必要十分ではあるものの、装備は万全とは言い難い……? カワサキZ650RS  1000kmガチ試乗3/3

兄貴分のZ900RSと比較すると、Z650の装備には少々物足りなさを感じる。とはいえ、約40万円の価格差を考えれば、異論を言うべきではないのかもしれない。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキZ650RS……1.034.000円

今回の試乗車は2022年型で、ボディカラーはメタリックムーンダストグレー×エボニー。同じカラーは2023年型にも存在するが、ガソリンタンクのラインとホイールのリムステッカーがオレンジ→グリーンに変更されている。

ライディングポジション ★★★★★

基本設計を共有するZ650に対して、ハンドルグリップ位置が、50mm高く、30mmライダー寄りになり、シート座面は10mm高くなっているものの、ステップ位置はそのまま。こういった変更を行うと、場合によっては違和感を抱くことがあるのだけれど、Z650RSのライポジは至ってナチュラル&フレンドリーで、ローシート仕様にありがちなバランスの悪さも感じなかった。もっとも身長が182cmの僕としては、運動性と快適性の両方に磨きがかけられそうなハイシート(欧州仕様の標準で、座面高は日本仕様+20mmの820mm)を試してみたい。

兄貴分のZ900RSと比較すると、足つき性はわずかに良好で、車幅が細くて車重が軽いぶん、体格が小柄なライダーでも兄貴分より安心感は得やすいようである。なおZ900RSでロングランに出かけた際は、300kmを超えたあたりから尻に結構な痛みを感じた僕だが、Z650RSの場合は、そこまでの症状に悩まされることはなかった。

タンデムライディング ★★★☆☆

デザイン重視の感があるZ650/ニンジャ650と比較すると、Z650RSのタンデムシートは快適そうな雰囲気。ただし、タンデムライダーを務めた富樫カメラマン評価は意外に厳しかった「兄貴分のZ900RSのときは、グラブバーを装着すれば全然OKと思ったけど、このバイクはZ900RSと比べると座面がかなり小さいから、タンデムでのロングランはちょっと辛いんじゃないかな」 そう言われると必然性が微妙になってくるが、このバイクにも純正アクセサリーパーツとして、グラブバー:2万790円(メッキ)/1万6720円(ブラック)と小ぶりなサイドグリップセット:1万6940/1万4080円が存在。

取り回し ★★★★☆

フロントフォークが正立式なのに、意外にハンドルが切れない……と思ったら、左右切れ角は倒立フォークのZ900RSと同じ35度。ただしホイールベースの違いによって、最小回転半径は、Z900RS:2.9m、Z650RS:2.6m。ちなみに、Z650RSのライバルになりそうな、丸型ヘッドライトの日本製ミドルネイキッドの最小回転半径は、ヤマハXSR700:2.7m、ホンダCB650R:2.8m、スズキSV650:3.0m。

ハンドル/メーターまわり ★★★★★

Z900RSのハンドルが現代的なテーパータイプのであるのに対して、Z650RSはオーソドックなφ22.2mmバー。その違いはさておき、幅と絞りを考えると一般的な日本人にとっては、全幅が865mmで絞りが少ないZ900RSよりも、全幅が800mmで絞りが強いZ650RSのほうが馴染みやすそうだ。メーターの基本構成は兄貴分と共通だが、指針式速度/回転計の文字盤は専用設計で、メーターリングはブラックが標準(Z900RSはメッキ)。

左右スイッチ/レバー ★★★★★

バーエンドウェイトはカスタムパーツ風のデザイン。スイッチボックスはオーソドックスな構成で、多機能液晶パネルに表示する内容の切り替えと調整は、左側に設置されたマルチファンクションボタンで行える。

ブレーキ/クラッチレバーの基部には、5段階の位置調整アジャスターが備わる。カワサキは昔からこの機構に熱心で、他メーカーとは異なり、ワイヤ式クラッチやミドルクラス以下の車両にも積極的に採用。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★☆

