アンダー100万円! ヤマハYZF-R7開発に込められた5つのこだわり。

YZF-R7が、MT-07をベースに開発されていることは既報の通り。確かにエンジンとフレームの基本部分は、共通のユニットが活用されている。しかしYZF-R7は、ピュアなスーパースポーツとして全く別のキャラクターに仕上げられていた。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ・YZF-R7 ABS…….999,900円

5つのこだわりをクローズアップ

 フルフェアリングを身にまとい、大変身を遂げたYZF-07は“EXCLUSIVE Model”としてリリースされ、2022年2月14日にYSPおよびアドバンスディーラーで新発売される。
「楽しさを極める」開発の基本コンセプトとサーキットインプレッションは報告済みだが、ヤマハ開発陣の「こだわり」が特に強く感じられた5つのポイントについて改めて説明したい。
 

①ともかくSkinny Proportion(YZF-Rシリーズ一番のスマートさ)

 スーパースポーツモデルに相応しい逸材に仕立てるべく、直(並)列ツインエンジン搭載を生かしたスリムな車体構成を徹底的に追求。その細身のデザインは、Rシリーズ中一番のレベルに昇華させている。
 レーシングマインドが徹底追求されたR1やR6を凌ぎ、排気量的に下級モデルのR25やR15と比較してもR7はさらにスマートな仕上がりを誇っている。
 当然ながらライディングポジションもドラスティックに変更。R1に近似するスポーティな姿勢でハードに走れるスーパースポーツとして仕上げられ、バンク角も53°と十分な深さが確保された。なお、MT-07のバンク角は49°である。
 上位機種のMT-09と同じ新パターンデザインのブリヂストン製BATTLAX HYPERSPORT S22の採用も相まって、サーキットでも十二分に高いコーナリング性能が楽しめる。

②アンダーカウルはアルミ製を採用

 少し色調の異なる一番下のカウル部分。ここにアルミ製の部品が採用されている。樹脂部品で作られるのが一般的なところだが、YZF-R7はわざわざ手間をかけてアルミで製造されている。3ピース構造のフルフェアリングがボルトオンされているが、内側の間近にエキゾーストパイプが通るアンダーカウル部分がアルミ化されているのである。その理由は①で記した通り、徹底して細いフォルムの構築にあった。
 エキゾーストパイプが熱くなるのはご存知の通りだが、それを樹脂部品でカバーするには、高熱の影響を避けるために、それなりの対策が必要となる。具体的に言うとエキゾーストパイプとの間にかなり大きなクリアランスを取る必要がある。しかし①のSkinny Proportionを優先課題と考え、それを理想とするデザインを達成する為、耐熱性の高いアルミ部品を採用。それによってクリアランスを詰めた、細いフォルムが構築できたのである。

③よりスポーティーな操作性を追求

MT-07と共通のエンジン。ケース右側に納まるクラッチユニットには、株式会社エフ・シー・シー製のアシスト&スリッパークラッチが採用されている。
強制開閉式ケーブル操作のスロットルは、MT-07用とは別に専用開発されている。サーキットでの全開走行も踏まえ、ピュアなスーパースポーツ車に相応しい“ハイスロットル”を新採用。つまり右手の開閉操作は小さな角度でクィックに扱える仕様となっている。

 扱いやすさとトルクフルな乗り味では定評のある270度クランク搭載。ツインカム8バルブ688cc2気筒エンジンは、MT-07と同じである。しかしモータースポーツへの登竜門としても貢献できる、ピュアなスーパースポーツとして、シャープで軽快な操作性の追求にはかなり強いこだわりが込められている。
 左手で扱うクラッチには、操作性の軽いアシスト&スリッパークラッチを採用。サーキットでのハードなクラッチワークでも軽快に対応できる。
 また右手で扱うスロットルグリップも専用のレリーズに換装されていた。小さな操作角度でスロットル全開まで持って行けるハイスロットルが採用され、小さなアクションでクイックなパワーコントロールを可能としているのである。

アシストカムの作用で、結果的に軽いレバー操作に貢献。
クラッチが繋がった上体のイラスト
スリッパーカムの働きで、激しいエンジンブレーキ時に適度な滑りを発生させる。

