曲がる・止まるにコツがいるけど、このフロントメカニズムには憧れてしまう。【イタルジェット・ドラッグスター200試乗】

イタルジェットがリリースしたDragSter200。スクーターといえばフルカバードの車両が多い中、むき出しのトラスフレームやフロントのISSステアリングシステムなど、メカメカしい個性的なルックスで高い注目度を集める。そのディテールの詳細や注目される走りなどをレポート!
REPORT●横田和彦(YOKOTA Kazuhiko)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)


イタルジェット DragSter200 …75万9000円(税込)

なんだこの存在感は! 多くの人が強烈なルックスにヤラれた

そのスタイルを見たものは言葉を失う。もしくは興奮してやたらと饒舌になる。
僕の場合は後者だった。「なにこのメカメカしさ! ヤバい、カッコイイ!(人は興奮すると語彙が減る)」に始まって、フロントからリヤまでなめ回すように覗き込み、仕様をチェックしては思わず言葉に出してしまう。
スクーターといえば樹脂(もしくは金属)の外装によってカバーされ、内部メカニズムが見えない車両が一般的だ。しかしイタルジェットのDragSter200は完全にその概念を壊している。
そもそもイタルジェット社は今までも「フォーミュラ」などスクーターの枠を超えた戦闘的なフォルムかつ優れた走行性能のスクーターをリリースしてきたメーカー。
1990年代に登場した先代のDragSterもトラスフレーム+ハブステアシステムで個性的なスタイルを採用していたが、今回のモデルではスタイリングを始め、細部のデザイン、エンジンまで完全に一新されている。

ビッグスクーターはシート下のトランクスペースが大きくなると着座位置が高くなったり、幅が広くなって足つき性が厳しくなってくる。しかしDragSter200はスペック上のシート高は770mm。さらにシートがスリムなことから、身長165cmのテスターでも両足がベッタリつく。シートは硬めであまり沈み込まないが、路面状況が伝わりやすく体重移動もしやすい。足を置くスペースはそれほど広くないがきゅうくつには感じない。ハンドルはやや近めで幅は狭くスポーティな印象だ。

テスター身長:165cm/体重70kg
シートがスリムに絞られている効果もあって両足がベタつき。またがったまま前後に動かすことも可能だ。

エンジンはスムーズなフィーリング。注目のハンドリングは超個性的!

セルボタンを押すとエンジンはすぐに目覚める。現代的な4ストロークエンジンなので、昔のDragSterシリーズに搭載されていた2ストロークエンジンのフィーリングとは異なり落ち着いた印象。といってもダルいわけではなく、アクセル操作に対して素直に反応する。そのため混みいった街中でも余計な気遣いなしに自然体で走れるし、前が開けたら中回転域から気持ちよく伸びていくフィーリングを味わうことができる。
しかしDragSter200の過激なルックスを見て、スクーターの域を超えた、弾けるようなエンジン特性を期待していた人にしてみればやや物足りない感があるかも知れない。その場合は駆動系や排気系のカスタムパーツが発売されているので導入を検討するのもよいかも知れない。

多くの人が気になっているのがハンドリングであろう。フロントに他のスクーターやバイクでもほとんど使われていないインディペンデント・ステアリングシステム(ハブステアリングシステムの類)を採用しているのだから無理もない。
ハブステアリングシステムと一般的なバイクに使われているテレスコピックフォークが異なる点は、ステアリング機能と衝撃吸収機能を分離させていること。テレスコピックフォークの場合はブレーキング時にフロントが沈みキャスター角やトレール量などが刻々と変わっていく。そのため姿勢変化によって挙動にバラ付きが出てしまう(といっても長期に渡って研究・熟成されてきているので、我々のような一般人でも不自然さを感じずに曲がることができる)。
しかしハブステアリングシステムは「曲がる機能」と「衝撃吸収機能」を分けることで、常に安定した車体姿勢と挙動を両立させることを狙っている。その構造的な理屈については説明が長くなるので割愛するが、テレスコピックフォーク採用車とは動きがまるで異なる。そしてDragSter200もそれに違わない。

走り始めて最初に体感できるのは、直進安定性の高さだ。
前後のタイヤが路面をガッチリと捉え、小径ホイール車であることを感じさせない。アルミニウムプレートを備えたクロムモリブデン製のトレリスフレームの剛性が高いことも関係しているのだろう。フロント12/リヤ13インチホイールを備えたスクーターとは思えないほどビシッと走る。
面白いのはブレーキング時の挙動。フロントブレーキだけをかけると少しフロントが持ち上がるような感覚を受ける。試乗前に言われていた通り、先にリヤブレーキをかけると違和感なく減速できる。その際もあまりフロントが沈み込まないのはインディペンデント・ステアリングシステムの効果である。
寝かし込むときもタイヤのグリップ感が高いままなので、やや動きに粘り気を感じる。高い接地感は終始続いていて、繰り返しになるが小径ホイールっぽくない動き。グリップ感がずっと続くためバンクの限界が分かりにくいが、ストリートで走っている限り不安は感じない。
とにかくほかのバイクでは得られない不思議なフィーリングだ。

ステアリングシステムとメカメカしさで所有欲は十二分に満たされる!

