おじさん向けバイク? そうだけれど、そうじゃない。ホンダCD110DXはタフネス系実用車。

こういった場面を選ばない実用車は、実は不整地でも難なくこなしていく実力を持っていることが多いため、そんなところを走ってみた。低速域でもしっかりとトルクが使えるショート気味のミッションのおかげで急坂の未舗装路もグングン登り、落ち葉が積もった林道も緊張することなく走破することができたのは嬉しい発見。舗装林道といった場面はむしろ得意と言えるだろう。
国内では実用に加えて最近は趣味としても「カブ」が人気だが、かつてはそれのミッション版としてCDというシリーズがあった。クラッチもついていて、タンクも通常位置にあるけれども、しっかりと実用車。インドではそんなバイクが現役で、それがこのCD110「ドリームデラックス(カッコいい名前!)」である。

ホンダCD110DX ……219,000円(消費税込み)

馬車馬バイクが逆に新鮮

国内においては、バイクは一部配達用の機種や通勤に特化したスクーターなどを除けばほぼ「趣味のもの」になって久しい。カブのように趣味と実用の架け橋を担っているモデルもあるものの、このCD110DXに乗ると「あぁ、四輪車が一般化する前ってこんな感じだったのか」と、実体験していない歴史を懐古してしまうほどである。
速くなくていい。細部までの美しさも必ずしも追求しなくていい。ただただ頑丈で、エコで、メンテフリーで、どんな使い方をしても涼しい顔で働き続ける乗り物。そんな性格のCD110は、なんとなく軽トラ/軽貨物に近いような印象を受けた。
逆にその割り切り方は今や国内ラインナップにはなく、新鮮に感じたほど。A地点からB地点まで運んでくれればそれでいい。モビリティの基本に立ち返るかのようだ。

働くバイクにパワーバンドはいらない

実用車らしく、ちょっと野菜の直売所などに出向くのが良く似合っているように思えた。ちなみに交差点の右左折といった低速での取り回しはとても素直で好印象。ステップまではいかなくとも、靴のつま先が接地するバンク角までは何の気なしにスッと寝て、しかも安定している。細いタイヤやしなやかなフレームによる付き合いやすさだと思うが、実はスポーツ性も秘めているのかもしれない。

エンジンは空冷の110cc、かつての兄弟車CG125などのOHVユニットとは違い、こちらはOHC仕様となっている。これがインジェクション仕様でしかも日本でもなじみのあるeSPエンジンなのだから、信頼性や耐久性、燃費性能は折り紙付きだろう。特徴としてはACGスターター仕様のためセルモーターがなく始動が静かなこと、そしてニュートラルが一番下にあり、そこから1・2・3・4と掻きあげていくボトムニュートラルミッションを備えていることぐらいで、あとは普通に接することができる。なおキックスターターも付いているため、例えば冬の朝にバッテリーが弱ってしまっていても安心だ。
走り出すと、これほど牧歌的なユニットもないと感じる。トルクフルでどんどんギアをあげていけて、すぐにトップギア巡行へと移行できる。メーターには30km/hから50km/hの範囲で「ECO」と表示されているが、事実この領域で走っていると、ガソリンなんて全く使っていないんじゃないかと勘違いする程静かでスムーズだ。燃費は50~60km/L走るとのことで、大変良い数値である。
快適な巡航速度は60km/hぐらいだろうか。それ以上となると振動が増え、車体構成的にも不安感が出てくる領域だし燃費も落ちてくるはず。シフトダウンしても明確なパワーバンドがあるわけではなく、どこの回転数を使っても「鋭い加速」のようなものは得られない。あくまで、トコトコと燃費良く、無理せずに走り続けるという性格なのだ。
しかしこの性格は、日々の通勤には理想的だろう。意図せずに速度制限を大幅に超過することもないだろうし、60km/hほどを守っていれば極めて平和&エコを保ったまま、着実に目的地へと運んでくれるのだ。ボトムニュートラルのミッションだけは慣れが必要かとも思ったが、1速は明らかに1速だと分かるぐらい低いため、シフトダウン&エンジンブレーキをしていて、間違えてニュートラルに入れてしまうということもなさそうだ。そして逆にニュートラルに入れたい時は、1速と2速の間を行ったり来たりしながら「Nが出ない……」とカチャカチャする必要はなく、1速からスコッと踏み込めばよいだけ。これはこれでストレスフリーだな、と感じた。

何人乗っても大丈夫??

