車体と足まわりが大進化のRC390、その軽快な操舵に「オヤッ」と驚いた。|KTM・RC 390試乗記

サーキットで思い切り良い汗かいた後、帰路はホッとする心地よいひと時が楽しめる。
2022年3月のプレスリリースで公表されていた新型RC 390の試乗機会が訪れた。7月28日に報道関係者を対象に開催された発表試乗会。富士スピードウェイのショートコース及び周辺一般道を舞台に早速そのポテンシャルをチェックした。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●KTM Japan 株式会社

KTM・RC 390…….830,000円

ブルー×オレンジ

オレンジ×ブラック

 RC 390のルーツを辿ると、2012年のEICMA(ミラノショー)に出展された390 Dukeがベースとなって誕生し2013年に新発売。ご存知の通りDukeはネイキッドスポーツだが、RCはいわゆるレーサーレプリカであり、今回の2022年モデルではMotoGPで活躍するKTMワークスの「RC16」に影響を受けてデザインされた最新のホットモデルである。現在国内にはRC 125と同390の2機種が投入されている。
 2013年の発売以来、RC 390は何回か熟成変更を重ねて来ているが、今回はもっともドラスティックに手が加えられたビッグチェンジモデルである。
 フロントマスクが大きくなった外観デザインを始め、フレームやタンクシートにフートレスト。サスペンションやキャストホイールにブレーキも一新。
 デザインが刷新されたトラス構造のスチール製パイプフレームは前モデル比で1.5kgの軽量化を達成。
 ボリューム感の増したガソリンタンクは、容量が9.5Lから13.7Lに拡大。4割以上の増量は、ツーリング使用にも心強い。ちなみに諸元の燃料消費率データを掛けた航続距離は約400kmになる。
 サスペンションは前後共にWP製のAPEX。φ43mmの倒立式フロントフォークは、左右に減衰機能が分担され、伸び圧共に30クリックの調節ができる。リヤのモノショックもプリロードと伸び側ダンピング調節ができる。
 5本スポークの新型ホイールは従来モデル比で3.4kgものバネ下重量軽減に貢献。インナーディスクキャリアを排除し、ホイールのスポーク部に直付けされたディスクローターの採用で、960gの重量を削減しているのも新しい特徴。

 搭載エンジンこそ基本型式に変わりないが吸排気系を一新。電子制御マップも専用チューニングし直され、同デバイスのレイアウト(搭載位置)も新設計。
 最高出力等のスペックは同エンジンを搭載するDukeやADVENTUREと同じ。あえて旧型RC 390の2019年仕様と比較すると、32kWを発揮する最高出力の発生回転数が9,500rpmから9,000rpmに下がり、最大トルクは35Nm/7,250rpmから37Nm/7,000rpmに増強されている。
 また乾燥重量が159kgから155kgへ軽量化された事も相まって、ファイナルレシオが高められている。リヤのドリブンスプロケットが45丁から44丁に、少し高めのギヤリングに変更されたのも見逃せない。 
 この他、メーターもフルカラーのTFTディスプレイを採用。豊富に揃えられたレーシングパーツへ換装する時の取扱いのしやすさにも配慮されている。
 細部に渡る軽量化の徹底に加えて、BOSCH製IMU(慣性計測センサーユニット)を採用することで、コーナリングブレーキコントロール(コーナリングABS)やコーナリングトラクションコントロール(MTC)による安全機能も標準装備されているのである。

右サイドカムチェーンで駆動される水冷DOHC4バルブの単気筒エンジン。排気量は373cc。
トレリス構造のスチール製フレームは新設計。前モデル比で1,5kgの軽量化を達成。ボルトオンされるサブフレームもデザインし直されている。

