの、そんな最先端モデルに乗れば、アメリカのバイクシーンの今を感じられるだろう。

ライディングポジション&足つき(170cm/65kg)

ハンドル位置は幅広く、そしてやや低め。腕を伸ばした自然な場所にある。ステッププレートはやや前方にあるが、日本人の標準体型である自分でも特別大きく感じなかった

ディテール解説

大型のフロントカウルとともに、このシートと繋がる美しいラインを持ったリアフェンダーと、そのリアフェンダーとリンクする左右の大型ケースの装着が、バガーと呼ばれるヘビー級クルーザーモデルの特徴。「チーフテン・パワープラス」や「ロードマスター・パワープラス」は、兄弟モデルとなった「チャレンジャー」から燃料タンクや、このリア周りのデザインを引き継いでいる
新たにデザインしたフロントカウルを装着。コンパクトに設計され、可能なギリ車体に近づけてレイアウトされている。ヘッドライト上のエアインテークや、その両サイドにあるキャラクターラインは、「チャレンジャー」がデザインソースになっている。これらの造形は、アメリカンマッスルカーからも強くインスピレーションを得ている
フレームはエンジンをフレームの一部として利用するバックボーンタイプ。エンジン上部を通るメインフレームのほか、ラジエターカバーも兼ねるダウンチューブ、ピボット周りなど複数のパートに分かれたアルミキャスティングパーツの複合体で車体を支える
エンジンは「チャレンジャー」に搭載されていた挟角60度V型2気筒OHC4バルブのパワープラス108をベースに、ボアを2mm広げることで排気量を112キュービックインチ/1834ccに拡大した「パワープラス112」を搭載。レイン/スタンダード/スポーツの3つのライディングモードを選択可能。ボッシュ製6軸IMUが搭載され、そこから得たデータを元にトラクションコントロールやABSを連携して作動させるSmart Learn Technologyを搭載している
左右のサイドバックにはリモートロックシステムを採用。ふたつのバックの総容量は68リットルを超える。左右バッグには防水仕様のスピーカーを装備。ラジオはもちろん、携帯電話とリンクできるRIDE COMMAND機能を使ってストリーミング再生で音楽を楽しむことができる
SHOWA製倒立フォークに、ラジアルマウントのブレンボ製4ポットキャリパーをダブルで装着。フロントブレーキレバー、またはリアブレーキペダルを単独で操作しても、ある速度以上になると走行条件に最適な前後ブレーキバランスに自動的に振り分けるエレクトロニック・コンバインド・ブレーキ・システムも搭載。リアショックユニットはFOX製だ
178mmのフルカラー・タッチスクリーンディスプレイには走行モードや各種機能など、さまざまな項目を設定が可能。表示するデータもライダーが選択することもできる。新たに搭載したリアレーダーによる後方視界の警告などはこのディスプレイのほか、両サイドミラー内側に配置した警告灯によって行われる。可動式の電動スクリーン、スピード&エンジン回転計、スピーカーも装備
テールライト上にボッシュ製ミリ波レーダーを配置。これで読み取った後方の車両状況を元に左右後方の死角に車両が入ったことをライダーに警告する「ブラインドスポット・ワーニング」や、後方車両の接近をライダーに知らせる「テールゲート・ワーニング」、衝突の可能性が検出されると、リアケース・ライトで後方接近車両に警告する「リア・コリジョン・ワーニング」などライダー支援機能を追加した

「チーフテン・パワープラス」主要諸元

※【】内はロードマスター・パワープラス
■全長 2,503㎜【2,578㎜】
■ホイールベース 1,668㎜
■最低地上高 137mm
■シート高 678mm【672mm】
■キャスター角 25度
■トレール 150mm
■リーンアングル 31度
■車両重量(燃料非搭載時) 366㎏【407㎏】
■エンジン形式 POWERPLUS 112/俠角60度V型2気筒水冷4ストロークOHC4バルブ
■総排気量 112cubic Inc/1,834㏄
■ボア×ストローク 110.0㎜×96.5㎜
■圧縮比 11.4:1
■最高出力 126hp
■最大トルク 181.4Nm/3,800rpm
■燃料供給方式 クローズドループ燃料噴射/52mm デュアル・ボア
■燃料タンク容量 22.7L
■フレーム アルミキャスティング
■サスペンション(前・後) 43mm倒立タイプ/130mmトラベル・FOX製モノショック(リンク式)/油圧式プリロード調整付&114mmトラベル
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキシステム ABS付コンバインド・ブレーキシステム
■ブレーキ形式(前・後)ブレンボ製ラジアルマウント4ポットキャリパー+320mmデュアルフローティングディスク×ツインピストンキャリパー・270mmシングルフローティングディスク
■タイヤサイズ(前・後)メッツラー製Cruisetec 130/60 B19 66H・Mメッツラー製Cruisetec 180/65 R16 80H
■価格 ¥4,530,000〜【¥5,230,000〜】

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著者プロフィール

河野 正士 近影

河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…