最近は減っているというが、アジア地域の中ではバイクにタンデムどころか一家全員が乗る、といったイメージもあるだろう。だからこそのロングシート&フラットタンク、そしてシートに繋がる堅牢なキャリアが一般化しているわけだが、このCD110もこの仕様だ。クッションもしっかりとしているロングシートはそういった多人数乗りにも対応することだろうが、同時に筆者のように長身だとポジションを限定してこない優しさも感じられる。
リラックスできるアップハンといい、乗車姿勢に何も不自然さがないのもまた、実用バイクとしての魅力だし、ロングシートとツライチでしかも荷掛けフックが豊富なキャリアのおかげで、荷物の積載も容易なハズ。これならトコトコ下道ツーリングも楽しめることだろう。特にローギアード設定のエンジンと相まって、タンデムでも重積載でも、全く変わらず涼しい顔で走り続けてくれそうな印象がある。
ただ堅牢なイメージの車体に対してブレーキ性能だけはいくらか不安が残る。前後連動のドラムブレーキなのだが、これの効きがもう一つといった感じなのだ。試乗車はまだまっさら新車ということもあってブレーキシューがまだ馴染んでいなかった都合もあるかとは思う。またワイヤーによる前後連動システムだけに、握る時のフリクション感も気になる部分。付き合っていくときはシューの馴染みをしっかりとったうえで、握り代調整をしてあげたい。またワイヤー類への注油も大切な項目だろう。60km/hを上限にトコトコ走り回っている分にはそんなに不満もなかったものの、タンデムや重積載時には気を付けたい部分となりそうだ。

実用重視・メンテフリー

こういった場面を選ばない実用車は、実は不整地でも難なくこなしていく実力を持っていることが多いため、そんなところを走ってみた。低速域でもしっかりとトルクが使えるショート気味のミッションのおかげで急坂の未舗装路もグングン登り、落ち葉が積もった林道も緊張することなく走破することができたのは嬉しい発見。舗装林道といった場面はむしろ得意と言えるだろう。

バイクは四輪に比べると何かと整備をしなければいけない乗り物だろう。趣味で乗るのならばそれも楽しみの一部かと思うが、実用で乗るならなるべくメンテに手間や費用をかけたくないモノ。その点、CD110は優秀である。
まず燃費が良すぎるのにタンクが9.1Lを誇るため、給油回数が少ない。ワンタンク400~500kmは走るはずで、ガソリンスタンドに立ち寄る煩わしさは少ない。またチェーンはシールタイプを使い、かつチェーンケースに守られているためクリーンに保つことができライフが長いはずだ。先ほど効きがもう一つかもしれないと書いたばかりだが、ドラムブレーキもライフは長いし、シューの値段もディスクのブレーキパッドに比べるとはるかにリーズナブル。そしてタイヤだが、細身でタイヤそのもののコストも少ないだろうが、加えてチューブレス仕様でパンクも安心でかつ交換も容易だ。
 このようにあらゆる角度から見て、CD110は実用/馬車馬バイクとして超優秀なのである。

道具として本格的に割り切る

CD110は、あくまで「働くバイク」という認識で購入した方が良いだろう。何かエキサイティングな乗り味や感動的な操作感といったものを持ち合わせているわけではなく、ただただ「どんな状況でも文句ひとつなく走り続ける」ことが第一義のバイクだ。
しかし一方で、こういった優秀な道具バイクはひとたび遊び心をもって接すると、趣味ユースでも広がりを見せてくれるのはカブシリーズにおいて実証済みだ。バイクそのものの楽しさだけでなく、そのミニマルで信頼性の高い乗り物で何をするのか、それはライダー次第であり、良きサポート役になってくれるという側面もあろう。
さらにはホンダブランドでインジェクション仕様なのだ。「調子を崩す」ということとはほぼ無縁のハズ。となるとカスタムを楽しむというのも良い気がする。価格もリーズナブルな、信頼性高い馬車馬バイク、様々な楽しみ方へと展開させる想像力も持ちたい。

足つき性チェック(ライダー身長185cm/体重72kg)

かつて国内にはCD50/90というラインナップがあったが、流れとしてはそれと同じだろう。ただあちらが実用性の中にもどこかホンダらしいスポーツ心も隠し持っていたのに対し、こちらはさらに実用性に振った印象。よく似たモデルでCG125というのがありこれもファンが多い良きモデルだったが、あちらのOHVエンジンに対してこちらはOHCエンジンを搭載する。これぞオーソドックスと呼べるような構成をしつつも、ちょっと流線型な前後カウルやグラフィック、そしてサリーガードなどがお国柄を感じさせてくれる。
ポジションはロングシートのおかげもあってライダーの体型を選ばないモノ。極めてリラックスして乗ることができ、シートも快適で足つきも良い。※ライダー身長185cm体重72kg

