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見積書や契約書の金額内訳を見てみると、その中に「納車整備」という項目がある。その金額は店によって様々だ。数万円取られ場合もあるし、今回新車で買ったCB1300SFは「0円」。ちなみに、同店になぜタダなのか聞いたところ、ホンダの場合は“新車価格の中に納車整備費が含まれる”という考え方だそうで、正規販売店のホンダドリーム店で新車購入をすると無料になるという。ただし販売店によっては、車両代を値引きした分を相殺するために、納車整備費を取る場合があるという。
さて、バイクメーカーは製造ラインから新車が出てくると、必ず「完成検査」を行っている。きちんと組み立てられているか、エンジンが動くかなど、規定に則って各部をチェックするわけだ。だったら納車時に整備なんていらないのでは? と思ってしまうのだが、バイクが販売店に運ばれてくる状態では、すぐには乗れないらしい。では、販売店ではどんな整備をするのか、実際の手順に沿って紹介していきたいと思う。
作業項目は意外と多かった
まず、運ばれてきたバイクを見ると、ちょっとした“ミイラ状態”だ。きれいな新車に傷がつかないように、各部に養生カバーやテープを貼ってくるからだ。筆者は性格的にその類いのものをすぐにビッと剥がしてしまうのだが、プロはそんなことはしない。整備中にバイクに傷を付けないためで、ホンダドリーム荻窪では作業中に傷つく恐れがある箇所にさらに養生テープを貼っていく。ユーザーはなかなか見られない作業だが、分かると嬉しいものだ。
バッテリー電圧の確認やチェーンの張りを調整
さて、フレームなどを養生した後、まずバッテリーを外して下ろす。CB1300SFはシート下に設置されており、サイドカバー、コンピュータなどを外さないと、バッテリーが現れない。丁寧にバッテリーを下ろしたら、テスターでバッテリーをチェック。ホンダの基準では、12V以上の電圧があると正常ということになるという。今回は12.9Vだったので、特に問題なし。ということで、再びバッテリーを戻す。
次に行う作業は、ミラーの調整。バイクが販売店まで運ばれてくる時、当たり前だが邪魔になるミラーは内側に畳まれてくる。ステーを外側に戻すだけなのだが、ホンダドリーム荻窪ではここにもちょっとした配慮をしているという。まずステーの位置だが、バイクを眺めた時に一番見映えがするように固定する。加えて、ミラーを手で触ったときに、後方視界の調整が最大の振り幅になるようにしているという。ライダーによっては体格が異なるし、見え方の好みも違うからだ。調整時はステー部分を上から確認して、丹念にチェックしていく。
それが終わったら、今度はドライブチェーンの調整に移る。ドライブチェ−ンは、輸送時にはかなりのテンションをかけている。チェーンがたるんでいると、運んでいる時にスイングアームなどに傷を付ける恐れがあるからだ。チェーンを調整する時は、まずセンタースタンドかメンテナンススタンドをかける。この状態で大まかに調整した後、スタンドを外して微調整を行う。周知の通り、リアタイヤが設置すると、スイングアームが動いてテンションが変わるからだ。
ドライブチェーン調整に次は、タイヤの空気圧チェック。通常は空気圧ゲージを使って確認するが、ホンダドリーム荻窪の場合は、なんと空気を全部抜いてしまう。というのも、同店の場合は中のエアを無料で「窒素ガス」に変更してくれるというサービスがあるからだ。
バイクでもクルマでも、タイヤのエアを窒素ガスに変えることを勧められることが多いが、そのメリットとは何だろうか。まず挙げられるのが、空気よりも分子の動きが遅いため、物を通り抜ける透過係数が小さいということ。つまり、エアが抜けにくくなる。さらにただの空気の場合は、中に水分が含まれるため、タイヤの表面温度によって膨張したり、収縮したりしてしまう。窒素ガスの場合は、これがない。空気を足した場合は、水分も中に入るため、微妙なタイヤバランスの変化やタイヤ寿命への影響などもあるという。
マフラー、エキパイをていねいに脱脂
納車整備で忘れてならないのが、給油だ。大抵は店を出たらすぐに、がソリスタンドに向かうと思うが、それまで走行できるようにガソリンを足しておく。同店の場合は、レギュラーガソリンを4L給油するという。これで整備終了かと思いきや、最後に意外なメインテナンスが。それが排気系の清掃だ。
バイクが工場から出荷される際、エキゾーストマニホールドやマフラーなどが錆びないように防錆オイルを吹きかけてくる。そのオイルをそのままの状態にして走行してしまうと、排気熱で焼きムラができてしまうらしい。そこでパーツクリーナーを使って、丁寧に排気系を拭いていく。
その後、灯火チェックや冷却ファンの作動確認、コンピュータの初期設定などを行ったら、車載工具を定位置に入れて納車整備は終了となる。オプションを選択した場合は、この後に装着するのが一般的な流れになる。ちなみに保護カバーはユーザーにバイクを引き渡す直前まで剥がさない。
納車整備などそれほどやることはないと思っていたが、改めて意外と手間暇がかかるということが分かった。作業内容は、メーカーが異なってもおおよそ同じ内容だが、販売店によっては異なる場合もあるという。新車購入時の納車整備料でモメたという話も聞くので、仮に有料の場合は、その内容を事前に確認しておくのも手だと思う。