ガソリンタンク容量は、現代のミドルの基準で考えるとやや少な目の12ℓ(基本設計を共有するZ650/ニンジャ650は15ℓ)。プレーンな形状ではあるけれど、サイドカバーと併せてのホールド感はなかなか良好だった。日本仕様で標準となるローシートは、Z900RSのローシートよりメイン部のウレタンが厚そう。日本では純正アクセサリーとなるハイシートの価格は、Z900RS用は2万5410円だが、Z650RS用はなぜか兄貴分のほぼ倍となる4万9390円。

ステップバーの下部には振動対策用のウェイトが備わる。Z900の派生機種として生まれたZ900RSが、ハンドル・シートとのバランスを取るため(旧車風の乗り味を実現するため、という理由もあるだろう)、ステップ位置を前方/下方に移動したのに対して、Z650RSのステップ位置は開発ベースのZ650/ニンジャ650とまったく同じ。もっとも前述したように、違和感は皆無だった。

積載性 ★★★☆☆

兄貴分のZ900RSが片側2カ所ずつの荷掛けフック/ボルトを装備するのに対して、近年のベーシックミドルの慣例に従ったのか、Z650RSは荷物の積載に対する配慮がほとんどナシ。純正アクセサリーパーツとして、荷掛けフック/ナット:8481円は存在するが、タンデムシート座面が小ささはいかんともしがたく、筆者の私物であるタナックスのWデッキシートバッグを載せたら、後方1/3くらいがテールカウル上にハミ出してしまった。

シート下に収納スペースはまったくナシ。なお近年のカワサキはETCユニットの普及にも積極的で、Z650RSを含めたミドル以上の全モデルが標準装備。

ブレーキ ★★★★☆

強力や緻密などという印象は抱かなかったものの、フロントφ300mmディスク+片押し式2ピストンキャリパー、リヤφ200mmディスク+片押し式1ピストンキャリパーのブレーキは、どんな場面でも扱いやすかった。ただしリアのABSは、エッ、そんなにすぐ利いちゃうの?という場面が何度かあったので、作動はもうちょっと遅くてもいいような気がする。

サスペンション ★★★★☆

φ41mm正立式フロントフォークとホリゾンタルバックリンク式リアショックの印象も、ブレーキと同様。作動性や吸収性が抜群に良好なわけではないけれど、どんな状況でも過不足のない仕事をしてくれた。ちなみに僕が近年のバイクをロングランに使う際は、リアショックのプリロードを弱くして好感触が得られることが多いので、モノは試しという気持ちでZ650RSでもやってみたら、何だか頼りない乗り味になってしまった。

車載工具 ★★★☆☆

シート下に備わる車載工具は、14×17mmの両口スパナ、6nmのL型六角棒レンチ、差し替え式ドライバー、フックレンチ+エクステンションバーの4点。決して充実した内容ではないが、当企画で多種多様な車載工具を見て来た僕としては、リアショックのプリロード調整用工具が入っているだけでも良心的?……と思わなくもない。

燃費 ★★★☆☆

低中回転域メインでまったり走行をするより、中高回転域を使ってスポーティに走ったほうが楽しいからだろうか、近年のミドルツインの基準で考えると、Z650RSの燃費はいまひとつ奮わず。世間ではガソリンタンク容量の少なさ/航続距離の短さに異論を唱える人がいるようだが、街乗りオンリーでも200kmは確実だし、ツーリングでエンジンをブン回さなければ250kmは走れるので(①④の数字から航続可能距離を算出すると、24.8×12=297.6km)、僕としては不満は感じなかった。

兄貴分のZ900RSと比較すると、クラシック度がやや低い……ように思えるZ650RS。その主な原因は、ショートタイプのマフラーと右側のみが湾曲したスイングアームだろう。

主要諸元

車名:Z650RS
型式:8BL-ER650M
全長×全幅×全高:2065mm×800mm×1115mm
軸間距離:1405mm
最低地上高:125mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:24°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:649cc
内径×行程:83.0mm×60.0mm
圧縮比:10.8
最高出力:50kW(68PS)/8000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6700rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.437
 2速:1.714
 3速:1.333
 4速:1.111
 5速:0.965
 6速:0.851
1・2次減速比:2.095・3.066
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:299kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.8km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:23.0km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…