ディテール解説

80/100-18という細身のタイヤを履く前輪はキャスト仕様のおかげでチューブレスとなっていて、パンクに対する心配も少なめ。タイヤはインド製のTVSというブランドで、特別グリップするという感じはないものの、交差点の右左折などで不安が出るようなことはない。また溝が多いことでウエット性能も高そうだし、聞いた話では耐摩耗性もとても高いとのこと。ブレーキはドラムタイプで、リアブレーキを踏むとフロントも効くコンビブレーキを採用。現車はド新車だったこともありブレーキ性能はもう一つ。良く良くシューを馴染ませることが大切だろう。

OHVではなく、カムを上に持ってきたOHCエンジンを搭載。フリクション低減技術を用いたeSP仕様で、インジェクション仕様と組み合わせることで環境規制対応はもちろんのこと低燃費も実現。排気音もとても静かなのに加え、始動はACGスターターによるもののためこれもまたクリーン&サイレント。実用重視ながら洗練されたパワーユニットだ。

シフトペダルはシーソー式のものを備えるが、シフトパターンはボトムニュートラルの4速。シーソーの後ろ側を使い始めるとすぐに頭がこんがらがるため、普通につま先でシフトアップ&ダウンをするのがイイだろう。1速がとても低いため、走行中に間違えてNまで落としてしまうということはなさそう。逆にボトムニュートラルはNを出すのにストレスがなく、初心者やストリートユースには有効にも思えた。

一般的な角鉄のスイングアームに二本ショックという構成。重積載できそうな懐は持ちつつも、リアサスにプリロード調整機能はない。チェーンはシールタイプを採用すると同時に樹脂製のチェーンケースまで備える。またサリーガードを活用した荷物の積載やタンデム時に安全かつチェーンオイルのハネを気にしなくていいのも良い。センタースタンドも標準装備。なおリアタイヤはフロントと同じ80/100-18というサイズ。前後とも長めのフェンダーを備えるため雨天走行などでバイク本体やライダーに汚れが飛びにくいという魅力もある。さすが実用車である。

広めのシートは長身なライダーにとっても自由度が高くありがたいが、タンデム時にもパッセンジャーに喜ばれるだろう。キャリアも標準装備し、かつリアサス上部取り付け位置まで伸びてくるアーム部にまで荷掛けフックがたくさんついていることで、タンデムシート部分に大きめな荷物を括り付けることもできるはずだ。シート下には特別スペースなどがあるわけではなく、簡易的なヘルメットフックが備わる。

CG125がクラシカルデザインだったのに対し、こちらはよりモダンな流線型ラインを取り入れたスタイリング。大きなハロゲンヘッドライトは夜道も安心だろうが、フロントナンバープレート取り付け用のステーなどがそのままついているため、それらの除去やもしくは活用したカスタムなど想像力が膨らむ。ウインカー類も全てバルブ式で、実用車らしい構成にかえって「こうでなくっちゃ」と思う。

極シンプルな左スイッチボックスは、ホンダとしては珍しくホーンが下、ウインカーが上というかつての配置で大変に使いやすかった。奥にあるパッシングスイッチでハイビーム切り替えも可能。右側はキルスイッチとセルスイッチが一体化。キルスイッチがあるおかげで信号待ちでのセルフアイドリングストップもしやすい。

2眼風のデザインだがタコメーターはなく、右側には大きく見やすい燃料計と各種インジケーター。トリップメーターすらないシンプルイズベスト構成である。ちょうど影になって見えていないが、速度計の30~50km/hの領域にはecoと書かれていて、確かにこの領域で走っていれば大変エコな感じがあった。快適な巡航速度は60キロほど。引っ張りに引っ張れば80~90キロほどの最高速が得られそうだ。

 

 

主要諸元

排気量:110cc 
タンク容量:9.1L 
車体サイズ:(全長/全幅/全高) 2,044mm 736mm 1,076mm 
タイヤサイズ:F 80 / 100 - 18 R 80 / 100 - 18 
馬力:6.47kW (8.8PS)/  7500 rpm 
重量:112kg 
製造国:インド 
保証内容:バイク館保証24か月

著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…