名門モトグッツィのV7 Specialは、最新モデルなのに懐かしい乗り味だ。

V7 Special
モトグッツィは創業100年の歴史を誇るイタリアの名門ブランド。90度Vツインエンジンを縦置き搭載するシャフトドライブ方式のバイクは古くから良く知られている。今回のV7 Specialは、V7 Stone及び同100周年記念特別仕様と共に2021年6月から国内出荷が開始された最新モデルである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ピアッジオグループジャパン株式会社

モトグッツィ・V7 Special…….1,276,000円

フォーマルブルー
カジュアルグレー

 V7の初代モデルは、何と53年前に登場。同ブランドの根幹を築いてきたスタンダードな主力モデルとして良く知られている。今回の試乗車は2021年3月に公表されたV7の最新モデルである。
 大きなエポックは、65HPを発揮する850ccの最新エンジンを搭載している事。2019年に登場した従来型V7Ⅲの750cc(52HP)エンジンと比較すると一気に25%と言う驚きのパワーアップを達成。 最大トルクでも従来型のデータである60Nmから新型では73Nmに向上。60Nmなら3,000rpmで発揮してしまうのである。
 このパフォーマンス向上に対応して、車体や足回りも強化。より高剛性なスイングアームが新作され、ストロークの長い、これもまた新作のKYB製2本ショックを装備。リヤタイヤもワイドにサイズアップされた。

 同時に発表されたV7 StoneはLED式ヘッドランプ等、最新テクノロジーの投入もアピールしていたが、Specialは、あくまでクラシックスタイルに拘ったネイキッドモデルとしているのが特徴。
 オーソドックスな雰囲気を醸しだす上で、タンク、シート、サイドカバーに、昔ながらのシンプルなデザインセンスを投入。エンジンは存在感を主張できる立派な大きさを披露している。         
 また前後ホイールにはStoneに採用の軽量アルミキャストではなく、あえてスポークホイールをマッチ。同様にヘッドランプもH4ハロゲン球が採用された点も見逃せない。メーターもStoneのシングル液晶とは異なる、アナログのツインメーターが奢られている。
 つまりSpecialでは、あくまでもオーソドックスなスタイルが貫かれているのである。

普遍的スタンダードスポーツとして完成された魅力がある。

 試乗車を目の当たりにすると、径が細身に感じられるスチールパイプ製のダブルクレードルフレームに、セリアーニタイプの正立式フロントフォークとレイダウンマウントされたリヤの2本ショックサスペンション。フォークアッパー部分からステーで支持される丸形ヘッドランプに鉄製フェンダー。前後に装着されたアルミリムのスポークホイール。綺麗に黒色仕上げされたトップブリッジ(三叉アッパーブラケット)前方にはアナログ式のツインメーターが並ぶ。
 そしてブラックアウトされた縦置きの90度V型ツインエンジンには美しくクロームメッキされた左右対称の2本マフラーが少しキックアップしながら後方へと伸びている。
 タンク、サイドカバー、ダブルシートのレイアウトやクロームメッキされたグラブバーの標準装備等、全てのデザインに懐かしさを覚える。
 60~70年代のスポーツバイクを知る人にとっては、まさにスタンダードな要素があちこちのデザインから感じ取ることができる。逆にレーサーレプリカ全盛の時代からバイクに親しんだ人にとっては、むしろ新鮮なスタイリングにも見える事だろう。

 ボア・ストローク共にアップされた空冷OHVのVツインエンジンは、それなりのボリュームがあるが、V9程の迫力には及ばない。全体的にバランスの良い程良い存在感を覚える。

 左右シリンダーは、右バンクが前方、左バンクが後方にオフセットされているが、その差はほとんど気づかない。エンジンを始動すると縦置きクランク特有のトルクリアクションがあるが、それもまた気になるレベルではなかった。
 シートに跨がると、エンジン後方の車体はスマートで、足つき性が良い。軽くアップしながら手前に引かれたハンドル位置も良く、自然体で楽に乗れるライディングポジションが好印象である。
 取り回しや、引き起しの扱いにはそれなりの重量感を覚えるが、不安を感じる程ではなく、今の感覚で言えば至って普通のミドルクラスレベル、程良く馴染める乗り味には、安心感があり親しみやすい。
 切れ味抜群のクラッチを操作してスタートすると、図太さの増したトルクフィーリングが頼もしい。前モデルのV7Ⅲ(750cc)は、少々物足りなさを覚え、パフォーマンスは大人しかったが、排気量が850ccにアップした新型V7は、俄然スロットルレスポンスに逞しさが増している。
 それは中低速の実用域でメリハリのある扱いやすさとダイナミックな走りに貢献。全体的に落ち着いた雰囲気の中にも図太く豪快な乗り味が加わったのである。

 ローギヤで5,000rpm回した時の速度はメーター読みで48km/h。少し低めな印象を覚えたローのギヤ比も奏功し、発進加速も侮れない。 吹き上がり速度に俊敏さはないが、トルクの効いた伸び感は穏やかで心地良い。またどのギヤからでも右手のひと捻りでグイグイ加速する柔軟な出力特性も魅力的だ。
 6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,600rpm。終始穏やかで余裕のある雰囲気を崩さない。そんな独特の鼓動を楽しみながらロングツーリングするにも相応しい快適性が印象的である。
 後席が少し高く盛り上げられたダブルシートや高過ぎないピリオンステップ位置も相まって、タンデムライディングもリラックスでき快適そう。その点も見逃せないチャームポイントだろう。
 操縦性は実に素直でハンドリングも軽快。前後タイヤのグリップ感も良い。トータルで平均点の高いパフォーマンスと、親しみやすさ、そして穏やかな乗り味は、ある種大人びたスタンダードスポーツモデルとして独自の魅力が感じられた。
 全体的な雰囲気は、挙動がゆっくりで穏やか。どんな場所でも気分良く爽快に走れる。
気持ちに優しいパフォーマンスからは、程良いスポーツ性が感じられるのである。
 ユーザーターゲットはビギナーからベテランまで幅広い層を目指したと言うが、モトグッツィらしい個性と、古くから変わらぬ存在感を楽しむにはお薦めの一台と思えた。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

シート高は780mm。両足は踵までべったりと地面を捉えることができる。膝にも余裕があり、上体の伸びた自然体で乗れるライディングポジションも相まって、バイクは支えやすい。

足つき性チェック(モデル:大屋雄一 175cm / 64kg)

ライダーの身長差は膝の余裕に現れる。いずれにせよ足つき性は良い。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…