未来のビークルに乗っている。イタルジェット・DragSter200を走らせているとそんな感覚が味わえる。
そもそも今まではハブステアリングシステムのバイクなんて高嶺の華で、別世界の乗り物だった。それがこの価格で買えること自体が奇跡的だともいえる。この存在感バリバリのスクーターを手に入れると満足感しかないはず。
聞けばショップではバイクマニア以外に、アーティストやヘアサロンのオーナーといったクリエイティブワークをしている人からの発注も多いという。それだけ影響力が高い乗り物ということなのだろう。
余談ではあるが、今回の撮影中にも通りがかった人に声をかけられる場面が多かった。これは他のバイクではほぼ起きないこと。一般の人にも「何か凄い乗り物があるぞ」と感じられるだけの雰囲気を醸し出しているのだ。
新しい時代に生きていることを実感させてくれるスクーター。
それがDragSter200である。

ディテール解説

シャープなフロントカウルにLEDヘッドライトとデイライトを装備。タイヤハウス内側にはラジエターが見える。
メーターは超シンプル&コンパクト。必要最小限の情報量だが、これで不自由は感じない。
肉抜きされたトップブリッジにハンドルバーが差し込まれている。まるでスポーツバイクのような構成だ。バックミラーの視認性も充分に確保されている。
最大の特徴であるインディペンデント・ステアリングシステム。フロントアームやディスクブレーキなど機能美のカタマリだ。
切削仕上げのキャストホイールは12インチ。実は異なる銘柄のタイヤを装着した試乗車に乗ったのだが、タイヤによって挙動が少し変化する。好みの乗り味のタイヤを探すのも楽しそうだ。
フロントサスペンションはこの位置に。リザーバータンク別体タイプでプリロード調整が可能。オプションとしてオーリンズ製のサスペンションも用意されている。
リヤのシングルショックは右側にオフセットされている。こちらもプリロード調整が可能だ。用意されているオーリンズ製サスペンションはよりきめ細やかな調整機能を備えている。
磨き上げられたヒートガードとエンドパーツを備えた異型断面のサイレンサー。より高い排気効率が期待できるアクラポビッチ製のエキゾーストシステムもオプションで用意されている。
エンジンは4スト・水冷・DOHC単気筒。シートが短いためロングスイングアームのように見える。駆動系のチューニングパーツとしてスクーターレースでも有名なマロッシ製のパーツが用意されている。
ガソリンタンクはフロントの足元に設置されていて、タンク容量は9リットルとなっている。
メインキーは一般的なスクーターと同じ位置にある。その上にUSBポートがあるのでスマートフォンの充電なども可能。
キーもシャレていて、トラスフレーム風のデザインの本体に折り畳むことができる。この辺りの演出もイイ。
スポーティな形状のシートは黄色いステッチで高級感がある仕上がり。タンデムシートはかなり小さく、エマージェンシー用と考えたほうが良さそうだ。
折りたたみ式のタンデムステップも装備。こちらも小さく、タンデムシートの居住性は必要最小限といった感じだ。
シート下に小物を入れられるスペースはあるが、容量は少なめなので入れられるものは限定される。
後ろから見ても一発で車種がわかるほど個性的な形状のテールランプを採用。このあたりの造形はイタリア車らしいものだ。
左のハンドルスイッチにはヘッドライトのハイ/ロー切り替え、ハザード、ホーン、ウインカーなどのスイッチがある。グリップにはメーカー名が入る。
右のスイッチボックスにはキルスイッチとスタータースイッチを装備。バーエンドから伸びるレバーガードの先端はLEDウインカーになっている。

SPECIFICATION

エンジンタイプ:シングルシリンダー、水冷、4ストローク、4バルブ、DOHC
総排気量:181cc
ボア×ストローク:63×58(mm)
最高出力:17.5hp(12.9kW) @ 8,000RPM
最大トルク:15.5Nm @ 7,750RPM
イグニッション:エレクトロニクス, MAGNETI MARELLI
スターター:セルスターター
トランスミッション:CVT式無段変速
クラッチ:遠心乾式タイプ
全長×全幅:1,890mm×750mm
ホイールベース:1,350mm
シート高:770mm
車両重量(乾燥重量):124kg
タンク容量:9L
フロントサスペンション:I.S.Sシングルショックアブソーバー、スプリングプリロード調整可能
リアサスペンション:シングルショックアブソーバー、スプリングプリロード調整可能
ブレーキ:ABSタイプ 油圧式シングルディスクブレーキ
ブレーキディスク径:フロント 200mm / リヤ 190mm Bremboキャリパー
タイヤサイズ:フロント 120-70-12″ / リヤ 140-60-13″(Pirelli)
カラーリング:アンスラサイト/ホワイト/レッド、アンスラサイト/イエロー、ブラック/グレー、ブラック/マグネシウム(FIRST EDITION限定カラー)

キーワードで検索する

著者プロフィール

横田 和彦 近影

横田 和彦

学生時代が80年代のバイクブーム全盛期だったことから16歳で原付免許を取得。そこからバイク人生が始まり…