目次
トライアンフ・タイガー1200/GT PRO……2,405,000円
最強アドベンチャーを決めろ!?
アドベンチャーモデルは各社からものすごく力が入ったものが出ていて、もはや「〇〇こそが最強」といった絶対王者はいないと言っていいだろう。そんな中でトライアンフは得意の3気筒という個性的なエンジン形式でこのカテゴリーを展開、アドベンチャーという言葉すらまだなかったころから優秀なツーリングマシンとして「タイガー」シリーズを展開してきた。
だからこそ、別段「アドベンチャー頂上決戦」的競争に参加することもなかったと思うのだが、しかしこの新型の力の入れようったらない。先代から大幅な軽量化、アクティブサスを含めたあらゆる電子制御の充実、150馬力という最高出力、そして4モデル(本国では5モデル)の展開。競合他社を押しのける熱量であり、タイガーに歴史あり! 我こそは最強! と掲げているかのようだ。
日本市場に投入されたのは、このGT PRO とその上級版のGT エクスプローラー、そしてよりオフロードを意識してフロントに21インチのホイールを履いたラリーPROとその上級版のラリーエクスプローラーの4機種。PROが20Lタンクなのに対してエクスプローラーは30Lタンクを装備しているのがわかりやすい違いだが、その他にも各種装備が充実している。今回はGT PRO、ラリーPRO、ラリーエクスプローラーの3機種を試乗できたため、あわせて読んでいただければ幸いだ。
Tプレーンクランクがもたらす個性
GT PROは1200シリーズの中では最もスタンダードで価格も抑えられたラインナップだ。しかしだからと言って決してエントリー向けといった感じではない。トライアンフ伝統の3気筒エンジンは昔ながらの120°位相のクランクではなく、アドベンチャーシリーズ向けによりトルクフルな味付けを狙って開発された「Tプレーンクランク」を採用。爆発間隔が270°・270°・180°という変則的なものとなっているおかげで、特に低回転域ではツインかのような鼓動感、トラクション感があって伝統の3気筒に独特な味付けがされている。
アイドリングではまさにツインのようなフィーリング、発進時は若干トルク変動が大きく感じ、タイミング悪くクラッチを繋ぐとストールしてしまいそうな感もあるが、そこはクラッチを繋ぐときに自動的に回転数を上げてくれる機能がついていてサポートしてくれる。1速・2速ギアは高めのレシオのようで、クラッチが繋がってしまえばアクセルをまったく開けていなくても1速で25km/h、2速で30km/hとトルクフルなエンジンに引っ張られてスルスルと速度が乗る。渋滞路では半クラッチとリアブレーキを使うほど、Tプレーンクランクはグイグイと巨体を進めていくのだ。
こんな頼もしい低回転域があるのに、5000rpmから上となると本来の3気筒らしい、スムーズな表情に変化するのも面白い。パワーバンドに入ると鼓動感はぐっと減り、苦も無く150馬力を発する高回転域にシームレスに突入。これが大変に速いわけだが、しかし実際にはかなりの速度が出てしまうため、普段はなかなかこの領域には立ち入ることはないだろう。ただこんな領域があることがライダーの満足感に繋がるし、上級ライダーにとっては「何かの機会に使いたい」とニヤニヤさせてくれる、秘密兵器的な魅力があった。
トライアンフらしいスムーズな120°位相クランクを想像していると、常用域ではまるでツインかのようなTプレーンクランクはすぐには馴染めないかもしれない。しかし常用域でのこの鼓動感、トルク感はいかにもアドベンチャーモデル向けのエンジンと感じるし、このGT PROではそんな機会は少ないかもしれないがオフロードシーンでも活きることだろう。
ピボットレスフレーム&ダブルスイングアーム??