シャープでクイック、でも操縦性には落ち着きがある。

 試乗のスタートは富士スピードウェイのショートコース。コースインして「オヤッ」と思ったのは、実に軽快な操舵フィーリングに対して、旋回時やS字切り返しでの車体の傾きに関するロール挙動には、しっとりとした落ち着きが感じられたこと。
 写真撮影等、バイクを取り回した時の感触では、特に操舵感の軽さに驚かされた。それは250ccクラスと比較しても軽いと感じられるレベル。
 しかし走り始めると良い具合に穏やかさの伴う挙動が好印象だったのである。その落ち着いた感触は、サーキットでハードなスポーツ走行を楽しむ上でも安心感を呼び、少しずつコーナーを攻め込んで行きながらタイムを縮めてみたいような気分。エキサイティングな走りを素直に楽しみたい気になってくる。
 1周900m足らずのコースは右に左に、高低差もあるトリッキーなコーナーが連続する。最終コーナーから第1コーナーまでのメインストレートも僅か230mに過ぎない。
 慎重に最終コーナーを抜けながらカウルにヘルメットを沈め、右手のアクセル全開で3速から5速までシフトアップ。速度は130km/h弱まで伸びる。レッドゾーンは10,000rpmからだが、プラス500rpm以上の領域まで難なくスムーズに伸び上がる。
 回転の上昇スピードはほぼ一定の感覚。逆に9,000rpm近辺で早めにシフトアップしてもトルク負けしない。シフトミスしてエンジン回転を6,000rpm付近まで落ち込ませてしまったような時、1速高めのギヤのままでも侮れない加速力を発揮してくれた。
 正直言って、パンチの効いたハイパワーを誇れるタイプではないが、いかにも柔軟な出力特性がとても扱いやすく、各コーナーで後輪にしっかりと駆動力を与えながら、思い通りのラインに乗せて行けるのである。
 総合減速比が高められた事もあって、スロットル開閉に対するレスポンスが穏やかな感じ。フルバンク状態からコーナーを脱出するシーンでも、以前のモデルよりさらに扱いが優しく、積極的にアクセルを開けてグイグイと前へ出て行け、それなりに強かな加速力を発揮してくれる。4速へのシフトダウンと共にブレーキングしながら左1コーナーへの進入も、スパッと素直に決まり、続く右への切り返しもリズムに乗って楽に扱える。
 ブレーキも扱いやすく、乱暴なシフトダウンでもスリッパークラッチが機能してくれ、後輪のホッピングを防ぐ。さらにはコーナリングABSやトラクショコントロールも緻密な電子制御が働いてくれる安心感も高い。
 ライダーは前屈姿勢をキッチリと決めなくてもウインドプロテクションに優れ、耐久レース的な走りにも好都合。空力特性特性も進化しており、今回はその領域まで試すことはできなかったが、最高速性能も高められているそうだ。
 ちなみに今回の試乗車はオプション装備のクイックシフターが装備されており、走行中はほとんどの場面で左手のクラッチワークが開放され、なかなか小気味よいシフトワークが楽しめた。

 さて、サーキットを離れた走りはどうか。フロントフォークにクリップオンされたセパレートハンドルは、トップブリッジまで10mm程間隔が空けられているので、一般走行に的を絞るなら、トップエンドまで高めておくのも良いだろう。
 ただ、低い位置にセットされていても、前傾姿勢はそれほど辛いとは思わない。シートとタンク、サイドカウルからステップの位置関係が良いので、下半身でバイクをホールドしやすく、腹筋と背筋をバランスさせて肩や腕の力を適度に抜くことができる。
 バイクのライディングは、全身のエクササイズになると理解するライダーなら、シートに股がった瞬間から、適度な緊張感を保つことがき、身体の筋力を活用しつつ、ピリッと気を引き締めたライディングが楽しめる。
 ツアラーとして安楽に乗れるタイプではないが、いかにもスポーツバイクに乗る楽しさは十分。それでいて、ショートストローク単気筒エンジンが発揮する出力特性は、どんな場面でも扱いやすい。
 これに関しては、ホッと気持ちがリラックスできる優しい乗り味が魅力的。小まめなシフトワークやパワーバンドに気を使う必要のない柔軟な扱いやすさもまた心地よいのである。
 ローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは28km/h。6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は5,800rpm程度だった。               
 柔軟な出力特性を誇る単気筒エンジンを搭載も、サーキットでスポーツ走行を楽しめる確かなポテンシャルを発揮できるキャラクターとの組み合わせが個性的。
 いずれにせよ、普通自動二輪免許で乗れるこのクラスで、最もホットなスーパースポーツモデルと言える。


新しいカウルデザインは、ウインドプロテクションと空力特性が向上している。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

シート高は僅かに高くなって824mmある。ご覧の通り両足の踵は地面から浮いてしまうが、指の付け根で踏ん張ることができる。取り扱いは軽く、バイクを支えるのに不安感はない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…