④フロントブレーキの強化策を徹底

 多くの人にスポーツ走行を楽しんでもらいたいという願いは、エンジン・パフォーマンスに過激さは求めず、あくまで程良さを追求。しかし操縦性と制動性能には妥協無き操作性向上が追求されているのである。
 なぜならピュアなスーパースポーツの開発には、当然サーキットランも視野に入れられているからだ。
 ヤマハ開発陣のそんな想いが如実に表現されているのがフロントブレーキである。まず右手のブレーキレバーは新作のブレンボ製ラジアルマスターシリンダーが奢られた。レバーの操作方向と油圧ピストンが押される方向が一致しているレイアウトで、ブレーキタッチと操作性に優れるのが特徴。いわゆる量産モデルでこのタイプが採用されたのは珍しい。
 グリップからレバーまでのリーチも好みの距離へ繊細にアジャストできる点も見逃せない魅力である。

 またフロントのダブルディスクブレーキも、ADVICS製対向4ピストンの油圧キャリパーがラジアルマウントされている。下のイラストに示す通り、キャリパーはフロントフォークボトム部にボルトオンされるが、その固定方向が異なっている。これはR1やR6と同じ方式。サーキットでのハードなブレーキングにも耐える(ボルトへの剛性負担を軽減する)仕組みであり、より強力な制動性能の発揮に貢献する。
 

YZF-R7のフロントブレーキ
MT-07のフロントブレーキ

⑤車体剛性の強化でブレースを追加

R7
MT-07

 バンク角も深くとられ、ハイグリップなタイヤを採用。ましてやサーキット走行を考慮した設計では、加減速Gやコーナリング時の車体へ加わる負担が大きくなる。
 そんなR7で考えられた施策が各部車体周りの剛性向上とバランスの見直しだった。
 ダイヤモンドタイプ・フレームのパイプワークこそMT-07と共通だが、リヤピボット付近にセンターブレースを追加装備。またフロントフォークの左右スパーンを20mm延長(オフセットも変更し若干キャスターを立てた)し、上下ブラケットを専用開発。この結果、トータルでの車体前後ねじり剛性は、約20%の向上を果たしている。
 この他、リヤサスペンション・モノショックのバネレートやリンクも変更され、軽快な操縦性と直進安定性が両立された。

主要諸元

ヤマハ YZF-R7【MT-07】

認定型式:8BL-RM39J 【8BL-RM33J】
原動機打刻型式:M419E 
全長×全幅×全高(mm):2,070×705×1,160 【2,085×780×1,105】
シート高(mm):835 【805】
間距離(mm):1,395 【1,400】
最低地上高(mm):135 【140】
車両重量(kg):188 【184】
燃料消費率(km/L):41.6(60km/h) 2名乗車時 【40.0】
WMTCモード値(km/L):24.6 1名乗車時 
最小回転半径(m):2.7 

原動機種類:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列:直列,2気筒
総排気量(㎤):688
内径×行程(mm):80.0×68.5
圧縮比:11.5 : 1
最高出力(kW/rpm):54(73PS)/8,750
最大トルク(N/m/rpm):67(6.8kgf・m)/6,500
始動方式:セルフ式
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量(L):3.0
燃料タンク容量(L):13(無鉛レギュラーガソリン指定)
燃料供給方式:フューエルインジェクション
点火方式:TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式:12V 6.0Ah(10HR)/ YTZ7S 【12V 8.6Ah(10HR)/ YTZ10S】

クラッチ形式:湿式多板
変速装置:常時噛合式6速
変速方式:リターン式
1次減速比/2次減速比:1.925(77/40)/2.625 (42/16)  【同/2.687 (43/16)】
変速比:
 1速:2.846  (37/13)
 2速:2.125  (34/16)
 3速:1.631  (31/19)
 4速:1.300  (26/20)
 5速:1.090  (24/22)
 6速:0.964  (27/28)

フレーム形式:ダイヤモンド
キャスター(度):23°40′ 【24°50′】
トレール(mm):90
タイヤサイズ(前/後):120/70ZR-17M/C (58W)(チューブレス)/180/55ZR-17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後):油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後):テレスコピックφ41mm倒立式/スイングアーム(リンク式モノショック) 【φ41mm正立式】
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ:LED/LED
乗車定員:2名

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…