Tプレーンクランクは既に他のモデルでも展開されてきた技術だが、今回のモデルチェンジで驚くのは25kgもの軽量化。そんなことができるのか!? と驚く数値だ。しかし車体を見ると興味深い構成に気付く。先代までは有機的な曲線を繋いだ、視覚的にも強そうなフレームがあったが、このモデルではフレームは最小限でエンジン上部に直接ボルトオン。ピボット部はエンジンを左右からプレートで挟む形状で、しかもリアアクスル部には3角形状のパーツを設置し、そこからピボットに向けて上下2本のスイングアームが伸びるという「トライリンク」と呼ばれる独特の形状だ。かなり寝かされたリアサスはリンクレスとなると同時に、リアホイールはこれまでの17インチから18インチへ大径化すると共に170から150幅へと細くなった。先代からはもはや車体設計の思想そのものを覆したと言えるだろう。技術的視点から見るととても興味深いチャレンジをたくさんしているように思えるし、既存の熟成ではなくこういった根本的な作り直しをしたおかげで大幅な軽量化も達成しているのだ。
さて乗り味の方だが、これがこんなに大きな変更が為されているわりには「いい意味で普通」といえるもの。1200ccのフラッグシップモデルだけにサイズ感や重量感はあるものの、なにも違和感や気兼ねはなく走り出せる。跨った時や低速ではそのサイズに構えてしまうこともあるものの、走り出すとかなり軽快に感じられるのも意外だった。アドベンチャーモデルは通常フロントホイールの方が大きくその後ろに座って前輪のジャイロを感じるような操作をするイメージだが、このタイガーはリアが18インチ化したことで前後のホイールの外径はほぼ同じに。結果として見た目はアドベンチャーなのにハンドリングはロードモデル的ですらあるのだ。加えてリアの幅が150へと細くなったおかげで軽快感もあり、不思議なことにスピードが乗るほどにサイズ感が霧消し、むしろコンパクトに感じられるのがおもしろい。
エンジンのフィーリングはVツイン的ではあるものの、実際の形式はパラ3、そのおかげかフロント荷重も高く、よくグリップする前輪に重量が自然と載って、グイーン!とダイナミックにコーナリングできるのも魅力だ。特にワインディング路ではこの積極的なハンドリングを満喫できてしまうという、アドベンチャーモデルらしからぬ魅力に気づかされた。
リアリスティックなライダーへ
同時に試乗したラリーシリーズの話も合わせて読んでいただきたいが、3機種を乗り比べての感想は「スタンダードが最も薦めやすい」だった。もちろんオフロード性能を高めたラリーシリーズにも魅力が多いが、このGT PROならばより多くの場面で付き合いやすいのではないかと感じる。車高、車格、足つき性、ルックスからくる自信、などを踏まえ、乗るまでに越えなければいけないハードルが比較的少ないことだろう。
GT PROならば毎週末でもツーリングに出かけたいと思わせてくれるし、例えば遠距離の里帰りなど、年に一度はロングにも行っちゃおう! という気になれそうだ。またオフロード性は追求していないため、「未舗装路はないかな??」と目を光らせなくとも、いつもの舗装路で楽しめる。加えてこのコーナリング性能だ。ワインディングでも十分楽しめ充実感が高いはずだ。
4機種の中では最もスタンダードな位置づけではあるものの、同時に最も現実的な選択肢であり、最も乗る機会をたくさん設けられそうなモデルである。
足つき(ライダー身長185cm)
ディテール解説
左スイッチボックスには通常のウインカー・ホーンスイッチの他、クルーズコントロールの設定スイッチ、モード変更ボタン、DRLとヘッドライト点灯の切り替えスイッチなどを配置。ホーンボタンの隣のボタンはジョイスティック構造になっていて、上下左右で選択、及び押して決定という便利なモノ。ただ冬用グローブでは操作が難しく感じる場面も無くはなかった。メインスイッチが電子キーのため、右側のキルスイッチは電源ボタンもセルスイッチも兼ねる。その下のボタンはホームボタン。メーター上の様々な情報を触っているうちに奥に入り込んでしまい迷子になりかけることがあるが、このボタンを押せば最初の画面に戻れるという便利な設定だ。なおその横はスリムな電子制御スロットル。開け始めたところにちょっとした「間」というか「遊び」があるため使い始めは少し慣れが必要だろう。グリップヒーターが内蔵されるグリップはとても暖かく、かつゴム質も柔らかく手へのなじみが良かった。
主要諸元
●エンジン、トランスミッション タイプ 水冷並列3気筒DOHC12バルブ 排気量 1160cc ボア 90.0mm ストローク 60.7mm 圧縮比 13.2:1 最高出力 150PS (110.4kW) @ 9,000rpm 最大トルク 130Nm @ 7,000rpm システム マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル エグゾーストシステム ステンレス製3 into 1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレス製サイレンサー 駆動方式 シャフトドライブ クラッチ 油圧式、湿式多板、スリップアシスト トランスミッション 6速 ●シャシー フレーム チューブラースチールフレーム、鍛造アルミニウム製アウトリガー、ボルトンオン式アルミニウム製リアサブフレーム スイングアーム アルミニウム製両持ち式「トライリンク」スイングアーム、アルミニウム製ツイントルクアーム フロントホイール Cast aluminium, 19 x 3.0in リアホイール Cast aluminium, 18 x 4.25in フロントタイヤ Metzeler Tourance, 120/70R19 (M/C 60V TL) リアタイヤ Metzeler Tourance, 150/70R18 (M/C 70V TL) フロントサスペンション ショーワ製49mm倒立フォーク、セミアクティブダンパー トラベル量200mm リアサスペンション ショーワ製モノコック、セミアクティブダンパー、電子式プリロード自動調整機能 ホイールトラベル200mm。 フロントブレーキ ブレンボ製M4.30 Stylemaモノブロックラジアルキャリパー、コーナリングABS、320mm径ツインフローティングディスク、マグラ製HC1スパン調整式ラジアルマスターシリンダー、別体リザーバー リアブレーキ ブレンボ製シングルピストンキャリパー、コーナリングABS、282mm径シングルディスク、リアマスターシリンダー、リモートリザーバー インストルメントディスプレイとファンクション 7インチフルカラーTFTメーターパック、My Triumphコネクティビティシステム ●寸法、重量 ハンドルを含む横幅 ハンドルバー 849mm、ハンドガード 984mm 全高(ミラーを含まない) 調整式スクリーン 1436~1497mm シート高 Adjustable 850/870mm ホイールベース 1560 mm キャスターアングル 24.0º トレール 120mm 燃料タンク容量 20L 車体重量 245kg ●サービス サービス間隔 16,000キロ点検/12ヶ月点検 ●価格 メーカー希望小売価格 メーカー希望小売価格(税込) ¥2,405,000