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ホンダが1976年に発売した原付1種のお手軽モデルがロードパル。この当時は原付一種(50cc)ならヘルメットの着用義務がないため、新たな需要を喚起しようと女性に向けて開発されたモデル。つまり自転車より便利でラクチンなのにヘルメットで髪型が崩れる心配もない楽しい乗り物というわけ。しかも新車価格は6万円を切る設定だったので、誰もが買いやすく感じられたものだった。そのデビューからもうすぐ半世紀が経とうとしている今、なんとロードパル系のクラブが存在することを発見した。今なぜロードパルなのか、クラブに直撃してみることにした。
クラブといっても会員は3名だけ。しかも取りまとめ役をしている本橋利之さん(写真右)自ら「勝手に名乗っているだけで会費も規則もありませんから」と、とてもライトな姿勢なのだ。要するに友人とロードパルで遊んでいるだけという感覚なのだろう。そもそもロードパルになったきっかけは、友人である押野那生希さん(写真左)が本橋さんに「手軽な原付ないでしょうか」と相談したことのようだ。では、その那生希さんの愛車から見ていこう。
女性1オーナー車だったロードパル
那生希さんは現在21歳で、ロードパルの存在すら知らなかった世代。古いスバル・レオーネを趣味にしていたが、普通免許で乗ることができる原付にも魅力を感じていた。そこでペダル付きの原動機付自転車、いわゆるモペッドを探してみることにした。イタリアのトモスやピアジオ・チャオなどなら今でも流通しているが、決して安価ではない。そんな話をしていたところ本橋さんから教えられたのがロードパルだったのだ。
那生希さんがロードパルを手に入れたのは2020年というから2年前のこと。先日、ロードパルの相場が上がり気味だと紹介したが、2年前なら今よりは割安だったろう。見つけたのはヤフオク!で、女性1オーナー車ながら不動になったことはなく現役を続けてきた個体だった。1オーナー車らしく大切に扱われてきたことが伝わってくる程度の良さで、現役だったことからエンジンの調子も非常に良い。これまでメーターワイヤーが切れたくらいでトラブルとは無縁のようだ。
これだけ程度が良いとカスタムする気にもならないが、そもそもオリジナルを尊重しているので社外パーツは一切使いたくないそうだ。そのため純正オプションパーツを探して装着するこだわりよう。例えば前カゴの中に収まるバッグや黄色いシートカバー、フレームに装着するバッグ、シート下の工具入れと工具などでグリーンの車体色をカラフルに彩っている。ロードパルはリヤキャリアの下が燃料タンクになっているが、2ストロークエンジンは分離給油方式なのでタンク内部に仕切りを設けてオイルタンクにもなっている。タンクの側面にある窓はオイル量を点検するためのもので、内部にある玉がオイル量により上下することで確認する構造になっている。
新車未登録だったパルホリデー
歳は離れているが、那生希さんは以前から本橋さんと友人付き合いをしている。那生希さんがロードパルを楽しみ始めている姿を見て、本橋さんも同型車が欲しくなってしまった。本橋さんは53歳なのでロードパルの新車当時を知っている世代だし、なんと実家にロードパルが置いてあったことを覚えている。そのため長らくロードパルの男性向けモデルであるパルホリデーを探すでもなく探していたそうだが、灯台下暗し。なんと実家と目と鼻の先にある自転車屋兼バイク屋さんが保管していることを突き止めた。一度も登録されたことがない新車状態で、ガソリンすら入れたことがない個体。これは買うしかないだろう!
パルホリデーを見つけたのは2021年だから去年のこと。未登録の新車なのだから当たり前だが、装備がすべて揃っていて傷一つない。パルホリデーの特徴であるブロックタイヤも新車装着されたものだが、保管状況が良かったためかヒビ割れはなく硬化も最小限。メッキの輝きが美しく、サビはどこにも見当たらない。とても40数年前のバイクとは思えないからナンバーを付けず保管するという手もある。けれど本橋さんは惜しげもなくナンバーを取得してガソリンをタンクに給油すると、近所を走り回ることにした。といっても走行距離はまだ200キロ台で、調子を維持するために走るくらいだ。入手してから手を加えたのはサイドスタンド。純正はセンタースタンドしかないから、当時は社外品でサイドスタンドが流通していた。車体同様にデッドストックを入手して苦労しながら取り付けた。
新車当時に発表された諸元表によれば、パルホリデーの燃費は1リッター当たり70キロ(30km/h定地走行時)。燃料タンク容量は2.5リッターだから、2、3回ほど給油されただろうか。給油口はシート下にあり、その手前にある黒いフタを外すとバッテリーが現れる。もちろん新品バッテリーも付属していたもので、電解液すら入れられてなかったという。コストのためか重量のためか、バッテリー置き場は発泡スチロールでできていて、バッテリーやハーネスをキレイに収納することができるようになっている。
キャブが寿命らしいパルフレイ
最後に紹介するのは押野智也さんが所有するパルフレイ。智也さんは那生希さんとは双子の兄弟で、どちらも古い4輪や2輪が大好き。那生希さんがロードパルに乗り始めたのを見ていて、智也さんも乗りたくなってしまったのだろう。しかも智也さんも本橋さんと親交があるため、2人から大いに刺激を受けたことは容易に察せられる。ただロードパル、パルホリデーと先を越されてしまったため、探したのはパルフレイかパルディン。パルディンはそうそう見つかるものではない希少車で、パルフレイをネットオークションで見つけた。そこで本橋さん同様、2021年に手に入れたのだ。
パルフレイはロードパルより低い位置にフレームがあるため、見るからに乗りやすそう。智也さんもその点を気に入っていて、見た目の可愛さを生み出す要因だと考えている。手に入れた白いパルフレイは走り込んだ後に放置されていたのだろうか、入手時から調子がいまひとつ。そこでキャブレターのオーバーホールを試してみたが、まだ本調子には戻っていないという。もしかするとキャブレター本体が寿命なのかもしれない。とはいえ探しても新品が出てくるわけがなく、今は思案中。というのもパルフレイ以外にマグナ50も所有していて、さらに4輪も数台維持しているから順番に整備しなければならないのだ。
3者3様にロードパル系を楽しんでいるクラブだが、共通していえるのは「可愛らしいスタイル」を備えていること、「人と同じにならない車種」であることが選ぶ基準のようだ。皆さん長距離ツーリングしたりといったハードな使い方はされず、調子を維持するため近所を走る程度とのこと。自転車のような存在感というところもポイントで、維持していることが精神的な負担にならない身軽さも魅力のひとつのようだ。こんな原付ライフも楽しそうだと思われないだろうか。